水の妖精スイレン|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
水の妖精スイレン|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

前回の記事ではハスの撮り方について解説しましたが、今回はスイレンについてお話ししたいと思います。ハスとスイレンはどちらも夏に咲く水生植物で、どことなく似ているところがあります。しかし、スイレンは葉を水面に広げる浮葉性植物で、ハスは水面から上へ葉を伸ばす挺水植物です。また、スイレンは花も葉も水面にありますが、ハスは水面より高いところまで伸びるので、そこで区別してみてください。他には、スイレンの花は細長く尖っていて、葉に切れ込みがあるというのも特徴です。

日本に古来から自生するスイレン属はヒツジグサという品種のみで、北海道から九州にかけて見ることができます。公園や温室で見られるのは園芸用のスイレンで、温帯スレンと熱帯スイレンに分けられます。スイレンは水面に花を咲かせると書きましたが、熱帯スイレンは水面より上に茎を伸ばし、花も華やかです。

寂し気な雰囲気を演出

■撮影機材:OMシステム OM-1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO800・1/320秒

温室で見られる熱帯スイレンです。通常は茎が長く水面から伸びるのですが、倒れてしまって水面に花を浮かべていました。花を極端に左に寄せていますが、これは水面に落ちた影を意識してのフレーミングです。やわらかい光を選び、露出は抑え目にして、花の終わりを感じる寂しげな雰囲気に仕上げました。

ローアングルで上下対象に

■撮影機材:OMシステム E-M5 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6
■撮影環境:絞り優先・150mm・F5.6・ISO200・1/800秒

公園の池で咲いていた温帯スイレンです。水面ギリギリにカメラを構えると花と映り込みとが上下対称型になります。当然ローアングル撮影になりますが、液晶モニターが可動式のカメラを使用すれば低い位置でも楽な姿勢で撮れるので便利です。この日は天気が良く、光が強く当たっていたので、水面の奥の緑も鮮やかに映り込み、花より下側を多く入れて、映り込みの緑を取り入れたフレーミングにしています。

映り込みを主役にする

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・115mm・F2.8・ISO200・1/1250秒

水面に映り込んだ太陽と、スイレンの映り込みを捉えた作品です。モチーフ同士に関わりができるように、花の映り込みと太陽がやや重なるような位置を探しました。そのため、本来は主役となりそうな花の本体が目立ちすぎないようにするため、左上に寄せ、大幅にカットしています。

強い反射を利用してシルエットをつくる

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・135mm・F2.8・ISO200・1/5000秒

背景で白く見えているのは葉の反射です。水生植物の葉はテカリやすく、PLフィルターを使って反射を減らすのが基本ですが、ここはあえて強い反射を残し、明るい背景を作り出しています。すると、明暗差から影になった花はシルエット気味になっています。葉のふちが強く反射して丸ボケになるのも面白いですよね。ぼやっと浮かび上がる妖しげな雰囲気になりました。

PLフィルターで反射やテカリを抑える

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/500秒

尾瀬で撮影したヒツジグサです。日本に自生する唯一のスイレン族で、未の刻(午後2時)前後に花が咲くことからこの名前が付けられました。実際には早朝から湿原に入った頃はまだ蕾んでいて、帰り始めの頃に見られました。木道の近くに咲いている花があったので、真上から平面的に撮影しました。PLフィルターを使うと葉のテカリや水面の反射を取り除けますよ。

色温度で変化をつける

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6
■撮影環境:絞り優先・150mm・F5.6・ISO200・1/2500秒

スイレンが咲く池は沼地なので実際は茶色です。綺麗な色に見えないため茶色のままでは写したくありません。そこで、少し青みを加えて、澄んだ水のイメージにしている作品が多いのです。しかし、そればかりですと、すべて同じような色合いになってしまうので、変化をつけてみましょう。ホワイトバランスを使って夕暮れのイメージでオレンジ系にしました。ホワイトバランスの色温度設定を4000K~3000Kに補正すると青みが加わり、6000K~7000Kに補正すると赤みが増します。

多重露光でソフト効果を加える

■撮影機材:OMシステム OM-1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO640・1/320秒・多重露出

モネの睡蓮シリーズはとても有名で、淡いトーンで青い水面にスイレンの葉が浮かんでいる様子が描かれた作品が数多く残されています。しかし、現実には柔らかな光では色が濁りやすく、水面に青空が反射するような天候では光が強くて硬い印象になります。そこで、光の柔らかい雨の日にホワイトバランスで青みを加えました。多重露光でボケ像を重ね、ソフト効果も加えています。モネのようにと思って撮ったわけではないのですが、ソフトな雰囲気になりました。

月夜に咲いているように撮る

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/1250秒

ホワイトバランスを2800Kにして極端に青く補正すると、月夜のようなイメージになりました。スイレンには夜咲きの品種もありますが、基本的には昼に咲いて夜は閉じるを繰り返す花なので、本来は夜には閉じています。しかし、見たままの感じよりも青みがかった方が印象は良かったので撮りました。逆光で光が透けた様子が美しく、周囲が暗いために水面も黒くなりました。闇の中から花が青白く浮かび上がってきますね。

さいごに

水面に花が映り込むのはスイレンならではの撮り方なので挑戦してほしいですね。上下対象型に撮りたい時はローアングルが基本。高い位置から撮ると綺麗な上下対象に見えません。また、水生植物は葉がテカる上に、水面の反射もあるのでPLフィルターを装着するといいでしょう。反射の度合いを見ながら前枠を回転させて、効果を調整してください。また使用するレンズはポジションが限られる水辺では望遠ズームが便利です。

外のスイレンは真夏が本番ですが、植物園の温室で温度管理されているものは年中花を見ることができます。花の少ない冬でも、いい被写体になってくれるのでありがたいですね。熱帯スイレンは品種によって昼咲きと夜咲きがあります。温帯スイレンはハスと同じように午前中は咲いていますが、午後になると閉じてしまいます。ヒツジグサは日中に咲くので朝の早い時間は閉じています。花が開いている時間を考慮して撮影地へ向かいましょう。

 

 

■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。

・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員

 

 

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