タムロン 12-20mm F2.8 (Model A084) レビュー|約570gで手に入れる12mmという特権
イントロダクション
超広角レンズには他の焦点距離では決して代替できない特権があります。空間をまるごと画面に飲み込み、垂直に伸びる建築を人間の視野を超えたスケールで再構築する。その体験は12mmという焦点距離に到達して初めて完成します。しかし、これまで12mmという画角をズームで手にするためには800gを超える大柄なレンズを担ぐという代償が常につきまとってきました。
タムロンの12-20mm F2.8 (Model A084)はその前提条件そのものを書き換えてくれるレンズです。焦点距離12-20mm、ズーム全域で開放F2.8通しという仕様を、長さ119.3mm・質量570g※というボディに凝縮しています。同じ12mmスタートの超広角ズームであるソニー FE 12-24mm F2.8 GMが約847gであることを踏まえるとその差は約277g。数値以上にこの差は撮影者の行動範囲を確実に広げるものです。
※長さ・質量はソニー Eマウント用の数値
12mmから20mmという望遠側を思い切って切り詰めたズームレンジ。この割り切りこそが、本レンズの設計思想を最も雄弁に語っています。前玉の小径化と光学系の最適化に振り切ることで超広角ズームの携行性は次のフェーズに入りました。
本稿では、本レンズの光学設計とMTF曲線を分析したうえで、有効約6100万画素という高画素機であるソニー α7R Vと組み合わせ、建築、ストリートスナップ、夜景手持ち、星景という4つのシチュエーションにおいて、12mm F2.8という組み合わせが何をもたらすのかを検証していきます。

■撮影環境:焦点距離12mm f9.0 1/320秒 ISO100
570gが変える超広角撮影の前提条件
まず、このレンズを語るうえで避けて通れないのが570gという質量です。最大径90mm、長さ119.3mm(ソニー Eマウント用)/121.3mm(ニコン Z マウント用)。ニコン Z マウント用は585gとなります。
超広角ズームレンズにおいて、質量は単なる物理的な数値以上の意味を持ちます。星景撮影のために夜の海岸へ機材を運ぶ、建築を求めて早朝から都市を歩き回る、日没後の街をスナップして回る。いずれのシーンでも、レンズの重さは撮影者の集中力と行動半径を静かに侵食していきます。開発期間中、タムロンは光学設計と機構設計を幾度も見直し、各パーツをミクロン単位で調整することで、必要な強度と耐久性を確保しながらこの数値に到達したとしています。
実際にα7R Vへ装着してみるとその恩恵はすぐに理解できます。ボディとの組み合わせで1.3kgを下回るセットは超広角ズームとしては異例の軽快さです。三脚に据える際も雲台への負担が軽く、構図の微調整がストレスなく行えます。手持ちで街を歩き回る際には、首や肩への負担が明確に小さい。この差は撮影枚数と撮影時間に直結します。
レンズフードは固定式の花型フードを採用しており、レンズ一体型として余分な光をカットします。フード上から装着できるロック機構付きのレンズキャップが付属し、携行時の安全性にも配慮されています。

光学設計とMTF曲線から読み解く描写性能
本レンズのレンズ構成は12群17枚。この中に、XGM(大口径ガラスモールド両面非球面)レンズ1枚、GM(ガラスモールド非球面)レンズ3枚、XLD(eXtra Low Dispersion)レンズ1枚、LD(Low Dispersion:異常低分散)レンズ3枚という、計8枚もの特殊レンズが最適配置されています。
XGMレンズは大口径と高い解像性能を両立させながら、ディストーションや周辺の解像感を向上させるのに大きな効果を発揮する素材です。超広角ズームにおいて最も難易度が高いのは、広角端における周辺部の像の流れと色にじみの抑制ですが、XGMレンズとGMレンズの組み合わせがここに効いています。
一方、XLDレンズとLDレンズは色収差の補正を担います。XLDはLDよりもさらに光の分散性が低い特殊ガラス素材であり、この2種類を計4枚配置することで画面周辺部での色にじみを効果的に抑え込んでいます。
そして本レンズにおいて特筆すべきはサジタルコマフレアの補正です。サジタルコマフレアとは点光源が画面周辺部で鳥が羽ばたいたような形に伸びてしまう現象を指します。星景撮影では画面全体に点光源が散らばるため、この収差の補正精度がそのまま作品の完成度を左右します。タムロンは本レンズにおいてこの補正を明示的に設計目標として掲げており、星景写真において画面周辺部までの精細な解像度を実現しているとしています。
コーティングは2種類が採用されています。ひとつはAX(Anti-reflection eXpand)コーティング。超広角レンズの前玉は曲率が大きいため、周辺部まで均一な膜厚でコーティングを蒸着することが技術的に難しいという課題がありますが、AXコーティングはこれを解決し、凸面レンズ全体に均一な膜を形成します。もうひとつはBBAR-G2(Broad-Band Anti-Reflection Generation 2)コーティングで、逆光下でのゴーストやフレアを効果的に抑制します。
超広角レンズでは太陽や強い光源を画面内に取り込む構図が頻出するため、この2つのコーティングの組み合わせは、実撮影において極めて実用的な意味を持ちます。
MTF曲線を確認すると、12mm開放F2.8の状態で、画面中心部において10本/mm(全体的なコントラストを示す指標)が高い水準を維持しています。30本/mm(細部の解像力を示す高周波数指標)についても、中心から中間域にかけての落ち込みが緩やかであり、超広角ズームの広角端としては優秀な特性を示しています。

20mm側でも同様の傾向が見られ、ズーム全域を通じて描写性能の均質性が保たれていることが読み取れます。また、実線(放射方向)と破線(同心円方向)の乖離が抑えられている点にも注目したいところです。この2つの線の間隔が広がると非点収差が発生しやすく、ボケがざわつき、夜景や星景での点光源の描写が乱れがちになります。本レンズはこの乖離が抑制されており、点光源の再現性が高いレベルで安定していることを示唆しています。

絞り羽根は12枚の円形絞りを採用。開放付近では点光源が美しい円形ボケとして描写され、絞り込んだ際には12本の光条が生まれます。夜景撮影において街灯やイルミネーションを光条として描く際、12本という本数は繊細さと存在感のバランスに優れた選択と言えるでしょう。
ここからは、本レンズが具体的にどのような描写を見せるのか、シチュエーションごとにグルーピングして詳細に解説していきます。
12mmが描く建築の垂直とスケール感
超広角レンズの醍醐味を最も端的に体現するのが建築物を下から見上げる構図です。12mmという画角は肉眼では決して一望できない垂直方向のスケールを一枚の画面に凝縮します。

■撮影環境:焦点距離12mm f9.0 1/640秒 ISO100
汐留の高層ビル群を真上に向かって見上げた縦位置の一枚です。画面には4棟の高層建築が集まり、それぞれが画面の四隅から中央の空へ向かって収束していきます。12mmという焦点距離だからこそ成立する構図であり、14mmや16mmでは、これだけの棟数を一画面に収めることはできません。
この作例で注目していただきたいのは画面四隅における建築のディテール保持です。左上のガラスカーテンウォールの格子、右側のレンガ調ファサードの窓枠、そして左下から画面を横切るモノレールの軌道と車両、いずれも画面のかなり周辺部に位置していますが、線が甘くならず、輪郭が明瞭に保たれています。
F9まで絞り込んだ効果も当然ありますが、超広角ズームの広角端で四隅がここまで踏みとどまるのは、XGMレンズとGMレンズを合わせて4枚投入した光学設計の成果と見るべきでしょう。
もうひとつ特筆したいのが、倍率色収差の抑制です。この構図では明るい空と暗い建築のシルエットが画面全体で接しており、輪郭部に色にじみが出やすい条件が揃っています。等倍で確認しても、ビルのエッジに紫や緑のフリンジはほとんど認められません。XLDレンズ1枚とLDレンズ3枚という贅沢な配置が、高画素機であるα7R Vの解像力に対しても十分な余裕を持って応えていることが分かります。

■撮影環境:焦点距離12mm f9 1/640秒 ISO100
同じく汐留にて、高架下から見上げた横位置の作例です。手前を横切る高架構造物のシルエットを画面上下に配置し、その間から抜ける空と中央のタワーへ視線を誘導する構図としました。
ここで効いているのは、近接した被写体と遠景を同時に画面へ収める超広角の空間圧縮の逆説です。画面右上のモノレールの柱と高架の裏面はレンズからごく近い距離にありますが、中央のタワーまでの距離とともに一枚の中で破綻なく処理されています。左端のガラス面に走る縦のラインも、画面の最周辺部でありながら直線性が保たれており、樽型の歪曲収差が目立ちません。カメラ内レンズ補正との連携もありますが、建築写真として通用する端正な描写と言えます。
逆光気味の順光という条件下でも、コントラストの低下は感じられません。空のグラデーションは滑らかに繋がり、建築のシャドウ部にも情報が残っています。AXコーティングとBBAR-G2コーティングの組み合わせが、超広角特有の広い入射角に対しても有効に機能していることが確認できます。
なお、本レンズの近接撮影性能にも触れておきましょう。最短撮影距離は広角端12mmで0.18m、望遠端20mmでも0.28mとズーム全域で高い近接能力を維持しています。
広角端では被写体とレンズ先端との距離がわずか50mmまで接近可能であり、最大撮影倍率は1:5.8(WIDE)を実現しています。手前の被写体に極限まで寄り、背景に広がる空間を同時に写し込む。この超広角ならではのダイナミズムは建築のディテールと全体像を同一フレームで語る構図において強力な表現手段となります。
超広角が拓くストリートスナップの空間表現
12mmから20mmという焦点距離は、ストリートスナップにおいても独自の可能性を持ちます。人間の視野を超えた画角はその場の空気を切り取るというより取り込む感覚に近く、観る者を写真の内側へ引き込みます。

■撮影環境:焦点距離20mm f9 1/640秒 ISO100
朝の斜光が階段に落とす影のリズムを主題に据えた一枚です。望遠端20mmで撮影しており、手前のタイルの目地から奥の人物のシルエットまで視線が一直線に引き上げられていく構図としました。
この作例で確認したいのは、20mm側における近接から遠景までの解像の均質性です。画面手前のタイルは最短撮影距離に近い位置にありますが、目地の一本一本、さらにはタイル表面の細かなテクスチャまで克明に描写されています。同時に、画面奥の人物のシルエットや背景のビルのガラス面も甘さがありません。左右の手すりの金属反射もハイライトが飛びきらずに階調を保っています。
超広角ズームでは、望遠端の描写が広角端に対して劣後するケースも少なくありませんが、本レンズにおいてはその傾向は感じられません。12-20mmという短いズームレンジに絞り込んだことによる光学的な余裕がここに現れていると言えるでしょう。

■撮影環境:焦点距離12mm f9 1/320秒 ISO100
高架の交差する都市の交差点を12mmの広角端で俯瞰的に捉えた作例です。画面には手前の路面標示から、高架橋、ビル群、そして遠景の建築までが一望に収まっています。中央付近を走る一台のバイクが、この巨大な人工空間のスケールを示す指標として機能しています。
ここで見ていただきたいのは、強い明暗差に対する階調再現です。画面右上には朝の強い直射光が入り、左下は高架の影に沈んでいます。この明暗差の中で影の中の路面標示のディテールも、光が当たった路面のテクスチャも、どちらも潰れずに残っています。α7R Vのダイナミックレンジの広さもありますが、レンズ自体のコントラスト再現性と逆光耐性が、シャドウ部を持ち上げても色が転ばない素性を担保しています。
12mm特有の周辺部の引き伸ばしも、この構図では自然に見えます。画面左端のビルや右端の高架は、超広角の宿命として多少の引き延ばしを受けていますが、不自然な流れや破綻はありません。

■撮影環境:焦点距離20mm f9 1/40秒 ISO100
石畳に埋め込まれたガラスのリフレクションを主題とした作例です。20mmで真上から捉え、ガラスに映り込む建築と、その下に見える地下空間を同時に画面へ収めています。
この作例では画面全体を占める平面被写体に対する均質な解像が問われます。
手前の石畳の粒状のテクスチャ、目地の直線、そして円形ガラス内部に映り込んだ建築のガラス格子、いずれも画面のどの位置にあっても解像が落ちません。20mmという焦点距離と最短撮影距離0.28mの組み合わせにより、被写体に十分寄りながら周囲の空間も同時に語れる構図が成立しています。
なお、スナップ撮影で効いてくるのが、AF駆動に採用されたVXD(Voice-coil eXtreme-torque Drive)です。リニアモーターならではの応答性と俊敏性により、高速かつ高精度なAFを実現しています。ストリートでは被写体が予告なく現れ、数秒で消えていきます。ファインダーを覗いてから合焦までのタイムラグが短いことは撮影の成否そのものを分ける要素です。
F2.8通しが解放する夜間手持ち撮影
ズーム全域でF2.8通しという明るさは夜間撮影において決定的な意味を持ちます。特に超広角域では手ブレ補正が効きやすい焦点距離特性と相まって、三脚を持たない機動的な夜景撮影が現実的な選択肢となります。

■撮影環境:焦点距離12mm f2.8 1/40秒 ISO100
ブルーアワーの街角で高層タワーを12mmで見上げた一枚です。左上から画面に入り込む街灯を意図的にフレーム内へ取り込んでいます。
この作例の見どころは開放F2.8における点光源の描写です。画面左上の街灯は絞り開放にもかかわらず光源の輪郭が明瞭に保たれ、周囲に不快なにじみやゴーストが発生していません。画面のかなり周辺部に位置する点光源としては優秀な処理と言えます。また、右下の窓から漏れる暖色の照明も白飛びせずに階調を残しています。
ISO100・1/40秒という設定が示す通り、F2.8という明るさは低照度下でもベース感度を維持したまま手持ち撮影を成立させます。高画素機ではノイズが目立ちやすいため、ISO感度を上げずに済むことの価値は大きいと言えるでしょう。ここでも570gという軽さが効いており、1/40秒という速度でも手持ちで安定して構えられます。

■撮影環境:焦点距離12mm f3.2 1/15秒 ISO100
丸の内の並木道を左右のビルが空へ向かって収束する対称構図で捉えた作例です。日没直後の空にはまだオレンジが残り、街路灯とビルの窓明かりが灯り始めた時間帯です。
ここでは、画面全域に散らばる多数の点光源の処理が確認できます。左右のビルの窓、並木道に並ぶ街路灯、遠景の建設中クレーンの標識灯など、数十に及ぶ光源のいずれもが点として描写され、サジタルコマフレアによる羽ばたき状の伸びは認められません。超広角レンズにおいて画面四隅の点光源が乱れないことは、夜景撮影の完成度に直結します。
1/15秒という手持ち撮影としてはかなりのスローシャッターですが、画面中央から周辺まで像は止まっています。F3.2とわずかに絞ることで、画面全体の均質性をさらに高めています。

■撮影環境:焦点距離12mm f2.8 1/5秒 ISO100
完全に日が落ちた後の丸の内で複数の高層ビルが空に向かって集まる構図を12mmで捉えました。画面上部には街灯を配置し深い青に沈んだ空との対比を作っています。
この作例で注目すべきは、1/5秒という手持ち撮影の限界に近い速度でありながら、画面全体の解像が保たれている点です。ビルの窓の一つ一つ、ファサードの細かなパネル分割、街灯の支柱の輪郭、いずれも明瞭に描写されています。570gという軽量ボディが超広角の手ブレ補正の効きやすさと相まって、この速度域での手持ち撮影を実用の範囲に引き込んでいます。
暗部の色再現も良好です。夜空のブルーは濁ることなく深く沈み、ビルの窓から漏れる暖色系の光との色分離が明確です。混合光源下でも色が破綻しないのはLD・XLDレンズによる色収差補正が効いている証左でしょう。

■撮影環境:焦点距離17mm f2.8 1/6秒 ISO100
同じく夜の丸の内にて、17mmで交差点を捉えた一枚です。
手前を走り抜ける車のライトが流れ、静止した建築との対比で都市の時間を表現しています。
この作例では中間焦点距離17mmにおける描写の安定性が確認できます。12mmと20mmの間となる17mmは、ズームレンズにおいて描写が緩みやすい領域とされることもありますが、本レンズではその傾向は見られません。中央奥の高層ビルのガラス面、右側の石造建築のディテール、左端の曲面ガラスの映り込みといずれも解像が保たれています。
画面中央左の暖色でライトアップされた建築は周囲の青みがかった夜景の中でも色が濁らず、レンガの質感まで克明に描かれています。ここでも1/6秒という低速シャッターを手持ちで成立させており、F2.8通しの明るさと軽量ボディの組み合わせが、夜のスナップ撮影における自由度を大きく広げていることが分かります。
サジタルコマフレア補正が支える星景撮影
本レンズがメーカーとして最も強く訴求しているのが星景撮影における性能です。12mmという圧倒的な画角と、F2.8という明るさ、そしてサジタルコマフレアの補正、この3つが揃うことで、星景撮影の表現領域は確実に広がります。

■撮影機材:ソニー α7R V + タムロン 12-20mm F2.8 (Model A084)
■撮影環境:焦点距離12mm f2.8 10秒 ISO5000
海岸の岩場から天の川を捉えた縦位置の星景作品です。12mmの画角により天頂付近から水平線、そして手前の岩場までを画面に収めています。波は10秒の露光で滑らかに流れ、岩肌の質感と対比を成しています。
この作例における最大の見どころは、画面全域における星像の点としての保持です。天の川の中心部から周辺の微光星まで星が点として記録されており、画面上部や左右端においても像の伸びがほとんど感じられません。ISO5000という高感度でも青白い星、黄色みを帯びた星が識別できる程度に色情報が残っています。
星景撮影においてF2.8という明るさが持つ意味は、単に明るいということに留まりません。星は地球の自転により移動するため、点像として記録するには露光時間に上限があります。本作例では10秒という露光時間を選択していますが、これは12mmという焦点距離であればまだ余裕のある設定です。F2.8の明るさがあることで、この限られた露光時間の中でより多くの光を集められ、ISO感度の上げすぎを避けられます。

上記作例の画面右端部を等倍で切り出したものです。星景レンズの評価において最も厳しく問われる、画面最周辺部における点像の形状を確認できます。
超広角レンズの多くは、開放絞りにおいて画面四隅の星が鳥の羽根状、あるいは扇状に伸びるサジタルコマフレアを発生させます。この現象は絞り込めば改善しますが、星景撮影では光量確保のため開放付近を使わざるを得ないため、開放時の性能がそのまま実用性能となります。
本切り出しを見ると、画面右端という最も条件の厳しい領域においても、星が概ね点として保持されていることが分かります。羽ばたき状の顕著な変形は見られません。12mm開放F2.8という条件下でこの水準に収まっているのは、XGMレンズを中心とした非球面レンズ4枚構成による設計の成果と言えるでしょう。
さらに本レンズの星景撮影における実用性を高めているのがMFロックスイッチの存在です。星景撮影ではピントを無限遠付近に合わせた後、そのピント位置を維持したまま構図を変えたり、長時間の連続撮影を行ったりする場面が多くあります。フォーカスリングの誤操作によるピントズレは、その夜の撮影を台無しにしかねません。MFロックスイッチはフォーカスリングの操作を無効化し、この事故を確実に防いでくれます。本作例のようにコンポジット処理を前提とした連続撮影ではこの機能の価値はさらに高まります。
加えて、リアフィルターホルダーの搭載も重要なポイントです。本レンズは前玉が大きく突出した設計のため、一般的な前面ねじ込み式フィルターは装着できません。その代わりにマウント側にシートタイプのフィルターを装着できるフィルター枠が設けられており、市販のフィルターシートをカットして挿入することができます。星景撮影で用いられるソフトフィルターを、このリアフィルターホルダーで運用できる点は、実用上の大きな利点です。
さまざまな撮影シチュエーションに対応する操作性
本レンズは、コンパクトなボディでありながらプロフェッショナルの要求に応える豊富なコントロール機能を備えています。

ズームロックスイッチは、広角端12mmと望遠端20mmの両端で画角を固定できます。使用頻度の高い画角において、撮影中の不意なズレを防ぎ、意図した構図を安定して維持できます。リングを回すだけでロックを解除できるため、次の操作へもスムーズに移行できる設計です。
AF/MF切り替えスイッチは瞬時の切り替えを可能にし、撮影のテンポを崩しません。前述のMFロックスイッチと組み合わせることで、星景撮影時の運用性が大きく向上します。
クリックON/OFFスイッチは、絞りリング/コントロールリングのクリック感を切り替えられます。ONでは一目盛りごとの確実な操作が可能で静止画撮影に、OFFではスムーズなリング操作により動画撮影時の自然な露出変化に対応します。
対応するカメラ機能も充実しており、ソニー Eマウント用ではファストハイブリッドAF、瞳AF、ダイレクトマニュアルフォーカス(DMF)、カメラ内レンズ補正(周辺光量・倍率色収差・歪曲収差)、AFアシストに対応。ニコン Z マウント用ではハイブリッドAF、瞳AF、M/Aモード、カメラ内レンズ補正に対応しています。
まとめ
タムロン 12-20mm F2.8を通して見えてくるのは、12mmという画角をどれだけ多くの撮影者の手元に届けられるかという明確な設計意図です。
望遠側を20mmで切り上げるという判断は汎用性という観点では確かに割り切りです。しかし、その代償として得られた570gという質量と90mmという最大径は超広角ズームの携行性を明確に次のフェーズへ押し上げました。12群17枚の光学系に8枚もの特殊レンズを投入し、サジタルコマフレアまで補正しながらこのサイズに収めた設計は素直に評価されるべき技術的達成と言えるでしょう。
今回、有効約6100万画素のα7R Vと組み合わせて検証しましたが、高画素機に対しても描写が破綻する場面はありませんでした。建築の作例では画面四隅までディテールが保持され、色にじみも良好に抑制されていました。夜景では開放F2.8のまま1/5秒という手持ち撮影を成立させ、画面全域の点光源が乱れることなく描写されました。そして星景では画面右端の等倍切り出しにおいても星が概ね点として保持されており、開放から実用となる星景レンズであることが確認できました。
建築撮影においては12mmの圧倒的な画角と0.18mの近接性能が、ストリートスナップにおいてはVXDの即応性とズーム全域の均質な描写が、夜間撮影においてはF2.8通しと軽量ボディの組み合わせが、そして星景撮影においてはサジタルコマフレア補正とMFロックスイッチが、それぞれの現場で確実に効いてきます。リアフィルターホルダーによるソフトフィルター運用も、星景撮影者にとっては見逃せない実用性です。
超広角という領域はレンズの光学設計が写真の完成度に最も直接的に影響するジャンルのひとつです。周辺部の像の流れ、色にじみ、点光源の乱れ、逆光時のフレア。これらはいずれも構図やレタッチでは救済しきれません。だからこそ、光学設計に妥協のない一本を選ぶことに意味があります。
12mmという画角には他では代替できない特権があります。その特権を山にも街にも気軽に持ち出せる重量で手に入れられるようになったこと。それが、本レンズが超広角というジャンルにもたらした最大の変化です。星景と建築を主戦場とする写真家にとって、新たな主役となり得る一本と言えるでしょう。
■写真家:Amatou
1995年千葉県生まれ。非現実的な都市景観の表現をコンセプトとしたファインアートフォトグラフィーをメインに撮影している。その独特な世界観が評価され、International Photography Awards、Sony World Photography Awardsをはじめ、国際的写真コンテストで数多くの上位入賞を果たす。














