タイムラプス機能満載のポータブル赤道儀「スカイメモSW」を徹底レビュー!【前編】

成澤広幸

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はじめに:スカイメモSWとは

 スカイメモSWは、2022年4月1日にケンコー・トキナーから発売された約1230gの小型赤道儀。前機種・スカイメモSにWi-Fi機能を追加し、スマホやタブレットを使って様々なアプリ制御が可能となったのが特徴。スマートなデザインで収納もしやすく、ポータブル赤道儀としての使い勝手は申し分ありません。タイムラプス撮影機能が充実している上に価格がリーズナブル。加えて、拡張性にも富んでおりカウンターウエイトを取り付けての天体写真への発展も可能など(しかも追加パーツもリーズナブル)、初心者が手をだしやすい性能・価格設定となっています。

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 実は過去に「スカイメモS」「スカイメモT」という商品がありました。「スカイメモS」はポータブル赤道儀としての性能・強度は申し分なく、とても人気があった製品。そして、「スカイメモT」はさらに小型化された赤道儀で、タイムラプス撮影機能が充実していたのですが、スマホ・タブレットでのみ動作するという仕様で、手軽に本体のみで動作しないことがやや使い勝手が悪かった部分でした。今回の「スカイメモSW」は、赤道儀として定評のあった「スカイメモS」に「スカイメモT」のタイムラプス機能を追加した商品ということになります。

 さて、ここからレビューに移っていくのですが、最初にお伝えしておくと、スカイメモSWには業界初・唯一と言われる「天体タイムラプス」という機能が実装されています。これは一般的に手に入るポータブル赤道儀として、この商品だけに搭載されている機能になります。スカイメモSWの全体感を紹介しながら、注目のタイムラプス撮影機能について重点的に解説していこうと思います。

スカイメモSWと合わせて使用したい機材

 赤道儀とは地球の自転(日周運動)に合わせて動くモーター雲台のこと。地球は1時間に15度というめちゃめちゃ遅いスピードで動いています。シャッターを開いている間にも地球が動いているため、星が線で写ってしまいます。その回転速度に合わせてゆっくりと動いてくれるのが赤道儀で、赤道儀を動かしながらシャッターを切れば、星は点のままで撮影することができるという仕組みです。搭載積載量に合わせて大きさはまちまちで、スカイメモSWのような小型軽量のものをポータブル赤道儀と呼びます(海外では「Star Tracker」と呼ばれてますね)。

 スカイメモSWを使用するときに必ず一緒に使ってほしいのが、スカイメモS・SW用微動雲台。赤道儀のセッティングはとても精密であること、赤道儀を地球の地軸に合わせた(傾けた)上に雲台・カメラ・レンズを搭載しますから、足腰の部分にとても負荷がかかります。通常の自由雲台/3way雲台では正確にセッティングできませんし、搭載重量によっては使ってるうちにだんだんとがたつきが出て修理が必要になる場合があります。価格も比較的リーズナブルな微動雲台なので、ぜひこちらでご活用いただければと思います。

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 三脚は市販のもので問題ありませんが、こちらにも専用三脚「スカイメモS・SW用三脚」が発売されています。カラーリングも白で統一されており、軽量で使い勝手が良いです。現在三脚を持っていない、でも赤道儀が使いたくてどれを選べば良いかわからないという方には専用三脚がおすすめ。カメラ用雲台も取り付けられる仕様になってますので、長く使用できる三脚です。

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 その他、望遠レンズを搭載することができるオプションパーツなどが発売されていますが、今回はこの3点セットでレビューをしたいと思います。

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赤道儀としてのスカイメモSW

 まずは本来の使い方である赤道儀の面から見ていきます。設置の際は、付属のショートプレートに自由雲台を取り付けた上でカメラをセットするのがおすすめ。他の雲台でももちろん使用できますが、色々と動かすうちにパーン棒が干渉することがあるので自由雲台が最も適していると感じます。設置の精度(撮影者がどこまでの精度を求めるか)にもよりますが、私の感覚だと目安として100mmまでのレンズを搭載できるだろうという感じです。

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 本体横にダイヤルがあり、様々なモードに切り替えができるので、スマホ・タブレットがなくても本体だけで基本的な撮影を楽しむことができます。ダイヤルを回すとスイッチが入り、赤く点灯します。各モードの設定は以下の通り。

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1.恒星追尾モード・・・日周運動のスピードで赤道儀が回転する。星をブレずに点で撮影することができる。私がもっとも星景写真で使用するモード。
2.太陽追尾モード・・・太陽のスピードに合わせて回転するモード。日食のときなどに使用する。
3.月追尾モード・・・月のスピードに合わせて回転するモード。月食のときなどに使用する。
4.天体タイムラプスモード・・・この商品のすごい機能。後で詳しく説明します。
5.タイムラプスモード・・・昼間用タイムラプスモード。常に回転し続けながらシャッターを切ります。
6.長時間タイムラプスモード・・・汎用的なタイムラプスモード。シャッターが切り終わると動き、シャッターを切るタイミングで止まるSMS(シュート・ムーブ・シュート)と呼ばれる機能。これにより撮影中は赤道儀が停止しているため、風景がブレていないタイムラプス素材を撮影することができる。タイムラプスでは必須の機能。
7.Wi-Fiモード・・・skymemoアプリを使って制御するモード。
8.OFF

 1~3は、本体ダイヤルを回した瞬間からずっと駆動している状態になります。それぞれの被写体に合わせてモーターの回転速度が変わります。

 4~6は、本体ダイヤルを切り替えた瞬間にシャッター信号が発せられ、それぞれの設定ごとの駆動をします。アプリでいちいち接続→操作するのが面倒という人、素早く撮影に入りたいという人には本体のみで撮影できるので大変手軽です。

 反対側にもさまざまなボタン・端子が用意されています。

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1.ライト・レフトLEDボタン・・・カメラの向きを微調整するときに使用します
2.3ポジションスイッチ・・・S(南半球モード)、STOP、N(北半球モード)を選べる。日本国内で赤道儀として使用するならN、タイムラプス撮影のときは動かしたい方向に合わせてSとNを使い分けよう
3.Snap・・・別売のシャッターケーブルを使用することで、カメラにレリーズ信号を送ることができ、アプリと完全同期して撮影することができるようになる
4.Auto Guider ポート・・・オートガイダーとは、天体写真撮影において正確に星を追尾しているかどうかを監視し制御する機材で、それを接続するのがこの端子。ハイエンドな天体写真ユーザーが使用するもので、PCの専用フリーソフトや天体望遠鏡関連を専門で取り扱う店舗で手に入れることができる。
5.外部電源端子(USB mini)・・・モバイルバッテリーを接続する端子。単三電池がなくてもここから電源を供給すればスカイメモSWを駆動させることができる。

極軸望遠鏡が内蔵

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 これはユーザーにはとても嬉しい仕様。なんとスカイメモSWには、精密な赤道儀のセッティングをするために欠かせない「極軸望遠鏡」が内蔵されています。他機種だとこれが別売りなのですが、極軸望遠鏡が付属してこの価格なのはとても良心的と言えます。極軸望遠鏡は星景写真で使用しても目立った差は生まれないので使う必要はありません。焦点距離が50mm以上などになったときの天体写真(風景がない星空だけの写真)で使用するものだと考えてOK。

カメラと完全に連動するレリーズ端子

 別売りのシャッターケーブルを使えば、赤道儀の動きとカメラのシャッターを完全連動することが可能。アプリ制御での撮影の場合は、シャッターケーブルは必ず必要です。各社対応のものが販売されており、市販品も使用可能。

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単三電池4本で駆動

11_単三電池.jpg

 本体上部のカバーを開けると、単三電池4本を収納するスペースがあります。こうした汎用的な規格の電池であれば、遠征地でも入手しやすいので安心ですね。

外部電源からの給電が可能

 USB-mini端子にモバイルバッテリーを接続すると給電が行えます。バッテリーの持ちが不安なときに安心です。話は変わりますが、最近USBケーブルはType-Cが一般的になりつつあります。USB-miniというととても古い規格だと感じるかもしれませんが、海外(ヨーロッパ圏?)ではまだまだこの規格が主流なのだとか。USB-miniケーブルは残念ながら付属されていないので、忘れずに準備しておきましょう。

スカイメモSWのセッティング方法~赤道儀編~

12_本体裏の北極星のぞき穴.jpg

13_北極星を入れるイメージ(線なし).jpg

上の画像に星座線を入れるとこうなります

13_北極星を入れるイメージ(線あり).jpg

 微動雲台に水準器が付属していますので、赤道儀を水平に設置し、本体裏の北極星のぞき穴から北極星が見えるように微動雲台を動かします(星を視野・写野に入れることを導入と呼びます)。北半球の場合は、地球の回転軸の近くに北極星やカシオペヤ座があり、とてもよい目印になっています。のぞき穴から北極星が見えていれば設置は完了です。

 ちなみに、シャッタースピードが30秒未満の撮影で、24mm以下の広角レンズを用いた撮影であれば、「だいたい北に向ける」だけでも割と星が点に写ります。精密なセッティングは焦点距離に合わせて行うと良いでしょう。

スカイメモSWを使った星景写真作例

 星を追いかけて撮影するということは、風景が動くということになります。しかしながら、近距離に被写体がない構図で遠距離のみの風景を撮影する場合は、短い露出時間であれば風景のブレはさほど気になりません。むしろ星のブレの方が気になります。これは光の少ない夜の撮影だからこそ、風景部分がもともと不明瞭であることも関係するのでしょう。アプリ経由でいろいろな追尾速度が選べますが、結局、風景のブレを抑えるとか余計なことを考えずに、恒星追尾モードで撮影するのが最もバランスの良い星景写真を写すことができると感じています。

14_星景写真作例.jpg
■赤道儀:Kenko スカイメモSW(恒星追尾モード)
■撮影機材:Panasonic LUMIX DC-S5 + SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:ISO6400,f2.8,18mm,20秒
JPEG撮って出し

 焦点距離が長くなってくると、風景のブレは気になりますが、むしろ長い露出時間で思いっきりブラした方が雰囲気がでることもあります。このあたりは好みですが、いろいろな露出時間での撮影を楽しむと良いでしょう。一番効力を発揮するのは低ISO感度・長秒露出のときで、低感度で撮影したときのノイズの少なさ、星の美しさは赤道儀を使った撮影ならではです。カメラの進化で高感度撮影が一般的になっていますが、これはこれで別の表現・美しさがあると思います。

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■赤道儀:Kenko スカイメモSW(恒星追尾モード)
■撮影機材:FUJIFILM X-T3 + Tokina atx-m 33mm F1.4 + Kenko プロソフトンクリア
■撮影環境:ISO6400,(左から)f2/f4/f5.6/f8
JPEG撮って出し

 さて、多機能な機材なので長いレビューになってしまいましたが、次回後編はスカイメモSWのタイムラプス撮影機能と、タイムラプスローテイターとしての活用方法をご紹介したいと思います。

■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員

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