ニコン ZRで旅する上海|写真好きに使ってもらいたいシネマカメラ
はじめに
ご無沙汰しておりました、別所です。ご無沙汰しておりましたと書きましたが、ほとんどの読者の方にとってはお初ですね。僕がShaShaに出させていただいたのは随分前のこと、2023年5月のZ8の発売の時でした、あの時から約2年半で随分ニコンのカメラを取り巻く環境は変わったように思います。Z8の発売時はまだ2025年現在のニコンのようなイケイケの感覚はそれほど感じられず、Zマウントのレンズ整備も急ぎ進行中の印象でした。
あれから2年半。その2年半のうちに、ニコンはZf、Z6III、Z50II、Z5IIと、次々に時宜にかなったボディを出し、さらにはレンズ群も大三元の第二世代であるNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S IIに代表されるような決定版のようなレンズも揃い始めています。そんな中で突如現れたのが、今回記事を書かせていただいているシネマカメラのZRでした。
「写真機」としてのZR
Z8の記事を書いたときは、僕自身がZ8の公式プロモーションのかなり大きな部分を担わせていただいたということもあって、記事は特に機能を中心に、Z8の革新性について語る内容だったと思います。
ですが今回のZRは、僕はある意味では門外漢になります。写真も動画も一応やると言えばやるのですが、僕自身は自分の動画をいわゆる「映像」とは考えておらず、写真の拡張として扱っているので、動画機能を語るには能力が不足しているのです。
さらにZRというのは、写真側からの語られ方が少ない機種であるように感じております。そこで、今回の記事では、上海での旅記事という体裁をとりながら、皆さんに「写真機」としてのインプレッションをお届けしたいと思います。
持って行ったレンズは3本
今回の旅に際して、僕は3本のレンズを持って行きました。以下の三つです。
NIKKOR Z 26mm f/2.8
NIKKOR Z 35mm f/1.4
NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II
それぞれのレンズにはそれぞれの役割があります。作例とともに上海の街並みを振り返って行きたいと思います。
各レンズの特徴とZRとの相性
NIKKOR Z 26mm f/2.8
26mmをつけた時のZRは、そのフォルムの端正さと合わせて、これ以上ないくらいに旅を引き立てる相棒になります。

F2.8 1/1600秒 ISO100
タクシーに乗る時も首にかけたまま。窓から見える大都会のど真ん中の浦東地区を通る時、目の前に広がるビル群を思わずスナップした一枚です。ちなみにこの後、タクシーは車線変更にミスってガッツリ事故りました。車同士が当たって、フェンダーが割れる時のあの独特の音はなんとも言えませんね。聞きたくない音のトップ5に入ってます。

F5.6 1/250秒 ISO100
度肝を抜く摩天楼のビル群があるかと思えば、古い時代の街並みが急に現れます。歴史の面影が息づくレンガ造りの美しい建物が、そこかしこに立っています。

F2.8 1/800秒 ISO100
新旧が混じりあう上海の街を、思うがままにスナップしていく感覚。難しいことを考えずに、目の前に見える光景をさくさくと撮っていく時、2450万画素のデータの軽さも相まって、旅の記録をひたすら残していく時の最高のスナップシューターになります。
あ、言うのを忘れていました。今回の記事の写真は、全て撮って出しjpgを光量調整だけ施した写真になります。これがZRに搭載されている独自のピクチャーコントロールであるCineBias_REDの色味です。CineBias、「シネマ風」とでも訳せば良いでしょうかね。まさに映画や映像の最先端を作り出してきたREDの伝統芸の色合いです。コントラストも色彩も淡いのに、薄味には見えず、撮った瞬間に4インチの巨大ディスプレイにこの写真が出てきた時、思わずニヤッとしちゃいます。映画監督にでもなった気分、その瞬間の高揚感は、ZRがもたらす最大の快楽の一つです。
NIKKOR Z 35mm f/1.4
35mm/f1.4をZRにつける時ってどんな時でしょうか。それは夜。同じスナップ撮影でも、26mmをつけての昼スナップと比べると圧倒的に光が足りない。でも海外に行って夜のスナップを撮らないなんて勿体なすぎる!そんな時に35mm/f1.4の登場です。

F1.4 1/40秒 ISO450
上海で最も繁栄しているバンドと呼ばれる地区から少し離れ、古い上海の街路が残っている区域に向かいました。日本と同じかそれ以上に安全な上海の街なので、外国の夜スナップなのに危険を感じることが全くありませんでした。
それもまた、今の上海の現実。
強烈な監視社会は、一般市民にある程度の窮屈さをもたらす一方で、犯罪の抑止力としては最強だと感じました。
数十メートル単位で仕掛けられている監視カメラは、北京に次いで世界2位の数と言われています。その徹底的な監視によって治安は強力に守られています。その社会的・歴史的・文化的是非を論じることは僕にはできませんが、少なくとも一旅行者としてこんなに安全に夜を歩ける外国は、ここか、台湾か、韓国以外には知りません。ちなみにアメリカのLAで夜スナップをした時には、割と本当に危険な目にあいました。自由すぎるのも考えもの、100%あれはヤバいです、お勧めしません。

F1.4 1/40秒 ISO800
端正な画角と圧倒的に明るい光量とで、闇の中でささめき、語り合う人々を撮っていきます。

F1.4 1/40秒 ISO560
少し街中に戻ってくると若者が増えます。時々僕がカメラを向けるとにっこりと笑ってくれる人たちも。ポップマートの前でなぜか座り込んで話している3人組に「どっからきたん?」と声をかけると「韓国から!」と元気に答えてくれました。顔が大きく写ってる人には声かけながら撮るようにしてます。日本に比べて海外の撮影って、スナップやりやすいですね。

F1.4 1/40秒 ISO2200
ニコンの2000万画素系統のカメラは高感度に強い印象ですが、ZRもその例にもれません。上の写真もISO2200ですが、ノイズ感はかなり少ないです。その上、暗い中でも正確なAFでバシバシと被写体に追随していくので、夜スナップが捗ります。何せボディも小さいですし。
NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II
旅というのは、僕ら風景系の人間にとっては持っていくレンズに頭を悩ませる機会にもなります。今回の上海ではZRでスナップをやりたかったので、26mmと35mmは確定していましたが、それ以外にもう一本何を持って行こう?と考えた時、やはり頭に浮かんだのはニコン最強の新世代大三元標準レンズ、24-70mm/f2.8 S IIでした。
流石にZRに24-70mmをつけるとフロントヘヴィな印象になりますが、それも実は解決策があります。ニコン公式から発売されているSmallRigのL字ブラケットを装着すると、ホールド感が一気に高まり、24-70も難なく振り回せます。

広角から標準、望遠の直前までをカバーする最高の汎用性と最強の描写力を併せ持つ24-70との組み合わせは、上海という圧倒的なスケールを持つ街を前にした時にこそ最高のパフォーマンスを見せてくれます。

F2.8 1/25秒 ISO1000 24mm
上海最高峰の地点、上海タワーの展望台から見た光景です。上海タワーの高さは632メートル。世界最高峰のドバイにあるブルジュ・ハリファ、2位のマレーシアにあるムルデカ118に次ぐ世界3位の建物だそうです。展望台の高さも異次元の546mの地点。高所恐怖症キツめの僕は割とガクブルでした。でも写真は最高です。手持ちISO1000でこれですもん、ZR最高じゃん。加えて、新型24-70mmの使いやすさが際立ちます。実はここ、割と反射がきついガラス越しに撮らなきゃいけないんですが、そのガラスも割と手を伸ばさないと撮れない状態。重たいカメラだと大変だし、グリップなかったらつらい状況ですが、見事に美しく撮りきれました。

F6.3 1/160秒 ISO100 43mm
実は今回の撮影旅行、上海だけではなく、その直前まで西側の地域、西塘と烏鎮も回ってきております。その時に撮った一枚。まさに「絵のような一枚」とはこのこと。初めて行く土地に持って行くレンズで迷った時は、やっぱり24-70だなと思うと同時に、夜明けの美しい瞬間を描き出すZRのカラーのシネマティックな雰囲気にも感動します。これもCineBias_REDで撮ってます。スナップや人物だけでなく、風景にもバッチリハマるので、是非写真系の人たちにもこのピクコンは使ってみて欲しいですね。

F10 1/500秒 ISO100 32mm
距離感がわからない風景をギリギリまで追い込んで取り出したこの一枚は、この一年でも最も美しい日の出に出会えた瞬間でした。旅先の、しかもその土地を象徴する場所でこんな瞬間に出会えるなんて、ちょっと今回はラッキーでした。真ん中にあるのは、もちろん上海のランドマーク東方明珠塔ですね。ちなみにここは海とつながる川なので普段はバリバリに流れてるんですが、この日は夜明けから日の出まで、かなり水面が穏やかでこんなリフまで捉えることができました。二重のラッキーです。

F5 1/2000秒 ISO100 44mm
さて、紙数もそろそろ終わりに近づいてきました。最後の一枚はご褒美写真、中国といえば太極拳。夜明けの時間帯、本当にこんなふうに太極拳やってる人たちに出会っちゃったんですね。でもこれ割とみんなやってるみたいだし、なんなら撮られてること意識してらっしゃる感じだったのがキュートでした。みんな顔、バッキバキに決めてたもんな。
おわりに
というわけでZRと共に旅した上海の街並み、いかがでしたでしょうか。
ZRはフルサイズのニコン Zシリーズと比べても最軽量の約630gのボディなので、軽量級のレンズをつけての撮り歩きは本当に楽しい一台です。一方でグリップをつけた時は24-70mmのような大口径レンズを付けての撮影でも全く問題なくこなせる本格派。何よりも液晶が本当にでっかいので、撮った後に画面で見た時のテンションの高まりは、是非一度味わって欲しい体験です。多分ZR体験で一番の推しはそこじゃないかなあと思ってるくらい。
あとはね、是非このカメラを買った写真勢の方は、動画、やってみてください。僕も自分のインスタでいくつかあげてるんですが、このカメラは写真と動画を架橋するために生まれてきたカメラだと思うんですよね。つまり動画も写真も楽しんじゃおうぜ、っていう。
とはいえ、やっぱりまずは写真が気になるのがShaShaの皆さんだと思うんです。今回はそこの辺りを目一杯押し出してみました。また忘れた頃にお会いできたら嬉しく思います。再見。
■写真家:別所隆弘
フォトグラファー、文学研究者、ライター。関西大学社会学部メディア専攻講師。毎日広告デザイン賞最高賞や、National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストであるNature Photographer of the Year “Aerials” 2位など、国内外での表彰多数。写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。滋賀、京都を中心とした”Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。日経COMEMOで記事配信中。Nikon Z 8のプロモーションで飛行機と花火の撮影を担当。















