スナップで街めぐり。一瞬の情景を愉しもう。Vol.23|雨の日こそ、シャッターチャンス

はじめに
晴れた日には見えない街の表情や、雨粒がつくる美しい反射。濡れたアスファルトに映る光や、傘をさした人々のシルエットなど、雨の日には独特の雰囲気がある。
少し歩くだけで、ドラマのワンシーンのような瞬間に出会えることも。カメラ片手に、いつもの景色を違う目で見てみよう。天気を理由にカメラをしまうのは、もったいない。
今回は、最近撮ったそんな雨の日の写真を紹介したいと思う。
西新宿
車のフロントガラスと助手席隣のガラス二枚越し。フロントガラスに右上の光を取り込みつつ、正面の明るい部分に傘の人を入れてみた。フロントガラスに細かい雨粒が付いていて、滲みのある反射になっているところが気に入っている。

■撮影環境:1/80 秒 f/2.0 ISO500 焦点距離35mm
JR池袋駅南口
以前から雨の日によく撮る場所だが、この日は持っていた小物(麺を入れて水を切る小さなザル)を使ってみた。手前に何かわからない不思議なものを透かす写真が最近のマイブーム。
いつも撮っている場所でも印象が変わるので、撮影前に文房具店とか食器店で使えるものはないかなと探してみると面白い写真が撮れるかもしれない。

■撮影環境:1/125 秒 f/16 ISO1600 焦点距離35mm
鎌倉駅の時計台
この日は50mmマクロレンズ一本だったので、思いついた撮り方。
軒下から滴る大きな雨粒、落ちてくる場所は決まっているので、水滴の中で逆さまに見える時計台を狙ってみた。
雨粒を丸く完璧に止めたいので、SSは1/2000以上になる様に設定。電子シャッターだと雨粒が伸びてしまうので、メカシャッターに変更して置きピンで連写だ。百枚以上撮って数枚使えるかなって感じだ。

■撮影環境: 1/2500 秒 f/3.5 ISO1000
大船駅ホーム
JRの駅によくある、線路の落とし物を取るための棒を格納するケース。
白いプラスチックの黒い絵の部分に、ホームの人影が映り込むのが見えたのでレンズを近づけてみた。このような場面では開放で寄ると基本なにかよくわからない写真になるので、絞りを最大値に近づけて反射する面に近づき、その先に見える景色にピントを合わせるとこの様な絵になってくれる。

■撮影環境:1/125 秒 f/16 ISO2500
江ノ電腰越駅近く
路地先に線路がある場所で、車両全体が見える所もいいが、こんなかんじでちらっと見える場所が特に好き。水溜まりの映り込みとごみの青いネットを画面半分ぐらいの割合で思い切って入れることで、普通に撮った感を更に少なくしてみた。

■撮影環境:1/125 秒 f/3.5 ISO100
江ノ電鎌倉駅前
人気の車両が腰越方面に向かうところ、慌てて反射する場所を探してみた。
柵の近くに鉄板部分を発見、普段は反射しない所だが雨のおかげでいい感じに。

■撮影環境:1/800 秒 f/3.5 ISO100
鎌倉駅近く
白いスクーターのテールランプの近くにイチゴの飾りがあったので近寄ってみたところ、ランプカバーに後ろの景色が映り込むのが見えた。カメラの高さと角度を調整すると後ろから歩いてくる人の影が映り込むのがわかったので、傘の影がいい位置に来たところでシャッターを切った。

■撮影環境:1/125 秒 f/不明 ISO160
鎌倉駅近く
これは掲示板の押しピン。一見なにかよくわからないものだったが色鮮やかさにひかれて撮ってみた。マクロでないとかわいい感じが出せなかったと思う。
雨の日は50mm辺りのマクロを一本。 50mmのマクロは各社軽いものが多いので一本鞄に入れておくといいと思う。

■撮影環境:1/125 秒 f/不明 ISO200
鎌倉高校前
左側は海だったのでフィッシュアイで広く撮ってみた。
広角をつけているときはお茶碗具合の大きさの水溜まりでも、フィッシュアイで水面に近寄れば大きく反射を撮ることができるので、このように撮ることができる。

■撮影環境:1/320 秒 f/5.6 ISO100
オレンジ色の花
手前のオレンジの花と背景の青みがかったトーンが対比的で、色彩のバランスを気にしながら撮った。
花びらに付いた雨粒は普段なかなか撮れないのと、背景が暗いこともあって印象的な写真になった。

■撮影環境:1/250 秒 f/3.5 ISO100
あとがき
静かな雨の日は、街が少しだけ違って見える。
慌ただしく行き交う日常が、まるでフィルターをかけたかのように柔らかくなり、濡れた路面が、空の色と記憶を静かに映し出す。
このシリーズは、そんな雨の日にだけ出会える、ささやかな光と質感を記録したものだ。
雫が落ちる瞬間や、濡れたアスファルトに映る様々な色彩はどれも、晴れた日には見落としてしまう光景ばかり。
撮影には、いつもの小さなカメラと、ほんの少しの時間、そして雨音を楽しむ心を携えて歩いた。湿度やにおい、足元の冷たさまでは写らないけれど、少しでもその空気感が伝われば幸いだ。
雨は、ただの気象ではなく、記憶と感情を揺らす装置でもある。
この写真たちが、あなた自身の「雨の日」を呼び起こす一滴となれば嬉しく思う。








■写真家:富久浩二
日々の通勤風景を主に、いつも見ている変わりばえのない、しかし二度とやって来ない一瞬の情景を大切にし、ちょこっと人が入った物語りのある写真をテーマのもとに、人びとの優しく楽しい感情が伝わる事を目標に日々撮影している。子供の頃の目線、何と無く懐かしさを感じて貰える様に、ライブビューを使った低い目線、思い切って背伸びをした様な高さからの撮影が特徴的。