世界から注目される「KYOTOGRAPHIE 2026」、心を揺さぶる5つの写真展

ShaSha編集部
世界から注目される「KYOTOGRAPHIE 2026」、心を揺さぶる5つの写真展

はじめに

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭のことをご存じだろうか――今年で14回目を迎えた国際的なフォト・フェスティバル。世界中から多くの写真好きが京都を訪れ、春の風物詩的なイベントとして定着している。今回のテーマは「EDGE」=際(きわ)。
ステートメントにはこのように記されている。「写真は臨界点に立たされている——先が見えない不安と、何かを発見する高揚感。その両者が共存する場所に」と。

また、今回のKYOTOGRAPHIEが特別な年になる出来事があった。それは開催に先だって発表された。共同創設者/共同ディレクターであるフランス人フォトグラファーのルシール・レイボーズと照明家の仲西祐介夫妻に、フランスより芸術文化勲章シュヴァリエが授与されたのだ。日本の写真界では、植田正治(1996年)、森山大道(2018年)らが受章しており、ふたりの栄誉は彼らに続くものである。

さて、今回のKYOTOGRAPHIEはどのような輝きを放っているのか、京都の街中を歩きながら会場をめぐっているうちに、従来よりも硬質なジャーナリズムを感じることに気づいた。そもそも写真は多様性に裏付けられたメディアだが、従来のKYOTOGRAPHIEは、もっとアーティスティックな色彩が強かったように思える。それが、今回のテーマである「EDGE」ゆえのキュレーションなのか真相は分からないが、とりわけ心を揺さぶられた5つの写真展を選りすぐって紹介したい。

※TOP画像 ファトマ・ハッスーナ「The eye of Gaza」八竹庵(旧川崎家住宅)展示風景

アーネスト・コール 『House of Bondage|囚われの地』

Supported by Cheerio
In collaboration with Magnum Photos

恥ずかしながら、私はこの偉大な黒人フォトグラファーの存在を知らなかった。南アフリカ初のフォトジャーナリストといわれるアーネスト・コールは、1950~60年代にアパルトヘイト体制の過酷な状況を——鉱山、病院、裁判所、警察署、刑務所、隔離居住区といった場所で——多くは非常に危険な状況で撮影した。その成果は1967年に刊行された写真集『House of Bondage(囚われの地)』として結実。この写真集によって、アパルトヘイトの実情を世界に知らしめ、人々を動かすことになる。なお、今回の写真展は『House of Bondage』に収められた作品からセレクトされている。

展示会場の入口はアパルトヘイトの疑似体験だ。「WHITES」「NON- WHITES」の2つに分かれており、来場者はどちらか一方を通過しなければならない。会場に足を踏み入れると、テーマごとに分類されたモノクロ写真が、職場や学校、病院までもが差別の現場であったことを雄弁に物語るのだ。

コールは1966年に南アフリカから米国に亡命。68年には南アフリカ政府から永久追放処分を受け、パスポートも剥奪される。その後、ホームレス状態となるなど生活は破綻、1990年に49歳で死去した。彼が残した『House of Bondage』はフォトジャーナリズムの金字塔ともいえる作品であり、コールの遺志は現代のあらゆる差別に向かって「NO」を突き付ける勇気の源泉となっている。

アーネスト・コール「House of Bondage|囚われの地」京都市京セラ美術館 本館 南回廊 2階 Supported by Cheerio In collaboration with Magnum Photos
(C)Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026

会場の入口は「白人」「非白人」に分かれる。これはアパルトヘイトの偽りなき現実であり、来場者にとっては、アパルトヘイトを疑似体験する装置となる。

(C)Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026

実際にコールが撮影したモノクロネガのコンタクトシートを拡大してプリント。会場の壁を規則的に飾る。その間をモノクロのプリント作品が横一列に並ぶ会場構成。

「ヨーロッパ系のみ」と書かれたベンチに腰掛ける白人女性(中央)など、徹底された隔離と差別の痛ましい現実。それは、当時の南アフリカにとっての日常だった。
学校における差別もコールは隠し撮りでフィルムに収めた。アンリ・カルティエ=ブレッソンに多大なる影響を受けたというコールの撮影技術は秀でていた。

アントン・コービン 『Presence』

Supported by agnès b.
With subsidy of the Embassy of the Kingdom of the Netherlands
and the Mondrian Fund

時代は20世紀後半——アイルランドのロックバンドU2のアルバム『ヨシュア・トゥリー』が世界中で大ヒット。そして、米国カリフォルニア州に位置する荒涼とした大地で撮影された印象的なアルバムジャケット。この歴史的名盤の「顔」を撮ったのがアントン・コービンだ。 

1955年オランダのロッテルダム近郊で生まれ育ったコービンの50年以上にわたるキャリアから、100点近い作品を展示。初期のポートレート作品からはじまり、1980年代にヨーロッパ各地の墓地で撮影した「Cemetery」シリーズで締めくくる。

コービンはU2以外にも、人気ミュージシャンやアーティスト、デザイナー、モデルなど、時代を象徴する著名人を数多く撮影してきた。会場に並ぶ作品に写し出された被写体のラインナップは息をのむほど華麗だ。が、そこにあるのは、決して「いつもの彼ら」ではない。普段は見せない強さ、ナイーブさ、ユーモラスな表情などが見る者の心を鷲づかみにする。作品の力強さは唯一無比。被写体であるスターたちの稀有な表情を引き出すコービンの卓越したスキルを感じさせる。

そして、特筆すべきは京都で撮影されたインタビュー映像。フィルム写真の「不完全さ」の魅力や、自身の撮影スタイルについての見解がコービンらしい謙虚さと真摯さに溢れていて、ファンは必見だ。

アントン・コービン「Presence」嶋臺(しまだい)ギャラリーSupported by agnès b.
With subsidy of the Embassy of the Kingdom of the Netherlands and the Mondrian Fund
(C)Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026

時代を代表するミュージシャンやクリエイター、モデルなどのポートレート作品が並ぶ光景は圧巻。ひと目でコービンの作品とわかるモノクロ写真の傑作たち。

(C)Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026

和の空間とロックスターのコラボレーションが不思議な一体感を生む。モノクロ写真と木造建築が醸し出す妙味を楽しめるのはKYOTOGRAPHIEならでは。

(C)Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026

ナオミ・キャンベル、プリンス、ブルース・スプリングスティーン……普段あまり見せることのないスターたちの佇まいが、訪れる人々の視線を釘付けにする。

森山大道 『A Retrospective』

Presented by Sigma
Exhibition organised by KYOTOGRAPHIE and Instituto Moreira Salles
In collaboration with Daido Moriyama Photo Foundation

日本を代表するストリートフォトの第一人者——森山大道の名を知らない写真ファンはいないだろう。1960年代から活躍してきた森山にとって、過去最大級の回顧展といっても過言ではない。テーマを絞った企画展とは異なり、全キャリアを網羅するような展覧会だけに「新たな発見はないかもしれない」という余計な心配は見事に吹っ飛んだ。
とにかく、会場構成の素晴らしさは前代未聞だ。写真界の歴史に燦然と輝く名作も、どこかで見覚えのある佳作も、カラーもモノクロも、フィルム作品もデジタルフォトも、すべてが混然一体となって、森山ワールドを作り上げる。 

一つひとつの作品をじっくり見る展覧会ではないかもしれない。額装された作品が少ないのは、この会場デザインが意図していることの表れではないか。作品の多様性だけでなく、展示表現の多彩さが、空間を生き生きとした躍動感で充満させる。フレームやパネルに加えて、スクリーンに映し出される映像、写真集や書籍の展示まで。あらゆる表現方法を駆使して出来上がった会場デザインは、一度きりの滞在では飽き足らないほど完成度が高い。

森山大道「A Retrospective」 京都市京セラ美術館 本館 南回廊 2階
Presented by Sigma
(C)Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026

展示会場の入口は作家名がはみ出すほど大きくレイアウト。黄色と黒の配色が潔いほどシンプルに訴えかけてくる。期待を膨らませる秀逸なグラフィック・デザイン。

(C)Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026

森山作品を大胆に使ったインスタレーションともいえる会場デザイン。カラー作品のコラージュによって、視界に入った瞬間から心にざわつきを生む効果をもたらす。

森山の代表的なモチーフのひとつである網タイツにモノクロのコンタクトシートを載せたビジュアルの展示。今では希少なコンタクトシートを効果的に取り入れている。

イヴ・マルシャン& ロマ・メェッフェル 『残されるもののかたち』

フランス人写真家ユニットのイヴ・マルシャン& ロマ・メェッフェルは20年以上に渡り、廃墟を撮り続けてきた。米国のデトロイトや日本の軍艦島をはじめ、音楽ホールや劇場など、時代とともに衰退した建築物を被写体とする。彼らの作品から感じるのは、「喪失から生まれる美のかたち」といえるものだ。

今回の展示会場として選ばれたのは、まさに彼らが追い求めるテーマに相応しい建築物。1930年に建てられたレトロな建物の名称は「重信会館(じゅうしんかいかん)」。かつては大谷大学の学生寮などとして使われてきたが、2001年に閉鎖。通常は非公開の重信会館を展示会場としたことで、彼らが築き上げた世界観をより一層際立たせることになった。

廃墟の中で見る廃墟作品。ただ、それだけで終わらないのが、この写真展のユニークなところ。まず、新シリーズが意欲的かつ創造性に秀でている。「Les Ruines de Paris(パリの廃墟)」シリーズは生成A lを用いて、パリそのものを廃墟に変えてしまった。ルーブル美術館やエッフェル塔といったパリの名所が廃墟として写し出される姿には、いっさいの言葉を失う。私たちが目にしているのは、近い未来なのか、フェイクなのか、あるいは、喪失への恐怖心が生み出した誇大妄想なのか。

屋上に上がると、京都の街中とは思えない広々とした風景を見下ろすことができる。ビル群の向こうには、京都タワー。そして、屋上に据え付けられている赤い観光望遠鏡を覗き込むと、まさかの風景が映し出される——。

1930年に建造された重信会館はアールデコ調のデザインや蔦が絡まるファサードによって高い人気を誇る。以前は大谷大学の学生寮だった。
世界文化遺産として知られる長崎県の軍艦島を撮影した作品。明治~昭和時代には海底炭鉱で栄え、かつて世界一の人口密度を誇ったが、1974年に閉山後は無人島に。
重信会館の屋上に上がると、驚くほど広々とした空間に行きつく。真っ赤な観光望遠鏡が何かを期待させるが、レンズの向こうに見える風景に愕然とする。

ファトマ・ハッスーナ 『The eye of Gaza』

パレスチナ出身のフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナ。2025年4月16日、ガザ市東部アル・トゥッファーハ地区の自宅がイスラエル軍の空爆を受け、家族6人とともに命を奪われたという。ハッスーナは25歳になったばかりだった。

「ガザの眼(The Eye of Gaza)」とも呼ばれていたハッスーナの作品はガザ各地で展示され、多くの人々の共感と関心を呼んだ。ガザの惨状を写真に収め、世界に発信していたハッスーナ。今回の作品は照明のない暗闇の会場でスライド展示されている。スライド作品が映し変わるたびに、崩れ落ちたビルや瓦礫と化したガザ市街の悲惨な状況が繰り返される。会場に腰を下ろした人々は揃って言葉を失い、破壊されたガザの映像に見入るばかりだ。

ハッスーナが亡くなったのは、自身が登場する映画『手に魂を込め、歩いてみれば』がカンヌ映画祭に正式出品される知らせを受けた翌日だった。将来が嘱望されていた若きジャーナリスト。そんな彼女の言葉が残されている。

「今こそ、この戦争を撮って世界に見てもらわなければ。他に誰がやるの?」

「ガザの眼(The Eye of Gaza)」とも呼ばれていたファトマ・ハッスーナ。その作品には、悲惨な戦禍だけではなく、たくましく生きる子どもたちの姿もあった。

概要

「KYOTOGRAPHIE 2026」
期間:2026年4月18日〜5月17日
料金:パスポートチケット ¥6,000(オンライン¥5,800) 学生¥3,000 エクスプレス¥15,000
単館チケット¥800~¥1,500 学生¥400~¥800 各種割引、無料会場もあり
公式サイト:www.KYOTOGRAPHIE.jp
Instagram:@KYOTOGRAPHIE

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