新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.014 初代球面ズミルックス 35mm f1.4

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.014 初代球面ズミルックス 35mm f1.4

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという有り難い企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。現行品からヴィンテージまで取り扱いのあるヴィンテージサロンの品物から、どんなアイテムを見せてもらえるのか楽しみです。

ライカフェローのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店でライカフェローの肩書を持つ丸山さん。ヴィンテージライカに関する豊富な知見を持っている丸山さんが前回見せてくれたのはライカ通を唸らせる初代ノクティルックス50mmF1.2でした。もしかしてレンズが続くのか?と思ったとおり、カウンター越しに単体の交換レンズが登場しました。

ヴィンテージの大口径広角レンズ

「こちらが、通称スチールリムと呼ばれますズミルックス35mm F1.4の初期タイプになります」と、差し出されたM型ライカ用の交換レンズ。前玉が大きくて、全体の仕立てはコンパクトで凝縮感があり、中にはガラスがみっちり入っている感じの重量感と相まって、こういうレンズは個人的には大好物です。

ズミルックスとは、ライカの交換レンズで開放F値がF1.4のモデルに付けられる総称です。例外的にライカQシリーズに固定装着されている28mm F1.7のレンズにもズミルックス銘が付いています。いずれにせよ開放がF2のズミクロンよりも多くの光を取り込むことのできる大口径レンズであり、本件は35mmの準広角ということになります。

絞り開放でのユニークな描写が持ち味

ズミルックス銘のレンズは何種類も存在しますが、この初代ズミルックス35mm F1.4は絞り開放で撮ると何だか撮った瞬間に昔の写真なのではないかと思うぐらい不思議な描写をするレンズです。同じズミルックス35mmでも非球面を用いた新設計のバージョンでは絞り開放から成績優秀で、絞りによる描写の変化はピントの深さだけという印象になります。

「ご存知の通り、このズミルックス35mmは開放絞りで撮影するとハイライト部分が滲んでハレーションが出たりする独特の描写です。当初はそれほど人気がなく、むしろズミクロンの8枚玉と呼ばれる35mmレンズの方が中古相場は高額でしたが、いつのまにか逆転して、ズミルックスのスチールリムに関しては骨董的な価値が付いてきています」とのこと。確かに、この初期のモデルには古き良きライカの魅力、物質的な存在感に溢れています。

ズミクロンより明るいのにコンパクト

あまりこの2ショットは見られないと思うのですが、左がズミルックス35mm F1.4スチールリム、右がズミクロン35mm F2の通称8枚玉です。「ズミルックス35mmは1960年から製造されていて、こちらはそのファーストロットです。カナダで設計されたもので元々はCAMPOLUXという名称だったそうです。ズミクロン35mmの8枚玉は1958年から。これもライツカナダの設計です。いずれのレンズも全長が短くて取り回しが楽で前玉が大きくて存在感があってレンジファインダーカメラに装着したくなるいい感じのレンズです」

どちらもライカMマウントで焦点距離も同じですが、開放F値が1段明るいズミルックスの方が全長が短い! もちろん8枚玉のズミクロンだって十分にコンパクトだからライカに装着した時の携行性や鞄からの出し入れにストレスはないのですが、ズミルックスはさらに優れていると思います。

無限遠ロック機構の付いたフォーカシング

ズミルックス35mm F1.4スチールリムの特徴といえば、コンパクトさを極めるべく、絞り操作はギザギザのついたリングではなく、テーパーのかかった円弧状の突起に置き換えていることに加え、フォーカシングもリングではなく指をかける半円状の窪みをつけたレバーにしているところ。しかも初期モデルでは無限遠に距離指標を持ってくるとパチン!とクリック感があってロックされる仕組みを装備しています。

これはおそらく、フォーカシングレバーの根元に指を添えてレンズをボディから着脱しようとする場合にヘリコイドリングが回転してしまわないようにするための機構だと思うのですが、無限遠よりちょっとだけ短い距離でピント合わせする時には煩わしいし、そもそも部品点数も多くコストも嵩むからか、後期型では省略されています。

復刻版では2種類のフードも再現

これは、ライカのクラシックシリーズ第4弾として2022年に登場した初期型のズミルックス35mm F1.4を忠実に再現したモデルです。光学系もオリジナルを踏襲した球面レンズによるもので、独特の表現は健在。絞り開放で撮ればうっとりするようなやわらかいボケ味が得られ、逆光のシーンで絞りを開放にすれば、意図的にレンズフレアを発生させられるとライカカメラ社のリリースにも記載されています。

前述の無限遠ロックも忠実に再現されていることに加え、オリジナルと同じデザインの着脱式フードと、オリジナルにはない新しいデザインのねじ込み式フードも付属。ちなみにフィルター径はE46で、オリジナルのレンズとの互換性がないのは復刻版のノクティルックス50mmF1.2の場合と同じですね。

初期モデルのレアなフードの出来栄え

こちらがオリジナルのレンズ、フィルターとフードです。このフードはねじ込み式ではなく、レンズ先端のシルバーリムに嵌め込んでから時計方向に回すとグキュッ!という感触がしてガッチリ固定されます。相当にバネの力が強いのか、外す時にも思いっきりフードを回さないといけないし、外れる時にバキッ!と音がするのが怖いですけれど、ちょっとぶつけたくらいでフードが飛んで行ったりしない安心感があります。

ちなみにオリジナルのレンズフードの内周には、赤い宝石のような指標が埋め込んであるのですが、その宝石が失われてしまった個体が多いです。無くても操作上の問題はありませんが、オリジナルの宝石が付いているフードはものすごく高額です。

まとめ

1960年代の初頭に登場した時点では世界で最も明るい広角レンズだったズミルックス35mm F1.4は、それから35年間も光学設計を変更せずに数々のバージョンが世に送り出されました。今回ご紹介した初期バージョンはその仕立ての良さとスタイルにより不動の人気を誇ります。そのオリジナルモデルを忠実に再現して新製品としてリリースするというライカの企業姿勢は、写真の楽しみ方の多様性の領域を広げてくれるものです。

「個人的にはフィルムで使っていただきたいです。特にリバーサルでは斜めの光が入ったときに独特のふわっとした写真になりますし、逆光で撮ったときの光と影の雰囲気も最高です。見た目が素晴らしく、撮っても個性的ですし、このレンズの描写が気に入っていただけたら手放せなくなる一生もののレンズだと思います」と丸山さんが語るとおり、こんなレンズはライカにしかないと思います。

 

■ご紹介のカメラとレンズ
初代球面ズミルックス 35mm f1.4(中古 A):4,950,000円
※価格は取材時点での税込価格

■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:ライカフェロー 丸山豊
1973年生まれ。愛用のカメラはM4 ブラックペイント

■写真家:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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