京都散歩が楽しい!日本を代表する写真の祭典KYOTOGRAPHIE 2025の「私的ベスト3」

ShaSha編集部
京都散歩が楽しい!日本を代表する写真の祭典KYOTOGRAPHIE 2025の「私的ベスト3」

はじめに

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭が4月12日から始まり、2025年の今年も大きな盛り上がりを見せています。いまや日本国内だけでなく、世界中から多くの人々がこの写真フェスティバルをめがけて京都にやってきます。参加する写真家の出自も多彩で、今回も日本はもとよりアメリカ、フランス、メキシコ、コートジボワール、インドなどの国名が並びます。

フランス人フォトグラファーのルシール・レイボーズさんと照明家の仲西祐介さん夫妻が、東日本大震災をきっかけに、それまで住んでいた東京から京都に移住して始めた写真フェスティバル。13回目の開催となった今回のテーマは「HUMANITY(人間性)」。古都を歩きながら各々の展示会場をめぐるにつれて、そのテーマ性をじわじわと感じられるはずです。人間の愚かさ、恐ろしさ、そしてユニークさを――。

京都の街をスタンプラリーのようにめぐる

KYOTOGRAPHIEといえば、千年の都ともいわれる歴史ある古都を舞台に開催されていることが魅力のひとつ。しかも、ホールのような公共施設ではなく、京都ならではの歴史的建造物やモダン建築が会場となっています。それは世界最古の写真フェスティバルとして知られる南仏プロヴァンスの「アルル国際写真フェスティバル」にも通じます。多様なたたずまいを見せる会場をスタンプラリーのようにめぐる楽しさは、ほかの写真フェスティバルでは体験できることではありません。

たとえば、町家をリノベーションして展示会場として利用されている嶋臺(しまだい)ギャラリーは元々、銘酒「嶋臺」を扱う酒問屋として名を知られた存在でした。この建造物は伝統的町家建築の頂点ともいわれています。

また、情緒あふれる高瀬川沿いに位置するTIME’Sは日本を代表する建築家・安藤忠雄の設計。細い路地に多くの料亭やバーが立ち並ぶ先斗町に近い場所に位置しており、特徴的なコンクリートブロックのファサードは、京都の街でもひときわ存在感があります。

フランス人アーティストJRは巨大な写真壁画で見る者を圧倒

今回の展示会場の中でも圧倒的な迫力を感じたのはフランス人アーティストJRの作品で、個人的に「ベスト1」に挙げたいと思います。展示場所は京都駅ビル北側通路壁面。この巨大な写真壁画は505人にも及ぶポートレートをコラージュして作り上げたもの。高さ5m×横22.55mというサイズの驚くべきインスタレーションであり、KYOTOGRAPHIE 2025で初公開されたJRの注目作なのです。

また、この作品の制作過程がわかるもうひとつの展示会場があります。それが、京都新聞ビル地下1F(印刷工場跡)&1Fです。この会場では、JRとそのチームが505人のポートレートを撮影したムービーが公開されており、2024年に繰り広げられた京都市内8カ所の移動式スタジオでのやり取りを見ることができます。
また、インスタレーションの「素材」となったポートレートが展示されているのも楽しみのひとつ。一枚一枚切り抜かれた写真が巨大作品の構成要素となるのです。

加えて、ニューヨークやマイアミなどの都市で撮影された過去作品「クロニクル」も展示されていますが、今回のKYOTOGRAPHIE 2025で初公開されたもうひとつの注目作品があります。それが、京都に住む10人を撮影した巨大なポートレートです。市内の小学生、三味線奏者、新聞社の社長、藍染め職人、そして舞妓といった多種多様な人々。それぞれが、スポットライトを浴びると自分の物語を話し始めるインスタレーションとなっています。これはJRの新たな代表作になる予感がします。

1950-60年代のアメリカ社会を批評的にリメイク

さて、次は「ベスト2」です。
エントランスの暖簾をくぐって最初に現れる写真には、ハイウエイ沿いに停めたアメリカ車のボンネットに腰掛ける二人の男性が写っています。ミッドセンチュリーを感じさせる懐かしい雰囲気が漂っていますが、実はこれは「合成写真」なのです。

リー・シュルマンが1950-60年代のアメリカで撮影されたアノニマスな写真をセレクト。そこにセネガル出身のアーティストであるオマー・ヴィクター・ディオプをモデルとして撮影。古い写真と合成することで白人と黒人が一緒にいる作品としてリメイクしたのです。当時は両者が一緒に写真に収まることは稀であり、あえてユーモラスなフェイク作品を展示することで、人種差別へのアンチテーゼとしているのです。

そういった一見なんの変哲もない「合成写真」が次々と並び、ときには壁一面に貼られ、ときには額装されてミッドセンチュリー時代のインテリアの中に飾られるというユニークなインスタレーションとなっています。

コンプレックスだった髪がクリエイションの源泉に

「ベスト3」はコートジボワール出身のレティシア・キイ。長い間、キイは自分の髪にコンプレックスを抱いており、直毛になる施術を何度も受けてきましたが、16歳のときにある化学薬品による処置に失敗。ほとんどの髪が抜け落ちる経験をしたことから、考えをあらため、髪を重要な表現手段と捉え直したのです。

そして、キイは自らの髪を彫刻のような造形に仕立てたクリエイションを作り始めます。それだけでなく、写真にイラストを描き、ジェンダー差別を批判するユーモラスな作品も披露。斬新な手法によって、既存の価値観に向けたメッセージを伝えようとしています。

ベスト3以外に印象に残ったエキシビション

以上が「ベスト3」ですが、ほかにも印象深いエキシビションにいくつも出会いました。
まずは、KYOTOGRAPHIEの会場としてよく知られる「誉田屋源兵衛 竹院の間」で開催されているのが、沖縄で活躍する石川真生の展示。1970年代後半、米兵の中でも差別されていた黒人兵が集まるバーで働きながら撮影した石川の作品群。当時の沖縄のリアルな日常を収めた最初期の作品「アカバナ」に写し出された人々の逞しさ。そして、喜びと悲しみに満ちた情景に揺さぶられます。

また、マスツーリズムをテーマに世界中の観光地を撮影してきた英国の写真家マーティン・パー。彼が写し撮るのは、名だたる観光名所の現実。ピサの斜塔、マチュピチュ、アテネのアクロポリス、そして京都……といったラインナップ。どの場所にも、われわれが求める絶景はありません。 

そして、母国メキシコの風景を探し求めてきたグラシエラ・イトゥルビデが手掛けたモノクロームのプリント。パリを代表するメゾンのひとつディオールのコミッションワークを撮影した経験も持つグラシエラの作品からは、静謐さと強靭さが同居するプリミティブなパワーを感じました。

石川真生の作品「アカバナ」からは、人間の逞しさと強靭さ、そして儚さがにじみ出てきます
マーティン・パーが撮る世界各地の観光名所。ごった返す人々の姿と商業主義が満ちあふれる
グラシエラ・イトゥルビデにとって、日本初の大規模個展となった。会場構成も素晴らしい

概要

「KYOTOGRAPHIE 2025」
■期間:4月12日(土)~5月11日(日)
■料金:パスポートチケット 一般¥6,000(Eパスポートチケット¥5,800)学生¥3,000(Eパスポートチケット¥3,000円)
■単館チケット 一般¥600~¥1,500 学生¥500~¥1,200 一部無料会場あり
■公式サイト:www.kyotographie.jp
■Instagram:@kyotographie

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