アフロスポーツ 松尾憲二郎インタビュー|スピードスケート報道写真展「SPEED 1022」への想い

ShaSha編集部
アフロスポーツ 松尾憲二郎インタビュー|スピードスケート報道写真展「SPEED 1022」への想い

はじめに

新宿 北村写真機店 6F イベントスペースにて2023年9月1日(金)~9月18日(月)の期間で開催された、スピードスケート報道写真展「SPEED 1022」。2022年10月22日に長野エムウェーブで行われた、全日本スピードスケート距離別選手権にて撮影された全カット4370枚の写真が展示されています。この日は2018年平昌オリンピックで金メダル獲得など、数々の輝かしい成績を残してきた小平奈緒選手(相澤病院所属)のラストレースでもありました。

このレースの撮影を担当したのがスポーツフォトグラファーの松尾憲二郎さん(アフロスポーツ所属)。今回は特別にインタビューの時間をいただき、この写真展への想いを語っていただきました。

■スピードスケート報道写真展「SPEED 1022」
2023年9月1日 (金) ~ 9月18日 (月) @新宿 北村写真機店
https://www.kitamuracamera.jp/ja/event/aflosports_2023_0901

■松尾憲二郎 プロフィール
スキー、スノーボードの撮影にあけくれ雪山を登ってきた。2014年より「アフロスポーツ」所属。現在は様々なスポーツを撮影している。
https://sport.aflo.com/matsuo/

国際スポーツプレス協会 (AIPS) 会員
日本スポーツプレス協会 (AJPS) 会員

スピードスケートの魅力

― 数々の取材をされている中で、今回の写真展ではなぜこのレースを選んだのですか

最近はアフロスポーツが日本スケート連盟のオフィシャル撮影を担当していて、スピードスケート・ショートトラック・フィギュアスケートなどスケート関係の撮影が増えているんですが、それが始まったのがちょうどコロナ渦の無観客の時だったんです。

無観客で会場がシーンと静まった中で数シーズン選手たちは競技してきたわけですが、そんな中で小平選手がラストレースをやりますとなった全日本距離別選手権は久々に会場が大入りになったんです。数年撮り続けてきた中でやっぱり思うものは強くありますよね。

自分の中でも最も印象深い取材の一つにもなりましたし、色々な事情で会場に来れなかった人もいたと思うので、より多くの人にこの日の出来事を見てもらいたいという想いですね。

― 撮り手としてスピードスケートの魅力は何ですか

「速さ」ですね。やっぱり速いということは、めちゃくちゃ爆発力のある力強い動きをしているんですよね。でも氷の上ですからね。力を爆発させるんですけど、超繊細なコントロールが必要なわけですよ。爆発力と繊細さという一見矛盾するようなところを選手たちは研究して練習していて、その洗練された動きに面白さがあると思います。

スケートの靴を履いて滑るという部分はみんな同じですが、選手それぞれのフォームがあって十人十色の動きと結果がある。スタートシーンも姿勢など各々の形がありますし、見ていて一番面白いのはコーナリングですかね。体をどうコントロールしてコーナーを切り抜けるか、選手ごとにみんな違うのでそこにも注目してほしいです。

あとは長距離系だと1周何秒で回るとか、ラップタイムを見るのも面白いんですよ。そのタイムと実際の選手の動きがどうなっているか、会場で間近で見ていると本当に興味深く感じられると思います。

現場で感じた全てを伝えたい

― 斬新な展示が目を引きますが、その展示方法に込めた想いはありますか

報道したい伝えたい。じゃあ何をと言われると現場で感じたこと全部を伝えたいわけです。新聞やWEBサイトに載る分かりやすい1枚2枚っていうのが今、世の中の方々が見ているものだと思うんですね。その1枚や2枚で伝わることもありますが、それだけで全部を伝えられるわけではないと思うんですよ。現場というのは雰囲気だったり、熱気だったり、歓声だったり、振動だったり、いろんなことがあるんですよね。

なので、一つのことであっても伝えるためには1枚じゃ足りないんです。セレクトしなければ、少なくとも僕が見て感じていいと思った瞬間は伝えることができるので、それなら全部見せればいいという考えになりました。

4370枚すべてのコマを印刷したパネルは1枚1枚をゆっくり見る。お気に入りの写真を見つけてもいいし、自分の好きなシーンを探して気に入ったシーンを何回も見返してもいいと思います。

もう一つはプロジェクターで写し出した高速のスライドショーですね。この日の全カットを流れるように見てもらって、レース会場の時間の流れだったり、その場の間合いだったりっていうものを直感的に分かってもらえたらと思います。

この2パターンで見せることでかなりの情報量を与えることができると思うので、伝えられることも多いのではないかと思っています。この表現方法がどのように受け取られたか、観に来た方の感想もぜひ聞きたいですね。

― 大きく映し出された流し撮りのカットは松尾さんらしい1枚ですよね

アートっぽいとも言われることもあって、それは確かにそうなんですけど、僕としてはこれこそが現場を見て感じて、スピードスケートから感じているものでもあるので、これこそが僕の中でのスピードスケートの報道写真なんですよね。スピード感だったり、選手の力強い動きだったりが分かると思います。

この青い写真はレースの最終ストレートなんです。小平選手のラストレースの最後のストレート。現役生活としてはもう本当に最後、というシーンですね。平昌オリンピックでもこういったものを撮っていたので、そこは同じように撮影しました。これは同じ表現で別の大会を撮ることによって、それぞれの特色が出るようにしました。

もう1枚はコーナリングの最中です。コーナリングは難しくもあり面白味が詰まっているところですが、どう動いているかを伝えるには、やっぱり1枚止まった写真を見せるだけじゃ分からないんですよね。なので、動きのバリエーション、幅を見せることでどういった動きをしていたのかを理解していただけると思います。

例えば動画だとパッと見て全体の動きが分かりやすいと思いますが、その反面、瞬間でどう動いているかは止めないと見えないですよね。なのでこの流し撮り多重表現は静止画と動画のいいとこ取りみたいな感じで考えています。

これもやっぱり現場で見て感じたものを伝えるために、僕なりに考え抜いた表現方法ですね。アートだ報道だとか、そういう垣根は僕の中では一切なく、あくまで伝える・報道するための写真です。

― 実際に会場ではどのように撮影されているのですか

カメラは今はNikon Z 9を使っていて、基本は広角と望遠、そしてヨンニッパ(400mm f/2.8)を装着した3台体制で撮っています。ただこのレースのときはセレモニーも計画されていて、色々なシーンを撮るために会場内を走り回ることが予想されたので、広角・標準系のズームと超望遠ズームの2台体制で撮影していました。

レースの前半では会場と競技風景を一緒に撮って、有力選手が多くなってくる後半にはリンクサイドまで降りて競技の写真をしっかり撮っておく。基本的にメディアの撮影場所は決まっているのですが、オフィシャル撮影を長年やっていると自由に動けるところもあるので、自分の撮りたい場所で撮らせてもらいました。

これって限られた人にしか許されない贅沢なんですが、だからこそ撮り逃しも許されないですし、いろんなバリエーションも撮っておかないといけない。オフィシャル撮影の良いところでもありますが、プレッシャーで胃を痛くする部分でもあります。

自分の思ったものを思った場所から撮れるっていうのは表現しやすい、伝えやすいということにもつながると思うので、今回のテーマである報道するということに関しても、そこの自由度があるというのはすごく大事なことで、ありがたいことだと思っています。

選手たちの「動き」を感じてほしい

― ご自身の写真表現におけるこだわりは

先ほどお話したように、流し撮りは伝えたいことが伝えられるんじゃないかなというので、よくやっていますね。自分はこう撮りたいというよりも、どう表現すれば伝わるかという方向でいつも考えています。

今回映している小平選手の流し撮りの写真は、スピード感とともに腕の形や足の形、右の太腿の力強さとか、その辺もわかると思うんですよね。なので、これこそがスピードスケーティングを伝えるための表現です。

一方で、会場の雰囲気とか見えないものを絵柄で伝えるって結構難しいと思うんですよ。1枚だけじゃどうやっても伝わらないので、今回このような形の展示にしました。僕から押し付けるんじゃなくて、「こんな雰囲気だったんじゃないかな」って写真展を観た人が感じ取ってくれるといいですね。

― 撮影においてどんな瞬間を撮ろうと心がけていますか

全部ですね。もちろん全部撮り切ることは技術的にも難しいしできないんですけど、でもやっぱり撮影時点で120点を狙わないと100点満点の写真は残らないと思っています。全部撮れないのはわかっているがゆえに、ありとあらゆる瞬間を狙うようにしてます。

その中で自分が他のフォトグラファーと違うなと認識している部分として、自分は選手の「動き」を一番に見ているんですよね。大抵は有名な○○選手を撮る、という「人」に着目した考え方だと思うんですが、自分の場合はこの動きがいいな、強いな速いな、それが結果として○○選手でしたって流れなんです。スポーツの魅力はやっぱり「動き」だと思っていますので、その魅力的な動きを被写体として狙っていますね。

― 最後に、ご自身が写真を撮る時の原動力は?

アスリートの美しさを伝えたいって想いでしょうか。美しさって一言で言っても色々あると思うんですけど、形態美というんですかね。筋肉だったり骨格だったり、形状・ラインの美しさを僕の写真では一番大事にしています。スポーツの根底として僕が考えるものが「動き」なので、それを今後も表現していきたいと思います。

スピードスケート報道写真展「SPEED 1022」

2022年10月22日、ひさびさに大入りとなった長野エムウェーブで行われた、全日本距離別選手権。たくさんの観客に見守られ躍動するアスリートの姿に迫る報道写真展を開催します。
この日は長年スピードスケートを追求してきた小平奈緒選手のラストレースでした。一日に撮影された全てのカット、4370枚の写真を展示します。膨大な写真情報からあの日を振り返るのはいかがでしょうか。
写真展を通して、スピードスケートを感じていただく機会になれば幸いです。

アフロスポーツ 松尾憲二郎

■写真展 詳細
会期:2023年9月1日 (金) ~ 9月18日 (月)
会場:新宿 北村写真機店 6F イベントスペース
住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目26-14(JR新宿駅東口 徒歩4分)
時間:10:00 ~ 21:00
入場料:無料
主催 / 後援:株式会社 アフロ / 公益財団法人 日本スケート連盟

 

 

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