風景写真撮影テクニック ~パンフォーカス編~|齋藤朱門

齋藤朱門
風景写真撮影テクニック ~パンフォーカス編~|齋藤朱門

はじめに

今回は風景写真撮影を楽しむ上で知っておくと役に立つ基本的な撮影テクニックの一つとして、パンフォーカスの撮影方法を紹介したいと思います。

奥行きのあるシーンでの撮影

風景写真の撮影では、撮影場所と主テーマにする被写体や、そのシーンをどう切り取りたいか、どう表現したいかによって、撮影方法・テクニックを使い分ける必要があります。

特に奥行きのあるシーンを撮影する場合には、前景から奥へと広がるような風景をダイナミックに切り取りたいことも多いと思います。

しかしながら、1枚撮影で手前の前景から奥にある風景まで画角全体にピントを合わせたいと思っても、どうしても手前もしくは奥がボケてしまうこともあると思いますが、その際に活用できる撮影方法の1つにパンフォーカス撮影方法があります。パンフォーカス撮影を行うことで、手前から奥まで全体的にピントを合わせることが可能になります。

パンフォーカスの具体例

パンフォーカス撮影方法の説明の前に、いくつかパンフォーカスで撮影した作例を紹介したいと思います。

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・25mm・F11・ISO100・0.6秒

秋田県の元滝伏流水で撮影した一枚です。奥の木々や滝の水の流れもしっかり表現するためにパンフォーカスで撮影しています。右手前の2つ目の岩の苔にピントを合わせて撮影しています。

■撮影機材:ソニー α7R III + シグマ 14-24mm F2.8 DG HSM | Art
■撮影環境:マニュアル露出・14mm・F14・ISO100・1/25秒

超広角レンズを使用し、縦構図で撮影すると奥行きが強調されよりダイナミックな表現となります。
手前の花は風で揺れていたため、ややブレてしまっていますが、超広角レンズでF14まで絞っているため全体的にパンフォーカス状態で撮影できています。

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・16mm・F16・ISO100・1/80秒
■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・32mm・F11・ISO100・1/25秒

ノルウェーのフィヨルドの海岸の作例。
どちらも手前の岩から奥のフィヨルドや岩山の地形までピントを合わせるために、パンフォーカスで撮影しています。

■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・21mm・F16・ISO100・1/3秒

こちらの作品は写真展で大きくプリントすることを念頭に高画素機で撮影したこともあり、手前の草の繊細さと奥の岩山のディティールの両方をしっかりと捉えるように、より絞り込んでパンフォーカスで撮影した一枚です。

■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:マニュアル露出・35mm・F14・ISO100・0.4秒

手前の雪肌の質感を抑えつつ、奥の凍った草木までピントを合わせるためにパンフォーカスを使用しています。
滝や渓流ではシャッタースピードも重要になってくるため、適切な絞りとシャッタースピードとなるようにNDフィルターも併用して調整することもあります。

パンフォーカス撮影方法

パンフォーカスというのは、全体にフォーカスが合っている状態のことを言います。とはいえ、どうしても1枚撮りで全体すべてをガチピンで撮影することはレンズの原理的に無理ですので、ある程度許容できる範囲でピントが合っている状態のことをパンフォーカスと言います。

パンフォーカスで撮影する場合には、どのポイントにピントを合わせるかが重要になってきます。というのも、焦点距離と絞り値によってフォーカスエリア(ピントが合っている領域)が変わってきますので、フォーカスエリアが最大になるポイントにピントを合わせることが重要です。

下図はピント位置とフォーカスエリアの関係を示したものです。
ここで過焦点距離という難しい言葉が出てきますが、過焦点距離というのは焦点距離と絞りから求められる値(後述)になります。

この図からもわかるように、フォーカスエリアを最大(パンフォーカス状態)にするには、ピント位置は過焦点距離にするのがベストということがわかります。また、過焦点距離は次の式で計算することができます。

例として、許容錯乱円半径=0.033mm としてグラフ化してみました。
(許容錯乱円半径は高画素機だとさらに小さい値になります)

このグラフからもレンズの焦点距離が短い広角レンズの方がより過焦点距離が近くなり、また絞りを絞ることでも過焦点距離が近くなることがわかります。(過焦点距離が近いということはフォーカスエリアが広いということ)

ただ、実際は撮影現場で過焦点距離を正確に測るのは難しいことが多いと思います。

筆者の場合は広角レンズでF11-F16で撮影する場合は

・ピント位置を前景までの距離x2にする
・ピント位置は手前1/3の距離にする

のいずれかでピントを合わせ撮影してみて、その撮影結果を確認しながら微調整するようにすることが多いです。

また、筆者の感覚的には、超広角レンズ(14mm~20mm程度)でF11以上で撮影すると、おおよそ全体にピントが合う状態で撮影できていることが多いため、超広角レンズを使った撮影のときはフォーカス位置さえ気をつければ、ほぼ常にパンフォーカス状態で撮影していることになります。

作例

パンフォーカスで撮影した他の作例もいくつか紹介したいと思います。

■撮影機材:ソニー α7R III + シグマ 14-24mm F2.8 DG HSM | Art
■撮影環境:マニュアル露出・14mm・F16・ISO100・1/200秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:マニュアル露出・54mm・F9・ISO100・1/80秒
■撮影機材:Fujifilm GFX100S + GF23mm F4 R LM WR
■撮影環境:マニュアル露出・23mm・F16・ISO100・0.8秒
■撮影機材:ソニー α7R III + ZEISS Batis 2/40 CF
■撮影環境:マニュアル露出・40mm・F16・ISO100・1/13秒

被写界深度合成

奥行きのあるシーンで奥から手前の前景まで全てにピントがしっかりと合った状態にするもう一つの方法として、被写界深度合成と呼ばれる手法があります。

この方法はピント位置が異なる複数の写真を重ね合わせる方法になるため、1枚撮りであるパンフォーカスと比較すると少々手間がかかってしまうのが難点ではあります。しかし被写界深度合成のメリットとしては、パンフォーカス撮影よりも更に全体にしっかりとピントが合う写真に仕上げることが可能な点です。

また、最近では被写界深度合成を行うための補助機能(フォーカスブラケット撮影機能)や、被写界深度合成自体がカメラに搭載されている場合もありますので、以前よりも難易度は下がっていると思います。

被写界深度合成の具体的な撮影方法と後処理の方法については、次回以降で詳しく説明したいと思います。

まとめ

今回はパンフォーカスについて、作例を紹介しながらその原理と撮影方法について説明しました。聞き慣れない用語や難しい式などが出てきたので、少し分かりづらい部分もあると思いますが、基本的なルールや仕組みを知っておくことで、より理解が深まり撮影現場でも活用することができると思っています。

是非この記事の内容を参考にして、パンフォーカス撮影を試してみていただけると嬉しいです。

 

 

■写真家:齋藤朱門
宮城県出身。都内在住。2013年カリフォルニアにて、あるランドスケープフォトグラファーとの出会いをきっかけにカメラを手に取り活動を始める。海外での活動中に目にした作品の臨場感の素晴らしさに刺激を受け、自らがその場にいるかのような臨場感を出す撮影手法や現像技術の重要性を感じ、独学で風景写真を学ぶ。カメラ誌や書籍での執筆、Web等を通じて自身で学んだ撮影方法やRAW現像テクニックを公開中。

 

 

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