リコー GR IV Monochrome|【続・2】ストックホルムへの旅に携えたカメラ

大和田良
リコー GR IV Monochrome|【続・2】ストックホルムへの旅に携えたカメラ

はじめに

先日まで、スウェーデンのストックホルムに滞在していました。現地の写真学校や大学との共同プロジェクトも、今年で三年目を迎えます。講演やワークショップを行うかたわら、私は毎年一台のカメラを決め、街を歩きながらスナップを続けてきました。一年目は富士フイルムのX-M5、二年目はGFX100RF。そして今回は、リコーのGR IV Monochromeを選びました。プロジェクトの記録用に、カラー撮影のできるGR IVも持参しましたが、日々の撮影で手に取ったのは、ほとんどがモノクローム専用機のほうでした。

モノクロ専用機のしくみ

モノクローム専用のデジタルカメラには、ライカのQ3 MonochromやM11 Monochrom、ペンタックスのK-3 Mark III Monochromeなどがあります。一般的なカメラとは少し異なる機材として、中判デジタルバックのPhase One IQ4 150MP Achromaticも挙げられます。これらに共通するのは、色情報を得るためのフィルターを撮像素子に備えず、各画素が受け取った光の強さをもとに画像をつくることです。一般的なカラーセンサーでは、各画素が赤・緑・青のいずれかの光を受け取り、足りない色情報を周囲の画素から補間します。モノクローム専用機ではその工程を必要とせず、細部や微かな明暗を、より直接的に描写できます。

GR IV Monochromeには、通常のGR IVに搭載されているNDフィルターに代わり、赤色フィルターが内蔵されています。これを使うと、たとえば青空は暗く、赤いものは相対的に明るく写ります。その濃淡は、撮影時に赤い光を選んで通した結果です。カラーで撮影した画像を後からモノクロームに変換し、色ごとの明るさを調整する方法とは、像が生まれる順序が異なります。白黒フィルムに色フィルターを装着するときのように、階調の関係を露光の時点で選び取ることになるのです。一方、撮影後にさまざまな色の組み合わせを試したいのであれば、カラー画像のほうがはるかに自由です。モノクローム専用機を使うことは、画質上の利点を得ると同時に、その自由を手放すことでもあります。

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/30秒 ISO1600
■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/30秒 ISO500

なぜモノクロなのか

では、なぜそのようなカメラを選ぶのでしょうか。大学で学生の作品発表を聞いていると、モノクロームで制作した学生には、しばしば「なぜモノクロなのか」という問いが向けられます。一方、「なぜカラーなのか」と問われる機会は、それほど多くないように思います。カラーが自然な選択と受け止められる一方で、モノクロームには理由を求めたくなるのでしょう。写真史を振り返っても、1970年代頃から徐々に芸術表現としてのカラー写真への評価が高まり、現在ではカラー写真が広く用いられています。

これは私の個人的な考えですが、モノクロームは、カラーに比べて「写るものが少なくなる」写真だと捉えています。もちろん、レンズの前にある被写体が消えるわけではありません。しかし、色を手がかりに見分けていたものが似た明るさの中に紛れ、それまで目立たなかった輪郭や影が現れることがあります。画像に含まれる情報の種類が変わると、私たちがそこに見いだすものも変わる。そのとき写真には、ある種の抽象化が起こるのだと考えています。私は作品を制作するとき、目の前の光景がどのような認識を経て、一枚の写真として立ち上がるのかを考えてきました。モノクロームは、その過程をあらためて見つめるための選択でもあります。

撮影している最中も、色があるときとないときでは、視線の向かう先が変わります。色彩に導かれていたフレーミングが、光の傾きや明暗の重なりに導かれるようになる。三年にわたって訪れてきたストックホルムの街も、これまでとは違う順序で目に入ってきたように思います。カラーで見ていた景色から何が遠のき、何が新たに姿を現すのか。今回撮影した写真を通して、確かめてみたいと思います。

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/30秒 ISO400

写りの違いを検証

▼01

■撮影機材:リコー GR IV
■撮影環境:f/5.6 1/1250秒 ISO200

▼02

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/6.3 1/2500秒 ISO320

▼03

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/4.5 1/320秒 ISO160

まずは、今回使用した機材による写りの違いを見ておきましょう。一枚目01はGR IVで撮影したカラー画像、二枚目02はGR IV Monochromeで撮影した画像、三枚目03は同じくGR IV Monochromeの内蔵赤色フィルターを使用した画像です。拡大して観察すると、モノクロームの画像では細部の描写がより明瞭に感じられます。また、赤色フィルターを使用した画像では、赤系統の部分が相対的に明るく、青系統の部分が暗く写っていることが分かります。フィルターによる見え方の違いはモニター上でも確認できるため、撮影時に効果を見ながら使い分けられます。ただし、フィルターを通すと光量は減ります。同じISO感度と絞りで同じ明るさに仕上げる場合、その減光量は被写体によって異なりますが、シャッター速度を数段分遅くする必要が生じることもあります。夜景のように光量の少ない場面では、手ぶれに注意が必要です。

モノクロスナップ

ここからは、実際のスナップを見ていきましょう。

▼04

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/30秒 ISO1250

04は、窓に描かれたスプレーのサインにレンズを向けた写真です。線の縁やガラス面の細かな質感まで、よく再現されています。

▼05

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/3.5 1/200秒 ISO160

▼06

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/400秒 ISO500

05は、電柱に貼られていたステッカーを接写した写真です。撮影距離が短いため被写界深度が浅く、背景には大きなぼけが生まれています。紙やインクの質感が豊かに表れ、平面的なステッカーにも立体感が感じられます。06も接写で撮影した一枚です。窓に付いた水滴の輪郭が明瞭に描かれ、その小さな造形が印象に残ります。

▼07

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/4.5 1/320秒 ISO320

07では、薄い影と濃い影の組み合わせに目を引かれました。ハイライトからシャドウへと移る階調も豊かで、影の濃淡そのものが写真の主題になっています。

▼08

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/30秒 ISO800

08は、早朝の旧市街ガムラスタンを対岸から撮影しました。まだ船の往来はなく、穏やかな水面には街並みが美しく映り込んでいます。遠景の窓や建築の線まで、細かく描かれました。

▼09

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/1000秒 ISO250

▼10

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/30秒 ISO1000

09は、ヨーテボリへ向かう列車から撮影した霧深い景色です。遠くの輪郭が薄れていく中に、滑らかな中間調が見て取れます。10は、現地の学生たちと写真芸術について意見を交わしたヨーテボリ大学芸術学部での一枚です。窓から差し込む光にも、自然な階調が残っています。

▼11

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/4.5 1/320秒 ISO320

11では、暗く落ちた空を背景に、明るく浮かび上がる看板と、そこに描かれた落書きが印象的です。スマートフォンで訳してみると、「人々のことを白昼夢のように思い描くこと。焦がれること。何か野性的なものを、切実に求めること。何か、穴を穿つようなもの」といった意味のスウェーデン語が書かれていました。

▼12

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/5 1/400秒 ISO160

▼13

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/5.6 1/320秒 ISO320

▼14

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/4.5 1/400秒 ISO320

12と13は、公園で撮影した写真です。草木や葉の細部まで描かれ、入り組んだ形の重なりを見て取ることができます。
14のようなスナップでは、シャッター速度優先AEを使うことがあります。歩きながらでもぶれを抑えられる速度を設定しておけば、とっさの場面にも対応できます。この写真では、逆光の中で被写体がシルエットになる瞬間を捉えました。夕暮れの長い影も印象的です。

▼15

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/30秒 ISO1250

▼16

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/30秒 ISO4000

八月の終わり、ストックホルムでは20時頃から日が暮れ始めます。15と16を撮影した時間帯には光量が少なくなっていたため、立ち止まってカメラをしっかり構えました。ボディ内手ぶれ補正にも助けられ、1/30秒程度のシャッター速度でもぶれを抑えて撮影できました。

▼17

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/2.8 1/400秒 ISO2000

柔らかな光が差し込む室内を写した17では、中間調が滑らかに感じられます。モノクロームでは、明るい部分を白く飛ばすか、階調を残すかが、露出を決めるうえで大切になります。この写真では、窓の外のハイライトにわずかな階調を残しました。

▼18

■撮影機材:リコー GR IV Monochrome
■撮影環境:f/4.5 1/400秒 ISO160

最後の写真18では、雲の質感にモノクロームならではの描写を感じます。RAW現像時には、コントラストをかなり高く設定しました。カラー写真で同じように調整すると色の変化も強く出ますが、モノクロームでは明暗の差を強めることで雲の起伏が際立ち、空に立体感が生まれています。

おわりに

モノクローム専用機を手にして街を歩く面白さは、何を見るかを選び直すことにあります。色彩が後ろに退くと、目立たなかった水滴や壁の傷、霧の向こうの建物が、思いがけない存在感を帯びてきます。写真に写るものを増やすのではなく、何かを減らすことで、世界の見え方が変わるということでしょう。色を失うことではなく、色を選べないという制約を引き受けることが、本機で写真を撮ることなのだと思います。

 

 

■写真家:大和田良
1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。

 

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