キヤノン RF800mm F5.6 L IS USM で野球を撮る|中西祐介

中西祐介
キヤノン RF800mm F5.6 L IS USM で野球を撮る|中西祐介

はじめに

私はこれまで多くのスポーツ撮影をしてきましたが、800mmのレンズで撮影した経験はほとんどありません。スポーツに限って言えば400mmが最も多く、次いで600mm、または70-200mmで撮影する機会がとても多かったと思います。その理由は、撮影場所から被写体までの距離を考えると400mmがどんな被写体にも使いやすく万能であることや、近年エクステンダーの性能が大幅に向上したことにより、400mmに1.4×のエクステンダーを装着して560mmF4、2×で800mmF5.6として撮影する機会が増えたからです。

400mmF2.8のレンズと二つのエクステンダーを持っていれば3つの焦点距離を使い分けることができます。これは本当に便利ではありますが弱点もあります。どんなに性能が良くなったとはいえ、レンズ単体時と全く同じ条件になるかと言えばそうではありません。僅かではありますが画質の低下やAF速度や正確性に影響を及ぼしますと同時に、開放絞りが×1.4で一段、×2で二段暗くなってしまいます。逆光時やコントラストが低い室内やナイター照明下など、条件のよくない状況で撮影する時はこの「僅か」な部分がとても気になるのです。

特にスポーツ撮影は一瞬の世界で勝負をしなくてはなりません。可能な限りレンズの性能が最大限発揮出来る完璧なコンディションで臨みたい、というのが本音です。そこで今回のRF800mm F5.6 L IS USMの登場です。

今回は野球を題材にして撮影しました。野球はネットのないカメラ席から撮影する場合はバッター、ピッチャーを撮影するために一番最適な距離は400mmになるケースが多いのですが、スタンド(観客席)からの撮影となるとちょっと距離が足りません。また必ずネット越しになってしまうのも撮りづらいところです。今回はスタンドからネット越しで撮影した写真をご覧いただきます。皆様の撮影のご参考になれば幸いです。

■撮影機材:Canon EOS R3 + RF800mm F5.6 L IS USM
■撮影環境:f/5.6 1/2500秒 ISO800

スポーツ撮影における万能レンズ

上記で述べたように今回はスタンド(観客席)から撮影しました。球場の大きさにもよりますがこの日に撮影した球場では800mmという焦点距離がとても役に立ちました。バッター、ピッチャー、野手の守備(内野手)、ランナーの4パターンの動きをしっかりとノートリミングでカバーすることができました。外野手の守備は800mmでも距離が足りないのでもっと長いレンズが必要になりますが、それを除くと色々とバリエーションを撮影することが出来ます。

今回は一塁側、三塁側、バックネット裏の3方向から撮影しましたが、どの場所からもちょうどいい距離感でストレスなく撮影が出来ました。エクステンダーを使用していないのでレンズの性能を最大限発揮して撮影している安心感もあります。

また、RF800mm F5.6 L IS USMは見た目の大きさからは想像出来ないほど軽量です。今回は一脚を使用して撮影していますが選手の素早い動きを追うためにレンズを上下左右に振ったり、ポジション移動のためにレンズを持ち上げる時も体への負担が少なく大変ありがたいです。以前の超望遠レンズは大きく重たいイメージでしたがそれはもう過去のことのようです。

そして私がとても気に入ったのは、ASCコーティングによってフレアやゴーストを極低減抑えてくれている点や、フッ素コーティングが施されているため、砂埃の中で撮影した後にサッと表面の汚れを取り除くことが出来るのも安心材料の一つです。

■撮影機材:Canon EOS R3 + RF800mm F5.6 L IS USM
■撮影環境:f/5.6 1/2000秒 ISO1600
■撮影機材:Canon EOS R3 + RF800mm F5.6 L IS USM
■撮影環境:f/5.6 1/3200秒 ISO800

瞳AFとの相性が抜群

今やスポーツ撮影では欠かせない機能となった瞳AF、特にネット越しで撮影しなければならないシーンでは大変重宝します。ネットのないカメラ席で撮影する場合と、ネット越しになる観客席からの撮影では視界の良さが大きく異なります。ネットにレンズを極力近づけたとしても余計なモヤがかかってしまうようなものなので、AFの正確性が落ちてしまいます。野球のスイングやピッチャーがボールをリリースする瞬間のスピードは想像以上に速いので、一番フォーカスを外しやすい瞬間をネット越しで撮影するという厳しい条件が重なります。

こんな時は素早く正確なAF性能を持つ信頼できるレンズと瞳AFの組み合わせがとても威力を発揮します。これは野球に限らず、バドミントンなどのネット越しに被写体を追うシーンでも力を発揮します。ネットの向こう側にいる被写体の瞳、顔、頭部をしっかりと検知して正確に追従してくれます。選手がヘルメットや帽子、サングラスを着用していても問題ありません。

このおかげで撮影時はフレーミングとボールの行方に集中することが出来ます。特に超望遠レンズで撮影中は肉眼で見ている状態よりも体感スピードが速く感じます。シャッターを押す瞬間に気にかけなければいけない要素を少しでも省くことが出来るのはとてもありがたい機能です。「僅か」に気になる点を解消するためには、カメラの高性能を最大限に引き出すことが出来るレンズを使いたくなります。

■撮影機材:Canon EOS R3 + RF800mm F5.6 L IS USM
■撮影環境:f/5.6 1/4000秒 ISO800
■撮影機材:Canon EOS R3 + RF800mm F5.6 L IS USM
■撮影環境:f/5.6 1/2500秒 ISO800

Lレンズらしい高い描写力

キヤノンにはRF800mm F11 IS STMという携帯性に優れ、購入しやすい価格で手に入るレンズがあります。800mmという焦点距離を手に入れるだけであれば、サイズが大きく価格の高いLレンズを持つ必要はないかもしれません。

しかし、RF800mm F5.6 L IS USMでなければならない理由があります。それはLレンズらしい高い描写力です。被写体を浮かび上がらせる背景のボケ味、キリッとした輪郭を描くシャープさ、それらを高いレベルで実現させてくれるのはさすがです。高価なレンズではありますがこのレンズでなければ見えない世界があるのは確かです。

■撮影機材:Canon EOS R3 + RF800mm F5.6 L IS USM
■撮影環境:f/5.6 1/4000秒 ISO800

まとめ

今回はRF800mm F5.6 L IS USMを使用してスタンドから野球を撮影してみました。スタンドからの撮影はネット越しで距離も遠く、撮影条件は難しいものがありますがストレスなく迫力あるプレー写真を撮影することが出来ました。AFスピードと正確性、画質のキレ、機動力など全てが高いレベルで製品化されたレンズでした。

今回は野球を題材にしましたが、長い距離が必要なマリンスポーツや野鳥の撮影など活躍できる場所は多くあると思います。また手ブレ補正機能を信じて手持ち撮影をすることも十分可能です。高価なレンズではありますが、それだけの価値を提供してくれるレンズであることは間違いありません。

■撮影機材:Canon EOS R3 + RF800mm F5.6 L IS USM
■撮影環境:f/5.6 1/2500秒 ISO800

 

 

■撮影協力:日本大学準硬式野球部

■写真家:中西祐介
1979年東京生まれ 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、フォトエージェンシーであるアフロスポーツを経てフリーランスフォトグラファー。夏季オリンピック、冬季オリンピック等スポーツ取材経験多数。スポーツ媒体への原稿執筆、写真ワークショップや大学での講師も行う。現在はライフワークとして馬術競技に関わる人馬を中心とした「馬と人」をテーマに作品制作を行う。

・日本スポーツプレス協会会員
・国際スポーツプレス協会会員

 

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