動きモノだけじゃない、日常に寄り添うカメラ | キヤノン EOS R7

金森玲奈
動きモノだけじゃない、日常に寄り添うカメラ | キヤノン EOS R7

はじめに

 今年6月に発売されたキヤノンEOS Rシリーズ初のAPS-C機EOS R7。「7」を継承するキヤノンのカメラは動きモノに強いというイメージがありますが、EOS R7もその伝統を受け継ぎつつ、さまざまな撮影シーンへの柔軟な対応を可能にした、マルチな才能を持った一台です。今回はそんなEOS R7の魅力をご紹介していきます。

デザイン・仕様

 同時期に発売となったEOS R10同様、メニューボタン以外は電源スイッチを含め全ての操作系統がボディ右側に配置されているため、EOS R6以上の機種をお使いの方は、最初は少し戸惑うかもしれません。私も使い始めは無意識に左手で電源を探してしまいましたが、慣れてくるとファインダーから目を離さずに、あらゆる操作が右手で完結するスタイルが心地良く感じられるほどでした。

 ただし電源スイッチと動画モードへの切り替えスイッチが一緒になっているため、勢い余って動画モードになってしまうということが多々あり、この点は独立させてほしかったというのが正直な感想です。

 操作系で最も大きく変わった部分は、ジョイスティックの大きさとサブ電子ダイヤルの位置の変更ではないでしょうか。EOS R6以降に登場したジョイスティックは直感的で迅速なピント合わせを可能にした画期的な存在で、EOS R7では可動域が大きくなったことでピント位置の変更がよりやりやすく、さらに繊細な微調整もしやすくなったのが大きな特長と言えるでしょう。

 露出補正に使用するサブ電子ダイヤルがジョイスティックと同軸にきたことは、電源スイッチ以上に驚きと戸惑いがありましたが、親指がカメラに密着した状態で露出補正の変更ができるので、こちらの位置の方がカメラのホールド的には安定感が増すように思いました。とはいえ、上位機種と併用する場合は操作性の違いに対して多少慣れが必要かもしれません。

 EOS R10と共にEOS R7に新設された【フォーカスモードスイッチ】はAFとMFの切り替えをボディ側で行うことができます。現状で発売されているAPS-C用RF-Sレンズはレンズ側のAF/MFの切り替えスイッチが省略されており、それがレンズ本体の価格を抑えることに一役買っている可能性を考えると、ボディにこの機能を搭載したのは必然であり、革新的でもあると言えるのではないでしょうか。

 また、フォーカスモードスイッチ中央部の被写界深度確認ボタンは、他の機能の割り当ても可能ですので、ご自身の使いやすい機能に変更するのもオススメです。

動きモノへのさすがの対応力

 前述した通り「7」の数字を持つキヤノンのカメラは動く被写体を得意分野としてきました。EOS R7もこれまでの世界観を踏襲し、さらに進化した対応力を見せてくれます。その中でも現行のEOS RシリーズのハイエンドモデルEOS R3と同じAFアルゴリズム「EOS iTR AF X」を搭載したことで人物、動物、乗り物といった撮影頻度の高い被写体の検知精度が格段に向上しています。

■撮影機材:Canon EOS R7 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:1/3200sec F7.1 ISO6400 WBオート

 こちらに向かって一直線に走ってくる犬を「動物優先」で撮影しました。トラッキングを前提としたAFシステム「デュアルピクセルCMOS AF II」のおかげで走り出しからしっかりと補足し続けてくれたので、両足が地面から離れた瞬間をバッチリ捉えることができました。

■撮影機材:Canon EOS R7 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:1/3200sec F7.1 ISO4000 WBオート

 AFの食い付きを試すため、あえて途中で一度連写を止めてみました。かなり迫ってきたタイミングでしたが、即座に瞳を再補足してくれたのには正直驚きました。

■撮影機材:Canon EOS R7 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:1/8000sec F6.3 +1 2/3EV補正 ISO6400 WBオート

 噴水から迸る水しぶきを撮影。1/8000秒という高速のシャッタースピードとEOS Rシリーズ最速となるメカシャッター時、最高15コマ/秒の高速連写によって、まるで踊るような水滴の表情を捉えられました。全身にしぶきを浴びる距離でしたが、防塵・防滴性能を有するEOS R7のおかげで何の不安もなく撮影に集中できました。

 ただ、【RAW+JPEG】での高速連写時に若干バッファの容量に不安を感じる瞬間があったので、高速連写撮影をする際は書き込み速度の速いSDカードを使用したり、保存形式をJPEGのみにするといった工夫をするとより安心かもしれません。

高解像度が写し出す細部の美しさ

 EOS R7は最大約3250万画素の新開発のAPS-CサイズのCMOSセンサーと映像エンジン「DIGIC X」によって、キヤノンのAPS-C機史上最高の解像性能を実現しています。特に被写体の質感の再現性は、フルサイズの描写に迫るものがあります。

■撮影機材:Canon EOS R7 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:1/60sec F7.1 -1EV補正 ISO100 WBオート

 目の周りの真っ赤なラインが特徴的な「ナベコウ」が、雨に濡れた羽を繕う姿を撮影しました。烏の濡れ羽色などと言いますが、濡れて複雑な光沢を放つ羽と、水鳥ならではの撥水力で羽の上に留まる水滴の、それぞれの質感が忠実に再現されています。

高感度描写の可能性

 APS-Cは高感度に弱いという話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。物理的なセンサーサイズの違いからフルサイズモデルと比較すると、ノイズ感などに見劣りする部分があるのは事実です。画素数が大きくなるとよりシビアに解像感に影響を与える高感度性能を、高画素機であるEOS R7で確かめてみました。

■撮影機材:Canon EOS R7 + RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM
■撮影環境:1/80sec F6.3 -1EV補正 ISO2500 WBオート

 シャーロックホームズの居室を再現した博物館にお邪魔しました。人工の光ではありますが、薄暗い室内に差し込む窓からの光に浮かび上がる室内の、調度品の質感の再現性は申し分なく、シャドウ部へと続く中間のトーンもなめらかな印象を受けました。

■撮影機材:Canon EOS R7 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:1/30sec F6.3 -1EV補正 ISO5000 WBオート

 シャドウ部のノイズ感を確認するため、ピクチャースタイルを【モノクロ】にして撮影しました。豆電球デザインのライトの光量はわずかでISO5000でも1/30秒というシビアな条件でしたが、協調ISによる最高8段分の手ブレ補正の効果もあり、手ブレの心配は全くありませんでした。

 肝心の描写は高感度フィルムで撮影をした時のような多少ザラッとしたものはありましたが、これまでのAPS-C機で高感度撮影時のシャドウ部がベタ塗りのように見える感じはなく、しずく型のガラスの置物や木製の本棚の質感などをしっかりと感じられたのは好感触でした。

動きモノだけじゃない、日常に寄り添うカメラ

 今回EOS R7を使って一番印象に残った点は、さまざまなシチュエーションでの撮りたい瞬間を望んだ形で残せたことです。何気なく撮っているようで、カメラの持つ性能に助けられている部分が確かにあったと思います。そして最新の映像エンジンの精細な描写力の中にも、キヤノンらしい、やわらかな発色がしっかりと存在感を感じさせるところが何より心地良かったです。自分が「好きだ」と感じられる描写を得られることは日常的に写真を撮る人にとって、とても重要な要素だと思います。

■撮影機材:Canon EOS R7 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:1/1000sec F4 +1 2/3EV補正 ISO100 WBオート

 秋晴れの海辺を楽しむ人たちを遠目からスナップしました。家に帰って写真を見返すと画面右上を飛ぶ飛行機の存在に気が付き、撮りたかった瞬間におまけをもらったようで嬉しくなりました。

■撮影機材:Canon EOS R7 + RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM
■撮影環境:1/500sec F7.1 +1/3EV補正 ISO100 WBオート

 夕暮れ時、最後の波を待つサーファーの一人が太陽の光跡の中に入った瞬間にシャッターを切りました。一瞬のシャッターチャンスを逃さずモノにできるのは当たり前のようで、カメラによる恩恵も大きいです。この一枚がこの日のまさにハイライトとなりました。

さいごに

 EOS R7はキヤノンの「7」シリーズの最新機種として、これまでの強みを継承しつつ、フルサイズ機に引けを取らない各種性能と、APS-Cならではの軽量さやキヤノンらしい発色など、動く被写体に強い特長と、普段使いのカメラとしても魅力が詰まった一台です。

 

 

■写真家:金森玲奈
1979年東京生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京藝術大学美術学部附属写真センター勤務等を経て2011年からフリーランスとして活動を開始。日常の中で記憶からこぼれ落ちていく何気ない瞬間や怪我と障害がきっかけで引き取った2匹の飼い猫との日々を撮り続けている。池尻大橋のアトリエで写真を手に取れる形で残すためのプリントレッスンや各種撮影会、モノクロ暗室ワークショップなどを企画運営している。

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