ニコン NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S レビュー|クキモトノリコ

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はじめに

01_Z MC 105mmの作例.JPG

 これまでニコンのFX(フルサイズ)用マイクロレンズは60mm f/2.8と105mm f/2.8の2本がありましたが、私自身は105mm f/2.8を一眼レフを使っていた頃から愛用しており、カメラがミラーレスのZ 6、そしてZ 6IIになってもマウントアダプター(FTZ)とともに使用していました。マウントアダプターを介しても画質の低下やAFでのピント合わせが遅くなるといったことはないため、その点においては難なく使えていたのですが……何しろ、重い!手に取った瞬間ずっしりとした重量感を感じるほどでした。

 以前、私が使っていたD750と現行のZ 6IIで比較をしてみると、
D750(約840g)+AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED(約750g)=約1,590g
Z 6II(約705g)+FTZ(約135g)+AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED(約750g)=約1,590g

 なんとびっくり!重さは変わらないという事実。ミラーレス機といえば「小型・軽量」が大きなメリットのはずがちっともその恩恵にあずかれておらず、「今日はどうしてもマイクロレンズが要る」という日でないと持ち出すことを躊躇うものでした。

 そんな中で登場した今回のNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S。レンズ単体でも約630gと約120g軽くなり、Z 6IIとの組み合わせでは合計約1,335g。たったの255g軽くなっただけ、と思うかもしれませんが、手に取った時の軽量感は非常に大きく、実際にニコンプラザ大阪でも多くのユーザーが開口一番「軽い!」という声を上げるのを耳にしました。

 そんな待望のZ用マイクロレンズの使用感などをお伝えいたします。

近接撮影時に絞りが開放にならない?!− 実効F値について

 まずはじめに、ニコンのマイクロレンズを初めて手に入れた方の多くが、最初に「おや?」と不思議に思うのが開放F値。開放となるF2.8に設定して、いざ被写体にぐんと近づいて撮影しようとすると…あれ?F2.8じゃなくなっている!そしてF2.8にならない!なぜ?という戸惑いはかつて私自身も経験しました。

 これはマイクロレンズ(や、マクロレンズ)での近接撮影時にはレンズが被写体側に繰り出される(レンズが撮像素子面から遠くなる)ため、通常の撮影時よりも撮像素子面に届く光が弱まります。例えるなら、壁にライトを向けたとき、同じ光量でもライトが壁に近いと狭い範囲に強い光が当たり、壁から離れると照らされる範囲は広くなるものの光は弱まりますが、これと同じことが起こるのです。

 光が弱まる、つまり露出が下がって暗くなるため露出量を増やさなければならないわけですが、どのくらい暗くなっているのかを示しているのがこの実効F値なのです。つまり、F2.8に設定しても実効F値が4.0となった場合、F4.0に設定した時と同じ量の光が撮像素子面に届いているので、それに合わせてシャッター速度や感度で露出を整える必要がある、というわけです。

 尚、ニコンのカメラでは光量の低下を踏まえてF値を表示してくれる一方で、多くのカメラメーカーでは設定時のF値が表示されたままになります。他社のマクロレンズでも、近接撮影をする際に絞り優先モードで絞りを開放に設定しISO感度を固定にして被写体に寄ったり引いたりすると、F値は変わりませんがシャッター速度が変化することから露出調整が行われている、つまり撮像素子面に届く光に増減があることがわかります。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, 絞り開放(実効F値4.5), 1/640秒, -0.7EV, WB 自然光オート

近接撮影でのボケと解像感を味わう

 マイクロレンズの醍醐味は、やはりなんといっても被写体にうんと寄って大きく撮れること。肉眼で見ているのとは違った世界が撮れるのが魅力ではないでしょうか。ちなみに本レンズの最短撮影距離は撮像面から0.29m、最大撮影倍率は1倍です。

 実際に手で触れてもさほど痛いわけではないものの、写真を見る限り触れるとめちゃくちゃ痛そう……なんだかそんな気がするほどの尖った先端、そしてその周りを覆う綿菓子のようなふわふわの質感。絞りは開放ですが、画像周辺部でも鮮明な描写が得られており、ピントの山からなだらかに、最後はふんわりとやわらかく、見事なボケのグラデーションが描かれています。ニコンのホームページに記載されている「美しいボケと高い解像性能のコントラスト」を実感する一枚となりました。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, 絞り開放(実効F値4.5), 1/640秒, -0.3EV, WB 自然光オート

 こちらのサボテンでは、ピントの合った棘の鋭さとは対照的に、アウトフォーカス部分の棘は見事なまぁるいボケとなり、その対比が面白い写真となりました。尚、ピントの合った棘の先端では乳白色の半透明感もしっかり表現され、その解像力の高さが窺えます。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, 絞り開放(実効F値4.5), 1/640s, -0.7EV, WB 自然光オート

 マクロ撮影で撮りたくなるもののひとつが水滴。今回はその中に猫ちゃんを閉じ込めてみました。といっても本物の猫ではなく……(それはさすがに無理でしょう!)猫の写真を天地逆に貼ります。こういった撮影では絞り開放だと被写界深度が浅すぎるため、しっかり絞ることによって雫の中の主役、そして雫の輪郭までをしっかり描写することができました。ただし、絞り過ぎると今度は背景がはっきりしすぎてネタバレ感が出てきてしまいます。今回はF16がギリギリいい塩梅でした。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO500, 絞り開放(実効F値4.5), 1/60秒, +1.0EV, WB 自然光オート
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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO1600, F16, 1/20秒, +1.0EV, WB 自然光オート
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水滴の撮影の様子。猫の写真を用いて水滴内に映り込ませました

中望遠の単焦点レンズとして使用する

 カメラを始めて間もない頃は、マイクロレンズは「接写専用」と思ってしまうかもしれませんがそうではありません。105mmの焦点距離を持つ中望遠レンズとして、遠くにピントを合わせた写真も撮ることができます。つまり、うんと遠くにピントを合わせた写真、そして撮像素子面から29cm(ちょうどレンズフードのすぐ鼻の先、くらいの距離感です)という近さにある被写体にピントを合わせた写真、そのどちらも撮影することのできる、いわば「遠近両用」なレンズなのです。

 105mmの単焦点レンズと考えると、自分が立ち位置を変えることで被写体の大きさ・背景の写る範囲を変えることができます。少し引いて周りの情景まで入れて撮ったら、次は被写体に寄って大きく……すると、ハンモックのやわらかな素材の質感までもがしっかり伝わってきました。手前のボケと相まって「ここでのんびりチルできたら気持ちよさそうだなぁ」という想像力が膨らみます。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, 絞り開放(実効F値3.2), 1/1000秒, -0.7EV, WB 自然光オート
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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, F2.8, 1/1000秒, -0.7EV, WB 自然光オート

 ロープウェイのゴンドラ越しに見える神戸の街を撮影するにあたり、どうしても画角に入る手前の木々を少しでもボカすために絞りを開放のF2.8にしています。ピントはロープウェイのゴンドラに合わせることで、絞り開放ながらも背景の街並みはボケることなくしっかりと解像感のある写真となりました。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, F2.8, 1/1250秒, +1.0EV, WB 自然光オート

 また、ワーキングディスタンスの長さを活かして少し離れた被写体を撮影していると蜂がやってきたのですが、本レンズのオートフォーカス機構に採用されているステッピングモーターが正確、迅速、かつ静かゆえに蜂の行動を邪魔することなく、また安全な距離を保ちながら撮影を続けることができました。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO640, F3.5, 1/500秒, +1.3EV, WB 白色蛍光灯

遠景での解像度の高さに驚く

 大阪湾を背景に、山の中腹に立つグラスハウスを撮影。家に帰ってパソコンの大きな画面で確認すると、大阪湾の対岸まで何やら写っていそうな気配が。そこで画像処理でかすみの除去などを行ってみると……直線距離で約20kmの対岸に位置する関西国際空港の連絡橋や空港ターミナルビルがしっかり見て取れます。この日は晴れてはいたものの視界は非常にクリアとは言えず、これはもうレンズの抜けの良さ、解像力の高さに他ならないと実感したのでした。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, F8, 1/400秒, -0.3EV, WB 自然光オート
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上の写真をトリミング&画像処理したもの。対岸の建物までしっかり解像できていることが分かります

ふたつのコーティング技術による、逆光にも強いレンズ性能

 個人的には逆光撮影時のフレアはふんわりした雰囲気が出るので決してキライではないのですが、レンズの性能としてはゴーストとともにできる限り抑えられた方がよいとされています。本レンズでは、ニコン独自の「ナノクリスタルコート」と「アルネオコート」のふたつの反射防止コーティングが施されていることでクリアな画質が保たれています。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO200, 絞り開放(実効F値3.2), 1/1600秒, +0.3EV, WB 自然光オート
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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, 絞り開放(実効F値3.0), 1/800秒, -0.3EV, WB 自然光オート
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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, 絞り開放(実効F値4.0), 1/1000秒, +0.3EV, WB 自然光オート

手ブレ補正とレンズファンクション、コントロールリングをフル活用する

 今回、屋外での撮影はすべて三脚を使わない手持ち撮影をしていますが、マクロ撮影ではほんの僅かな動きが致命的となる手ブレは大きな心配事です。そんな中で本レンズには4.5段の手ブレ補正機構が搭載されており、またZ 6IIの本体に搭載されたボディー内手ブレ補正との組み合わせで5軸の手ブレ補正も活用することができ、ピントの合った写真を撮れる「打率」が格段に上がりました。

 また、レンズ横についているボタンのうち、L-fn(レンズファンクション)ボタンに拡大機能を割り当てておくこと、そしてコントロールリングには絞りや露出補正といった機能を割り当てておくことで操作性が向上するとともに、カメラ本体のフォーカスピーキング機能の併用でピントの視認性も抜群に向上します。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, 絞り開放(実効F値3.2), 1/640秒, +1.7EV, WB 温白色蛍光灯

安心の防塵・防滴・防汚性能

 雨の日の撮影ではやはり機材の水濡れに気を使います。そんな中で本レンズは防塵・防滴、さらに防汚性能を兼ね備えているので、カメラ本体の防塵・防滴性能と合わせて少々の雨降りの日でも安心して撮影に出掛けられます。もちろん雨の日でなくても、お花に近付き過ぎて花粉が付いてしまった!などということは十分に想定されますが、レンズに施されたフッ素コートのお陰で拭き取りも簡単、且つ安心です。

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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO640, 絞り開放(実効F値3.5), 1/125秒, -0.3EV, WB 自然光オート

まとめ

 実を言うと、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR SはFマウント用と比較すると軽くなったとはいえそれなりに嵩張ることから、個人的には同時に発売されたNIKKOR Z MC 50mm f/2.8 の方にまず心惹かれていました。ところが実際に持ち出してみるとやはりその軽さとボケや解像度といった画質面、そしてその良さを活かしつつ等倍撮影と中望遠の両方が楽しめる利便性から、こちらのレンズもぜひ手に入れたい!と思わせてくれるものでした。

 機材が軽いとそれだけフットワークが良くなり、また手持ち撮影だとより一層の集中力が必要となるマクロ撮影において非常に有利であることは間違いありません。このレンズもまた、既に定評のあるZシリーズのレンズとしてその素晴らしさを実感するものであり、撮影がどんどん楽しくなるレンズであること請け合いです。

19_作例.JPG
■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, 絞り開放(実効F値4.0), 1/125秒, +0.3EV, WB 自然光オート
20_作例.JPG
■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
■撮影環境:ISO100, F9, 1/125秒, +1.0EV, WB 自然光オート

■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員

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