続・これから始める星景写真 vol.3|月を題材に星景写真を撮影する

北山輝泰
続・これから始める星景写真 vol.3|月を題材に星景写真を撮影する

はじめに

 星景写真家・写真講師の北山輝泰です。「これから始める星景写真」をご覧いただきありがとうございます。前回のVol.2では、惑星をテーマに星景写真を撮影する際のポイントについてご紹介しましたが、今回は、私たちにとっても最も身近な天体と言える「月」にフォーカスしたいと思います。

 月の写真といえば、望遠レンズを使ってクレーターが分かるように大きく撮影したものが一般的ですが、実は広角から中望遠のレンズでも印象的に撮ることができます。今回の記事では、様々な焦点距離を使って月を撮影する際のポイントと、その前談として月に関して覚えておくべき知識もご紹介していきたいと思います。

 

月の不思議(1)

 天体が自らぐるっと一周まわる運動を「自転」と言いますが、月もおおよそ27日かけて自転しています。次に、天体が別の天体の周りをまわる運動を「公転」と言いますが、月の公転周期はおおよそ27日で、自転周期とほぼ一致します。自転周期と公転周期がほぼ同じということはつまり、地球から見た時に常に同じ面しか見えないということになります。なぜこのようなことが起きたかは「潮汐力(ちょうせきりょく)」という力が働いていることが要因の一つですが、往々にして惑星の周りをまわる衛星は自転周期と公転周期が等しくなっていく傾向があるそうです。

 では月の裏側がどうなっているかというと、表側よりも細かいクレーターが数多くあり、見た目には非常にゴツゴツしています。これは表側より裏側の方が地面が固く、隕石が衝突してもマグマが噴出しにくかったためと言われています。ちなみに、月の裏側が初めて撮影されたのは1959年のことですが、2007年に日本の人工衛星「かぐや」が超高精細な画像を撮影したことで大変話題になりました。

月の拡大写真
■撮影機材:OM SYSTEM E-M1 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO + MC-14
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/1000秒 WB蛍光灯 焦点距離820mm

 

月の不思議(2)

 天文現象で特に人気なものが「日食」ですが、とりわけ月が太陽を完全に隠す「皆既日食」は大変神秘的で、天文ファンの中には世界中で起きる日食を遠征して撮影する「日食ハンター」が数多くいます(私もその中の一人)。

 大きさも距離も全く違う二つの天体がなぜぴったり重なるかというと、地球から月までの距離の約400倍が地球から太陽までの距離とほぼ等しくなり、月の直径の約400倍が太陽の直径とほぼ等しくなるという偶然が起きているからです。このことは「400倍の奇跡」とも言われていますが、この不思議な出来事のおかげで、私たちは皆既日食という天文現象を楽しむことができます。

 ちなみに、月は毎年約4cmずつ地球から離れており、遥か遠い未来では皆既日食を見ることができなくなるかもしれません。次回日本で見られる皆既日食は、2035年の9月ですので、ぜひ見逃さないようにしましょう。

皆既日食の写真
■撮影機材:OM SYSTEM E-M5 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 PRO
■撮影環境:ISO200 F8.0 1/15秒 WBAUTO 焦点距離600mm

 

月と風景を広角レンズで撮る

 それでは実際に月を撮影する際のポイントをご紹介していきます。一つ目は広角レンズですが、見た目には大きく見える月も広角では小さい点にしか映りません。そのため、広角で月をテーマにした作品を撮る場合は「月明かりが作る影」や「月に照らされる風景」をテーマに撮影するのが良いでしょう。

 都会に住んでいると街灯やネオンなどの街の灯りが強いため、月明かりを体感することや、月に照らされてできる影を見ることは難しいでしょう。一方、自然豊かな場所で周囲が暗い環境では、月明かりのありなしで周りの風景の見え方はガラッと変わります。満月近い月明かりの場合は、ヘッドライトがいらなくなるほどです。さらに、日中の太陽が作り出すコントラストが強い影とは異なり、月が作り出す影は柔らかく、心地よさをも感じることができます。写真で表現する場合は、月を構図の中に入れ、あえて逆光の状態で撮影し月の存在をしっかり見せることで、テーマをより分かりやすく伝えることができます。

 また、月明かりがあれば星景写真の「景色」を色彩豊かに見せることもできます。例えば、緑豊かな草原の風景や、夜空の下にいる人物の表情は、何かしらの明かりで照らさないと浮かび上がらせることはできませんが、月明かりがあれば最も自然な形で見せることができます。この場合は、逆光だとシルエットになってしまうため、順光ないしは遮光で月光を当てるのがよいでしょう。太陽と同じように、光の当て方で作品の印象は大きく変わります。そのため、月の高さや光のあたる角度を意識しながら撮影するタイミングを決める必要があります。

 さらに、太陽と違い、月は満ち欠けをするため、日毎に明かりの強さも変わっていきます。影やライティングの手段として月を使う場合は、予め月齢を調べて撮影日を決める必要があります。まずは、半月程度の月明かりを使用して撮影してみるのが良いでしょう。

■撮影機材:OM SYSTEM E-M5 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0
■撮影環境:ISO3200 F2 1秒 WB蛍光灯 焦点距離24mm
■撮影環境:ISO1600 F2.8 10秒 WB蛍光灯 焦点距離17mm
■撮影機材:OM SYSTEM E-M5 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0
■撮影環境:ISO6400 F2 2秒 WB蛍光灯 焦点距離24mm

 

月と風景を標準から中望遠レンズで撮る

 先ほどは月明かりを使った星景写真についてご紹介しましたが、今度は月を被写体にした星景写真をご紹介します。ここで使用するレンズは、主に標準から中望遠のレンズになりますが、標準レンズとは35mm判換算で50mm程度のレンズのこと。中望遠レンズとは35mm判換算で85mm程度のレンズのことを指します。月のみを撮影する画角としてはまだまだ広角のため、狙うべきは「月と風景」の作品です。

 その前に、月の撮影で必ず起こりうる「白飛び」についてお話しします。月は大変明るいため、周囲の風景と一緒に撮影しようとすると、露出が合わず白飛びしてしまいます。逆に月の形が分かるような露出で撮影しようとすると、シャッタースピードが早くなるため風景は黒くつぶれてしまいます。

 この露出の差をなくし、両方ともちょうど良い露出で撮影したい場合は、空が明るい時間帯に撮影するのがおすすめです。中でも日没後や日出前などの薄明の時間帯に合わせて撮影をすれば、より印象的な作品になるでしょう。また、地平線から昇る瞬間や沈む瞬間は、大気の影響を受けて減光されるため、シャッタースピードを長くしても月の白飛びを抑えることができます。

 2つの方法のどちらにしても、ベストな撮影タイミングはごくわずかな時間となります。夜だけでなく、様々な時間帯に月を撮影し月の写り方の違いがどれくらいあるかを、実体験で学んでいくのがよいでしょう。月と風景を50mm以上の画角で撮影する場合、風景との距離感が近すぎては画角の中に収まらないため、ある程度距離がある被写体を選んで撮影することになります。もしくは、形がユニークな被写体であれば、あえて近寄り前ボケさせて撮影するのも面白いでしょう。このような撮影では、標準ズームレンズがあると大変便利です。おすすめは35mm程度~200mm程度をカバーできるレンズです。空が明るい時間帯、または明るい被写体と月を撮影することが中心となるため、必ずしもF値が明るいレンズである必要はありません。

■撮影環境:ISO400 F5.6 1/60秒 WB蛍光灯 焦点距離35mm
■撮影環境:ISO6400 F2.8 1/80秒 WB蛍光灯 焦点距離144mm
■撮影機材:OM SYSTEM E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
■撮影環境:ISO6400 F4.0 1/1000秒 WB蛍光灯 焦点距離122mm

 

月と風景を望遠レンズで撮る

 標準レンズや中望遠レンズで撮影するよりも難易度は高くなりますが、より迫力ある作品になるのが望遠レンズでの撮影です。先ほどよりも狭い画角で撮影することになるため、意図した作品にするには、撮影前のシミュレーションと、明るいうちのロケーションハンティングが重要になります。

 このような作品にトライしてみたい方は、まず何度か通えるくらいの距離感でお気に入りの撮影場所を決めるのが良いでしょう。その時、撮影したい方向が月が昇る方角、または沈む方角でなければ意味がないため、ロケーションハンティングは方角を意識しながら行います。続いて、撮影場所が決まったらレンズを向ける方向を定め、厳密な方位角を調べます。最後にその方向に月が重なる日にちを調べます。

 これらを調べるには、インターネットやアプリを使用する必要がありますが、私は国立天文台の「暦計算室」というサイトと「サン・サーベイヤー」というスマホ向けのアプリを併用しています。撮影日を調べていくと分かるのですが、自分が撮影したい方向と月が重なる日は、一年間を通しても数日しかありません。そのタイミングが必ずしも晴れるとは限らないため、運が悪ければ一枚を撮影するのに数年かかることも少なくありません。あきらめずに根気良く撮影を続けていく必要があります。

■「サン・サーベイヤー」アプリ
App Store
Google Play

■撮影機材:OM SYSTEM E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO + MC-14
■撮影環境:ISO100 F4.0 1/100秒 WBAUTO 焦点距離420mm
■撮影環境:ISO25600 F5.6 1.6秒 WB蛍光灯 焦点距離320mm

 

地球照を撮る

 最後に私が好きな月のイメージをご紹介します。月が細く欠けている時にだけ見られる現象で「地球照(ちきゅうしょう)」というものがあります。これは、地球に当たった太陽の光が月の欠けている部分を照らすことで、薄らと浮かび上がって見えるというものです。

 細い月とはつまり新月前後3日間程度の月になりますが、この頃の月は太陽の近くにいるため、地球照が見られる時間帯も日没後や日の出前の薄明の時間帯付近となります。細い月であればあるほど美しい地球照が見られますが、新月前後になるほどより撮影タイミングがシビアになっていきますので、まずは三日月の日を狙って撮影してみるのが良いでしょう。月の露出で撮影をすると地球照は写らないため、月が白く飛ぶくらいのシャッタースピードで明るめに撮影するのが良いでしょう。

■撮影機材:OM SYSTEM E-M5 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:ISO400 F5.6 0.5秒 WB蛍光灯 焦点距離60mm
■撮影機材:OM SYSTEM E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:ISO200 F2.8 0.8秒 WB蛍光灯 焦点距離54mm

 

まとめ

 中級編 vol.3はいかがでしたでしょうか。今回は、星景写真の被写体として月を撮影する際のポイントについてご紹介させていただきました。月は空の暗さに関係なく、どこでも気軽に撮影することができますので、遠方まで撮影に行けないという方でも取り組みやすいテーマです。また、明るい時間帯の撮影であれば、F値が明るい高級なレンズでなくても十分綺麗に撮影することができますので、機材のハードルはだいぶ低いと言えます。星景写真の撮影テーマに悩んだら、ぜひ月の撮影に挑戦してみてくださいね!それではまたの更新をお楽しみに!星景写真家の北山輝泰でした。

 

■写真家:北山輝泰
東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。天文台インストラクター、天体望遠鏡メーカー勤務を経て、2017年に写真家として独立。世界各地で月食や日食、オーロラなど様々な天文現象を撮影しながら、天文雑誌「星ナビ」ライターとしても活動。また、タイムラプスを中心として動画製作にも力を入れており、観光プロモーションビデオなどの制作も行っている。星空の魅力を多くの人に伝えたいという思いから、全国各地で星空写真の撮り方セミナーを主催している。セミナーでは、ただ星空の撮り方を教えるのではなく、星空そのものの楽しさを知ってもらうために、星座やギリシャ神話についての解説も積極的に行なっている。

 

 

関連記事

人気記事