ニコン「ZR」REDのDNAを宿したスナップシューター
街歩きで感じる「シネマな日常」
カメラを持って街を「さすらう」のがライフワークの私にとって、いま一番気になっているカメラがあります。それが2025年10月24日に発売されたばかりのニコン「ZR」です。
ニコンがシネマカメラメーカーのREDを買収してから約1年半。その融合がついに形になったこのカメラは、「Z CINEMA」シリーズの第一弾として登場しました。
「シネマカメラ」と聞くと、大掛かりなセットで使う機材だと思われるかもしれませんが、実はこの「ZR」、我々のようなスナップシューターにとっても、極めて魅力的な「道具」に仕上がっているのです。
今回はこの「ZR」を連れ出し、街中や路地裏を歩いてみました。動画機としてのスペックはすでに各所で語られていますが、ここではあえて「写真機」としての視点も交えながら、その実力をレビューしていきたいと思います。
ニコン「ZR」の特徴
まず驚かされるのはそのサイズ感です。 バッテリーを含めても約630gという軽さ。そして何より、背面を大胆に覆う4インチの大型モニターの存在感が圧倒的。本当に大きいのです。
「ZR」にはEVF(電子ビューファインダー)がありません。「Z30」に近いルックスです。ファインダーを覗いて撮ることに慣れているので、最初こそ戸惑うかもしれないと思っていました。しかし、実際に街で構えてみると、その不安はすぐに消え去りました。 約307万ドットの高精細なモニターは、スマートフォンの画面を見慣れた目にはとても自然に入ってきます。視野率も広く、周りの状況を感じながら、ウエストレベルでサッと構えてシャッターを切る。このリズムがスナップ撮影において非常に心地よいのです。
しかもタッチパネルの操作感がハイエンドのスマートフォン並みにイイのです。ボタンが少なくても、レスポンスが素晴らしいので各種設定や撮影がスムーズに進みます。
記録メディアスロットはCFexpressカード(Type B)と、microSDカードの2つのスロットが用意されています。RED譲りの6K RAW動画やハイフレームレート撮影を行うには、高速な書き込みが可能なCFexpress Type Bが不可欠。プロの現場で求められる「確実性」があります。もちろん、静止画撮影においても恩恵は大きく、連写時のバッファ詰まりを気にすることなく撮影に没頭できました。
そしてこのカメラ最大の特徴はREDのカラーサイエンスで撮影ができることでしょう。ボディ上面にあるスイッチを「VIDEO」位置にスライドさせると、シネマティックな映像が記録可能になるのです。その記録形式「R3D NE」はREDのハイエンドシネマカメラと同じカラースペース「REDWideGamutRGB」とガンマカーブ「Log3G10」を持っています。15ストップの広いダイナミックレンジと高いグレーディング耐性とで、多種多様の映像表現に対応可能なのです。もちろん「N-RAW」や「Apple ProRes RAW HQ」などでも収録可能です。

ニコン「ZR」の主要諸元
・レンズマウント:ニコンZマウント
・有効画素数:2450万画素
・撮像素子:35.9×23.9mmサイズCMOSセンサー、フルサイズ/FXフォーマット
・手ブレ補正:ボディー内手ブレ補正イメージセンサーシフト方式5軸補正
・シャッター:電子シャッター
・映像圧縮方式:N-RAW(12bit)、R3D NE(12bit)、Apple ProRes RAW HQ(12bit)、Apple ProRes 422 HQ(10bit)、H.265/HEVC(8bit/10bit)、H.264/AVC(8bit)
・記録画素数/フレームレート(RAW動画):
6048×3402:59.94p/50p/29.97p/25p/23.976p
4032×2268:59.94p/50p/29.97p/25p/23.976p
3984×2240:119.88p/100p/59.94p/50p/29.97p/25p/23.976p
・画像モニター:バリアングル式4.0型TFT液晶モニター(タッチパネル)、約307万ドット
・使用電池:Li-ionリチャージャブルバッテリー EN-EL15c
・寸法(幅×高さ×奥行き):約134×80.5×49mm
・質量:約630g(バッテリーおよびメモリーカードを含む、ボディーキャップ、デジタルアクセサリーシューカバーを除く)
ニコン「ZR」でブラブラ実写フォト&シネウォーク
それでは実際に撮影してみましょう。 レンズはコンパクトなボディに合わせて「NIKKOR Z 26mm f/2.8」や「NIKKOR Z 40mm f/2」、「NIKKOR Z 85mm f/1.8 S」、標準レンズの「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」、「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」などを使用しました。写真も動画もシームレスに切り替えられ、快適に撮影できましたよ。

■撮影環境:1/200秒 f/5.6 ISO100
晩秋の日没を撮りました。 ZRのセンサーは有効2450万画素。Z6IIIなどでも定評のある部分積層型CMOSセンサーを採用しており、画質は折り紙付きです。 シャッターを切って、背面の大型モニターでプレビューした瞬間、思わず「おっ」と声が出ました。階調の豊かさが素晴らしいのです。JPEG撮って出しでも、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのような、ドラマティックな雰囲気が漂います。

■撮影環境:1/800秒 f/2 ISO100
「ZR」はRED監修の9種類のイメージングレシピを「Nikon Imaging Cloud」からダウンロードして、カメラに登録、撮影可能です。購入時には本体に「CineBias_RED」がインストールされています。それらを使えばご覧のとおりシネマティックな仕上がりになるのです。
巨大な R3D NE 形式でなく軽いフォーマットでも楽しめます。もちろん静止画でも存分に味わうことができますよ。
▼RED監修 9種類のイメージングレシピ

■撮影環境:1/400秒 f/400 ISO180
「NIKKOR Z 85mm f/1.8 S」で渋谷駅コンコースのガラス越しにハチ公前交差点を狙いました。「CineBias_RED」はふだん通り過ぎる交差点をドラマティックに表現してくれました。

■撮影環境:1/200秒 f/2 ISO100
旧東海道を歩きましたが「和」テイストのカットでも、どことなく映画のワンシーンのように仕上がるから不思議ですね。

■撮影環境:1/160秒 f/5.6 ISO100
使用感は「EVFがない Z6III」です。スペックを見るとセンサーなどは同じなので当然ですね。ただ電子シャッターのみなのでフラッシュのシンクロ速度に注意さえすれば、一般的な撮影で不自由することはないでしょう。4インチのスマホ並み大型モニターは見やすく、高級コンパクトデジタルカメラ感覚でスナップ撮影も楽しめます。

■撮影環境:1/125秒 f/5.6 ISO100
オートフォーカスも「Z6III」同等なので、カメラ任せかつ被写体認識に頼っても確実な撮影ができます。これはスチル、ムービーにかかわらずです。「NIKKOR Z 26mm f/2.8」や「NIKKOR Z 40mm f/2」と組み合わせると軽快なお散歩カメラのできあがりです。

■撮影環境:1/160秒 f/8 ISO400
ISO感度はデュアルベース。ISO800 と6400 が基準ですので、たとえば ISO5000 で撮るのだったら6400 に感度を上げた方がキレイな仕上がりになります。高感度でもノイズは非常に少なく、ディテールもしっかり残っていました。手ブレ補正も強力なので、夜の手持ちスナップも安心ですよ。
何といっても「ZR」は日常をシネマティックに変える動画性能が魅力です。RECボタンを押すだけで、いつもの見慣れた風景が「作品」に変わります。特にRED監修のカラーサイエンスを取り入れた映像は、色編集(グレーディング)をしなくても十分に美しいです。「DaVinci Resolve Studio」(無料版の「DaVinci Resolve」でもOK)でカラーマネージメントを「Rec.709」に設定して撮影データを取り込み、ちょっと触るだけでシネマティックな映像を体験できます。また音割れがしない32bit float録音に対応しているのもうれしいところです。
▼「ZR」にプリインストールされているピクチャーコントロール
▼「ZR」と「NIKKOR Z 40mm f/2」の組み合わせはフットワーク抜群です
▼「ZR」と「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」で深大寺周辺を撮り歩きました
▼「ZR」と「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」でその描写を喜多見周辺で味わいました
ニコン「ZR」まとめ

写真と動画の垣根を越える「小さな巨人」ニコン「ZR」。一日中、「ZR」と撮り歩いてみて感じたのは、「自由になれるカメラ」だということです。 写真はこう撮らなきゃいけない、動画は設定が難しい、といったハードルを、このカメラは軽々と飛び越えさせてくれます。
スマホのような直感的な操作感と、ニコンとREDが培ってきたプロフェッショナルな画質。その両方が、コートのポケットに入るサイズに収まっている。 「今日は写真を撮ろうか、それとも動画を撮ろうか」なんて迷う必要はありません。「ZR」があれば、目の前の心が動いた瞬間を、好きな方法で残せばいいのです。
「ZR」は軽量コンパクトなので、すでにお持ちの「Z」機の相棒またはサブとしてもオススメです。このカメラがあればあらゆるシーンがシネマティックになりますよ!
■写真家:三井公一
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、ウェブ、ストックフォト、ムービー撮影や、執筆、セミナーなどで活躍中。さまざまな企業のイメージ撮影や、ポートレート撮影、公式インスタグラムの撮影などを多く手がける。スマートフォン撮影のパイオニアとしても活動中。















