第8回フィルムカメラを始めよう!憧れの中判レンジファインダー:Plaubel Makina67編

はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回はフィルムカメラを始めよう!シリーズ第8回として、中判フィルムカメラを紹介していきます。6×7といえばPENTAX 67が最もメジャーですが、それと双璧をなすのでは?と思うほど人気のカメラPlaubel Makina67の魅力を紐解いていきたいと思います。
Plaubel Makinaは日本のカメラ?海外のカメラ?

Plaubel(プラウベル)はドイツにかつて存在した1902年創業の光学機器メーカーです。Makina(マキナ)はそのカメラ名で、Plaubel社が製造したカメラにはそのほかにも6×4.5cm判または6×6cm判のRoll-Op(ローロップ)シリーズや127フィルム使用のマキネッテシリーズなどがあり、様々なカメラ、そしてレンズを生産していました。
筆者はAnticomar(アンチコマー)という、当時の中判カメラでは珍しかったF2.8の大口径レンズからPlaubel社を知り、そこからMakina67にたどり着いたという曲者。Makinaの他にもこの大口径レンズを搭載したRoll-Opも非常に良いカメラですので、ぜひ調べてみて下さい。少々脱線してしまいましたが、簡単にMakina67の生い立ちについても記載していきたいと思います。
長らく光学機器を生産していたドイツPlaubel社は、経営者が老齢となったことから、1975年日本のドイ・インターナショナル(ドイグループ)に買収されます。今では聞きなれないドイグループですが、当時はカメラのドイというカメラ販売店を中心とする企業でした。ドイ・インターナショナルの社長である土居君雄自身カメラコレクターであり、Plaubel買収後は自分が求めるカメラを作り出します。それが今回のPlaubel Makina67なのです。
当時の日本は、Canon、Nikon、Minolta、小西六(Konica)など一流カメラメーカーが群雄割拠する時代。土居氏は交流のあった当時の小西六に設計を委託、レンズはNikkorを搭載し、名前こそドイツのPlaubel Makinaを踏襲しましたが、日本のカメラとして世にリリースされたのでした。余談ですが製造はSekorレンズ等で有名なマミヤ光機で、正に日本の企業が生み出した名機と言えるでしょう。
Makina67の特徴は搭載されたNikkor 80mm F2.8もさることながら、蛇腹を折りたたむことでレンズ付き一眼レフカメラよりも大幅に薄くなるという特徴を持っています。また、スポット測光の露出計も搭載しており、Nikon FM2等と同様の+、〇、-で露出を表示する形式となっています。+であれば露出オーバー、〇は適正、―はアンダーと非常にわかりやすいですね。
本カメラはレンジファインダーとなっており、Leicaを初めとするレンジファインダーはレンズのヘリコイドを回すことで二重像を調整しますが、Makinaはなんと巻き上げレバー部分に距離計連動機構がついており、ここでピントを調整します。これが非常に使いやすい。
蛇腹式カメラの場合、レンズ周りに距離計連動機構を搭載しているカメラが多いですが、Makinaは実にスマートな設計になっており、技術の成熟期に誕生した新型中判フィルムカメラだったのです。重量も1250gとPENTAX 67が標準レンズ搭載で2500g程度あったことを考えると、日常使いや旅行での活躍を含め使いやすいカメラだったと想像ができます。詳しいスペックは以下をご確認ください。
Plaubel Makina67スペック
形式 | 6×7cm判蛇腹式レンジファインダーカメラ |
発売年 | 1979年 |
使用フィルム | 120ロールフィルム10枚撮り |
レンズマウント | レンズ固定式 |
使用レンズ | NIKKOR 80mm F2.8(35mm判換算:39mm相当) |
絞り | F2.8~F22 |
最短撮影距離 | 1.0m |
ファインダー | 採光式ブライトフレーム、パララックス自動補正、視野率85%、倍率 0.65 |
シャッター | 1秒~1/500秒、バルブ |
露出計 | GPD測光素子内蔵露出計 |
使用電池 | SR44 型酸化銀電池2個使用 |
大きさ | 高さ115×幅162×奥行56.5mm |
質量(重さ) | 約1250g |
ここからは簡単にですが、各フィルムの写りを作例として挙げていきます。後述しますが、レンズの特徴によりどのフィルムを使ってもその特徴を活かし切ることができると感じます。







Nikkorレンズの素晴らしき描写力

さて、土居君雄氏が惚れ込んで搭載したNikkorレンズですが、その描写は言わずもがな。実際、Makina67を使いたい!と思い数々の作例をご覧になられた方々は、その描写力には驚かされたはずです。個人的に6×7のフォーマットではPENTAX 67の描写が一歩抜きんでていると考えているのですが、それに勝るとも劣らないリアリティのある描写はMakinaの強みです。
レンズの解像力に至っては開放F2.8から非常にシャープで、中心部は申し分なく髪の毛1本1本も楽に描くことのできる力を持っています。開放では周辺光量落ちが見られますが、F4~5.6では大きく改善され、全体が均一の描写を持つようになります。筆者はF5.6~8までの描写を好んで使っており、ボケのバランスも相まって35mmフィルムカメラにはない奥行きを感じることが多々あったと記憶しています。
また、1980年代に差し掛かる後期のレンズということもあり、コントラストも高めでメリハリのある描写が特徴。発色はニュートラルで、色の偏りも特にありません。それゆえ、何を撮ってもフィルムの特徴を真に引き出せるカメラと言っても過言ではない、そう言い切れるだけの力があります。個人的にはPRO160NSやPRO400Hといった富士フイルム製フィルムとの相性の良さを感じていましたが、残念ながら今となっては廃番。もちろんLomoカラーネガシリーズや高額になりますがPORTRAシリーズとの相性も良いので、ぜひご自身にあったフィルムを選んで使ってみてください。











Makina67中古購入のポイント

Makina67は中古市場にもある程度の数、存在するカメラですが、中古で購入する際はいくつか確認しておくべきポイントがあります。簡単ですが、注意点を以下にまとめてみます。
1.蛇腹の状態
まず、要確認なのが生命線とも言える蛇腹の状態です。蛇腹が交換されていない機種は既に製造から45年近く経っており、そのほとんどが痛んでいる状態と言えるでしょう。なるべく、試写済みのものを購入する、蛇腹交換を購入するなどを心掛けたいところです。蛇腹は修理業者でまだ新品(非純正品)に交換できるとのことですので、修理可能なのが救いです。撮影結果の写真に不思議なフレアが出た場合は、蛇腹の穴を疑ってみると良いでしょう。

2.距離計の状態
次に確認したいのが、距離計のズレです。すぐにわかるのが距離計の縦ズレで、ズレた機種は全く気持ちよく撮影できませんので、購入は厳禁。更に、ファインダーの二重像はあっているものの、写真のピントは全くあっていないという距離計そのもののズレにも注意が必要です。これは点検済み、試写済み品でしかわからない場合が多いので、購入時には気をつけたいところです。

作例では問題ありませんが、距離計が不具合を起こしている場合、無限遠ですらピントが合わないことがあります。
3.内蔵露出計の状態
内蔵露出計に至っては、SEKONIC L-308X等の優秀な単体露出計をお持ちの場合、最悪壊れていても良いと筆者は考えています。無論、完動品が購入できればそれに越したことはないのですが、Makina67の完動品は高額です。内蔵露出計が壊れていると値引きされていることが多く、その他の機能が問題ないのであれば、内蔵露出計については妥協するのもひとつだと考えられます。露出計が生きていても、露出が狂っていると元も子もないですので、敢えて露出計が壊れている製品を買うというのはひとつの手だと考えています。

まとめ

過去いくつかの中判フィルムカメラの記事を執筆していますが、他とは異なる6×7フォーマットの魅力を知っていただけたのではないでしょうか。6×7フォーマットにはPENTAX 67が君臨していますが、Makina67も甲乙つけがたいほどの描写を持つカメラです。特に標準レンズ付きPENTAX 67の半分の重量、そして薄型のボディには他にはない魅力が詰まっています。フィルムの価格も高騰してきてはいますが、まだまだフィルムの種類も多く十分に楽しめる段階ですので、興味を持っていただければ嬉しいです。
2025年6月4日(水)より筆者も出展する「国産中判フィルム展2025」という写真展が東京・渋谷、そして6月18日(水)からは大阪・京橋で開催されますので、ぜひ足を運んでみてください。Makina67をはじめとする14の国産メーカー、35機種ものフィルムカメラ、そして50名のフィルム写真愛好家が最高の写真を展示する企画です(筆者は少しマニアックなNORITA66というカメラで展示します)。様々な中判カメラの写真を知ることができるチャンスですので、これから中判カメラを始めたいという方必見の展示となる予定です!
実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるフィルムワークショップ「フィルムさんぽ」にもご参加いただければ嬉しいです!ではまた、次の記事でお会いしましょう!
写真展情報

■国産中判フィルム写真展2025 Tokyo
開催日時:
2025年6月4日(水)~6月9日(月) 12:00~21:00
※初日6月4日は15:00会場、最終6月9日は19:00閉場
場所:
ギャラリー大和田
東京都渋谷区桜丘町23-21(渋谷区文化総合センター大和田 2F)
https://shibu-cul.jp/event/36053
■国産中判フィルム写真展2025 Osaka
開催日時:
2025年6月18日(水)~6月22日(日) 14:00~20:00
※最終6月22日は12:00~17:00閉場
場所:
GalleryRoom305
大阪府大阪市城東区新喜多1丁目1−2 京橋三共ビル 4F
https://www.gallery-room305.com
■写真展公式サイト
https://amemiya-hair.tokyo/kokusan-cyuban-no2/
■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。