写真が主役の美術館やイベントを一挙紹介 『写真を見る旅』のすすめ

鹿野貴司
写真が主役の美術館やイベントを一挙紹介 『写真を見る旅』のすすめ

はじめに

ShaShaをご愛読いただいている方は、熱量に差はあれど写真撮影を趣味にされているはず。今は夏休みの計画を立てているかもしれないが、遠くへ出掛けるとなると、行き先候補は絶景や情緒のある場所ではないだろうか。もちろん撮ることも楽しいが、“見る”こともプランに加えることをおすすめしたい。

日本各地には写真専門、あるいは写真を多く所蔵する美術館・ギャラリーが多数存在する。設立の経緯としては、ご当地の写真家による作品を収蔵する目的が多い。つまり作品に写る風景の今を、実際に目にしたり、自分自身で撮ることができるというわけだ。

旅先で名作や名機に触れる

写真系の美術館・博物館・ギャラリーから、某グルメガイドブック風にいえば“わざわざ訪れる価値のある”ところをピックアップしてみた。

北海道美瑛町・拓真館

日本の風景写真界のパイオニア・前田真三氏(1922-1998)は、日本縦断の途中で美瑛の丘に魅せられた。その後もたびたびこの地を訪れ、代表作「麦秋鮮列」などを撮影。そして昭和62(1987)年、廃校跡に構えた住居兼ギャラリーがこの拓真館だ。僕が初めて訪れたときは前田氏がご健在で、自ら来客を出迎えていたのを思い出す。庭には白樺林が広がり、今では美瑛・富良野観光の定番スポットとして賑わう。

▼施設情報
HP:https://www.takushinkan.shop
住所:北海道上川郡美瑛町拓進
TEL:0166-92-3355
入館無料
4~10月は10~17時(入館は16時45分まで)、11~3月は10~16時(入館は15時45分まで)
無休(臨時休館や展示替えによる休館あり)

山形県酒田市・土門拳写真美術館

故郷・酒田市から名誉市民の称号を授与されたのを機に、土門拳氏(1909-1990)が全作品を故郷・酒田市に寄贈。本人は質素な収蔵庫でも作ってもらえれば、と話したそうだが、想定以上の賛同者や寄付金が集まり、設計は谷口吉生氏、彫刻はイサム・ノグチ氏、銘板は亀倉雄策氏の手による名建築が生まれた。森と池に挟まれた静謐な空間に、約13万5000点の作品を収蔵する。

▼施設情報
HP:http://www.domonken-kinenkan.jp/
住所:山形県酒田市飯盛山2-13
TEL:0234-31-0028
入館料900円(特別展開催時は1300円)
9~17時(入館は16時30分まで)
無休(12~3月は月曜休館、祝日の場合は翌日)

北前船で栄えた酒田は、国史跡の「山居倉庫」(写真)など見どころもたくさん。また新鮮な魚介や銘酒、名物・酒田ラーメンなど、グルメも楽しめる。

東京都目黒区・東京都写真美術館

個人の名を冠するものを除けば日本初の写真専門美術館。平成2(1990)年に一部開館、平成7(1995)年に恵比寿ガーデンプレイス内へ移転し、現在の規模になった。そんな首都圏在住の写真愛好家には身近な“としゃび”だが、ここを目当てに遠方から上京する人も多い。常に複数の企画展が開催されているほか、写真集や写真に関する雑誌・書籍を集めた図書室もある。

▼施設情報
HP:https://topmuseum.jp/
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス
TEL:03-3280-0099
入館料は展示により異なる
10~18時(入館は17時30分まで)、木・金は20時まで。展示などにより異なる場合あり
月曜休館(祝日の場合は翌平日)

日本カメラ博物館

平成元(1989)年に開館したカメラの博物館。国内外のさまざまなカメラを見ることができるほか、さまざまなイベントも開催している。隣接するビルには写真専門の図書館・JCIIライブラリーや、さまざまな企画展を行うJCIIフォトサロンもある。

▼施設情報
HP:https://www.jcii-cameramuseum.jp/
住所:東京都千代田区一番町25 JCII一番町ビルB1F
TEL:03-3263-7110
入館料300円
10~17時
月曜休館(祝日の場合は翌日)、他に臨時休館あり

ミュゼふくおかカメラ館

約4000点のカメラをコレクションする一方、企画展をおよそ2か月単位で開催。以前は東京から行くのは大変だった高岡も、北陸新幹線の開業で日帰りも可能に。レトロな町並みが残る高岡市街や、日本の原風景を感じさせる砺波平野など、近隣には魅力的な被写体も多い。

▼施設情報
HP:https://www.camerakan.com/
住所:富山県高岡市福岡町福岡新559
TEL:0766-64-0550
入館料は企画展によって変動
9~17時(入館は16時30分まで)
月曜休館(祝日の場合は翌日)、他に展示替えによる休館あり

入江泰吉記念 奈良市写真美術館

奈良の寺社や仏像、風景を独特なトーンで撮り続けた入江泰吉氏(1905-1992)が、全作品を奈良市へ寄贈したことで開館。瓦葺き+ガラス張りという和洋折衷の建物は黒川紀章氏によるもの。入江氏の他にも奈良ゆかりの写真家や画家、工芸作家の作品を収蔵する。若草山の麓の閑静な場所にあり、春日大社や志賀直哉旧居からも近い。

▼施設情報
HP:https://naracmp.jp/
住所:奈良県奈良市高畑町600-1
TEL:0742-22-9811
入館料700円
9時30分~17時(入館は16時30分まで)
休日の翌平日休館、他に展示替えによる休館あり

入江氏が終戦の翌年から毎年撮り続けたのが東大寺の「お水取り」。その舞台である二月堂からの眺めだが、左奥にみえる三角の屋根が大仏殿。その向こうに入江氏の旧居があり、こちらも一般に公開されている。
https://kyukyo.irietaikichi.jp/

鳥取県・植田正治写真美術館

地元・鳥取砂丘を舞台に、数々の名作を生み出してきた植田正治氏(1913-2000)の作品およそ12000点を収蔵。晩年は一般にも広く名が知られたこともあり、多くの観光客が訪れる。コンクリート打ちっぱなしが印象的な建物は、高松伸氏が植田氏の代表作「少女四態」をモチーフに設計したもの。常設展のほか、約3か月周期で企画展も行っている。

▼施設情報
HP:https://www.houki-town.jp/ueda/
住所:鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3
TEL:0859-39-8000
入館料1000円
10~17時(入館は16時30分まで)
火曜休館(祝日の場合は翌日)、12月11日~2月末日まで冬期休館、他に展示替えによる休館あり

館内から大山を望む。このロケーションも魅力だ。
距離は離れているが、故郷・境港の中心街には氏が営んでいた「植田カメラ」の建物が。現在は営業していないものの、ガラス越しに面影を見ることができる。

鳥取県琴浦町・塩谷定好写真記念館

日本における芸術写真の草分け的存在、塩谷定好氏(1899-1988)の旧居で遺品や作品を展示。塩谷家は廻船問屋を営む名家で、5棟からなる建物はすべて明治時代築の国登録有形文化財となっている。日本海に沿って続く伯耆街道の宿場町・赤碕にあり、周辺は古い民家や商家が立ち並ぶフォトスポットだ。

▼施設情報
HP:https://teiko.jp/
住所:鳥取県東伯郡琴浦町赤碕1568
TEL:0858-55-0120
入館料300円
9~14時
火曜休館

風情あふれる佇まいが、往時の栄華を伝える。地元の方々が管理・運営をしているが、僕が訪れたとき案内してくださった方は、なんと幼少期の姿が展示作品に写っていた。
塩谷氏の代名詞といえば、伝説のソフトフォーカスレンズ「ベス単フード外し」。氏が愛用したそのレンズも展示されていた。

本来なら上記に入るべき清里フォトアートミュージアムは、清里から同じ山梨県内ながら、より東京に近い河口湖畔への移転を進めている。開館時期はまだ発表されていないが、国内有数の写真コレクションを有するだけに、復活が待たれるところだ。

また写真作品を多数収蔵・展示する美術館もある。代表的なところでは写真に関する企画展も多い東京国立近代美術館、奈良原一高氏(1931-2020)の作品を収蔵する神奈川県・横浜美術館や、多くの有名写真家を輩出した沖縄の沖縄県立博物館・美術館だろうか。さらに写真家が自らの作品を展示・販売する小規模なギャラリーも全国にたくさんある。印象深い作品と出会うことで、旅はさらに充実するはずだ。

京都に世界の名作が集う「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」

また音楽のフェスのように、写真のフェスもいくつか存在する。トークイベントやワークショップのような参加型のプログラムもあるが、展示中心のイベントであれば、旅のプランにもフレキシブルに組み込める。

とりわけ観光的な魅力も大きく、規模も日本最大級なのが例年4~5月、京都市一円で繰り広げられる「KYOTOGRAPHIE」だ。会場は市中心部の美術館や寺院、歴史的建造物、さらに普段は公開されない建築物など複数にわたる。2026年は14の展示が行われたが、同じエリアに2~3か所展示があるなど、比較的回りやすい設定だった。集中すれば1日で回れるボリュームだ。

また次の章で後述するが、サテライトイベント「KG+」もあり、こちらは年々規模が拡大する一方。滞在日数によって何を見るか厳選することになるが、それもまた楽しい。目安としては3日あれば「KG+」まで含めて、存分に鑑賞できると思う。

なお「KYOTOGRAPHIE」は展示ごとに入場料が設定(一部は無料)されているが、すべての会場に1回入場できるパスポート(前売り5500円、一般6000円、デジタルチケット5800円、平日限定4500円など)のほか、期間中何度も鑑賞できるエクスプレスパスポート(15000円)も販売されている。ちなみにパスポートは2026年度から京都市のふるさと納税返礼品になっており、かなりお得に入手できる。

大規模な展示が行われる京都市京セラ美術館では、森山大道氏の「A Retrospective Presented by Sigma」(写真)など3展示が行われていた。森山氏の展示はまさに圧巻の一言。近作や復刊された写真集を自由に閲覧できるのもよかった。
今年のテーマは「EDGE」だが、その中にひとつの国をフォーカスする企画として「SOUTH AFRICA IN FOCUS」が設けられていた。森山氏の隣ではアパルトヘイトの実態を撮り続けた黒人写真家、アーネスト・コール氏の展示「House of Bondage|囚われの地(Supported by Cheerio)」が。差別の現実を真正面から捉え、写真の力をまざまざと見せつけられた。

「KYOTOGRAPHIE」で毎回話題を集めるのが、普段入ることのできない特別な場所での展示。以前は市場の古くて巨大な冷蔵施設が使われたり、ここ数年は京都新聞の元印刷工場が使われてきた。2026年は昭和5(1930)年に建てられた真宗大谷派(東本願寺)の施設・重信会館が初めて会場に。廃墟を撮影するフランスの写真家ユニット、イヴ・マルシャン&ロマ・メェッフェルによる展示「残されるもののかたち」が行われた。

蔦の絡まる重信会館は2001年まで大谷大学の学生寮などとして使われ、展示が行われた室内には学生の落書きや戯れに貼ったシールも残っていた。現在も時折こうしたイベントで使われるので廃墟ではないが、遮光や照明を落とすなどの演出で作品の世界観を館全体で表現していた。
建物の存在感もさることながら、展示作品が圧巻だった。デトロイトや軍艦島といった、産業の衰退が生み出した廃墟を緻密に再現。一方、パリの写真を生成AIで廃墟に変化させ、これからの出来事を表現している。大判カメラと生成AIという両極な存在を自在に操り、廃墟というものを多面的に表現していた。
屋上にも作品が。赤い望遠鏡を覗くと、京都タワーや周辺の町が思わぬ姿に……。
こちらは京都文化博物館別館のリンダー・スターリング氏「Linder: Goddess of the Mind Presented by CHANEL Nexus Hall」。イギリス・リバプールで生まれ、70年代後半のパンクシーンで頭角を現した彼女の主要作品を展示していた。
誉田屋源兵衛 竹院の間で展示されていた、ケニア出身のアーティスト、タンディウェ・ムリウ氏による「Camo Presented by LONGCHAMP」。アフリカ伝統のワックスプリントをモチーフに、根強く残る女性性への問いを提起している。
昭和の面影を残す出町桝形商店街は、例年「KYOTOGRAPHIE」でアフリカのアーティストによる巨大作品で彩られる。今回は先に紹介したタンディウェ・ムリウ氏が京都に滞在。日本の染織工芸を取り入れた新作「一如」を制作した。こうして作品が町に溶け込むことで、「KYOTOGRAPHIE」「KG+」とも回を重ねるごとに京都の一大イベントへと成長している。

「KG+」で京都の町が写真のフェス会場に

サテライトイベントの「KG+」は2026年、ついに参加する写真展が200を超えた。公募で世界中から選ばれた10人の写真家による「KG+SELECT」のほか、協賛企業の主催・協催による「KG+SPECIAL」、ファインアートとしての作品展示を行う「KG+ for Collectors」、さらにプログラムナンバーは1から183まである「KG+」が、京都市内で一斉に展開される。不意に素晴らしい展示や作品に出会うこともあり、オリエンテーリングのような楽しみもある。

会場にはギャラリーもあるが、ホテルのロビーや飲食店、さらにプライベートスペースを使ったような小規模な展示も。京都ならではの町家を会場とする展示も多く、違った角度から京都観光を楽しめる。さらに京都らしいといえば、自治会が大学当局と対立していることで有名な京都大学の吉田寮や熊野寮がここ数年続けて参加していること。両寮とも撮影禁止のため写真でお見せできないのが残念だが、会場は普段関係者以外立ち入ることのできない寮内。“らしさ”が存分に発揮された展示は見応えがある。

「KYOTOGRAPHIE」「KG+」は紙のガイドのほか、iOS向けに地図や検索機能も備えたアプリも提供されている。今近くでどんな展示が行われているかが一目瞭然。見たい展示に星印をつけ、それだけを表示させるといったソート機能もある。「KG+」は200近いプログラムがあり、紙の地図では到底フォローしきれないので、もはやアプリは必須だ。なおAndroid向けにはウェブ上で同様の地図が公開されている。
「KG+」の展示会場の外にはこのように黄色いノボリが立っている。なお「KYOTOGRAPHIE」は赤いノボリ。
アニエスベー カフェ 祇園店で行われていたジェレミー・エルキン氏の「Upmost for the Highest」。会場には敷居の高そうなハイブランドや老舗の店舗、ハイソな飲食店も多いが、総じて写真を見に来ただけの客にとても優しい。

僕もゴールデンウィークは京都へ行くのが毎年恒例になっているが、「KYOTOGRAPHIE」は当然見るとして、宝探しのような「KG+」が個人的には楽しみでもある。2026年は4泊5日で「KYOTOGRAPHIE」を12、「KG+」を48、さらにプログラムに含まれていない写真展をいくつか見ることができた。町を歩きながら写真を撮りながらの数なので、日数のわりには多くないと思うが、ひとつの目安としてどうぞ。

なお中心街から外れた展示を回るなら、いくつかあるシェアサイクルを使うのがおすすめだ。中心部には自転車通行禁止のエリアもあるが、一方で大通りは道幅が広く、自転車も走りやすい。シェアサイクルなら目的地周辺での返却もできるし、写真鑑賞や飲食の間は一旦返却、目的が済んだら再レンタルをすることで料金も節約できる。

観光と組み合わせるなら「東川町国際写真フェスティバル」も

「写真の町」として知られる北海道東川町で毎年7~8月に行われる「東川町国際写真フェスティバル」も、写真界では注目を集めるイベントだ。各賞の受賞作品のほか、学生や有志による展示などが町の中心部で行われる。東川町は他にも「写真甲子園」を開催するなど、写真を通した町おこしを展開。北海道屈指の人口増加率を誇り、おしゃれなカフェやショップが集まる魅力的な町になった。

そんな町の中心にある「東川町文化ギャラリー」は、まるで美術館のような写真ギャラリー。フェスティバル期間中は受賞作品展の会場になるが、それ以外のときも見応えのある展示を企画している。

図書館などからなる複合施設「せんとぴゅあ」は、写真集を多数収蔵。フェスティバル開催中は芝生の広場で、日本各地の写真学校から選りすぐった学生による展示が行われる。
東川町は北海道有数の米どころでもあり、見渡す限りの田園地帯もフォトジェニックだ。また登山愛好家に人気の大雪山や、隣の旭川市にはなるが、中心街から車で15分ほどの場所に旭山動物園もある。

他にも毎年開催されているものとしては宮城県「塩竈フォトフェスティバル」(2026年は3/6~3/15開催)、群馬県「浅間国際フォトフェスティバル」、東京都「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」(毎年10月に開催)、長野県「軽井沢フォトフェスト」(2026年は5/1~5/31に開催)、さらに不定期や単発で開催されるものなど、写真を軸にしたイベントは各地で行われている。そうした催しに1泊2日、あるいは祝日を絡めて2泊3日で旅をするのもいいだろう。

 

 

■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。

 

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