佐藤俊斗 × ポーレートVol.17|コンデジで写すエモーショナルな夏撮影

佐藤俊斗
佐藤俊斗 × ポーレートVol.17|コンデジで写すエモーショナルな夏撮影

はじめに

こんにちは。フォトグラファーの佐藤俊斗です。
夏の光がまぶしく、街のコントラストが一段と強く感じられる季節になりました。

今回は富士フイルム X100Vを使用して、真夏の昼下がりに撮影をしてきました。
ロケ撮影において、光とどう向き合うかは作品全体の印象を左右する大きな要素ですよね。
自然光を活かした人物の撮り方や、街の空気感を写し込むコツ、そして仕上げの編集におけるトーンの作り方などをご紹介していきます。

特別なロケーションでなくても、光の向きや背景との距離感を意識することで、写真の雰囲気は大きく変わります。
中盤では、逆光やフラッシュを使った場面ごとの編集アプローチにも触れていますので、参考にしてみてください。

日常の中にある夏らしさや、さりげない空気感をどう写し出すか。
そのヒントになれば嬉しいです。ぜひ最後までご覧ください。

光と向き合う夏の正午

撮影時刻は12時半。

ちょうど太陽が真上にある時間帯で、街は光と影の境目がくっきりと分かれています。
この日は、道端に咲く昼顔がとても印象的だったので、傍に立ってもらいました。

花とのポートレートはよく撮られるテーマですよね。
では早速、今回の撮影ポイントをご紹介します。

次の写真をご覧下さい。

■撮影環境:1/125秒 f/2 ISO250

花の咲いている方向と、人物の顔振りを太陽の向きに揃える
最初は花に寄り添う構図で撮っていたのですが、昼顔の向きが揃っていることに気づき、人物の顔の角度も花に合わせてみました。
花と目線を揃えることで構図にまとまりが生まれ、より自然な印象になります。

例えば、夏の花の代表である向日葵は太陽に向かって咲きますよね。
今回の昼顔も同じく、花と人物が同じ方向を向くことで一体感が感じられるでしょう。

光の量を調整する
次に注目したいのは光量について。
昼の強い光は硬く影が出やすいので白飛びしやすく、被写体を照らす光としては適切ではないでしょう。
おそらくみなさんも避けたいと思っているのではないでしょうか。

実はこの時は反対側に高い建物があり、建物越しの光であったため、100%の光を被写体へ当てずに撮影しています。
芯を外す、という言葉をライティングの際にも使うのですが、この時期特有の硬い日差しの中でも、このように意識的に適切な光量の場所を探しながらシャッターを切ることで、夏らしく少し柔らかさのある儚げな空気を表現できます。

暑さを軽やかに見せる工夫

先程述べたとおり、真昼の強い光が全面に差し込むと、全体的に重くなってしまいがちです。

次の写真をご覧ください。

■撮影環境:1/125秒 f/2 ISO250

撮影の時間は真昼ですが、涼しささえ感じられる1枚ではないでしょうか。
髪に光がよくのるように位置を調整し、光が顔に落ちる範囲を適度に広げることで、全体として軽やかな印象に仕上げました。
実は今回の編集では、衣装のかわいらしさが前に出すぎないように、コントラストを抑えつつも少しフィード感を加える方向で調整しています。

X100V特有のフィルムライクな色再現との相性も良く、自然なトーンでまとめました。
ガードレールや建物の熱も気になる季節。安全面への配慮も忘れないよう、撮影中のモデルさんへの声掛けも積極的にしてみてください。

光選び

■撮影環境:1/125秒 f/2 ISO2500
■撮影環境:1/125秒 f/2 ISO2500

続いてのカットは、古いアパートの入口付近で撮影したものです。
日常の中にある反射やガラス越しの風景も、夏の光を利用することで印象的な画になっていますね。
この場面では、撮影の段階で既に仕上げの編集をある程度イメージして構図を決めていきました。
ここでは、パターンを2つ説明します。

1. 逆光で撮るパターン→コントラストを下げて、かすみ除去をマイナスに。さらに粒子と青みをプラス

2. フラッシュを使うパターン→コントラストを強め、シャドウを落とし、同じく青みと粒子を足す

このように、光と編集のバランスを想定したアプローチは、撮影中の判断基準になってきます。
ここで大切なのは写真の情報を「引き算」すること。
盛りすぎず、あえて雑にとることでニュアンスのある綺麗すぎない仕上がりにしています。

木漏れ日

■撮影環境:1/80秒 f/2 ISO200
■撮影環境:1/80秒 f/2 ISO200

夏の街中を歩いていると、ふとした場所に“画になる木漏れ日”が差し込んでいることがありますよね。
この日も、歩道の脇で肩にちょうど光が落ちる場所を見つけ、モデルさんにその位置に立ってもらいました。

木漏れ日を全体に入れすぎると顔が膨張してしまうことがあるので、あえて控えめに取り入れるのがポイント。
背景や光の入り方によっては写真が重く見えやすいので、どこかに“抜け”を作ってあげる意識をしてみましょう。

背景選びと躍動感

■撮影環境:1/100秒 f/3.2 ISO1250
■撮影環境:1/100秒 f/3.2 ISO1250

X100Vのようなコンデジカメラは、背景の選び方が構図の鍵になります。
個人的に、横位置の写真にこそコンデジの魅力が出ると感じています。

横構図は「人間の視覚の動き」に近しく、安定感が生まれます。

「写ルンです」のようなエモーショナルさや、被写体との距離感を活かした構図は、このように背景の情報を多く取り入れることで表現することができます。

ポールはレフ板代わりになる?

■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO400
■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO400
■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO400

皆さんは、レフ板を使ったことがありますか?

顔に添えると影で暗い箇所を持ち上げられる、撮影には欠かせない定番のアイテムですね。
ロケやスタジオ問わずよく使用されているイメージがあると思います。

では今回、ロケ先でたまたま見つけた銀色のポールを、レフ板代わりにしてみましょう。
ちょうど顔の下に光が跳ね返る角度だったため、顔に落ちた影をやわらかく持ち上げることができています。

昼過ぎの硬い太陽光を避けつつ、被写体の顔を明るく照らすにはこうした街の中にある偶然の“反射”を活用するのも一つの手。
レフ板としての知識を、街中でも応用できると撮影の幅が一気に広がります。

また、今回はあえてシャッタースピードを1/100秒に設定し、動きの中で連写を行いました。
少しのブレが、写真にリズム感やストーリー性を生み出してくれています。
ロケ撮影だからこそ出せる、そんなフィルムライクな空気を感じてみてください。

おわりに

強い日差しの中での人物撮影から、日常の中にある光の見つけ方、そして編集でのニュアンスの作り方まで、さまざまな視点から撮影のアプローチをご紹介しました。

今回の重要なポイントは、何事もその先を想定して動くこと。
特別な場所ではなくても光と向き合い、撮る人の視点が加わることでその瞬間は写真として意味を持ち始めます。

今回の内容が、みなさんの夏のロケ撮影のヒントになれば幸いです。

 

■モデル:池田穂乃花

 

■写真家・フォトグラファー:佐藤俊斗

 

 

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