感じたままを、感じたままに写すフィルムコンパクトカメラ|富士フイルム NATURA S

感じたままを、感じたままに写すフィルムコンパクトカメラ|富士フイルム NATURA S

はじめに

発売から20年以上経つ、富士フイルムのフィルムコンパクトカメラNATURA S(ナチュラ エス)。超広角24mm F1.9の明るいレンズが特徴のコンパクトフィルムカメラです。

コンパクトカメラに搭載されていた一般的な広角レンズといえば38mmだった当時、引きのきかない屋内での撮影や、画角を活かした撮影表現を可能にした焦点距離24mmのレンズを携えたカメラの登場に、ワクワクしながら即決で購入したことを思い出しました。

今回は、大切に保管しているマイカメラ「NATURA S」の実写レビューをお届けします。

NATURAシリーズの先駆けとして登場したNATURA S

誰もがカメラを持っていたわけではない2000年代初頭。一部の写真愛好家の間で話題になり、瞬く間に人気となったNATURAシリーズは、「ノンフラッシュで、写真はもっと自由になる」「感じたままを、感じたままに」をコンセプトにしていて、自然光を活かした撮影がセールスポイントでした。

NATURA Sのボディはアクア・ロゼ・ラベンダーの三色展開で、長い間〝お父さんが使うカメラ〟として定着していた黒色からイメージを刷新。女性にもカメラを持ち歩いてほしいという意図が読み取れるデザインが、これまでのコンパクトカメラと大きく異なります。

ペールトーンの配色を身にまとった、まさに女性に向けたデザインです。わたしはロゼを所有しています
製品名 NATURA S(ナチュラ エス)
発売日 2004年10月
レンズ f=24mm スーパーEBCフジノンレンズ 6群7枚
F値 1:1.9
フィルム形式 135フィルム
焦点 アクティブオートフォーカス 0.4m~無限遠
露光調節 自動調節
フィルム感度 自動設定(DX方式による)ISO50~3200
フィルム装てん オートローディング方式・自動巻き上げ&自動巻き戻し(途中巻き戻しボタンによる途中巻き戻し可能)
シャッター速度範囲 1秒 ~1/360秒
ストロボ内蔵 ストロボ調光補正自動
本体外寸 109.5×58.0×37.0mm(突起部除く)
本体質量 195g(電池別)
電源 リチウム電池 CR2 1本
フラッシュ スーパーデジタルプログラムフラッシュ(充電時間:約0.5秒~5秒)
オートモード/強制発光モード/発光停止モード/夜景ポートレートモード/赤目軽減モード(7回プレ発光後、フラッシュ発光)
バックライト付き液晶表示:フィルムカウンター(逆算式)/NPモード/フラッシュモード/セルフタイマー/リモコンモード/フォーカスモード/日付/電池容量/フラッシュ充電中などが表示される。メニューボタンを押下して、十字キーで各項目を設定する
グリップのように突出している電池部分。リチウム電池 CR2 1本を使用
フィルムローディングは巻き上げ式の逆算式。撮影するごとにフィルムパトローネに撮影コマが戻っていくので、撮影途中でふたを開けてしまった際の露光を防ぐことができる

単焦点レンズで超広角24mm、開放F1.9という切り口も斬新でした。高級コンパクトカメラに搭載されていたような超広角レンズで撮影ができるという点に大きな魅力を感じたものです。

ほとんどの撮影機能がオートになっているコンパクトカメラゆえに、カメラのギミックが好きというよりも、「素直に写真を撮ることが好き、楽しい」という感覚を呼び起こしてくれるカメラになっています。

それもそのはず、このカメラの設計には写ルンですの企画開発の思想が取り入れられていることを後にうかがう機会がありました。そんな話を聞いてからますます手放せなくなった愛すべき1台です。

カラーネガフィルムNATURAと連動する「NPシステム」

2018年に終売したものの自宅で保管していたネガカラーフィルム「NATURA 1600」
NPシステムとしてISO1600の高感度フィルムと、開放値F1.9の明るいレンズ、露出制御プログラムの組み合わせで雰囲気のある写真撮影を可能にした

これまでのコンパクトフィルムカメラは、暗ければフラッシュがオートで発光するので、失敗写真も少なくはっきりときれいに写すことができましたが、NATURAシリーズではフラッシュ不要の〝雰囲気撮影〟を重視。ISO1600以上のフィルムを装填すると、露光制御プログラム「ナチュラルフォトモード」が自動起動する「NPシステム」を実現しました。日中・夜間を問わずノンフラッシュ撮影を可能とする専用モードです。

使用頻度の高いISO100,200,400のフィルムではフラッシュが自動発光してしまうところ、ISO1600の超高感度フィルムNATURAとの組み合わせでノンフラッシュ撮影が可能になります。

フラッシュ撮影の雰囲気を新鮮に感じる令和時代の写真とは真逆の発想で、ノンフラッシュ撮影という画期的なシステムは、その雰囲気ある写りから〝NATURAで撮影した写真好き〟の方もたくさんいました。

コンパクトカメラで24mmの超広角レンズが新鮮

今ではスマートフォンのカメラの画角に慣れていて、なんら違和感を感じることのない広角レンズも、当時は広すぎて扱いにくいと感じる人も少なくなかったと記憶しています。

フィルム一眼レフカメラの標準ズームレンズの広角端は28mmか35mmがほとんどで、それ以上に広い画角を経験することは稀でした。ミラーレスカメラが主流の現在では考えられないという人がいるかもしれません。

今回の作例作品はすべてフラッシュOFFで撮影しています。昨今のデジタルカメラの感覚でスナップ撮影すると被写体ブレなども生じて非常にリアリティを感じます。

■フィルム:Kodak GOLD200
視界全体の光景をパンフォーカスさせるなら「AF:遠景モード」を使っての撮影がおススメ
■フィルム:Kodak GOLD200
足元から高い天井まで入る画角でダイナミックに写ります
■フィルム:Kodak GOLD200

暗い室内でもノンフラッシュでOK

今回撮影に使用したフィルムはISO感度200なので、シャッターを押すだけだとフラッシュが発光してしまうため、フラッシュモードをOFFにして撮影しています。息を止めて手ブレに気を付けながらそっとシャッターを押せば、フラッシュ撮影禁止やまわりが気になるシーンでもしっかりノンフラッシュで撮影できます。暗い場所や時間帯こそ開放F1.9のレンズの威力を感じられるはずです。

■フィルム:Kodak GOLD200
こちらは近接撮影。最短撮影距離は40cm
■フィルム:Kodak GOLD200

NATURA Sを旅に連れていく

京都を訪れた日、NATURA Sを手に京都市左京区にある蹴上インクラインに向かいました。蹴上インクラインは、高低差約36メートルある琵琶湖疏水の急斜面で、船を運航するために敷設された傾斜鉄道の跡地です。その周辺を散策することができます。

疎水分線沿いに歩くと、水の流れる音とともに夕暮れ時の木漏れ日が差し込みロマンチックなひととき。

■フィルム:Kodak GOLD200
■フィルム:Kodak GOLD200
「AF:遠景モード」で撮影。水路閣の奥行も超広角レンズでないとここまで画面に入りません
■フィルム:Kodak GOLD200

京都駅周辺ではグラフィカルなデザインに目を惹かれます。
陰影の階調を引き出す柔らかい表現だけではなく、シャープでスマートな印象も引き出せるレンズです。

■フィルム:Kodak GOLD200
「AF:遠景モード」で撮影
■フィルム:Kodak GOLD200
スローシャッターになりましたが、薄暮時間の京都タワーも美しく再現しています
■フィルム:Kodak GOLD200

NATURA Sと街を歩く

普段連れて歩くカメラのサイズとしても最適なNATURA S。ポケットにしまっておいて、気になったものに出会ったら撮影できる感覚は、コンパクトデジカメとも似ていて、気負うことなく撮影できるのが嬉しい点です。

狭い路地でも24mmという画角が活躍し、被写体と距離をとらずとも撮影できるのもメリット。自分自身が寄ったり引いたりする感覚もしっかりと身につきます。

■フィルム:Kodak GOLD200
■フィルム:Kodak GOLD200
■フィルム:Kodak GOLD200
■フィルム:Kodak GOLD200

周辺光量不足もネガフィルム特有の青空の雰囲気を引き出してくれます。
光がまぶしい季節の順光での撮影は、よい空気感が伝わってくるのでNATURAでの撮影は特におススメ。どことなく写ルンですっぽさも感じますね。

■フィルム:Kodak GOLD200
■フィルム:Kodak GOLD200
■フィルム:Kodak GOLD200
■フィルム:Kodak GOLD200

おわりに

■フィルム:Kodak GOLD200

久しぶりに持ち出したNATURA S。ネガフィルムの写りに光の温度を感じて、なんだか懐かしささえ抱いてしまいました。やっぱりわたしも〝NATURAで撮影した写真好き〟なんだと思います。

旅の思い出をネガフィルムで撮影するのもかなり久しぶりのことだったので、現像を待つ時間、どんな風に写っているかなとドキドキするのもやはり楽しいものだなと、改めて感じました。

大切に保管していてあまり使用頻度の高くないカメラですが、こうしてNATURAらしい写りを目にすると、このまま壊れずにいてくれることを願ってやみません。これからも長く使っていきたい愛すべき1台です。

 

 

■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。

 

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