動画に特化したニコン初のシネマカメラ「ZR」の魅力に迫る!
はじめに
冒頭からちょっとZRへの想いを語らせてください!このカメラはですね、使えば使うほど好きになっていくカメラだと私は思っています。ニコンのイメージってどちらかと言うと静止画のイメージが強いかと思いますが、その中でも私はニコンの動画に着目し、Z50からはじまり、ニコンのミラーレスほぼ全機種の動画性能を見てきました。
正直、途中で投げ出しそうになった時期もありましたし、多くの不満点に対して要望を出し、理想を形にしてきたのがZ9でした。正直Z9は動画性能に不満はほぼありませんでしたが、唯一大きさ、重さに動画ユーザーとして悩みを抱えてきました。そこからZ8、Z6IIIと求めていた動画性能が降りてきて、遂に最高傑作の手軽で持ち出しやすい動画カメラ、シネマカメラ「Z CINEMA ZR」が登場し大興奮しています。
中身はZ6IIIでしょ!?

ZRの発表当日、私はニコンプラザに行き実機を触り、噂情報も含めて「Z6III」の側違いでしょ?って思い、結構冷ややかな目で見ていました。そこからですよ!ZRを先行でお借りし、ひとつひとつ外観や機能を見ていくと開発者の意図や想い、ニコンの動画に対する本気が伝わってきました。そのZRの魅力に惹かれ、ZRを2台予約することにしました。ここからは「Z CINEMA ZR」を本気で2台導入を決めた男の話として読んでくれたらと思います。
ZRを2台導入する目的

ニコンユーザーをはじめ、他社ユーザーからも大きな注目を集めたZR。映像業界や動画をメインに活動をしているクリエイターからも話題となり、様々な目的で予約している方を見かけます。そんな中で私も主に2つの目的で2台の導入を決めました。
1つ目はもちろん動画撮影。主に私は企業のプロモーション動画やイベント撮影、学校行事など、どちらかというとお堅い撮影も多いですし、個人的には発信者としてのYouTube活動、VLOG、機材のレビューなどでも非常に使いやすいカメラだと感じ導入を決めました。
また、ニコンユーザーならではかもしれませんが、シネマカメラだと言っているのにスナップ機としても注目が集まっており、私もその可能性を感じ、動画専用の固定用、手軽に持ち出すスナップ用で2台の導入を決めたわけです。また、もうひとつ大きい理由もあるので、そちらは後程ご紹介したいと思います。
ZRの主なスペックについて

ここで軽くスペックについて触れておきたいと思います。昨年発売されたNikon Z6IIIと共通のフルサイズ 2450万画素・部分積層型CMOSセンサーを搭載。画像処理エンジン EXPEED7、中央7.5段・周辺6.0段の5軸ボディ内手ブレ補正、新開発の「R3D NE」を含む7種類の記録方式、内部RAW収録に対応し、ダイナミックレンジ15+ Stops (RED方式)を実現しています。また世界初の32bit float カメラ内音声収録を実現してきました!
ボディの形状は動画専用機ということで薄型となっており、EVFとメカシャッターは非搭載で重さは630g(バッテリー、メモリーカード含む)となっています。
魅力的ポイント【1】 4.0インチ大型モニター

最初にZRを見て驚くポイントがこの4.0インチ&約307万ドットの大型・高解像度モニターではないでしょうか。「画面がでかい!めちゃくちゃ見やすい!」と最初に感じるインパクトは強いと思います。ただ画面が大きいだけではなく、アスペクト比を16:10としているのも特徴です。動画撮影時の映像は16:9ですから、残りの余白に撮影設定を表示させることで、映像の上に被らないように考えられており開発者の拘りを感じます!

画面サイズが大きくなった分、ボタンの数が減っており、操作がし難いのでは?と思いましたが、画面のタッチ操作で各種設定、表示のON/OFFをすることが出来るようになっています。多少慣れは必要ですが、動画を撮影する分には特に問題は感じないかと思います。また、明るい場所でも画面が見やすい高輝度1000cd/㎡のモニターということで、スマホ感覚で若年層にも使いやすい設計になっているかと思います。
魅力的ポイント【2】 OZO Audio、32bit float録音

ちょっと専門的な話になるかもしれませんが、ZRのマイクが凄いんです!まず、本体の内蔵マイクは音を拾う方向(指向性)を変えることが出来るんです!!

Nokia社が開発した、高音質で臨場感あふれる音声記録『OZO Audio(オゾオーディオ)』により、シーンに合わせて指向性を前方(鋭)、前方、全方位、後方、ステレオ(バイノーラル)から選択可能です。また、モニターを自撮り側にした時の指向性を自動的に前方にする事も出来るので、VLOGにも使いやすく便利になっています。
(但しRAW動画、100pを超えるフレームレートではOZO Audioが使えない)

世界初!内部&外部32bit float録音にも対応していて、音割れの心配が限りなく少なくなりました。但し、3.5mmマイク端子に外部マイクを接続する場合、接続機器側で狭くなってしまったダイナミックレンジは救えないので注意が必要です。たとえマイク側が32bit float記録できる機器であっても3.5mmに出力する時点で音質が変わるものもあります。
魅力的ポイント【3】 デジタルアクセサリーシュー
ZRを2台導入する大きな理由がデジタルアクセサリーシューにニコンも対応してきたこと!現状、ZRだけがデジタルアクセサリーシュー対応ということで、音まわりの統一化も図りたくて導入を決めました。
ZRと同時に発売されるショットガンマイクME-D10などの対応アクセサリーは、ケーブルレスで電源供給もされ、デジタルで繋がり、更に32bit floatにも対応していて、音の劣化の少ない音声収録が可能になりました!
また、デジタルアクセサリーシューになったことで、今後様々なアクセサリーの展開が楽しみです。個人的には上から覗き込める外付けの電子ビューファインダーにも期待しています!

更に好きなマイクを接続して高音質で収録したい方には、TASCAMからZRのデジタルアクセサリーシューに対応したXLRマイクアダプター「CA-XLR2d-N」が発売されます。XLR/TRSコンボ入力端子2系統(マイク/ラインレベル切替え、+48Vファンタム電源供給対応)に加え、3.5mmステレオミニ入力端子1系統を搭載しており、音まわりの充実度もかなり上がっています。
スナップ機としての可能性

シネマカメラ・動画機としてのカメラだけでなく、私はコンデジ感覚で使えるスナップ機としても注目しています。スナップ写真はもちろん、スナップ動画を撮ることも多い私のとっては手軽さも重視したいところ。
Z6III同様の画像処理エンジンEXPEED 7によるAF性能、9種類(人物、犬、猫、鳥、飛行機、車、バイク、自転車、列車)の被写体検出も備わっており、AFで困ることはほとんどないかと思います。
更に嬉しいのが、RED監修のイメージングレシピが9種類追加されました。カメラ内にデフォルトで「CineBias_RED」がひとつ、更にNikon Imaging Cloudから8種類のレシピがダウンロード可能となっています。


■撮影環境:F1.8 1/5000秒 ISO100

■撮影環境:F1.8 1/1250秒 ISO100
これにより、写真でもREDのシネマティックな表現を楽しむことが出来るし、データの重いRAW動画のファイル形式を使うことなく、10bitや8bitのSDR動画で使うことも出来るのでREDのカラーを手軽に楽しむ事が出来ます。
更に推しのポイントが、人差し指で操作するズームレバーを使うと拡大/縮小が出来るので、MFレンズでもピント合わせが楽ですし、画面タッチでスマホ感覚で写真を撮ることも出来るのでおすすめです!

新たに加わった「かすみ除去」で星景写真もバッチリ!
動画だけではない!新機能としてはじめてZRに加わったのが「かすみ除去」機能です。ユーザー設定プリセット「星景」を使うことで、星景撮影用設定、かすみ除去、無限フォーカス位置駆動までしてくれるので、簡単&綺麗に星空が撮れる機能まで備わっています!
注目はやっぱりRED RAW「R3D NE」
ZRの魅力を色んな視点で見ている方も多いですが、なんと言っても動画ユーザーが注目しているのがREDのカラーサイエンスが使える点、ダイナミックレンジ15+ストップが使える点が非常に大きいと思います。
中でもやっぱり注目なのはREDのRAWフォーマット「R3D NE」かと思います。厳密にはNE(Nikon EXPEED)が付いているのでニコン独自のものにはなりますが、REDカラーサイエンスとRED公式のLUTも使うことが出来るので、REDのカメラと合わせて部分的に使うのも有りかと思います。
RED公式のLUTのダウンロード方法、ZRに3D LUTを読み込み、登録する流れはこちらの動画で紹介しています。
とにかく動画を撮っていて楽しい!
究極は、ZRで動画を撮ることがめちゃくちゃ楽しいです!RAW動画って確かに敷居が高いと思いますが、やっぱり出てくる映像は別格に綺麗です。また、REDのカラーサイエンスが使えることによって、更に表現の幅が広がりましたし、これから自分自身が成長する可能性も感じることができます。
こちらはレンズのレビューでスナップ動画的にR3D NE 6K59.97pで撮影した動画を繋げたものですが、RED公式LUTの「RED_PROCESS」を使ってHDRで書き出したものになります。ダイナミックレンジの広さと画質の良さがよく分かると思います。これをもっと追い込んでいけば、更に綺麗な映像を作ることが出来ると思うとワクワクしてきます!
熱停止しにくいファンレス放熱設計
個人的に長回しの多い案件、炎天下での撮影も多い私にとっては熱耐性は非常に重要視しています。小型・軽量化されたボディ、しかも放熱用の冷却ファンも搭載していないZRは本当に大丈夫?と思いましたがご安心ください!ZRはめちゃくちゃ熱に強いです!
本当に熱停止しないのか私もテストしてみました。一番熱に対して高負荷なApple ProRes 422 HQ 10bit 4K59.94p(給電あり)で検証しましたが、26-27℃の環境下で一切警告が出ることもなく録画制限の125分を完走しました。外気温30℃炎天下での撮影でも試しましたが、こちらも警告が出ることはなかったです。

手ブレ補正はZ6IIIと同等
基本スペックは昨年発売されたZ6IIIと同等かと思います。EVFやメカシャッターを無くし、ボタンを減らし画面を大型化。撮れる写真や動画に関してもZ6IIIユーザーの私から見ても同じです。
また、メカシャッターがなくなっているので、手ブレ補正のユニットは別物?と思い検証しましたが、ほぼ同じ動きの手ブレ補正だったので、同等スペックのボディ内手ブレ補正、電子手ブレ補正になっているかと思います。
こちらも検証した内容を動画にしているので、参考にしてみてください。
実際使用して困った点

使っていてストレスを感じたのがマルチセレクターです。ジョイスティック型で更に押し込むことが出来るようになっていますが、小型なこともあり少々使いにくいです。設定を決定しようと押し込もうとすると上下左右に動いてしまったり、違うものを決定してしまったりします。回避方法としては画面のタッチ操作で済ませる方が確実かと思います。

ボディの大きさや価格を考えれば仕方ない部分ではありますが、やっぱりHDMI端子については動画機ならHDMI Type D(マイクロ)ではなくフルの端子(Type A)が良かったです。画面が大きくなって外部モニターを付ける頻度は少なくなるかもしれませんが、常にYouTubeの動画を撮っている身としては、大画面の外部モニターに映し出して撮影するのが普通なので、ケーブルの抜き差しの頻度も多くなるとやっぱりフルのHDMI端子が良かったと感じます。
また、記録するデータ量やビットレートが選べると良いと思います。RAWはもちろんですが、全体的にニコンの動画ファイルはデータ量が大きいです。メーカーによっては、ビットレートを変更できるところもあるので、多少なりとも調整、特にファイルを軽くする方法があると更に使い勝手が良いと思います。
購入時に持っておきたいアクセサリー

動画を撮る上で絶対あった方が良いのは、SmallRig ウィンドマフ 3859です。元々はZ30用でしたが、ZRのマイクとも兼用になっており、内蔵マイクで音声を録る場合は、風切り音対策に必須のアイテムです。何も付けない状態ですと強めの風が吹いた場合にボーボーと風切り音が入るので持っておくと良いです。
あとは撮影するためにメモリーカードが必須な訳ですが、私はRAW動画を撮るので大容量のカード、2TBのCFexpress 4.0 Type Bを使用しています。価格と安定性を考えるとProGrade DigitalのCFexpress 4.0 Type B GOLD 1TBが個人的にはおすすめです。

ちなみに2TBでどれくらい記録出来るかというと、最高画質のRAW動画 R3D NE 6K59.97pで1時間12分、4Kにすると4K60pで2時間38分47秒、4K30pで5時間16分58秒、4K24pで6時間29分17秒となります。一般的によく使われるH.265 10bit 4K30pでは19時間57分15秒となっています。1TBの場合は、単純にその半分となります。
まとめ

今回のZ CINEMA ZRの登場により、ニコンのカメラに対するイメージも変わってきたかと思います。これまで静止画のイメージが強かったニコンでしたが、REDを傘下に入れ、映像業界に新たな風を巻き起こしたのは間違いありません!
今回、ニコン初のシネマカメラという事で比較的幅広い層に受け入れられるカメラに仕上げてきましたが、今後出てくるであろう上位モデルにも期待が持てます!もちろん、REDのV-RAPTOR、KOMODO-Xもありますが、ZRからはじめる動画の世界、シネマの世界をより身近にしてくれたニコンの展開がとても楽しみです。
■ビデオグラファー:岩本あきら
愛知県名古屋市出身。奈良県在住。2022年3月ビデオグラファーとして初のNikon公式 Nikon Creatorsに登場。大手企業プロモーションをはじめ、ライブ、学校行事の動画撮影などを行う。また、カメラ系インフルエンサーとして機材のレビュー、検証、ハウツー動画を発信。ジンバル撮影を得意とし、精度の高い都市景観撮影にも定評がある。

















