私の一日を撮る。日記を書くように / リコー GR III Diary Editionレビュー

山本まりこ
私の一日を撮る。日記を書くように / リコー GR III Diary Editionレビュー

はじめに

RICOH GR IIIは、35mm判換算で焦点距離28mm F2.8相当のレンズが搭載された、APS-Cサイズ相当の有効約2,424万画素CMOSイメージセンサーを採用するコンパクトデジタルカメラ。2019年3月に発売された。

そして今回、イメージコントロールに「ネガフィルム調」が加わり、Diary Editionの名を加えて新たにGR III Diary Editionが発売になった。

GR III Diary Editionの読み方は、ジーアールスリーダイアリーエディション。

Diaryという言葉には、「日記に言葉を記すように、日常スナップをGRで撮影し、撮り溜めた写真からエッセイを紡ぐようにその人の個性を表現していく」という意味が込められているのだそう。

GR III Diary Edition

筆者、GRというカメラにずっと興味はあったけれど、実際に撮影するのは今回が初めて。
周りでGRを持っている人に聞くと、「GRはいい。小さくて軽くてすごい。」と皆口を揃えて言う。そして、自分のGRをとても愛している人ばかりだ。

届いた箱を開けてみる。

まずは、デザインが、クラシカルでとても素敵だなと眺める。
そして持ってみる。軽い。そして、小さい。

いやほんとうに、小さくて、すごく軽い。そして、かっこいい。

調べてみると、
外形・寸法:約109.4(幅)×61.9(高)×33.2(厚)mm *操作部材、突起部を除く
質量(重さ):約257g(バッテリー、SDメモリーカード含む)、約227g *本体のみ

幅11cmほど、重さ250gほど。

いつも、フルサイズミラーレスカメラに望遠レンズなどを付けて撮影している筆者にとって、これは、本当に奇跡のように小さくて軽いカメラに思えた。

そして、思う。
この小さくて軽いカメラは、どんな写真が撮れるのだろうか、と。
GRはすごいすごいと聞くけれど、どんな風にすごいのか、と。

さあ。
GR III Diary Editionで撮影してみよう。
大好きな熊野古道を撮ろう。

春の真ん中、GW、私は紀伊半島に向かった。

熊野古道へ

熊野古道を歩くことは、私のライフワークの一つだ。
今まで50回以上訪れ、500km以上を歩き、数えきれないくらいの写真を撮ってきた。
私の日々の中、熊野古道のことが頭の片隅にいつもある、そんな感じでもある。

熊野古道をコンパクトカメラで撮るのは初めて。
GR III Diary Edition、どんな写真が撮れるのだろう。
とても楽しみ。

名古屋駅から特急南紀に乗り2時間14分、三重県JR紀伊長島(きいながしま)駅で降りる。
今日は、紀伊長島(きいながしま)の町中の熊野古道を歩いて、一石(いっこく)峠(とうげ)という山の熊野古道に向かおう。
紀伊長島は、熊野古道の中でも好きな町で、今まで何度も訪れたことがある。そんな、紀伊長島の町には、かっぱ伝説が今でも色濃く残っている。あの、かっぱ、である。町の中に、かっぱのモチーフをところどころで見かける。

撮影に選んだのはもちろん、今回搭載されたイメージコントロール「ネガフィルム調」。

イメージコントロール「ネガフィルム調」は、ネガフィルムで撮影してプリントした時のような、今のデジタルカメラと比べたら少し色褪せたような風合いで写る。優しく、どこかほっとする印象を受ける写真になる。

そして、ネガフィルム調に設定した上で、カメラ内ではいろいろなことが設定できる。
彩度、色相、キー、コントラスト、コントラスト(明部)、コントラスト(暗部)、シャープネス、シェーディング、明瞭度などを詳細に設定できる。さらに、WB(ホワイトバランス)で色味を決めていけば、自分好みの「ネガフィルム調」に設定できる。

撮影した写真を再生しながら、何だか懐かしいなあ、あの頃、毎週のようにネガのプリントを注文するために近所のスーパーに行ったなあと幼い頃を思い出したりした。

一石峠へ

峠の入口に入ると、冷えた空気がすうっと流れる。
熊野古道を歩いていて峠に入るとき、いつも感じるこの空気感が好きだ。

春は、シダの新芽が一斉に芽吹いて、緑がより一層勢いを増す。
熊野古道が一番華やかな時期。

シダの新芽に寄って、マクロモードで撮ってみよう。
ダイヤルの上ボタン(マクロボタン)押すと、液晶画面の左隅にチューリップマークが表示される。そうなれば、マクロ撮影スタンバイOKだ。

レンズ先6cm~12cmにググっと寄って撮影することができる。

ぐぐっと寄って撮影。

液晶画面を見ながらドキリとする。
ピントを合わせたシダの背景には、玉ボケがキラキラと輝いている。
コンパクトカメラでここまでの玉ボケが撮影出来たことに驚いた。APS-Cサイズ相当の有効約2,424万画素とは言え、コンパクトカメラでここまで美しいボケを描くことが出来ることに正直衝撃を受ける。

ではもっと。
さらに、撮影していこう。

GR III Diary Editionは、クロップ撮影が出来る。
通常は、35mm判換算で焦点距離28mm相当の画角だが、35mm、50mmと倍率を上げて撮影が出来る。簡単に言うと、1.25倍、約1.8倍に拡大して撮影できる、ということだ。

35mmにクロップして撮影。

次は、50mmにクロップして撮影。

ピントを合わせたシダのシャープさ、後ろの玉ボケの柔らかさよ。。。
熊野古道の山の中で一人「本当ですかGRさん」と、思わず独り言をつぶやいていた。

地面を這うようにひっそりと咲いていたお花をマクロモードで撮影してみる。

Google先生に聞いてみると、タツナミソウ、というお花だと教えてくれた。ホトケノザにも似ている気がする。分からないけれど、熊野古道の緑一色の中で紫色がポッと浮き立つように輝いていて美しかった。

熊野古道を歩きながら、いろいろな植物をマクロモードで撮影した。

再生しては、うっとりと眺めた。

暗がりを撮る

夕飯は、近くの美味しいレストランまで歩いて行った。
中部地方で見かける、鉄板ナポリタンがとても美味しいお店。鉄板の上に溶き卵が敷かれていて、その上にナポリタンがのっている。テーブルに運ばれてくるときには、卵は固まっている。ナポリタンと卵を一緒に食べる、これがまたとっても美味しいのだ。

鉄板ナポリタンをいただいた後、美味しい余韻に浸りながら、宿までの道をのんびりと歩いた。すっかり空は暗くなっていて、星が輝いていた。手持ちで撮影した。

ISO感度はオートでカメラに任せた。
手持ちで気軽に夜景を撮ることが出来るのは、楽しい。

イメージコントロールを楽しむ

GR III Diary Editionのイメージコントロールに「ネガフィルム調」が加わったことは前述したが、もちろん、従来のモードもいろいろ搭載されている。その中のいくつかを撮影してみた。

さらに、GR III Diary Editionは、多重露出も撮影出来る。
合成方法は、平均、加算、比較明の3種類から選ぶことが出来る。

古道の木々にピントを合わせた1枚、あえてボカして撮影した1枚、合計2枚を合成した作品。多重露出が気軽に撮影できるのは、嬉しい。そして、楽しい。

何気ない時が写っている

熊野古道から帰ってきて、GR III Diary Editionで撮影した写真を見返してみる。熊野古道を歩いている中の何気ない時、そんな時間がたくさん写っていた。

そう言えば撮ったなあ、写真を見てそんな記憶が蘇るような、そんな柔らかい時間が写っていた。本当にDiaryだなあ、写真を見ながら、そんなことを思った。

おわりに

初めてのGR、GR III Diary Editionとの熊野での日々。

小さく軽く、クラシカルなボディが美しいカメラ。
ネガフィルム調で撮る作品の柔らかさは心地よかった。
また、マクロモードでは、コンパクトカメラながらもAPS-Cサイズセンサーの力強さを感じ、熊野古道の中で衝撃を受ける時間でもあった。

マクロモードで撮影した写真があまりにも美しいので、もしかしたらパソコンの大きな画面で見たらそうではないのかもしれないと思い、宿に帰ってから確認してみた。パソコンの大きな画面で見てみると、やはり美しかった。さらに拡大して確認しても、とても美しい作品がそこにあった。シダのピント面はシャープで、後ろの玉ボケはトロトロと柔らかかった。お花の産毛のような細かい毛1本1本が浮き立つように写っていた。

パソコンで作品を眺めながら、
「本当ですかGRさん」とまた独り言をつぶやいていた。

もし、GRに興味を持っている方、GRで撮影してみたいと思っていた方、一度、ぜひ手にとって撮影してみてほしい。その威力を一気に感じたいのなら、ぜひマクロモードでぐっと被写体に寄って撮影してみてほしい。

熊野古道を一人で歩いて撮影した作品を、次の日から熊野古道にやってきた写真教室の生徒たちに見せた。生徒たちからは「おお~すごい!」と歓声が上がった。特に、マクロモードで撮影したシダの写真を見せたときには、「こんな小さなカメラでこの玉ボケが!」「GRすごい」「欲しい」「帰ったら買っちゃうかも」という声が上がった。見せた後に、ネットで買い物かごのカートに入れたという生徒もいた。

毎日を、このカメラで日記を綴るように記録するのは楽しいだろうと思う。そっと隣で日々に寄り添ってくれるカメラになるだろうなと思う。

そしてもし旅に出るのならば、フルサイズのミラーレスカメラを持っている方には、2台目に持って行くカメラとしてもおススメしたい。マクロレンズを持つ代わりとしても抜群に活躍するだろう。もちろん、このカメラだけで旅に出るのも楽しいと思う。きっと、あまりの軽さと小ささとフットワークの軽さに、ものすごい開放感に包まれるのでしょう。

これを読んでいる誰かのDiaryを描くカメラになったら、私はとても嬉しい。

 

 

■写真家:山本まりこ
写真家。理工学部建築学科卒業後、設計会社に就職。25歳の春、「でもやっぱり写真が好き」とカメラを持って放浪の旅に出発しそのまま写真家に転身。風通しがいいという意味を持つ「airy(エアリー)」をコンセプトに、空間を意識した写真を撮り続けている。

 

 

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