菜の花を撮ろう!|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
菜の花を撮ろう!|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

 今月は菜の花の作品を集めてみました。開花の早い地域では1月ごろには咲き始め、5月のゴールデンウィークぐらいまで楽しむことができる、開花期の長い花です。黄一色なので色のバリエーションは乏しいですが、背景にいろいろな要素を入れて、彩りにも変化をつけました。また、元気な印象や可憐な雰囲気など、同じ花でも、違った表情に見えるよう、捉え方にも工夫しています。

 それぞれの作品をご覧いただきながら、キャプションを合わせてお読みいただき、ここではどの様に見せたかったのか、そのためにどの様なテクニックを使ったのか考察していただければと思います。

青空と菜の花の対比

 青空と菜の花による二色の対比が大好きです。どちらも色鮮やかで、力強く、お互いを引き立てあっています。この写真のポイントはまず順光を選んだこと。青空が濃く写るとともに、花の色もくっきりします。それと、広角系の画角を選んだことも大切な要素です。広い画角では背景の広がりが感じられるので、望遠にはない開放感がありますね。

 また、下から見上げるようなアングルで撮影したことで、花が空へ向かって伸びていくような勢いも感じます。光、レンズ、アングルの選択で春の爽やかな菜の花畑の雰囲気を表現することができました。

■撮影機材:OM-D E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F2.8・ISO200・1/1000秒

絨毯のように

 長野県飯山市を流れる千曲川の河川敷には毎年広大な菜の花畑が広がります。堤防の上から花畑を見下ろせるのですが、その景色の見事なこと。花畑を“絨毯を敷いた様な”と例えることがありますが、この面積、密集度はまさに黄色い絨毯です。

 しかし、花畑の手前側と奥側では見る角度の違いから、奥の方ほど花が密集して見えます。そのため、望遠を使って、花畑の奥の方を切り取り、画面を菜の花で埋めています。それでも、部分的には花の少ない部分があったりと密度にムラがあるので、なるべく花の密度が高く、かつ、均一な部分を狙ってください。

■撮影機材:OM-D E-M1 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F6.3・ISO200・1/800秒

朝霧を狙う

 こちらも千曲川沿いの菜の花畑で撮りました。早朝は川霧が発生して、菜の花にも細かな朝露が付いていました。雨の様な大粒の水滴ではなく、ミストの様に細かいので目立ちませんが、朝日を浴びると、それが白く輝いていました。朝露は陽が当たるとあっという間に蒸発して消えてしまうので、朝一番が勝負です。

 花の一輪一輪が小さいので、目立たせる様に背景はすっきりとぼかしました。望遠ズームの望遠側を選び、絞りは開放のF2.8。花には近づき、背景は離れているので、このように背景が大きくぼかせるのです。

■撮影機材:OM-D E-M1 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO400・1/800秒

色の変化を出す

 菜の花は黄一色なので、花自体には色のバリエーションがありません。今回8枚の写真を選んでいても、はじめは同じような色合いばかりになってしまいました。それでも変化を出したいので、黄色以外の色を入れるとなると、空の青や草の緑、夕日のオレンジといったところでしょうか。そこで貴重なのがこの作品のピンクです。

 背景にあるのは河津桜で、静岡県南伊豆町で撮影しました。青野川沿いの桜と河川敷の菜の花を組み合わせることができるので、春を感じる配色で撮影が楽しめます。桜があるとそちらを主役にしたくなりますが、ぜひ菜の花を主役にして、桜の美しい背景を合わせてみてください。

■撮影機材:OM-D E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・135mm・F2.8・ISO200・1/320秒

脇役に丸ボケを

 前の写真を同じポイントで撮影した写真ですが、こちらは青野川の水面を背景にしました。水を逆光で見るとキラキラと輝いていますが、それが背景でボケると丸いボケを生み出します。画面にきらめきを感じさせる素敵な脇役となりますよ。

 丸ボケが作れるのはイルミネーションの光がボケる様な“点の光”。自然界の中では水面が反射した波頭の部分、木漏れ日、バラやツバキなどの光沢のある葉の反射、光が当たった水滴などです。このような被写体を背景に入れてキラキラのボケを作り出してみましょう。

■撮影機材:OM-D E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・110mm・F2.8・ISO200・1/2500秒

可憐な雰囲気を出す

 花を画面内に小さく写すことで、可憐な雰囲気を出すことができます。しかし、花を小さく写しつつ、主役としての存在感を出すというのは意外と難しいものです。アップで写せば存在感は出せますが、迫力も出てしまいます。逆に、ただ小さく写すだけでは周囲の花が入ってきて、主役が目立ちにくくなります。

 主役は小さく、それでいて目立たせるには、ボケを使うことが有効です。主役の前後の花々を前ボケ、背景ボケとしてぼかすことで、周囲に花がたくさんある中でポツンと咲いている感じが伝わってきます。光も弱い中、花付きも少ないですが、健気に咲く姿を表現しようと思いました。私のカメラの比率は通常が4:3なのですが、16:9にすることで、映画のワンシーンの様な雰囲気が出るように感じます。

■撮影機材:OM-D E-M1 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/800秒
アートフィルター:ファンタジックフォーカス

露出をアンダーに

 棚田に菜の花が植えられていて、上の段から見下ろすように撮影しています。普通であれば地面の茶色が入るのを嫌って、上から見下ろすアングルはあまり撮らないのですが、夕暮れの遮光線が射して、丈の高い花だけに光が当たり、下の方は影になって黒くなりました。地面が見えなくなっているので好都合でした。

 菜の花は黄色く、反射率が高い色なので、基本的に露出はプラス補正をかけますが、ここでは光を強調したかったので、マイナス2の補正をかけました。

■撮影機材:OM-D E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・45mm・F11.0・ISO200・1/80秒

シルエットを撮る

 前の作品の30カットほど後に撮ったものです。より太陽が低くなり、菜の花も陰になりました。その光が当たっていない菜の花とまだ明るい夕日とでは明暗差がありますよね。そこで、ピントは主役の菜の花に合わせつつ、露出は夕日に合わせました。すると、このようなシルエットの写真になります。露出は主役に合わせるのが基本ですが、ここで菜の花に合わせてしまうと、背景はそれより明るいのでオーバーになってしまいます。

 菜の花はシルエットにした時も丸い塊にならず、花の形がわかるので、このような表現もできますよ。

■撮影機材:OM-D E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/80秒

おわりに

 菜の花が撮れる季節というと、寒い冬から徐々に暖かさが増していく頃です。暖かな太陽の光を背中に受けていると体がポカポカしてきて、その場にいるだけでも心が癒されます。また、菜の花にはけっこうミツバチが飛んでくるので、その羽音を聞くのも心地よいものです。

 たくさんシャッターを切ることは大切ですが、あちこちに目を向けるのではなく、一輪の花にじっくり向き合ってみましょう。光は、レンズは、アングルは、露出は、フレーミングはと考えていると、なかなか次の花には移れなくなりますね。それぐらい、ゆっくり、じっくり撮影していくと見えてくるものがあるはずです。

 

 

■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。

・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員

 

 

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