スナップで街めぐり。一瞬の情景を愉しもう。Vol.3|池袋

富久浩二

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はじめに

 通勤で池袋に通っていたが、写真のイメージが沸かず、カメラは持っていても、それを取り出す事はなく素通りする日々が長らく続いた。それが1枚目の大きな青いシャッターに差し込む光を見てからガラリと変わり、いろんな被写体を探すようになった。今ではスナップすると言えば最初に頭に浮かぶほどのお気に入りの街になっている。 特に駅周辺に見所が多く、撮っていて飽きることがない。そんな池袋で光をどう捉えて、どのような事を考えて撮っているかを紹介したいと思う。 季節ごとの変化はあるが、今回は撮影した時間も記載したので参考にしてほしい。

西武デパートの大きな青いシャッター ~AM 8:12~

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■撮影機材:ソニー RX100V

 デパートの大きな青いシャッター。もちろん開店時は開いているので撮れるは深夜か朝しかない。この日はビルの隙間から細い太陽の光が差し込んでいて、この場所では初めて見る光景だった。朝でもひっきりなしに人は通るが、ここはシンプルな方がいいかなと人がはけるのを待ち、その間にカメラの設定を行った。ぐっと露出を下げたくなる場面だが、青い壁が黒くなり過ぎるのがもったいないので、光が差し込む所は白とびしないぎりぎりに設定。影になる部分も色が出るぎりぎりの暗さの-1EVの露出にした。ちなみに僕はスナップを撮る時は白トビしている箇所があると気になるので-0.7~-1.7EV辺りで撮る事が多い。 設定を決めた後は光の部分にすっぽり収まる人を狙ってシャッターを切った。この場面で人の足は開いていた方がいいかなと思ったが、明るい線に綺麗に入っているので、これはこれでいいかなと感じている。

中池袋公園 ~PM 12:57~

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■撮影機材:ソニー RX1

 イケバスのお披露目会の公園で、もう一生ないであろうラッキーな出来事があった。このかわいいバスをどう撮るか考えている最中に真っ赤な髪の人が現れた。とっさの出来事に私はとても慌てていたが、カメラを向けた瞬間に左側に赤いジャケットと帽子の3人が目に入り、単焦点35mmで左端ぎりぎりの3人を起点に右側は気にせず、前を歩く赤髪の人を撮影。そして、その赤髪の方が中心となった納得のいく構図で撮る事ができた。いい瞬間を見つけて慌てる場面でも、なんとかあともう一つポイントとなるものを見つけてシャッターを切る事が大切である。また撮影の時には気が付かなかったが、赤いジャケットの三人、赤いバス3台と細かいところだが数もあってる。 後で気付いて面白いって思えるのもスナップの醍醐味の一つだ。

西武池袋駅南口近くの地下連絡通路 ~AM 8:04~

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■撮影機材:パナソニック GM1 + LUMIX G VARIO 12-60mm / F3.5-5.6 ASPH. / POWER O.I.S.

 西武南口近くの連絡通路を歩いていると、経年劣化と落書きで曇った状態の窓ガラスがあった。普段撮る気も起きないような場所だが、逆光で雰囲気のある模様が浮かび上がっていた。 朝のスナップは逆光で狙うことが多いが、この様なガラス越しでは特に面白い写真になる事が多い。レンズをガラスにくっつけてしまうと模様が出せないのであえて20cm~30cmくらい離す。そして模様の中から全体的な構図を決める。左右は暗くなっていて、階段のほぼ頂点で人が来た時に階段に長い影が落ちるのはわかっていたので、その影が画面からはみ出さないようにする。待っていると日傘の女性が現れた事で想像を超える雰囲気のある写真になってくれた。

JR西口前の横断歩道 ~PM 12:07~

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■撮影機材:ソニー α7R III + Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS

 スナップを撮る人は横断歩道にボーダーの人が居るとまず目につくと思うが、この日は旅行中で道に迷っていそうなボーダーを着たカップルがいた。 線が三つ揃えばもう撮るしかない。ここで大まかな構図以外に気にするのは横断歩道と、それと呼応する何か(ここでは放射線模様の天井)と、二人の仕草になる。 天井の網様を綺麗に出すために、横断歩道は真っ直ぐ、天井の放射が歪みなく綺麗な線となるようにカメラの位置を微調整(天井にくっつけると模様が出ない)。 そして、他の人が来る前にボーダーのカップルがこの仕草になった瞬間でシャッターを切った。ボーダーのカップルが横断歩道前にいるだけでシャッターを切るのは勿体無いと思う。それはイレギュラーな出来事や人の仕草を見つけて撮影する事で心惹かれる瞬間になると考えるからだ。なのでほんの少し待ってから撮影する癖をつけると良いと思う。

ウィロード ~AM 7:24~

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■撮影機材:ソニー NEX-5R + LAOWA 9mm F2.8 ZERO-D

 リニューアルされて一気に明るく爽やかなトンネルになった雑司が谷隧道(ぞうしがやずいどう)で撮った1枚。ここは日中人が多くてなかなか撮りづらいのだが、土日朝の人が少ない時間帯がお薦めで、このようにトンネル先にポツリと一人だけのシルエットを狙うことができる。 この日は雨上がりだったこともあり通路端に小さな水溜まりがあった。超広角レンズだと手のひらくらいの大きさの水たまりでも十分に使える反射ができる。ここで気をつけたのは水たまりに写り込んでいる放射状の蛍光灯と水たまりの中のタイルのラインである。超広角レンズの時は四隅の2箇所を気にした構図にすると、ただ撮ってる感が減って写真に重みが出るようになると思う。 あと、セレクトの時の話になるが、人が二人写っている時は、すれ違いの瞬間や、二人の足の開き具合で選んでいる。

自転車のオレンジ色のタイヤ ~AM 11:08~

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■撮影機材:ソニー NEX-5R + LAOWA 9mm F2.8 ZERO-D
■撮影モード:ミニチュアモード

 自転車の車輪越しの写真はよく撮るのだが、やはりタイヤの大きなロードレーサー系が撮りやすい。止めてあるといつもどう撮れるかイメージする。この場面では、タイヤがオレンジなのが珍しいところに同じ色の鍵がかかっているのが気になった。もっと人を待てば面白い写真になったと思うが、都心で同じ場所にずっと構えて待つのは苦手なのでこのくらいに。柱と人が被っているのがちょっと残念だが、オレンジ色の円が3つのお気に入りの写真となった。

西武デパート青い壁の西側 ~AM 8:46~

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■撮影機材:ソニー α7R III + Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS

 2つの黄色の枠がかわいい窓、歩道手前の店舗入り口に反射する場所を見つけて4つに増やす。 もう普通の反射では物足りなく感じている自分としてはこれだけでは撮る気は起きないのだが、この日は真ん中より少し左にある段差にちらっと予想外の反射の仕方があり、ちびっ子の傘が3つ入った。 この写真もそうだがキーになるところは3つ揃えたい。2つだと心に残りづらいが3つ揃うと不思議な感じが増して作品としての魅力が一段とアップするように感じる。

西武線東出口の赤いポストと赤い傘 ~AM 9:03~

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 まず、この場所は黒く反射する大理石の壁に写っている赤いポストが気になった。 上にもワンポイントになる赤い看板がある。 ここで赤い傘が来ると良い絵になると判断。 そして目当ての人が出てきた瞬間にシャッターを切った。赤い傘の人は至近距離に現れたが、そのおかげで被写体ブレが予想よりも大きくなり、それが躍動感につながる事でイメージしていた以上の絵になってくれた。 いきなり撮れる写真というのは意外と少なくて、過去の経験、記憶を活かして撮影する事が多い。傘をバサっとさす瞬間を撮ろうと思えば建物を出る時になるが、それを0.5秒でも前に予測していい瞬間をものにしたい。

青いシャッターを俯瞰で撮れる所 ~AM 9:10~

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 カフェの二階、誰かと待ち合わせするときは、こんな感じで俯瞰できる席で待つ事が多い。 最近のカメラはシャッター音も消せるので、混んでいなければここから見えるものを撮るのも楽しい。 特に雨の日のこの場所では青い背景に赤い傘が似合う。左から赤傘、白、赤、白と並んだところで、黒が入らなければ~となったが、赤傘が右から現れたところで3つの赤が揃いなんとか一枚を撮った。 ガラスに近づけて枠なしで撮る事もできたが、左右と下を黒くできるのがわかったのであえて枠を入れ額縁をつくった。

池袋西口公園 ~AM 10:46~

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 三角格子のガラスが面白いなと観察していると、1枚に1人づつ同じ人が映り込む場所がある事に気がついた。このように見える範囲はとても狭く、カメラの位置が上下左右に10cmでもズレると全く写らない。そんな中でも人が通る場所はある程度法則性があるので、人の通る場所を予測しながら何とか一枚撮る事ができた。このようにぎりぎり撮れる写真というのはやっぱり特別な感じがする。あとは自分の目線の高さだけで世界を見ない事が大事だと思う。

あとがき

 池袋駅周辺は見どころが多く、最近では観光にも力を入れていてイケバス(100円)に乗って周遊観光もできる様になった。 朝早めに行ってイケバスで一周のんびり45分ってのもいいかもしれない。  こんなご時世なので人の多くなる日中の撮影は難しいと思うが、朝早めだと人も少ないし光もいいし楽しい写真が沢山撮れると思う。西武デパートの青いシャッターは8:15頃から開いてしまうので、撮影される方はその前に行ってみてください。

■写真家:富久浩二
日々の通勤風景を主に、いつも見ている変わりばえのない、しかし二度とやって来ない一瞬の情景を大切にし、ちょこっと人が入った物語りのある写真をテーマのもとに、人びとの優しく楽しい感情が伝わる事を目標に日々撮影している。子供の頃の目線、何と無く懐かしさを感じて貰える様に、ライブビューを使った低い目線、思い切って背伸びをした様な高さからの撮影が特徴的。

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