オールドレンズをAF化する電子マウントアダプターで「温故知新」
- はじめに
- 電子マウントアダプターとの出会い
- SMCタクマー 28mm F3.5(旭光学工業/M42マウント)
- W-ニッコール 3.5cm F2.5(日本光学/ニコンSマウント)
- 気になるAFの実力は…
- トプコール-S 5cm F2 前期型(東京光学/ライカL39マウント)
- M-ロッコール 40mm F2(ミノルタ/ライカMマウント)
- マウントアダプターの流儀
- BEROLINA-WESTROMAT 35mm F2.8(イスコ・ゲッチンゲン/M42マウント)
- オートマミヤ セコール 50mm F2 前期型(マミヤ光機/M42マウント)
- スーパータクマー 50mm F1.4 初代(旭光学工業/M42マウント)
- まとめ
- この記事に使用した機材
はじめに
カメラやレンズというのは、カテゴリーごとに周期的にブームがやってくるように思う。何かをきっかけにブームが起こる→中古価格が上がる→ブームが冷める→中古価格が下がる……を繰り返しているようにも感じる。オールドレンズもそのひとつで、ミラーレス機の登場とともにブームが到来。それまで格安だった中古の国産レンズにも高値がついた。
その後やや落ち着くも、ここにきてオールドレンズとマッチするニコンZf・Zfcの発売や、MFレンズをAF化する電子マウントアダプターの登場で再び熱を帯びている。そこで今回は定番からちょっと珍品まで、いろいろなオールドレンズを電子マウントアダプターとともに紹介していく。

電子マウントアダプターとの出会い
実は僕も2016年に初めてフルサイズのミラーレス機(ソニーα7 II)を購入してから、オールドレンズ熱が上昇。基本高値のものは手を出さず、国産を中心にコツコツと集めてきた。一時期は作品に用いることもあったのだが、マニュアルでのピント合わせもとくに苦ではなく、電子マウントアダプターには関心がなかった。
ところがライカMマウントのレンズをソニーEマウントのボディーに装着するTECHART(テックアート)「LM-EA9 MarkII」を仕事でお借りした際、マウントアダプターを重ね合わせることで、ほとんどのオールドレンズが装着できることを知った。しかも試してみると、もうマニュアルには戻れない便利さが……。

ボディー側がライカMマウントのマウントアダプターは、LM-EA9 MarkIIとセット販売されているものだけで11種類。それ以外にもニコンSやコニカARなど、多種多彩なマウントが存在する(ただしセット販売されているもの以外は、LM-EA9 MarkIIと干渉する可能性あり)。
というわけで日本正規代理店である焦点工房さんからお借りしたLM-EA9 MarkIIは、結局そのまま買い取らせていただくことに。防湿庫に眠っていたオールドレンズたちの出番も急に増えた。仕事で使うことはほとんどないが、“私事”では今回紹介するレンズも含め、35〜50mmの中から選んで持ち出すことが多い。
SMCタクマー 28mm F3.5(旭光学工業/M42マウント)

ひょっとすると一家に一本はあるのではないかと思う、オールドレンズのド定番。僕の個体も30年近く前に亡くなった祖父の形見だったりする。社名は当時のまま記載したが、いうまでもなく現在のペンタックス(リコーイメージング)。
1枚目のように絞ればキレキレで、渋いトーンはコダクロームのフィルムを彷彿とさせる。ボケを期待するスペックではないものの、被写体に寄って絞りを開ければ、2枚目のような描写も得られる。キタムラの中古でも数千円でよく見かけるレンズで、APS-Cユーザーなら標準レンズとして活用できる。

■撮影環境:1/160秒 F8 ISO100

■撮影環境:1/1000秒 F3.5 ISO640
W-ニッコール 3.5cm F2.5(日本光学/ニコンSマウント)

1952年生まれで、当時世界でもっとも明るい35mmレンズだった。絞り開放(1枚目)でも中心はシャープで、周辺にいくにしたがってオールドレンズらしいフレアが。絞ると(2枚目)周辺も解像度が高まり、70年以上前のレンズとは思えない描写力を誇る。
ライカL39マウントも存在するが、マウントアダプターで使うなら中古相場の安いニコンSマウントがおすすめだ。レンズの右に写っているのは、焦点工房のニコンS外爪→ライカM変換アダプター「SHOTEN SCM2」。

■撮影環境:1/800秒 F2.5 ISO100

■撮影環境:1/2000秒 F8 ISO400
気になるAFの実力は…
LM-EA9 MarkIIでさまざまなレンズを試すと、AFの挙動や速度は「ひと昔前のモーター内蔵レンズ」といった印象。実際のところレンズ側のマウントを内蔵モーターで駆動させるので、挙動が似るのは当然といえば当然かもしれない。ただ制御しているのはミラーレス機なので精度は高いし、たとえばLM-EA9 MarkIIであればAF-Cはもちろん、顔認識や瞳AFにも対応している。また繰り出し量が4.5mmあり、寄れないレンジファインダー用レンズでも一眼レフ・ミラーレス用のレンズ並みに最短撮影距離が短縮。一眼レフ用レンズであれば、マクロとまではいかないが、たとえば最短撮影距離45cmの50mmレンズで、30cmくらいまで寄ることができる。
注意点は測距点を画面周辺にするとAFが合いにくいこと。オールドレンズは周辺部の解像力が高くないためで、測距点は中央周辺にするのがベターだ。同様の理由で収差の大きい、いわゆる甘いレンズもAFが合いにくい。レンズによってはすべてピントがズレることもあり、そんなときは手動で補正しよう(合焦後にマニュアルで合わせ直せばよい)。また絞り込むと被写界深度が深くなるため、速度や精度が落ちてしまう。絞りでピントが移動するレンズが多いので好ましくないのだが、開放でAFを合わせてから絞り込むほうがベターだ。
また装着するレンズだが、通常はピントを無限遠にしておこう。近距離側では遠景にピントが合わない場合がある。反対に近距離にピントを合わせたいときは、ピントリングも近距離側に回すことで本来のスペック以上に寄ることができる。
トプコール-S 5cm F2 前期型(東京光学/ライカL39マウント)

医療や計測機器の世界的シェアを誇るトプコンは、かつて東京光学として陸軍に光学機器を供給。「陸のトーコー、海のニコン」と称された。1954年生まれのこのレンズも、いかにも精度が高そうな真鍮製鏡筒にその名残りが感じられる。ちなみに中期型は白黒ツートン、後期型はアルミ製になる。
描写も絞り開放からシャープだが、一方で柔らかさもあり、誰にでも使いやすいオールドレンズだと思う。製造本数が多く、中古市場でも手頃な価格で入手できる。
ちなみにカバー写真は同じトプコールの3.5cm F2.8。今回作例はないが、こちらも優しい写りをする。製造本数が少ない珍品なので、中古市場にもなかなか現れないのだが。

■撮影環境:1/200秒 F2 ISO100

■撮影環境:1/320秒 F5.6 ISO100
M-ロッコール 40mm F2(ミノルタ/ライカMマウント)

ミノルタがライカとの協業でMマウントのカメラ・CLを製造。それ用に28mm・40mm・90mmのレンズ3本を、ミノルタとライカそれぞれが製造・販売していた。その後ミノルタはライカとの関係を解消し、後継機・CLEをリリース。これはそのCLEに付属していた、いわば後期型にあたる。1981年生まれと今回取り上げる中ではもっとも若手だ。
特徴はとにかくコンパクトなこと。マウント面から先端までの厚みはたった2.5cm。キッチンの秤に乗せたら重量は105gだった。これでF2と明るいのだから恐れ入る。その描写は情緒的というか、現代のレンズほど写りすぎず、令和の今を撮っても昭和に写る(気がする)。適度に残った収差のおかげか立体感もあり、絞ると鋭いキレ味に。最近はプライベートではこれ一本で出掛けることも多い。

■撮影環境:1/1250秒 F2 ISO125

■撮影環境:1/320秒 F8 ISO100
マウントアダプターの流儀
まずオールドレンズではカメラとレンズの絞りが連動しないため、露出モードをA(絞り優先オート)かM(マニュアル)に設定するのが基本。かつ絞りはカメラではなくレンズの絞りリングで設定する。ソニーEマウント機の場合、変換するだけのアダプターならカメラの絞りの設定は無効になる。ただしLM-EA9 MarkIIは電子接点があるため絞りが設定できてしまう。もちろんカメラ側で制御できるわけではなく、かといってレンズの絞りに合わせる必要もない。絞り込んだ数値だと露出がアンダーになるので、もっとも明るいF2に設定しておこう。
またこれはオールドレンズ全般での注意点だが、カメラ側の設定も重要。たとえばソニーαシリーズでは、設定で「レンズなしレリーズ」を「許可」にしたり、「電子先幕シャッター」を「切」にする必要がある。前者はこれを許可にしないとシャッターが切れず、後者は「入」のままだと高速シャッターでボケが半月状に欠けてしまう。もっとも夏の快晴下でF1.4のレンズを使ってポートレート、とかでなければ「入」のままでも問題はない。

現在のレンズは歪曲データを内包し、カメラ側で補正を行うのが当たり前になっているが、フィルム時代のレンズやカメラには当然そのような機能はない。したがって歪曲もできる限り補正されているが、古い広角〜標準レンズではタル型の歪曲が見られることが多い。そのようなレンズでは建築物が歪んだり、ポートレートでは実際よりも丸顔に写ることがある。必要であればレタッチで修正しよう。
BEROLINA-WESTROMAT 35mm F2.8(イスコ・ゲッチンゲン/M42マウント)

1960年代の西ドイツ製。日本語の読みがわからないので銘板のままを表記したが、「べロリナ-ヴェストロマット」だろうか。ちなみにイスコ社は高級レンズを製造していたシュナイダー・クロイツナッハ社の子会社。ゼブラ柄で金属製の前期型に人気があり、実は僕も持っていた。しかし円錐台形でプラ製の後期型のほうが欲しくなり、中古店を探し回ってようやく見つけた。西ドイツらしいモダンなデザインが気に入っている。
絞り開放で適度なにじみや周辺光量の低下があり、いかにもオールドレンズな描写。逆光では途端にハイキーになるのもおもしろい。それが絞ると一転、緻密な写りをみせるのも、ドイツ生まれの生真面目さゆえか。

■撮影環境:1/1250秒 F2.8 ISO100

■撮影環境:1/200秒 F2.8 ISO100

■撮影環境:1/320秒 F8 ISO100
オートマミヤ セコール 50mm F2 前期型(マミヤ光機/M42マウント)

中判カメラでおなじみのマミヤも、その昔はコンパクトカメラや35mm一眼レフを製造していた。当然レンズも販売していたが、60年代後半製と推測されるこれは富岡光学(現・京セラ)のOEM、らしい。カールツァイスレンズも製造していた富岡光学には根強いファンがいるが、たしかに作り込みの良さや実用的な写りにその一端を感じさせる。中古市場ではあまり見かけないが、比較的安いレンズだと思う。

■撮影環境:1/640秒 F2 ISO125
スーパータクマー 50mm F1.4 初代(旭光学工業/M42マウント)

トリは伝説の銘玉、1964年にわずかな本数が発売された通称「8枚玉」だ。凝った設計ゆえ製造が大変だったらしく、すぐにレンズ構成が7枚に変更されてしまった。中古市場にあふれる7枚玉に比べて、こちらは3倍くらいの値段が……。もっとも両者の写りの違いは、僕は比べたことがないのでわからないのだが。
絞り開放では薄いベールをまとったような写りで、ピントの合った面からのふわっとしたボケ足が素晴らしい。絞ると一転して緻密な描写となるが、発色はかなり渋めだ。

■撮影環境:1/250秒 F1.4 ISO1600

■撮影環境:1/640秒 F1.4 ISO100

■撮影環境:1/800秒 F8 ISO100
まとめ
他にも紹介したいレンズはたくさんあるのだが、入手しやすいものを中心に7本を選んだ。もちろんM42マウントやライカL39マウントであれば、もっと一般的なオールドレンズもたくさん存在する。たとえばスーパータクマー 50mm F1.4初代を紹介したが、これがSMCタクマー 55mm F1.8になると、キタムラの中古でも在庫は潤沢。平均5000円ほどで買える。反対にキヨミズからジャンプする勢いで、ライカ謹製レンズにいくのもいいかもしれない。上を見れば車一台分くらいの値段もするが、古いレンズであれば新品の大口径レンズより手頃なものもある。
そしてすでにオールドレンズを何本も持っているという人には、電子マウントアダプターをぜひおすすめしたい。新しいほうが使い勝手がよいのは確かだが、今回使用したLM-EA9 MarkIIはちょっと予算が……という人は、見た目やスペックは大きく変わらない先代のLM-EA9、さらにその前のLM-EA7を中古で入手する方法もある。LM-EA7はモーターを格納した部分が出っ張っているが、風景や静物がメインであれば、あえて安いこちらを選ぶのもアリだと思う。なおニコンZユーザーであれば、TECHART TZM-02(現行品)やTZM-01で同じようにオールドレンズを生かすことができる。とりわけクラシカルなZfやZfcのユーザーは、外観も含めて楽しめるのではないだろうか。
今回はレンズの素性をお見せしたくて撮って出しのJPEGを掲載しているが、オールドレンズは総じて現代のレンズより軟調なので、レタッチで引き出せる領域が広い。フラットに見える場合も、トーンカーブを調整することで一気に立体感が生まれる。情報量という点では現代のレンズに軍配が上がるが、情緒や雰囲気という点では「写りすぎないこと」が長所になると思う。実際、映画やCMの世界ではカメラが高精細になるにつれて、オールドレンズの需要が増えてきたらしい。収差の残し方やコーティングでローファイを指向した新製品も登場している。いい機材を揃えながら写真にマンネリや飽きを感じている人は、オールドレンズを試してみるのもいいかもしれない。
■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。













