キヤノン EOS R5 C レビュー|映像監督から見たR5C

由井友彬
キヤノン EOS R5 C レビュー|映像監督から見たR5C

はじめに

みなさま初めまして。東京を拠点とし映像監督をしています由井友彬(ユイ トモアキ)と申します。僕は普段企業広告の映像制作をメインとし、制作の際には一人で監督からカメラマンを兼任することが多いので、今回の記事ではそんな映像制作メインの僕から見たCanon EOS R5 Cというカメラを深掘り出来たらなと思います。

僕は普段からCanonのカメラが好きで、仕事ではメインカメラとしてはCanonのCinema EOSから出ているEOS C500 Mark IIをAカメラとして使用しています。

しかし、C500はかなり大きなシネマカメラで、バッテリーやモニター、カメラリグなども含めるとかなりの重量とサイズになります。普段から撮影の現場でそこまでの規模のカメラが絶対に必要になるかと問われるとそうでもなく、時には瞬発力や機動性があり、軽くてその一台で何役もこなせるカメラの方が適している現場も少なくありません。

そんな際、EOS R5 Cであれば手持ち撮影や三脚撮影はもちろんのこと、瞬時にジンバルに載せ替えてジンバル撮影もこなせるという点では遥かにC500よりも機動力のあるカメラで、なおかつ能力的にもC500に引けを取らない本格的なシネマカメラになっています。また、案件によっては僕がそのままスチール撮影を同時に行うことも多いので機材量を増やさずにその穴が埋まるカメラを求めていました。

では使っていて良かったと思う点3つと、ここを改善したらもっとよくなるのにという点を少しを紹介していきたいと思います。

▼EOS R5 C動画作例

EOS R5 Cの良いポイント

1. 究極のハイブリッドカメラ

EOS R5 Cは「約4500万画素の静止画性能を有した8Kデジタルシネマカメラ」です。よくEOS R5にシネマ機能がついたカメラと言われますが、僕としてはむしろ逆で、ミラーレスカメラサイズのシネマカメラにEOS R5と同等のスチール機能がついたという印象でこのカメラを使用しています。

動画機能もスチール機能と同じメニュー画面から切り替えるのではなく、完全にUIの面からも別物になっています。電源スイッチを見れば分かりますが、「動画⇄スチール」モードを切り替えるには「PHOTO&VIDEO」スイッチで完全に電源を落とし切り替える必要があります。そのため、動画モードにした際にはシネマEOSで使い慣れたシネマカメラ用のUIに切り替わってくれます。(スチールモードのUIはEOS R5と同様)

ここがEOS R5を使い慣れている方からすると厄介な点かもしれませんが、普段シネマEOSを使用する僕としてはこのように中身を丸ごと入れ替えたメニューにしてもらった方が「写真⇄動画」の切り替えがスムーズにできます。使う度に思うのが、メニューのUI毎入れ替えてもらうことによって設定内容が混ざることなく、動画は動画の設定、スチールはスチールの設定としっかりと混同することなく保持してくれます。

EOS R5同等のスチール撮影が可能
■撮影機材:Canon EOS R5 C + RF24-70mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f2.8 SS1/1000 ISO100

 

2. 多彩な記録フォーマット

EOS R5 Cは「8KフルサイズセンサーRAW」というとんでもない高精細な映像撮影が可能です。

RAWのフォーマットも「Cinema RAW Light」という扱いやすいフォーマットを採用しているので、RAWが初めてという方々にも混乱なく使用できると思います。その上、内部RAW収録を行う際には画質を選べる新開発の3つのRAWバリエーション(HQ、ST、LT)の中から選択可能です。

さらに、8K収録の際には別途SDカードに小さなサイズのProxy収録(容量の重い元ファイルの代わりに軽量サイズの作業ファイルのこと)を同時に行う事が出来るので、外部のモニターレコーダーの使用や撮影後のProxy作成をする必要がなく、高性能のPCを所有していないとしても撮影後すぐにプレビューや編集作業に移ることができます。

▼Log撮影の素材とグレーディング後

また、機能をフル活用した8K RAWだけではなく、そこまでの高解像度が必要ない場合も多いと思います。僕自身、毎回の現場で8KのRAWを選択することは稀で、4Kで十分ということも多くあります。そんな時でもEOS R5 Cの4K(クロップなしで最大120fps)は8Kからのオーバーサンプリングで記録されるので純粋な4Kよりもかなり綺麗な印象を受けました。

 

3. オートフォーカスの優秀さと機能

良い点の3つ目はオートフォーカスです。スチールのカメラを使用している人からすると「現代のカメラにオートフォーカスは当たり前」だとは思うのですが、シネマカメラの世界で言うと優秀なオートフォーカスがついていると言うのはかなり稀なことかと思います。

有名なカメラのARRI ALEXAはもちろん、REDカメラ(KOMODOには一応ついていますが正直現場で使い物にはなりません)、Blackmagic Designのポケットシネマカメラなどにもオートフォーカスは搭載されていません。その点、Canonのシネマカメラに搭載されているオートフォーカスは実際の撮影現場でもかなり信頼でき、僕もワンマン撮影の際にはかなりオートフォーカスを多用しています。

特にCanon特有の「顔限定AF」がEOS R5 Cで使えるというメリットは大きかったです。

「顔限定AF」とは人物の顔が検出される際にはその顔にピントを合わせてくれて、顔が別の方向を向いたり検出されなくなると、次に人物の顔が検出されるまでその場にピントを固定しておいてくれる機能です。文章で書くとかなりわかりにくいですが、例えばインタビューの撮影などで通常のAFを使用すると、人物が別の方向を向いた際など背景にピントが入ってしまったり、ピントが迷ったりすることがあるのでこの機能はかなり有効的です。

“あったらいいな”ポイント

ここまでEOS R5 Cの絶賛ポイントを書いてきましたが、ここからはこのカメラに「あったらいいな」と思うポイントを少し紹介したいと思います。

まずは「内蔵NDフィルター」。この小さなカメラに内蔵NDは不可能と言うことはわかっていつつも、普段使うC500には搭載されているのでやっぱりあったら良いなと思うポイントの一つです。特にオールドレンズなど色々なフィルター径のレンズを多用したい時など「内蔵NDがあったらいいのにな」と思ってしまいます。

また、「バッテリーの持ち時間」も改善希望ポイントの一つです。

よく考えれば当たり前の話なのですが、これだけ機能満載のシネマカメラを純正のCanonバッテリーのみで運用しようとすると、1日でかなりの大きさのバッテリーを消耗することになると思います。通常シネマカメラを使用する際にはVマウントのバッテリーなど大容量の物を使用するのでそれを使えば済む話なのですが、やっぱりこのコンパクトなボディのままEOS R5 Cを使いたいなと思うのが正直なところです。

EOS R5と同様のバッテリーを使用できる点はとても良いのですが、実際に8K RAWを収録していると体感時間で20分程度の稼働時間でみるみるうちにバッテリーが減っていきます。

ただ、EOS R5 CにはUSB-Cのポートが付いているので僕自身はモバイルパッテリー(USB PD給電対応のものが必須)を接続し撮影していました。これなら大きなVマウントをリグで構築し本格的なシネマカメラ化することなくEOS R5 Cを運用する事が可能なため、手持ちや三脚使用の際にはUSB-CでPD給電で使用し、ジンバル撮影の際にはCanon純正バッテリーを使用するというように使い分けていました。USB-Cからの給電使用時にはケーブルの着脱のみですぐにスチール撮影にも切り替えられるという点も使いやすかったです。

結論

ここまで色々なことを書いてきましたが、僕にとってEOS R5 Cは究極のハイブリッドシネマカメラで、これであれば本格的な広告撮影でも1台でこなせるんじゃないかと思うくらいにプロフェッショナル向けの完成度の高いカメラだと思います。

実際に撮影の現場でメインカメラのEOS C500 Mark IIもAカメとして使用し、EOS R5 CをBカメラとして使用した現場でも、最終的に想定していた以上にEOS R5 Cで撮った素材が素晴らしく、結果的に作品の半分はEOS R5 Cの素材を使ったという経験もあります。

それだけ高性能のシネマカメラ機能を持っていながら、モード切り替えでEOS R5と同等のスチール撮影機能があるというのは、今までシネマカメラとスチールカメラの両方を現場に持って行かなければいけなかった僕にとっては本当にありがたく、これ一台でかなり幅広い表現が可能になるカメラだと思っています。

普段写真をメインとしてカメラ選択を考えている方々から映像のプロフェッショナルまで、多くの人に試してほしいカメラだと心から思います。

 

 

■映像作家:由井友彬
石川県出身。18歳の時に上京し美容関係の学校に通った後、3年間都内美容室に勤務。その後、大学に入学し哲学を専攻、アメリカに留学する。留学中のアメリカで映像の仕事を開始。その後は拠点を東京に移し映像作家として活動中。H.I.S.やANAなど旅行関連の映像制作で力をつけ、現在はMVやビューティ、企業の広告など幅広く活躍。海外で経験を積んだシネマティックな演出と、人の心情を表した映像表現が特色。

 

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