新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.039 ライカM4歴代モデル

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.039 ライカM4歴代モデル

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。本企画ではコンシェルジュの方が「今はこのモデルを見せたい」と感じるままにお薦めライカを用意してもらい、いろいろ教えていただくという企画です。

コンシェルジュのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さん。さて、今日のアイテムは何でしょう?

M型ライカの最終形と呼べる機種

「今回のカメラは、ライカM4です」と差し出されたクローム仕上げと黒いグッタペルカの上品な雰囲気のボディ。ちなみに中明さんが今日している腕時計はNOMOS タンジェントでした。仕立ての良いドイツ製の機械式で、このカメラと相性がいい感じです。それはそれとして、M4のおさらいをお願いします。

「ライカM4はライカM3から始まるM型ライカの系譜を受け継いだ最終形と呼べる機種です。1966年に登場して1975年までの9年間製造されています。全部で6万台のうちブラッククロームが9000台。ブラックペイントが2300台。M4-Mというモータードライブ対応のボディが900台。それ以外の約4.5万台はクローム仕上げです」ということで圧倒的にクローム仕上げの数が多いですね。

「さらに、ごく少数軍用のオリーブ仕上げがあり、その中にはさらに少数ですがカナダ生産のものも含まれます。ライカM4はドイツで生産されたものがほとんどで、ライカM3やM2に流れていたドイツの職人魂を受け継いでいるのはM4が最後とも言われています」

ライカM2をベースに使いやすさを追求

ライカM4以前のモデルからの大きな改良点は、巻き上げレバーに樹脂製の指当てがついて感触が優しくなったことと、フィルム巻き戻しがクランク式になったこと。クランクが傾いているのは、巻き戻し軸を垂直に配置するとファインダーの光学ブロックに当たってしまうからで、カメラのサイズをキープしつつファインダーを最優先とした設計です。

「ライカM4のファインダーブロックは、ライカM2の光学系をベースに改良が加えられたもので、ブライトフレームは35mm、50mm、90mm、135mmの4種類。ライカM3は50mm、90mm、135mmでライカM2は35mm、50mm、90mmの3種類だったので利便性が向上しています」

フィルム装填を簡単でスピーディーに

「ライカM4最大の改良点は、フィルム装填の部分です。ライカM2-Rでご紹介しましたフィルム先端をダイレクトに差し込む方式が採用され、スプールを抜き取ってフィルムを挿入する方式に比べて撮影現場でのスピードと確実性が向上しています。斜めに配置された巻き戻しクランクもそうですが、このフィルム装填の方法はライカM6やM7にも継承されています」

底蓋を外すとボディ底面にはフィルムのパトローネから引き出したフィルムの先端を3つあるスリットのうち1つに差し込む図版があり、これもライカM7まで継承されています。

カナダで生産されたライカM4-2

「こちらはライカM4-2です。M4との間の1975〜76年にM5が入っていて、M4を復活させる形でM4-2が1977年に出ました。生産は100%カナダで急遽復活させたようです」という説明と共に登場したのがブラッククローム仕上げのライカM4-2。セルフタイマーが省略され、ミニマルな雰囲気です。冒頭に中明さんが“ドイツの職人の魂を受け継いでいるのはM4が最後”的な発言があったのは、M4-2はカナダ産だったからなのですね。

ちなみにこのモデルから採用されたのが、伝統的なマイナスネジではなく組み立てに不慣れな工員でも作業が簡単なプラスネジです。この仕様は現行品のMデジタルでも継続していますが個人的にはマイナスネジに戻して欲しいです。その理由は、冒頭に登場したNOMOSをはじめとする高級な腕時計にはプラスネジなんて1本も使われていませんし、マイナスネジを使い続けることが大量生産品とは異なる凄みを生むと考えるからです。

「生産数は1980年までに1万5000台でブラッククロームがほとんどです。少数クローム仕上げもあり、特別仕様でゴールドが1000台ほど存在します」とのこと。4年間で1万5000台という数字は、その当時に世界を席巻していた日本製の35mm判一眼レフの生産数と比較するとものすごく少ないという印象です。

プロフェッショナル向けのライカM4-P

「当時は一眼レフが主流の時代でしたが、ライカは1980年代の新聞社や雑誌社といったジャーナリズムの現場で広く使われて、社会的ドキュメンタリーの記録などにM4-2は使われていたと言われています。後続の改良機であるM4-Pは1981年に登場します。Pはプロフェッショナルの意味で、M4-2と基本設計は同じですが、ファインダーに広角28mmと中望遠75mmに対応するファインダーマスクを装備し、撮影フレームが3パターンで6種類になり、M6にも受け継がれているファインダーになっています」とのこと。

M4-Pは限られたジャンルのプロフェッショナル向けに作られたライカということで、やはり生産台数は少なめなのでしょうか?「総生産台数は2万2000台。ブラックが1万8千台。クロームが約4000台でブラックの方が圧倒的に多いです。M4-Pの発売から3年後にM6が発売されますが、M4-Pは1986年まで併売されていました」

赤丸のロゴが更に目立つクローム仕上げ

こちらは約4000台が製造されたとされるライカM4-Pのクロームボディ。ライカM4-2で省略されたセルフタイマーレバーの位置に貼られた大きな赤丸のLeitzロゴが目立ちます。これは私見ですが、メーカーのブランドロゴが相対的に大きくなってきている時は、そのメーカーが技術的もしくは経営的あるいはその双方で危機に瀕している場合が多いと感じています。一例を挙げるなら機械式腕時計の名門オメガが日本製品に対抗すべく1978年にリリースしたアラーム機能付き液晶デジタルウオッチMemomasterでは、オメガ史上最大級のΩマークがドーン!とフロントパネルに印刷されていたりします。

セルフコピーと小さな改良で企業生命をつなぐ

レンジファインダーカメラの王者として君臨してきたライカは、一眼レフへのパラダイムシフトへの対応に遅れ、露出計を内蔵させた大ぶりなデザインのライカM5を投入しましたがセールス的に振るわず、企業としての体力を消耗させていきました。そんな時期にオールドスタイルのM型ライカであるM4をカナダにあるリソースで何とかリブートさせたのがライカM4-2およびM4-Pだったのだと思います。ライカM4までのモデルの裏蓋にある豪華なフィルムインジケーターは質素なプレートになり、天面のLeitzロゴは彫刻ではなくプレス仕上げで太く大きな文字にしてコストダウンを図っているのも両機の特徴です。

モーターワインダーの装着も可能

ライカM4-2およびM4-Pでは、乾電池とDCモーターを内蔵した電動フィルム巻上げ装置であるライカワインダーに対応する巻上げ連結部品が装備されています。そのためにフィルム装填のイラストの左右幅がライカM4より狭くなっていて、この部分もライカM6、M7に受け継がれていきます。フィルム巻上げの操作が自動化されるのは実用的ですが、この当時のワインダーの挙動はパワフル&ワイルドで、丈夫なライカであっても内部機構に負荷がかかっているのではと心配になる感じがします(個人の感想です)。

まとめ

というわけで、今回はライカM4、M4-2およびM4-Pの3本立てでお送りしました。中明さんによると「M4系は伝統と革新の狭間に生まれた3部作としてライカの歴史において非常に重要なモデルです。Mの伝統を受け継いで再出発させたのがM4-2なので、M5でのセールス的な失敗から立ち直り、M6へつながる道を切り拓いたシリーズと言えます」とのこと。M4シリーズは、どんな方にお薦めでしょう?

「ライカM3、M2、そしてM4と番号が進むにつれて使い勝手は良くなっていますので、M型でフィルムライカを始める方にもお薦めできますし、M4-Pは28mmのファインダーフレームがあるので、スナップやストリートフォトグラフィーにも向いています」

ライカM5やM6のように露出計は内蔵されていませんが、最近では液晶表示するクリップオンメーターが用品メーカーから出ているので、それを付けておけば露出に関して心配ないとのこと。個人的にはライカM4各種が現行品だった時代に出ていたライカMRメーターを装着した姿も大好きです。

 

 

■ご紹介のカメラ
ライカM4
ライカM4-2
ライカM4-P

■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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