ニコン COOLPIX P1100で野鳥撮影|迫力の超望遠、光学125倍ズームを持つネオ一眼

はじめに
35mm判換算24mm~3000mm相当、光学125倍という驚異的なズーム比を持つレンズ一体型コンパクトデジタルカメラ、ニコンCOOLPIX P1100が2025年2月28日に発売された。P1100はP900、P950、P1000の流れを汲む所謂「ネオ一眼」で、2015年発売のP900に採用された有効画素数1605万画素1/2.3型CMOS搭載というベーシックな部分はそのままに、レンズはP900とP950が2000mm相当、P1000とP1100が3000mm相当というようにテレ端が伸びているほか、モデルチェンジのたびに少しずつ改良が加えられ、使い勝手が良くなっている。

野鳥撮影の機材
野鳥撮影の機材といえばミラーレスカメラまたは一眼レフカメラ+超望遠レンズが主流だが、システム的にも価格的にもヘビー級。誰しもにおすすめできるものでもなく、ある種の覚悟を決めた人向けの機材である。たとえば筆者のメイン機材であるニコンZ8+NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sの組み合わせはキタムラネットショップ価格でも250万円近くするし、比較的安価に揃えられるニコンZ50II+NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRにしても約38万円と、それなりの投資が必要だ。これらミラーレスカメラシステムでは、テレコンバーターを組み合わせたりクロップ撮影したりしても実用レベルの限界は約1600mm相当である。
その点、このP1100は3000mm相当まで大写しできるうえ、価格も13万円台とミラーレスカメラシステムと比べると一気に購入のハードルは下がる。野鳥などを大きく写してみたいけれど、大きくて重くて高い機材までは要らない、またはバードウォッチングの記録用としてちょっと撮影するというスタイルのユーザーにとってこのP1100は最適な機材といえるだろう。

外観
P1100はカテゴリー的にはコンパクトデジカメとはいっても、35mm判換算24-3000mm f/2.8-8相当(実焦点距離4.3-539mm f/2.8-8)の焦点距離をカバーするとあって、質量は1,410g(電池、メモリーカード含む)とコンデジにしてはそれなりの大きさと重さはある。ただミラーレスカメラ用望遠レンズ1本分の重さにも満たない程度と考えれば、やはり圧倒的な軽さといえよう。
レンズ鏡筒は電源OFFの状態では本体に収納されており、電源ONにしてシャッターボタン前のズームレバーを右手人差し指で左右させるか、ボディ左側面のサイドズームレバーを左手親指で上下させることでズーミングする。
ズーミングは無段階でも設定できるが、ズームメモリー機能を使えば24mm、28mm、35mm、50mm、70mm、85mm、105mm、135mm、200mm、300mm、400mm、500mm、600mm、800mm、1000mm、1200mm、1400mm、1600mm、1800mm、2000mm、2200mm、2400mm、2600mm、2800mm、3000mmの各焦点距離にも設定可能で、右手人差し指側のズームレバーを操作するたびにこの各焦点距離にセットできる。
右手側の操作系としては電源スイッチ、シャッターボタン、ズームレバー、撮影モードダイヤル、コマンドダイヤル、ファンクションボタン等がカメラ右手側上面にあり、AE-L/AF-Lボタン、フォーカスモードセレクター、表示切り換えボタン、ロータリーマルチセレクター、OKボタン、再生ボタン、削除ボタン、メニューボタンなどがカメラ背面右側に集中する。背面モニターは92万ドット3.2型TFT液晶のバリアングル方式だ。

左手側はレンズ鏡筒基部にコントロールリングが備わっており、露出補正等をカスタマイズして使用する。ボディ左側の側面にはサイドズームレバーとクイックバックズームボタンが配置される。
使用バッテリーはEN-EL20aで、カタログスペックでの電池寿命は静止画撮影時約260コマ、動画撮影時は約1時間10分とそれほど多くはないので、一度にたくさんの撮影をするのであれば予備電池は準備しておきたい。使用メモリーカードはSD/SDHC/SDXCだ。

COOLPIX P1100 252mm(1400mm相当) F5.6 1/1000秒 ISO250 WB晴天
難しいことを考えず超望遠撮影を楽しむカメラ
筆者がこの手のカメラで野鳥撮影するのはじつは今回が初めてだ。現場でコツを掴めばそれなりのショットを撮れるだろうという軽い気持ちでフィールドに出たのだが、自信を無くすほど思い通りに撮れなかった。P1100は野鳥撮影用カメラとしては動作が決して速くなく、ミラーレスカメラとの勝手の違いに戸惑いを隠せなかった。
そもそもこのカメラの最大の魅力は「遠くのものを大写しすること」にあり、それ以外の部分は多少目をつぶる必要があるようだ。実際に難しく考えることをやめてバードウォッチングを楽しみながら観察した鳥たちを片っ端から気軽に撮影してみたら、P1100の気軽さと楽しさを実感することができた。なにより散々歩き回った後の疲労感がいつもより格段に楽だったことで、重装備での撮影が体に負担をかけていたことを認識させられた。

COOLPIX P1100 198mm(1100mm相当) F5.6 1/800秒 ISO200 WB晴天

COOLPIX P1100 180mm(1000mm相当) F8 1/640秒 ISO200 WB晴天

COOLPIX P1100 324mm(1800mm相当) F8 1/1000秒 ISO400 WB晴天

COOLPIX P1100 395mm(2200mm相当) F8 1/200秒 ISO400 WB晴天
野鳥撮影は大別して「野鳥観察の記録として撮影する」のと、「写真作品として撮影する」という、2つのスタイルがある。筆者は前者の「記録」を主目的として野鳥撮影を行っており、また識別の手助けとして撮影することもある。双眼鏡を使っても識別しづらいときなど写真撮影して拡大して識別するという利用法で、P1100はこのような撮り方で威力を発揮する。
実際に今回の作例撮影中にもP1100が活躍する場面があった。遠くからハヤブサの声が聞こえたので、遠くの鉄塔にアタリを付けて双眼鏡で探してみたが遠すぎて確認できない。そこでP1100の3000mmで撮影して拡大してみると、点でしかないがハヤブサが写っていた。地図上で鉄塔との距離を確認してみるとなんと600m。P1100はそんな遠方のハヤブサを見つけてくれたのだ。
野鳥撮影時の各種設定
P1100の撮影モードには独立した「鳥モード」がある。鳥モードにおける設定項目はいたってシンプルで、画質、画像サイズ、焦点距離の選択、連写、AFエリア選択の5項目しかない。

ただし鳥モードではRAWで記録できないため、撮影後に画質調整をしたい場合はA、S、M、Pモードで撮影することになる。今回の野鳥撮影を通じて様々なモードを試してみたものの、最終的に最適であろうモードを見いだすことができなかったが、以下のような設定で撮ることが多かった。
・撮影モード:Aモード
・画質:RAWまたはJPEG FINE
・ホワイトバランス:晴天またはオート
・連写:連写L
・ISO感度:400または800
・AFモード:AF-S
・AFエリア選択:マニュアル(スポット)

実写においてはひとつ操作するごとにタイムラグが発生するため動いている鳥の撮影は難しく、基本的にとまっている鳥を大きく撮るのに向いている。とくに本カメラ最大のウリである望遠撮影能力は素晴らしく、たとえば池の対岸にいる鳥をファインダーに捉えて3000mm相当までズームするごとに大きく拡大される場面は感動ものだ。なおJPEG記録時はダイナミックファインズームズームも使用でき、最大6000mm相当の撮影も可能。
焦点距離が長いレンズというのは遠くのものを撮る機会が多い分、空気の揺らぎの影響を受けやすいため評価が難しいが、P1100はこのクラスのカメラとしては優秀だ。陽炎の影響やブレやピンボケによる失敗を考慮すると、1000mm~2000mmがもっともP1100の能力を発揮しやすい焦点距離といえる。
設定項目で注意が必要なのは連写である。P1100は連写Hで約7コマ/秒、連写Lで約1コマ/秒で連写できるが、連写Hの7コマ/秒というのは連写してしまうとバッファクリアまでの数秒間一切の操作を受け付けなくなる。通常撮影では連写Hではなく連写Lに設定した方が良さそうだ。
双眼鏡PROSTAFF P7

野鳥撮影においては、カメラの性能云々よりも撮影者の野鳥を発見/識別する能力によるところが大きい。その手助けをしてくれるのが双眼鏡で、鳥を探すのに無くてはならないアイテムだ。双眼鏡もまたカメラと同じく上を見ればキリが無いが、ひとまずお手頃価格のニコンPROSTAFF P7を使ってみて、その後の要求に応じてステップアップしていくと良いだろう。
双眼鏡選びのポイントは倍率と口径である。バードウォッチングでの倍率は8倍か10倍が主流で、8倍の方が広視野なぶん野鳥を捉えやすく、10倍ではより大きく見えるが視野は狭く手ブレもしやすくなる。口径は30mmクラスと40mmクラスが人気で、口径が大きい方がより多くの光を取り入れられるため明るいが、そのぶん大きく重くなるデメリットもある。双眼鏡初心者には8×30が扱いやすいだろう。
PROSTAFF P7 8×30の質量は485gで、1,410gのCOOLPIX P1100と組み合わせても2kg未満に収まる。野鳥撮影ではとかく重装備になりがちだが、散歩ついでのバードウォッチング&野鳥撮影のスタートキットとして、COOLPIX P1100とPROSTAFF P7の組み合わせは最適といえよう。


COOLPIX P1100 359mm(2000mm相当) F7.1 1/80秒 ISO800 WBオート

COOLPIX P1100 432mm(2400mm相当) F8 1/250秒 ISO400 WB晴天

COOLPIX P1100 539mm(3000mm相当) F8 1/1000秒 ISO800 WB晴天

COOLPIX P1100 539mm(3000mm相当) F8 1/250秒 ISO400 WBオート
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■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。