スポーツフォトグラファーがカメラバッグに求めること|中西祐介

中西祐介

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はじめに

 私がスポーツ撮影を始めた2005年頃、現場で会うフォトグラファー仲間の間でカメラの次に話題に上がっていたのはカメラバッグでした。競技会場のプレスルーム(フォトグラファー控え室)では、国産品から輸入品まで様々なバッグを使用しているフォトグラファーがいました。

 スポーツ撮影は大型の超望遠レンズ、カメラボディを複数台、超広角から中望遠までの交換レンズを4〜5本、クリップオンストロボ、ノートPCなどを一人で持ち歩かなくてはなりません。競技会場に入場できるIDカードは限りがあるため、アシスタントを連れて歩くことも出来ません。このような条件から、いつも重量級の機材を効率よく収納出来て運びやすい軽量なバッグを誰しもが探し求めていました。

 今ではスポーツ・報道系のフォトグラファーは収納のしやすさ、バリエーションの豊富さから「thinkTANKphoto(シンクタンクフォト)」のカメラバッグ使用者が大多数を占めています。今回は私が様々な経験を経て辿り着いた、現在使用しているカメラバッグとその理由についてお伝えします。

私がカメラバッグに求めるもの

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 私はこれまで大小合わせて十数個のカメラバッグを使用して来ました。基本的には全機材の80%を入れている大きめのバッグと、サブバッグとして残りの小さな機材と現場で動き回る際に交換レンズなどを収納する小型のバッグの二つを常時使用しています。

 大型のバッグは撮影エリアに持ち込むことが禁止されている現場もあるため、到着後撮影に使用する全ての機材を大型バッグから出してカメラとレンズを装着し、大型のカメラバッグはプレスルームや競技場の隅に置いていきます。カメラに装着していない交換レンズ、予備のメモリカード、予備バッテリー、貴重品をサブバッグに入れて肌身離さず持ち歩きます。

 バッグを含めた機材の総重量は18kg〜20kg程度になり、体への負担が大きく移動だけで疲れてしまったということもよくあります。遠征では長時間の移動もよくあるため、体への負担を軽減するための持ちやすさ、突然の天候変化にも対応できる素材の良さ、効率よく機材が収納出来るバッグの内側の形(四隅が直角の方が効率よく収納出来る)、小物を入れるポケットの数、そして何よりも長期間の使用に耐える頑丈な作りのものを選ぶ傾向にあります。バックパックの場合は重量を肩と腰で受け止めるため、背負い心地を何よりも重要視しています。

収納容量と重量

 スポーツ撮影用の機材で一番の大型機材は400mmF2.8に代表される超望遠レンズです。近年はとても優秀な高倍率ズームもラインナップされているため、こちらを使用するケースもありますが、ナイターや屋内競技など明るくないシーンの中で高速で動く被写体を止めたい場合や、大きなボケ味を出したい時は開放F値が明るいレンズが必須になります。

 超望遠レンズには専用のショルダータイプのレンズケースがありますが、これだけを独立して持つとバッグが一つ増えてしまいます。私の場合は出来るだけ持ち歩くバッグの数を減らす方が移動の際のストレスが少ないと考えているので、超望遠レンズのレンズフードを逆さに付けた状態でボディや他のレンズと一緒に収納できるバッグを探しています。この時点で大型のカメラバッグに選択肢が限定されてしまいます。

 当然バッグそのものの重量も増えてくるのでその中からより軽量なもの、持ち運ぶ際に重量を少しでも感じさせない製品を精査していきます。バックパックの場合は背負った時の重量バランスや体にフィットしてくれるかをよく見ています。同じ重量でもフィットするものであれば重量負担が分散され大幅にストレスを軽減してくれます。移動だけで疲れてしまい現場に立った時には疲労困憊だったではシャレになりません。写真の仕上がりにも大きく影響してしまいますので、様々な移動シーンを想定してバッグ選びをしています。

移動と安全

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 上記でもお伝えしましたが、スポーツや報道系のフォトグラファーは複数人で構成するクルーとして動くことは少なく、原則一人で機材を持ち運びます。これは国内だけでなく海外も同様です。日本国内のように安全な国ばかりではありません。盗難、置き引き、時には強盗などに運悪く遭遇してしまったフォトグラファーもいました。

 特に飛行機に搭乗する際の機内持ち込み荷物に対する制限は私達を悩ませています。機内に持ち込む際は個数、大きさ、重量など多くの制限があります。大きくてたくさんの機材を一人で持っていかなければいけないフォトグラファーにとっては難問です。機材の一部を貨物室に預けてしまうと、トランジットの際に経由地で荷物が置き去りになってしまう可能性や、現地で受け取った際に機材が破損して出てきたというケースもあります。そのため可能な限り機内に持ち込む必要があるのです。

 私が初めて海外取材に向かう時に先輩フォトグラファーから教わったのは、現地の空港から現場に直行できるように準備しなくてはいけないということでした。機材の破損や盗難など、トラブルを回避することも仕事の一つだということです。この一言を聞いて私は機内持ち込みが可能なサイズのバッグを出発日までに探した経験があります。また、目立たない色や素材の方が盗難に遭いにくいため、当時日本に展開されて間もないシンクタンクフォトのバッグを購入しました。

 バックパックとキャリーバッグという選択で迷う方もいらっしゃると思いますが、私は原則バックパック派です。これは砂利道や舗装されていない場所を歩くことを想定しています。また、バックパックは両手を空けることが出来るので自由度が高いことも理由の一つです。その代わり機材の重量を全て体で受け止めることになります。普段から体力作りを行うことをお勧めします。

まとめ (私が使うカメラバッグ)

 これまでカメラバッグを選ぶ理由やエピソードを書いてきましたが、私が現在使用しているカメラバッグをご紹介します。

マインドシフトギア:ファーストライト40L

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 アウトドアフォトグラファーに愛用されているマインドシフトギアの中でも大型のバックパックです。400mmF2.8(フード逆さ付け)、カメラボディ3台、ズームレンズ3本、クリップオンストロボが入り、前面にノートPCを収納出来ます。丈夫なナイロン素材のため急な天候変化でも安心して使用できます。体型に合わせショルダーベルトを適切な位置に調節可能なのも選んだ理由の一つです。

 これまでいくつものバックパックを使用してきましたが背負い心地が一番良く、長時間の歩行でも疲れにくい印象です。機材の容量に合わせて3タイプから選択が可能です。私は40Lの製品をメインバッグにしています。

※機内持ち込みサイズについては航空会社によって異なりますので最新の情報をご確認ください。

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マインドシフトギア:フォトクロス10 カーボングレー

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 バックパックと同じマインドシフトギアのスリングバッグです。こちらはサブバッグとして、撮影中の交換レンズやメモリカードなどを入れて絶えず持ち歩いています。私が使用しているキヤノンの望遠ズーム、RF70-200mm F2.8 L IS USMが縦に収納できます。収納ポケットも多く小物や貴重品を仕分けやすくなっています。また、体にピッタリとフィットするため歩きやすくとても重宝しています。

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シンクタンクフォト:バックストーリー15

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 スポーツフォトグラファーに絶大な人気を誇るシンクタンクフォトの製品です。こちらは超望遠レンズを使用しない場合に使用しています。ボディ2台、超広角ズーム、標準ズーム、中望遠ズーム(全てF2.8)のレンズ計3本を入れています。

 また、背面ではなく前面にPC収納スペースを設けているため背負った際に体と機材の間にノートPCが挟まれず、PCへの圧力が少ないのも選ぶポイントでした。ショルダーパットがやや厚めに作られているため、肩への負担が軽減されています。

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 以上が私の様々な経験から選び出した現時点での最良のカメラバッグです。カメラ機材の移動の際にとても重要な要素を持つカメラバッグは機材の数量、使用するシーン、持ち運ぶ時間、そして何よりも長い時間を共に過ごす道具としてご自身の体にフィットするかが大変重要です。皆様のバッグ選びのご参考になれば幸いです。

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■写真家:中西祐介
1979年東京生まれ 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、フォトエージェンシーであるアフロスポーツを経てフリーランスフォトグラファーに。夏季オリンピック、冬季オリンピック等スポーツ取材経験多数。スポーツ媒体への原稿執筆、写真ワークショップや大学での講師も行う。現在はライフワークとして馬術競技に関わる人馬を中心とした「馬と人」をテーマに作品制作を行う。
・日本スポーツプレス協会会員
・国際スポーツプレス協会会員

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