ネイチャースナップのすすめ|マクロレンズを楽しもう
はじめに
ネイチャースナップでは、いろいろな場所で自然的な被写体を撮影します。そのなかで欠かせないのがマクロレンズになります。マクロレンズがあれば、どんな場所でも被写体を見つけられると言ってもいいでしょう。
今回は、撮影に出るなら必ず持っていたいマクロレンズについてお話ししようと思います。

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
■撮影環境:F3.2 1/200秒 +0.3EV補正 ISO800 WB太陽光
マクロレンズはこんなレンズ
みなさんは、マクロレンズというとどんなイメージがあるでしょうか。カメラメーカーのカタログなどを見ると、花とか虫をクローズアップした写真が使われていることが多いので、被写体を大きく撮影するためのレンズだと思っているかもしれません。それで間違いではありませんが、もう少し厳密に説明すると、普通のレンズよりももっと近づいて被写体を大きく撮影できるレンズだと思ってください。
どんなレンズでも「最短撮影距離」と言って、一番近くでピントを合わせられる距離が決まっています。たとえば、100mmの単焦点レンズの最短撮影距離が70cmだったとすると、同じ100mmのマクロレンズでは最短撮影距離が25cmくらいになるという具合で、かなり近接できるようになります。被写体を大きく撮影するためにはかなり近づかないといけないということは、忘れてはいけないポイントとなります。


■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + TAMRON SP AF180mmF/3.5 Di LD [IF] MACRO1:1
■撮影環境:F5.6 1/800秒 +0.7EV補正 ISO800 WB太陽光

どのくらい被写体を大きく撮れるのかを表す目安として、「最大撮影倍率」があります。被写体そのものの大きさとセンサー上に写る大きさを比較したもので、本格的なマクロレンズではセンサー上に実物大の大きさで撮れる「等倍」撮影が可能となっています。一般的なレンズでは0.2〜0.3倍程度のものが多いです。センサー上の被写体の大きさを表していますので、センサーサイズの小さい方が、画面上では大きく写ることになります。
最近はマクロと言いながら最大撮影倍率が0.5倍までのものもありますし、ズームレンズでマクロと表記があるものは補助的なマクロ機構付きということがあるので、購入前に最大撮影倍率を確認しておきたいところです。

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + SIGMA 70mm F2.8 DG MACRO Art
■撮影環境:F9 1/500秒 +0.3EV補正 ISO6400 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + SIGMA 70mm F2.8 DG MACRO Art
■撮影環境:F9 1/640秒 +0.3EV補正 ISO6400 WB太陽光 1.6倍クロップ
焦点距離の違い
マクロレンズを見ていると、さまざまな焦点距離のものがラインナップされていることに気づくと思います。現在主流となっているのは、50mmクラスと100mmクラスのものでしょう。以前は200mmクラスも多く発売されていました。
ここでは、50mm、100mm、200mmクラスのマクロレンズで、写り方の違いを見ていきます。
まず使い勝手の違いとして、「ワーキングディスタンス」(レンズ先端から被写体までの距離)が違ってきます。焦点距離が短くなるほどワーキングディスタンスも短くなり、等倍撮影時にはレンズ先端が被写体に触れるかどうかになったりレンズ先端やフードの影が被写体に落ちたりすることもありますが、左手の指で小さな花を摘んで固定しながら撮影するようなこともできます。
逆に焦点距離が長くなれば被写体から離れられるので、離れたところから大きく撮影でき、虫や小動物を驚かせずに撮影しやすくなります。
花を撮ることを例に考えてみると、自分で花を育てながら撮影している人などは花に近づいたり鉢を動かすようなこともできるので、50mmなど近くで撮影できる方が便利なことが多いです。柵に囲まれた植物園や遊歩道から離れられないフィールドでは花に近づけないことも多く、200mmクラスの方が扱いやすいです。100mmは両方の中間的な使い勝手でいろいろな場面に利用できる焦点距離となっていて、マクロレンズ入門におすすめです。


■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8
■撮影環境:F4 1/100秒 -0.3EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + EF100mm F2.8 Macro USM
■撮影環境:F4.5 1/160秒 +0.7EV補正 ISO1600 WB太陽光
画面構成的には、焦点距離によって前景や背景の写り方が変わってきます。被写体を同じ大きさで撮影した場合、焦点距離が短い方が背景が広く写り、焦点距離が長くなると写る範囲が狭くなります。
被写体を大きく見せながら周りの様子も画面に入れたい場合は焦点距離が短いレンズを使います。逆に背景を整理してスッキリしたい場合や、背景に見えるものを大きくしたいときには、焦点距離が長いレンズを使うのです。
撮影するシーンによって画面構成は違ってくると思いますが、自分の好みや撮影条件に合わせてレンズの焦点距離を選ぶことが必要なことが理解できるでしょう。


■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8
■撮影環境:F3.5 1/2500秒 +0.3EV補正 ISO800 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + TAMRON SP AF180mmF/3.5 Di LD [IF] MACRO1:1
■撮影環境:F7.1 1/200秒 +0.7EV補正 ISO320 WB太陽光


■撮影機材: PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8
■撮影環境:F4 1/125秒 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
■撮影環境:F4.5 1/200秒 ISO400 WB太陽光


■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + TAMRON SP AF180mmF/3.5 Di LD [IF] MACRO1:1
■撮影環境:F4.5 1/1000秒 +1EV補正 ISO2500 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + EF100mm F2.8 Macro USM
■撮影環境:F2.8 1/500秒 +1.3EV補正 ISO200 WB太陽光
距離感を覚えよう
マクロレンズを使いこなす第一ステップとしては、被写体までの距離感を覚えることです。初めてマクロレンズを使った人は、こんなに近づかないといけないのか!と驚くことでしょう。
望遠レンズは離れたところから被写体を大きく撮影できるのですが、マクロレンズは近づいて大きく写すレンズなので、等倍にしたときにどのくらい近づけば思い通りに撮れるのかを感覚的にわかるよう練習しておいてほしいです。
虫などを撮影するときに、一度近づいてから距離を変えるためにまた近づくようなことをすると逃げられてしまいます。花のような逃げない被写体であっても、この距離感が分かっていると、この花は離れすぎているから撮影には向かない、とかちょうどいい場所に咲いている花を見つけるのが簡単になります。
練習方法としては、家の中でもいいのでMFにしてピントリングを最短撮影距離にしておき、さっとカメラを構えると同時に思った場所に大まかにピントを合わせられるように繰り返すと距離感を身につけられます。

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + TAMRON SP AF180mmF/3.5 Di LD [IF] MACRO1:1
■撮影環境:F6.3 1/250秒 +0.3EV補正 ISO1000 WB太陽光
シャープに撮るコツ
何よりも難しいのが、マクロレンズを使ってシャープに撮影することです。クローズアップ撮影では思っている以上にピントの合う範囲が狭く、等倍撮影時には数mmずれるだけでピンボケになるので、ピント合わせはとにかくシビアです。AFに頼っても思ったところにピントが合っていないということも当たり前にあります。AFエリアは一番狭くして、ピントを合わせたい場所に正確に合わせます。うまくピントが合わないときは、MFに切り替えて拡大しながらピント合わせをするのもいい方法です。1枚だけ撮影して撮れたと思わず、撮影後はピントを確認するようにしましょう。
同時にブレも起きやすいです。拡大撮影しているためカメラブレ、被写体ブレともに目立つので、可能な限りシャッター速度を速めに設定しておくようにします。私は1/250秒以上を目安にしていて、被写体が動くときは1/1000秒程度にしています。
手持ち撮影では体を完全に固定するのは無理ですから、ピンボケ、ブレともに起きやすいです。数カット撮影しておいてもっともシャープに撮れているカットを選ぶといいでしょう。三脚が使えるときには利用すると歩留まりも良くなります。


■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + SIGMA 70mm F2.8 DG MACRO Art
■撮影環境:F2.8 1/125秒 +1.3EV補正 ISO200 WB太陽光


■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + TAMRON SP AF180mmF/3.5 Di LD [IF] MACRO1:1
■撮影環境:F3.5 1/320秒 +1EV補正 ISO200 WB太陽光
マクロレンズ=クローズアップではない
マクロレンズをつけると、何でもかんでも大きく撮影してしまう人もいるのですが、それはマクロレンズを活用しているとはいえません。
マクロ撮影をする人が口にする言葉に、「図鑑写真になってしまう」というものがあります。とにかく被写体を大きく画面に入れて撮影していると、その被写体だけが写っている写真になってしまい、並べてみると図鑑のようになってしまうということなのです。
マクロレンズは被写体を大きく撮影できますが、その被写体だけを画面に入れるのではなく、周りの空間を活かして画面構成することで写真にストーリーが生まれます。被写体のいる場所の雰囲気やその場の空気感を画面に入れることで写真に変化が出てきます。
被写体の特定の表情や動きだけに注目したいときは余計な要素を排して被写体だけで見せるのでも効果的ですが、ときには周りの空間を活かした画面構成も必要なのです。そのときは被写体が画面の中で小さく写っていても構いません。
適度に緩急をつけて被写体を捉えることで、マクロレンズを使いこなすことができます。


■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
■撮影環境:F3.2 1/200秒 +0.7EV補正 ISO400 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + SIGMA 70mmF2.8 DG MACRO Art
■撮影環境:F4.5 1/125秒 +1EV補正 ISO500 WB太陽光


■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + TAMRON SP AF180mmF/3.5 Di LD [IF] MACRO1:1
■撮影環境:F6.3 1/200秒 +1.3EV補正 ISO500 WB太陽光

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
■撮影環境:F2.8 1/250秒 +1.3EV補正 ISO200 WB太陽光
普段使いにも
普通のレンズよりも近づいて撮影できるレンズなので、クローズアップ撮影ばかりではなく、遠景などの風景撮影にもマクロレンズは利用できます。マクロレンズを1本つけて散歩しながら撮影してみると遠景から小さな被写体まで撮影できて、まさに肉眼で見ているような感じになります。
小さなものをときどき撮るという場合は、前回紹介した標準レンズの代わりに50mmマクロをつけているという人もけっこう多かったのですが、街中の公園などでネイチャースナップするときには広い風景を撮影することは少ないので、切り取りやすい100mmマクロでもいいと思います。
多くのマクロレンズの開放絞り値がF2.8といった明るいものなので、ちょっとした大口径単焦点レンズの代わりとしても使え、利用範囲は広いです。普段からいろいろな場面で使ってほしいレンズです。

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8
■撮影環境:F16 1/80秒 ISO400 WB太陽光

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8
■撮影環境:F4.5 1/80秒 ISO400 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + SIGMA 70mmF2.8 DG MACRO Art
■撮影環境:F11 1/160秒 -0.7補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
■撮影環境:F13 1/125秒 ISO800 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + TAMRON SP AF180mmF/3.5 Di LD [IF] MACRO1:1
■撮影環境:F4.5 1/1250秒 +1EV補正 ISO1000 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + TAMRON SP AF180mmF/3.5 Di LD [IF] MACRO1:1
■撮影環境:F16 1/8秒 -0.3EV補正 ISO1600 WB太陽光
まとめ
マクロレンズで撮影できる範囲はとても狭いので、ちょっとした小さな被写体があれば立派な被写体にできます。風景を撮影しに行って思い通りにならないときにも、視点を変えてマクロの視点で見てみると、何かしら見つけることができます。街中であってもじっくり探すことで被写体を見つけられるはずです。あとは慌てずゆっくり歩いて探すことです。
また、マクロレンズはほとんどが単焦点レンズなので、その画角に合った被写体を見つける練習にもなります。ぜひマクロレンズを活用して、身近な自然を楽しんでください。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。













