ニコン NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II 開発者インタビュー|使い勝手がアップした第2世代の大三元標準ズームレンズ
大三元レンズが待望のリニューアル
ニコンZレンズの大三元標準ズームレンズが6年の時を経てII型へリニューアルされ、「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」として新登場しました。従来レンズでも定評のあった優れた画質に磨きをかけたほか、新たにインターナルズーム機構の採用、レンズの軽量化、AF性能の向上など全体的な利便性アップを果たしています。
大三元レンズと言えば各社が最も力を入れて開発するレンズの内の一本ということで、どのようなこだわりが詰まっているのか、開発に携わった3名の担当者にインタビューをしてきました。開発者本人のこだわりなどを通して、このレンズの魅力を存分に解説していきます。
開発者インタビュー

【中央】映像事業部/UX企画部 臼井 明之さん(商品企画)
【右】光学本部/第二開発部 今榮 一郎さん(メカ設計)
― なぜこのタイミングで大三元レンズのリニューアルに至ったのですか
臼井:
Zマウントならではの大口径・ショートフランジバックといった特性を活かした従来のI型レンズは、全般に高い評価を頂戴しております。
一方で、発売以降一定期間が経過し、市場の変化やお客様からのさまざまなお声と、私たちの技術進化・蓄積をすり合わせ、実用面でのさらなる進化(小型軽量化、高速/高精度/静音化、実用性の向上など)や画質向上の余地があり、競争が激しく日進月歩いわゆる“大三元”市場(主要カメラメーカーにとっての看板市場)への第2世代投入が重要と考え、一層の進化でより多くのお客様により満足いただきたいと考えたためです。

奥:NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(従来レンズ)
― 従来レンズでネックだった部分はどこでしたか、今作はなにを重視して開発しましたか
臼井:
本製品をお使いになるプロ・ハイアマ層といったお客さまの根源的なニーズとして、
1.高画質であること
2.小型軽量であること
3.当社ならではの高い信頼性を有すること
があると考えました。加えて世界的な潮流として、4.動画の比重が高まっており、これら4つの要素を柱に、さらに使いやすく、実用性が高く機動力の高い製品に仕上げられるかが課題と考えました。
この課題を、お客様の声と私たちの技術を照合させ、その結果、さらなる小型軽量化、AFの高速・高精度・静音化、動画や各種ACC対応強化し、実用性を大きく向上させ、従来レンズの魅力を全面的に底上げした第2世代製品に仕上がったと自負しています。

今榮:
大三元レンズのリニューアルということで、我々の持つ最高の技術をすべて盛り込もうという意気込みで開発を行いました。中には製品開発と同時進行で開発を行った技術要素もたくさんあります。それらを一つの製品にまとめ上げるのには大変苦労しましたが、皆さんに喜んでいただける製品に仕上がったと考えています。
― どのようにして小型軽量化を実現しましたか
大竹:
これまでに例がないインターナルズームの実現、大三元にふさわしい画質、クラス最軽量、これらすべてを達成するために、光学系を刷新し様々な工夫を施しました。大口径・ショートフランジバックであるZマウントのポテンシャルをフルに使い切るのはもちろんながら、凹先行かつ対称型のレンズ構成となるズームタイプを採用し、非球面レンズの適切な配置により高画質と軽量化を達成しています。
これらの工夫は光学設計だけで実現できるものではなく、それを実現する高い製造技術に支えられています。特に前玉に採用した大口径の非球面は、ニコンが凹先行の歴史とともに培ってきた技術あってのものです。ニコン全体の技術の粋を結集させて軽量化が実現されています。
今榮:
製品の軽量化へは構造部材の徹底的なダイエットも寄与しています。シミュレーションと実機による検証で、高い信頼性を確保しつつ、軽量化を達成するのには大変苦労しました。部材の強度を保ちつつ、軽量化を図るという相反する内容ですが、これまでに積み重ねてきた実績や、シミュレーション技術の進歩によって達成することが出来ました。部品一つ一つを0.1g単位までとことん突き詰めて、クラス世界最軽量を達成しています。

― インターナルズームに変更された理由は何ですか
今榮:
撮影現場での使い勝手を第一に考え、インターナルズーム機構を採用しました。大きなところでは重心移動レスによる機動性の向上や、ズーミング時にレンズ内にゴミや水滴が入りにくいことによる信頼性・信頼感の向上、携行性の向上などを狙っています。マッドボックスなどのアクセサリー使用時にも“鏡筒が伸びない”ことで再セッティングが不要になります。
また、肩から掛けていてズームが伸縮していたとか、カメラバッグにしまう時に最短ポジションまで戻す必要があるなど、細かい部分ではありますが、現場での小さなストレスや手間を排除するためにもインターナルズームが最適と考えました。社内では“現場力”の向上という言い方もしていて、インターナルズームの採用は本製品の一番のトピックになります。
★インターナルズームのメリット
・静止画:堅牢性の向上、伸縮しないことによる快適さ、重心移動レスによる撮影の負荷軽減、携行性向上、ポートレート撮影時のズームによるレンズ伸縮が与える圧迫感の低減、近接撮影の快適さ
・動画:重心移動レスのよるジンバル再調整不要、マットボックス等 アクセサリーの拡張性

― 光学系が刷新されたとのことで、設計でこだわった部分は何ですか。従来レンズが非常に高い描写性能を持っていましたが、解像度やボケ描写など写りの性能に変化はありますか
大竹:
従来レンズの光学性能も非常に高い評価をいただいておりますが、今回のレンズでは多くの点で更なる向上に力をいれています。
遠景では特にミドルからテレ域の周辺画質を向上させ、画面全域の均質性を高めています。同時にピント面の解像の繊細さとそこから少しずつボケていく領域の描写の滑らかさをも向上させ、より上品で奥行き・立体感を感じられる描写となるよう調整を重ねました。少ないレンズ枚数がもたらすヌケの良さと合わさり、クリアで上質な描写が得られます。さらには逆光耐性の向上、最短撮影距離の短縮、ブリージングの更なる抑制と、ありとあらゆる点でこだわりを詰め込んで設計しました。
― 絞り羽根も増えたことでどのような効果がありますか
大竹:
現行レンズの9枚から11枚に増えた新開発の11枚羽根絞りにより、3段絞っても円形度の高い玉ボケを出すことができ、美しい写真表現を実現できるようになっています。
今榮:
絞り羽根を11枚に増やしたことで、高い円形度を達成できますが、それに加え、絞り制御の見直しも行いました。それにより精度も向上し、より滑らかな動きにも対応しています。

― 最短撮影距離が短くなったことでどのような撮影に活かせますか
臼井:
本機の最短撮影距離は広角側で0.24m、望遠側で0.33mと、従来レンズ(広角/望遠ともに0.38m)より短く、より被写体に寄った近接撮影ができます。
広角側では、テーブルフォトや小物/商品撮影など、ワーキングディスタンスを確保しにくい場面での近接が可能となり、かつインターナルズームのためレンズ先端が被写体に当たる恐れもありません。また、望遠側での近接撮影時では、ポートレート撮影時などより大きく被写体を捉えたダイナミックな構図が得られます。
★参考:最大撮影倍率
II型・・・広角端0.21倍、望遠端0.32倍
I型・・・広角端0.089倍、望遠端0.22倍
大竹:
広角側から望遠側まですべての焦点距離で最短撮影距離を短縮しましたが、特に面白いのは広角側だと思います。広角でのクロースアップ撮影は被写体を大きく写しながら背景を広く取り込んだ特有の写真表現ができます。これはクロップでは実現できない、最短撮影距離が短いレンズだけが実現できる表現です。ぜひお試しください。
またインターナルズームのため、被写体へ近付いてズーム操作をしたときにも鏡筒の長さが変わらず、誤ってレンズを被写体へぶつけてしまう恐れがありません。構図やパースの調整を気軽に行うことができます。その際フォーカス制限切り替えスイッチを併用していただくと、「ズームしたことで最短撮影距離が変わって合焦しなくなった」ことも防ぐことができます。

― 今作で採用されたシルキースウィフトVCMは他のAFアクチュエーターと何が違いますか、今まで大型な単焦点レンズのみに採用されたこの機構をどのように搭載したのですか
今榮:
シルキースウィフトVCM(以下SSVCM)はボイスコイルモーター(VCM)と、我々ニコンが独自開発した高性能な「ガイド機構」によって、音や振動を大幅に低減しながら高速で駆動するAF駆動用アクチュエーターです。
このガイド機構は、AFレンズ群とガイドバーの隙間を限りなく「0」にし、滑らかな駆動を実現しています。これによりSTMやSWMのアクチュエーターでは実現できなかった「高速」「高精度」「静音」の3つを同時に実現し、より高いAFパフォーマンスを実現することができるようになります。
メカ的な機構としては複雑になり、そのためのスペースも余計に必要にはなりますが、光学設計の工夫によりAFレンズ群を小径軽量化し、メカ部品形状やその配置、VCM形状の最適化をシミュレーションや試作を用いて徹底して追い込むことで、マルチフォーカスでありながらも、小型な鏡筒にもSSVCMを搭載することができました。
また、スペースの無いところに複雑な機構を搭載するため、組立性へも十分配慮しないといけませんでした。開発段階から組立工場である栃木ニコンのメンバーと議論を重ねたことも、SSVCM搭載が可能になった一つの要因です。


― 動画撮影でも使えるレンズになっていますか
臼井:
動画撮影でも使いやすいレンズとなっております。ズーミング時の重心移動が少ないので、ジンバルを使用した動画撮影でも、重心移動によりバランスを崩す心配がなく、快適にズーム操作ができます。また、ズーミング時にレンズが繰り出さないので、より多くの動画撮影用アクセサリーを取り付けることができます。
さらに、従来レンズ比較でフォーカスブリージングを半分以下に抑制しており、ピント位置を変えるときでも画角変動が少ないため自然な映像が得られます。また、ズーミング操作に対しリニアに画角が変化するため、一定速度での滑らかなズーミングが可能です。
大竹:
ブリージングの抑制は、静止画撮影においてもメリットがあります。特にII型ではSSVCMを搭載したため、フォーカシングがきわめて高速になっています。このときブリージングが大きいと、フォーカシングのたびに画面周辺が急激に動いてしまい、撮影におけるストレスになってしまいます。「ストレスのない撮影体験」においてブリージングの抑制は描写力やAF速度とおなじくらい重要で、意識的に改善を試みました。
今榮:
まさに現場力の向上の部分で、インターナルズームによる恩恵だけでなく、AF追従性の向上や大幅な静音化も達成していますので、動画撮影でも快適に使用していただけます。
― 従来モデルにあったディスプレイ(情報パネル)がなくなったのはなぜですか
臼井:
カメラボディ内の情報表示のブラッシュアップを重ねていることもあり、情報はカメラ側に集約し、L-Fnボタンを配置(縦位置L-Fnボタンの追加)する等で、縦位置ポートレートなど多様なユースケースに対応できるよう、カメラシステムとしてトータルの使い勝手向上に重きを置きました。

左:NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(従来レンズ)
― コントロールリングのクリックON/OFFはどのように活用できますか
今榮:
撮影スタイルやシーンに合わせて、好みの操作感に変更できます。絞りなどの段階的な変更を行う際にはクリック感触があるほうが操作がしやすくなりますし、逆にMFなどのシームレスな動作が必要な場合はクリック感触のないスムーズな方が操作がしやすくなります。動画など音を配慮する場合にも音の出ないクリックOFFの方が好まれます。
また、不用意なコントロールリングの誤操作に気付くこともできます。実は機能割当てが可能な操作リングに、クリックON/OFF機能を搭載するのはカメラ用レンズとしては初になります。
― 標準ズームにフォーカス制限切換スイッチが備わっているのは珍しいですね、どのように使ったらいいでしょうか
今榮:
この機能は「最短撮影距離は一定の方が使いやすい」というお声と、「寄れるなら出来る限り寄りたい」というお声の、両方に応えるために搭載が決まりました。
フォーカス制限スイッチを「LIMIT」にしていただくと、ピント合わせを行う範囲を70mmの最短撮影距離である0.33m以上に制限します。ズーム全域で最短撮影距離が一定になる機能とも言えますし、本機種ではインターナルズームを採用しているので、ワーキングディスタンス一定機能とも言い換えることが出来ます。
ズーム位置によって最短撮影距離が変わると、ワーキングディスタンス(レンズ前面から被写体までの距離)もそれぞれ変わりますが、それによってカメラの位置を再調整したりする煩わしさを無くすことが出来ます。
例えば広角端の最短撮影距離0.24mで撮影したのち、望遠端までズームするとカメラ位置を0.33mまで引かないといけませんが、フォーカス制限スイッチを「LIMIT」に設定していただければ、こういった煩わしさが無くなります。

― 同じF2.8通しズームのZ 28-75mmとは何が変わってきますか。標準ズームではZ 24-120mmも大人気ですが、どのように選び分けたらいいですか
臼井:
Z 28-75mm f/2.8と比べたときには、II型はS-Lineならではの高画質に加え、インターナルズームによる実用性や防塵防滴性の高さ、SSVCM機構によるより高速・高精度かつ静かなAF、フォーカスブリージングの少なさといった違いがあります。これら優位点は、ニーズが高い動画撮影時にも大きなアドバンテージになると考えます。
またZ 24-120mm f/4 Sに対しては、II型の方が開放F値が1段明るいため、暗い環境下やより速いシャッタースピードを切りたいときに、より低ISO感度でより低ノイズな画像が得られます。
★3製品の選び方
・Z 24-70mm f/2.8 S II
プロ/ハイアマ向けフラッグシップ標準ズーム
仕事や本格作品向け、画質・軽量・信頼・AFの4本柱を強化し、静止画・動画ユーザー双方の実用性を突き詰めた最新鋭フラッグシップ標準ズーム。・Z 28-75mm f/2.8
コスパや小型軽量を重視しつつも十分な画質を兼ね備えている。F2.8標準ズームの明るさやボケを作画に活かしてみたいお客様向け。旅行やライトな撮影にも向く。・Z 24-120mm f/4 S
S-Lineの高画質で広角から望遠まで1本で幅広く対応できる。F4通しの明るさで高画質と対応力を両立したい方向け。
大竹:
描写力や高画質について補足になりますが、Z 24-120mm f/4Sと描写を比較すると、今回のII型はより繊細で上質な解像と柔らかいボケを有しており、被写体の質感や立体感、空気感をより高度に表現できます。単なる高解像を超えた描写の違いを有していますので、ぜひ撮り比べてみてください。
今榮:
動画を考えた場合、どちらの機種にも無いインターナルズーム機構、SSVCM、ブリージングの少なさといったところが大きなアドバンテージになります。

― 本製品はどのような撮影シーン&ユーザーに使ってほしいですか
臼井:
静止画/動画を問わず、最高のパフォーマンスでイメージ通りの表現をされたいプロフェッショナル、ハイアマチュアの方がお客様の中心になると考えます。
人物・風景・スポーツ・スナップなど、幅広い撮影シーンを想定しており、撮影が難しい暗所、厳しい自然環境下、人が多く混みあっている状況、速い動体撮影、逆光などでも、決定的な瞬間を逃さず、撮影者の意図を反映した「作品」レベルの静止画/動画を引き出せると考えます。
今榮:
使い勝手の部分で大きく向上していますので、余計なストレスや手間も減り、より撮影に集中していただけます。スチル撮影ではもちろん、動画撮影にも快適に使っていただけるレンズに仕上がっていますので、“現場力の向上”を感じていただければと思います。














