風景写真撮影テクニック~被写界深度合成編~|齋藤朱門

齋藤朱門
風景写真撮影テクニック~被写界深度合成編~|齋藤朱門

はじめに

前回の記事では、奥行きのあるシーンでの風景撮影で役に立つテクニック・撮影方法としてパンフォーカス撮影方法を紹介しました。今回はもう一つの方法である被写界深度合成について、その撮影方法と後処理について紹介したいと思います。

被写界深度合成

前回紹介したパンフォーカス撮影は、レンズの絞りとピント位置の関係から比較的簡単に、おおよそ全体にピントがあっているような状態で写真を撮影することができる方法です。

パンフォーカス撮影の欠点としては、全体がしっかりとガチピンの状態で撮影することは不可能であるということと、手前の前景部分も含めてパンフォーカスで撮影したい場合は超広角レンズを使用する必要があるという点かと思います。

これらの欠点を補いながら、奥行きのあるシーンで役立つもう一つの方法として被写界深度合成と呼ばれる方法があります。この方法はピント位置が異なる複数の写真を撮影し、それらを重ね合わせる方法です。複数の写真を重ね合わせる必要があるため、1枚撮りの方法であるパンフォーカスと比較すると少々手間がかかってしまうのが欠点ではありますが、最近では被写界深度合成を行うための機能がカメラ自体に搭載されている場合もあり、以前よりも取り入れやすい手法になってきていると思います。

作例1

■撮影機材:ソニー α7R V + タムロン 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD
■撮影環境:マニュアル露出・151mm・F11・ISO100・1/50秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + タムロン 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD
■撮影環境:マニュアル露出・80mm・F11・ISO100・0.5秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + タムロン 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD
■撮影環境:マニュアル露出・117mm・F11・ISO100・0.6秒
■撮影機材:ソニー α7R III + シグマ 14mm-24mm F2.8 DG HSM | Art
■撮影環境:マニュアル露出・14mm・F9・ISO100・1/125秒

撮影方法

手動でフォーカス位置を変える

基本的には三脚でカメラを固定した状態で撮影を行います。手動で手前から奥まで徐々にピント位置を変えながら複数枚の写真を撮影します。

レンズ側の絞り設定は使用するレンズにもよりますが、筆者の場合はF8-F11前後で撮影することが多いです。基本的にはそのレンズの解像性能が高い絞り値を選択するのが良いのですが、絞りを開放し過ぎてしまうと、後処理が難しくなる場合もありますので、程よい設定を覚えておくとよいでしょう。

フォーカス位置は撮影シーンによっても変わってきますが、少ない場合は2~3点、多い場合は10~20点前後でピント位置を変えながら撮影していきます。この時、カメラにタッチフォーカス機能やタッチシャッター機能が備わっている場合は、それらを併用すると、ライブビューでタッチし、フォーカス位置を変えながら素早く撮影を繰り返すことができて便利です。

フォーカスブラケット撮影

使用するカメラによっては、自動でフォーカス位置を変えながら連続撮影ができる ”フォーカスブラケット”と呼ばれる機能が搭載されている場合があります。

例えば、ソニー α7R Vの場合は以下のようにドライブモード設定の中にフォーカスブラケット設定があります。

フォーカス位置を動かすステップ幅と最大撮影枚数を設定できます。

さらにブラケット順序や撮影間隔の設定も可能です。
フォーカスブラケットの保存先を新規フォルダーとしておくと、フォーカスブラケット撮影をする毎に新しいフォルダーが作成されるようになります。

最初のピント位置を決め、シャッターボタンを押すとフォーカスブラケット撮影が始まります。

設定でフォーカスブラケット順序を「0→+」に設定している場合は、ピント位置が無限遠に達すると自動でフォーカスブラケット撮影が終了します。

カメラ内深度合成

さらに、カメラによっては、カメラの中で合成処理まで行うことが可能な場合もあります。ただし、カメラ内で合成を行うと微調整が難しかったりRAW保存ができないなどの制限もありますので、目的に応じて使い分けると良いと思います。

後処理方法

Adobe Photoshopを使う

Adobe Lightroom Classic と Photoshopを併用すると下記の手順で簡単に被写界深度合成を行うことができます。基本的な手順を説明します。

【被写界深度合成の手順】

1.Lightroom Classicを開き、フォーカスブラケット撮影を行ったデータを読み込みます。

2.これらを全部選択した状態でPhotoshopでレイヤーで開くを選択します。

3.Photoshop上でこれらのフォーカスブラケット写真がレイヤーパネルに読み込まれている状態になります。

4.レイヤーパネルでこれらの全レイヤーを選択します。

5.メニューの「編集」から「レイヤーを自動合成」を選択します。

「レイヤーを自動合成」ダイアログが開くので、「画像をスタック」を選択した状態でOKボタンを押します。

6.しばらく待つと、各レイヤーにレイヤーマスクが作成されます。(それぞれのレイヤーにある白黒のサムネイル)

7.全てのレイヤーを選択したままの状態で、「レイヤー」から「レイヤーを統合」を選択し、レイヤーを1つにまとめます。

8.この状態で保存(「ファイル」から「保存」)すれば、再びLightroom Classicに戻って被写界深度合成後の写真を編集することが可能です。

専用ソフトウェアを使う

Photoshopではなく、被写界深度合成の専用のソフトウェアを使用する方法があります。筆者が知っている有名な被写界深度合成ソフトウェアとしては “HeliconFocus”があります。

HeliconFocusのような専用ソフトウェアを使用すると、Photoshopよりも合成結果がより自然に仕上げられるメリットがあります。また、被写界深度合成専用ソフトウェアであるため、細かい調整が可能ですので、よりクオリティ高く仕上げることもできます。

HeliconFocusの画面

作例2

■撮影機材:ソニー α7R V + タムロン 50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD
■撮影環境:マニュアル露出・355mm・F16・ISO100・1/13秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 24-70mm F2.8 GM II
■撮影環境:マニュアル露出・34mm・F14・ISO100・1.3秒
■撮影機材:ソニー α7R III + シグマ 24-105mm F4 DG OS HSM | Art
■撮影環境:マニュアル露出・24mm・F6.3・ISO320・1/800秒
■撮影機材:ソニー α7R III + シグマ 14-24mm F2.8 DG HSM | Art
■撮影環境:マニュアル露出・14mm・F11・ISO100・1/13秒

パンフォーカスと被写界深度合成

パンフォーカスと被写界深度合成それぞれの方法の特徴をまとめると以下のようになると思いますので、撮りたいシーンや状況に応じて使い分けると良いと思います。

●パンフォーカス
・一枚撮りに向いている
・被写体・シーンに動きがあっても撮影できる
・手持ちでも撮れる
・ピント位置以外は若干甘くなる
・超広角・広角レンズが必要

●被写界深度合成
・全体にガッチリとピントが合う
・焦点距離に関係なく撮影可能
・複数枚を連続で撮影する必要がある
・後処理がやや面倒
・被写体やシーンに動きがあると難しい

まとめ

今回は被写界深度合成について、作例を紹介しながらその撮影方法と後処理の方法について説明しました。

多少、後処理が面倒な部分がありますが、ダイナミックな風景写真を品質高く仕上げることができる方法だと思います。是非この記事の内容を参考にしてフォーカスブラケット撮影や被写界深度合成を試してみていただけると嬉しいです。

 

 

■写真家:齋藤朱門
宮城県出身。都内在住。2013年カリフォルニアにて、あるランドスケープフォトグラファーとの出会いをきっかけにカメラを手に取り活動を始める。海外での活動中に目にした作品の臨場感の素晴らしさに刺激を受け、自らがその場にいるかのような臨場感を出す撮影手法や現像技術の重要性を感じ、独学で風景写真を学ぶ。カメラ誌や書籍での執筆、Web等を通じて自身で学んだ撮影方法やRAW現像テクニックを公開中。

 

 

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