新たな35mm F3.5時代の幕開け!現代に降臨した新スナップシューター「フォクトレンダー COLOR-SKOPAR 35mm F3.5 Aspherical」

はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。
今回は2025年のCP+コシナブースでのタッチアンドトライで大人気だった、フォクトレンダーの最新レンズ「COLOR-SKOPAR 35mm F3.5 Aspherical VM」をレビューしていきます。F3.5といえば、描写的に間違いないレンズと言われるものが多いですが、その中でもどのような描写を見せてくれるのか、さっそく見ていきたいと思います。
Leica銘玉群に切り込んだ新生35mm F3.5

■撮影環境:f8 1/125秒 ISO100 WBオート
COLOR-SKOPAR 35mm F3.5 Aspherical VMは、コシナVoigtlanderが展開するコンパクトでクラシックデザインの広角単焦点レンズです。VMマウント(Leica Mマウント互換)を採用し、全長約14mm、重量約99gと非常に小型軽量ながら、最新の光学設計で作られています。
Leicaマウントの35mm F3.5はElmar 35mm F3.5やSummaron 35mm F3.5と言った王道レンズが存在しますが、どれも数十年前の設計でありモノクロフィルムが主流の時代。本製品は新規光学設計であり、デジタル及びカラーに対応していることから、最も適合しているデジタルライカボディだけでなく、様々なミラーレスカメラで使用するのも良いと考えます。もちろんフィルムカメラでの使用も期待が持てますね。早速ですが、レンズのスペックを見ていきましょう。
対応マウント | VMマウント(Leica Mマウント互換) |
サイズ | 最大径Φ52×全長14mm |
質量 | 99g(付属品なし) |
焦点距離 | 35mm |
フォーカス | MF(マニュアルフォーカス:距離計連動型) |
レンズ構成 | 4群6枚 |
対応撮像画面サイズ | 35mmフルサイズ |
最短撮影距離 | 0.7m |
絞り | F3.5-F22 |
フィルター径 | 34mm |
カラー | ブラックペイント、シルバー |
付属品 | レンズキャップ、レンズフード、フードキャップ後キャップ、保護フィルター |

https://www.cosina.co.jp/voigtlander/vm-mount/color-skopar-35mm-f3-5-aspherical/
4群6枚構成とレンズ構成だけ見ればSummaronと同様ですが構成図は全く異なり、使用しているレンズも両面非球面、異常部分分散ガラスが贅沢に使用されています。
付属品のフィルター、そしてフードも本当に「わかっている」作りになっていて、フィルターの厚みはなんと1mmとコンパクトを損なわない特別なもの。フードもシルバーレンズにはシルバーフードが合わせられており、フードを付けたままでも絞り指標がわかるようになっている点は、細かなところまで利便性が追及されており、まさにMFレンズのお手本。描写性能、デザイン、所有欲がバランスしており、開発陣の熱量の高さがうかがえます。
Elmar、Summaronはモノクロ用にして、こちらはカラー用にちょっと1本買ってもいいかもと思わせてくれる納得の作りになっています。

今回は、今最もお買い得なLeicaであるLeica SL2-Sにヘリコイド付きマウントアダプター「SHOTEN LM-LSL M II」を組み合わせて撮影をしました。メーカーにより黒に塗りつぶされたLEICAロゴと、黒塗装をした自作Leicaバッジ、そして本レンズとオールブラックの組み合わせはまさにスナップ向きです。

■撮影環境:f8 1/160秒 ISO100 WBオート
このように瞬間的にいくつもの共通項が組み合わさったシーンを撮れるのもスナップの醍醐味です。赤信号、赤い服を着た2人、右サイドに通行禁止の左を向く看板と、左サイドに右を向く通行人と面白いシチュエーションです。中央の信号の人型マークがこちらを向いているのもいいですね。

■撮影環境:f8 1/250秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f8 1/20秒 ISO100 WBオート
もちろんモノクロとの相性も抜群です。ElmarやSummaronのトーンの緩いモノクロよりもコントラストの高いハードなモノクロとの相性が良いように感じます。こういった特性からも、ElmarやSummaronをお持ちの方もCOLOR-SKOPARを買い足すという選択がおすすめです。
小型軽量の高性能のレンズ

■撮影環境:f8 1/80秒 ISO100 WBオート
ここからは、その描写力を見ていきましょう。最小F値はやや高めでボケの力は弱いということから、液晶モニタに写るインパクトは小さくはあるものの、PC等の大画面で見た時の緻密な描写には驚かされます。絞れば周辺まで破綻がないのは現代レンズではほぼ当たり前なのですが、本レンズはマウントから僅か14mmでそれを達成しているのが他のレンズにはない強みです。
また、F3.5の緩やかな周辺光量落ちもこのレンズの特徴のひとつ。周辺光量の低下はグラデーションを描くように光量が低下するのが望ましいのですが、レンズによっては「ストン」と穴に落ちるかの様な急激な光量落ちがみられるものも多く、見る者に違和感を与えかねません。このグラデーションを伴う光量落ちと、それにレイヤーされるトーンの豊かさはこのレンズの大きな特徴と言えるでしょう。
このレンズの主戦場はストリートスナップと考えられがちですが、風景との相性も良いことから旅行用にも好相性。もちろん旅行に使うレンズでは、風景だけでなくテーブルフォトが撮れることも必須条件。最短撮影距離0.7mは想像以上に寄れない印象が強いですが、後述するヘリコイド付きアダプタと組み合わせることで、その弱点が解消されるのも強みです。
今回は旅行で春の尾道へ行ったのですが、カメラはLマウントのLeica SL2-Sをセレクト。もちろん、Leica Mボディで使うのが最高だということは理解していますが、ヘリコイド付きアダプタは旅行でより汎用的に使える組み合わせであり、今振り返っても最高の選択肢だったと考えています。ここからは、その作例を載せていきます。

■撮影環境:f8 1/160秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f8 1/100秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f3.5 1/30秒 ISO400 WBオート
ヘリコイドアダプタでやや寄って撮影した1枚。F3.5でも寄ればある程度ボケを活かした撮影もできます。見るべきは葉と背景の分離の部分で、アポクロマートではないにせよ、収差が限りなく抑えられているせいか被写体が浮き上がったように見えます。

■撮影環境:f11 5秒 ISO200 WBオート
宿泊したホテルで夜景撮影にもチャレンジ。三脚は持って行きませんでしたが、屋外BARの手すりに置いて長秒露光での撮影ができました。ピントを合わせる際は、遠方の大きな看板の文字などを拡大して合わせるとピント迷子になりにくいです。

■撮影環境:f8 1/6秒 ISO100 WBオート
早朝展望台での撮影。宿泊したのは中央のホテルで、先ほどの夜景は海側にせり出たテラスで撮影しています。

■撮影環境:f3.5 1/100秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f8 1/200秒 ISO100 WBオート
日の出を迎え朝靄の中の尾道。

■撮影環境:f8 1/100秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f11 1/80秒 ISO100 WBオート
暗い部分のトーンが得意なレンズかと思いきや、ハイキー調も十分いける懐の広さを持っています。
僕は晴れの日であれば基本的にF8、ISO100、絞り優先でSS下限限界値1/125に設定して撮ることが多いです。絞りをF8で3m指標の所にピントリングを合わせておけば2m~5.5mあたりは被写界深度内にピントを入れることができるため、急に現れるシチュエーションにも対応しやすくなります。
曇りの日といったやや天気が悪い場合は、F8、ISO Auto(上限1600~3200程度)、絞り優先でSS下限限界値1/125にすることが多いでしょうか。おすすめの設定ですので、ぜひやってみてください!
ヘリコイドアダプタがもたらす恩恵

■撮影環境:f3.5 1/40秒 ISO100 WBオート
小さく、描写力もある本レンズですが設計のバランスを取るために犠牲にしている要素のひとつに、最短撮影距離の長さがあります。Leica Mマウントのレンズは距離計連動をさせる必要があり、最短撮影距離は連動範囲の関係で問題はないのですが、やはり35mmのレンズで最短0.7mというのは(そもそも寄って撮る用途のレンズではないという前提を理解した上でも)寄れないという印象が強くあります。
であれば、寄れるようにしてしまおうというのが、本項で紹介するヘリコイド付きアダプタです。特にMマウントレンズはMマウントにセンサー最適化されているレンズも多いのですが、Leica SLシリーズはLeica自身がMマウントボディの次に最適化されているマウントだと述べていますので、そこは安心できるのではないでしょうか。
今回紹介するのは、焦点工房オリジナルブランドでもあるSHOTEN LM-LSL M IIで、6mmのヘリコイド繰り出し量を誇る、まさにマクロ化ができるアダプタです。

では実際どのくらい寄れるかというと、


これだけの差があるのです!これだけ寄ることができれば十分すぎるのではないでしょうか。今回はサンプルとして開放で撮影してみましたが、被写界深度が非常に浅くなるので、F8程度に絞って撮影した方が多少ピンボケになりにくく、より使い易くなると思います。
オールドレンズ好きにはヘリコイドアダプタは必須製品なのですが、現行レンズだとあまりなじみがないと思われますので、ぜひ一度手に取り使ってみていただきたいですね。世界が変わるとはまさにこのこと!ここからは本アダプタを交えた作例を載せていきます。先述の作例ほど寄って撮影はしていないのですが、ストレスなく撮影するのに一役買ってくれています。

■撮影環境:f3.5 1/20秒 ISO400 WBオート

■撮影環境:f3.5 1/60秒 ISO125 WBオート

■撮影環境:f3.5 1/60秒 ISO1250 WBオート
まとめ

■撮影環境:f3.5 1/320秒 ISO100 WBオート
35mm F3.5はLeicaオールドレンズの印象が強く、本当に長年、現行レンズメーカーが作ることはなかったのですが、今回コシナが製品化したのは大きく差別化ができたからだと考えています。ミラーレス化に伴って大型化するレンズとは異なるのに加え、オールドレンズにはない性能という領域に切り込めていることが大きいと思います。カメラをはじめたてという方よりも、長年カメラ・写真をやっている人にこそ、刺さるレンズだろうなと感じます(僕はぶっささりで刺さりました笑)
低いF値でボケに頼りまくっている人こそ、ぜひお手に取って試していただければ幸いです!ヘリコイドアダプタを使わなければ、よい撮影のトレーニングにもなると思っています!
この記事でLeicaオールドレンズにも興味を持っていただけたのであれば、僕が執筆している「ポートレートのためのオールドレンズ入門」そして「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」に数多くのオールドレンズの作例と詳細な設定等解説を載せておりますのでぜひご覧ください。また、実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるオールドレンズワークショップ「フランジバック」にもご参加いただければ嬉しいです!では、次の記事でお会いしましょう!
■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。