風景写真の引き出しを増やす!|その15:撮影時にやっておくこと、撮影後でもできること。

高橋良典
風景写真の引き出しを増やす!|その15:撮影時にやっておくこと、撮影後でもできること。

はじめに

フィルムカメラの時代はシャッターを切ったその瞬間に結果が決まったと言っても過言ではないでしょう。
それがデジタルになり、撮影後に明るさを変えたり色味を変えたりトリミングも容易に行えるようになりました。
とはいえ後から取り返しのつかないことはデジタルになった今の時代でも確実にありますし、逆にデジタルならではの編集作業を経ることでこそできる作品表現もあります。そこで今回は私自身が撮影時に決めてしまうこと、そして撮影後でもよいと思っていることについてお伝えしてまいります。

写真を構成する要素

1枚の写真が出来上がるまでにはたくさんのプロセスがあります。以下に代表的なものを挙げてみました。

・その場の光を読む
・被写体探し
・露出(絞りとシャッタースピード、明るさ)
・ISOの決定と高感度ノイズ 
・構図(撮影後のトリミング)
・ホワイトバランス 
・フィルターワーク 
・明暗のおさめ方
・ピント合わせとカメラブレの防止

結構な数がありますよね?そこで項目ごとに分けて、私なりの撮影時と撮影後の考え方を解説します。

その場の光を読む。被写体を探す。《撮影時のみ可能、撮影後は不可》

美しい色で描くには光線の向きが重要なポイント!光の状況に関しては後処理で補うことは難しく、しっかりと光を読んで撮影する必要があります。また何を狙うのかも撮影時に決めること。たとえ小さなものでも見つけられるように周りに気を配り被写体探しの目を養いましょう。

【写真1】

■撮影機材::ソニーα7RⅤ + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離 102mm 絞り優先AE(F11、1/60秒、-0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

左斜め前からのサイド光~半逆光で撮影。光の向きが良く紅葉の鮮やかさと水面に映る青空のブルーが美しく描かれています。陰影が風景に奥行きを作り出していますね。

【写真2】

■撮影機材::ソニーα7RⅤ + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離 400mm 絞り優先AE(F8、1/1000秒、-0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

かたや真順光で撮影したNGカット。紅葉の色が色あせたようになってしまいました。陰影がつかないため奥行きの感じられない平坦な描写とも言えます。こうなると後処理で彩度やコントラストをアップさせたところで今ひとつな印象は拭えません。

【写真3】

■撮影機材::ソニーα7RⅤ + FE 70-200mm F4 Macro G OSS II
■撮影環境:焦点距離 200mm 絞り優先AE(F4、1/125秒、+0.5EV) ISO200 太陽光 CPLフィルター

小さな溝に落花した梅を見つけました。水面に映り込む空と木々の色を取り入れてローアングルから撮影。意外と見逃してしまいそうなところに被写体は隠れているものです。広い目から寄りの目までをフル稼働して被写体を探しましょう。

露出(絞りとシャッタースピード、明るさ)

絞りによる被写界深度のコントロール、そしてシャッタースピードによる動感表現は画像処理アプリが進化した今でも後から変更することは難しく、撮影時にしっかりと決める必要があります。明るさ(露出補正)に関しては程度によりますが後からでも修正可能です。

絞りによる被写界深度の変更《撮影時のみ可能、撮影後は不可》

【写真4】

■撮影機材::ソニーα7RⅢ + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離 40mm 絞り優先AE(F2.8、1/200秒、-0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

【写真5】

■撮影機材::ソニーα7RⅢ + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離 41mm 絞り優先AE(F5.6、1/30秒、-0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

【写真4】と【写真5】は絞りの違いです。2枚はどちらが良い悪いではなく描き方の違いです。背景を大きくぼかすのか?それとも雰囲気を伝えるのかでF値が変わってきます。撮影時にどのように見せたいのかを考えて絞りを設定、後からでは変更できないので、迷ったときは複数通り撮影しておきましょう。

シャッタースピードによる描写の変更《撮影時のみ可能、撮影後は不可》

【写真6】

■撮影機材::ソニーα7RⅣ +FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:焦点距離 37mm マニュアル(F5.6、1/15秒) ISO1250 太陽光 CPLフィルター

【写真7】

■撮影機材::ソニーα7RⅣ +FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:焦点距離 37mm マニュアル(F8、0.5秒) ISO320 太陽光 CPLフィルター

【写真6】はNGカット。水の流れ方が中途半端で雑な印象です。【写真7】はしっかりと低速シャッターになるよう調整したもの。シャッタースピードに関しても撮影時の間違いを後処理で修正することは難しいので、きちんと望むシャッタースピードを決めて撮影しましょう。

明るさ(露出補正)の変更《撮影後に可能》

【写真8】原画

■撮影機材::ソニーα7RⅢ + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離 400mm 絞り優先AE(F16、1/250秒、-4EV) ISO100 太陽光 CPLフィルター

【写真9】RAW現像時に原画から+1.7EV処理

■撮影機材::ソニーα7RⅢ + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離 400mm 絞り優先AE(F16、1/250秒、-4EV) ISO100 太陽光 CPLフィルター

【写真8】はスポット光を生かそうと相当アンダーに撮ったものですがさすがに暗すぎました。その場で取り直そうと思ったものの光の当たり具合が変わってしまったため、持ち帰った後に【写真9】のように後処理で明るくしました。大きな調整でも画像をなるべく劣化させないようにするにはJPGよりRAWで撮影しておく方が有利です。

ISOと高感度撮影時のノイズ《撮影後にノイズ低減処理可能》

ISOはシャッタースピードのコントロールにも関係します。シーンに合わせて適切なシャッターになるよう調整しましょう。ISOを高くするとノイズがのりやすくなりますが、最近のRAW現像アプリではAI処理によるノイズ低減機能が進化していますので活用してみるのもおすすめです。この機能を使うにはJPGではなくRAWで撮影しておく必要があります。

【写真10】原画

■撮影機材::ソニーα7Ⅳ +FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:焦点距離 105mm 絞り優先AE(F4、1/30秒、-0.5EV) ISO12800 太陽光

          
【写真11】RAW現像時にノイズ低減処理

■撮影機材::ソニーα7Ⅳ +FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:焦点距離 105mm 絞り優先AE(F4、1/30秒、-0.5EV) ISO12800 太陽光

船上からの撮影のため相当ISOを上げました。原画【写真8】だとさすがにノイズが目立ちますよね。そこでLightroom ClassicにてAIノイズ低減処理を行ったのが【写真9】です。随分とノイズが目立たなくなっているのがわかります。(拡大してご覧ください)ISO設定のコツについては以下の記事も参照いただくとさらに理解が深まります。

構図(トリミング) → 《撮影後に可能だが撮影時のみの場合有》

後からできる内容とそうでない内容があります。こちらに関しては以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてくださいね。

ホワイトバランスによる色味の変更《撮影後に可能(RAW撮影時)》

RAW撮影時は劣化なく後処理でWBを変更することが可能です。それだけに時間があるときにはその場で設定を追い込めばよいのですが、朝夕や目まぐるしく状況が変わるようなシーンではその場で決めてしまわずに後処理に頼る方がベターです。

【写真12】原画

■撮影機材::ソニーα7RⅤ +FE 20-70mm F4 G
■撮影環境:焦点距離 32mm 絞り優先AE(F16、2秒) ISO800 太陽光 CPLフィルター

【写真13】RAW現像時にWBを日陰に変更

<figcaption>■撮影機材::ソニーα7RⅤ +FE 20-70mm F4 G
■撮影環境:焦点距離 32mm 絞り優先AE(F16、2秒) ISO800 太陽光 CPLフィルター

早朝の時間帯に撮影。原画【写真10】を後から確認すると撮影時にそう気にならなかった青みが紅葉の発色を鈍らせているように感じたため、後処理でホワイトバランスを変更したのが【写真11】です。WBについても以下に詳しく解説していますので参考にしてくださいね。

PLフィルターの効果《撮影時のみ可能、撮影後は不可》

風景写真ではよく使うPLフィルターですが適切に効果を調整して使わなければかえって逆効果になることがあります。回転枠を回し忘れるという方がおられますが、後からの画像調整では修正できない部分なので撮影時にしっかりと調整しておきましょう。自信がない場合は効果を変えて撮っておくのがおすすめです。
【写真14】

■撮影機材::ソニーα7RⅤ + FE 28-70mm F2 GM
■撮影環境:焦点距離 30mm 絞り優先AE(F5.6、1/30秒) ISO200 太陽光 CPLフィルター

まずはPLフィルターの反射除去効果を最大に効かせて撮影。緑はきれいに出たものの肉眼での印象とは異なります。

【写真15】

■撮影機材::ソニーα7RⅤ + FE 28-70mm F2 GM
■撮影環境:焦点距離 30mm 絞り優先AE(F5.6、1/20秒、+0.5EV) ISO200 太陽光 CPLフィルター

そこで今度はPLフィルターの効果を最大に弱めたところきれいに青空が映り込みイメージ通りの画になりました。

明暗のおさめ方《撮影後に可能だが不可の場合も有、撮影時に注意》

輝度差の大きな朝夕の風景は撮影時にしっかりと考えて撮る必要があります。後からRAW現像で補おうとしたところで白飛びや黒つぶれをおこしてしまった写真からでは処理のしようがありません。また、たとえ白飛びや黒つぶれになっていなかったとしても、白飛びや黒つぶれギリギリに撮ってしまうとノイズが出てやすくなるなど美しい写真にならない場合があります。RAW現像を前提としての撮影の場合はそのあたりまで考えて露出を決めましょう。あまりに輝度差が大きなシーンではハーフNDフィルターを活用して現場である程度の輝度調整をしておくことで、後処理でも美しい写真とすることができます。

【写真16】ハーフND不使用

■撮影機材::ソニーα7RⅤ + FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:焦点距離 46mm 絞り優先AE(F16、1/200秒、-0.5EV) ISO400 太陽光

コスモスが暗くなりすぎない程度に露出を決めましたが空の部分が大きく白飛びしています。これでは後処理を頑張ったところで肉眼で見た美しい風景は再現できません。

【写真17】原画(ハーフND使用)

■撮影機材::ソニーα7RⅤ +FE 20-70mm F4 G
■撮影環境:焦点距離 32mm 絞り優先AE(F16、2秒) ISO800 太陽光 ハーフNDフィルター

【写真18】さらにRAW現像で明暗を調整

■撮影機材::ソニーα7RⅤ +FE 20-70mm F4 G
■撮影環境:焦点距離 32mm 絞り優先AE(F16、2秒) ISO800 太陽光 ハーフNDフィルター

そこでハーフNDフィルターを使用して撮影の段階で輝度差を整えて撮影。さらに後処理でコスモスのシャドウ部を明るく、太陽のハイライトを抑えて肉眼に近い状態を描きました。

ピント、カメラブレ《撮影時のみ、撮影後は修正不可》

最後に写真の基本中の基本、ピントとカメラブレです。どんなに良い写真でもピントが外れていたりカメラブレをおこしていては残念ながら失敗作とみられてしまいます。(意図的なピンボケやブレは除く)ピントやブレにシビアな状況だと感じたら必ず再生画像を拡大、きちんと撮れているかを確認する癖をつけましょう。撮影時に気づかず、後から気づいても撮影後の修正では難しいのです。

【写真19】

■撮影機材::ソニーα7RⅤ + FE 70-200mm F2.8 GM OSS II
■撮影環境:焦点距離 188mm マニュアル(F13、4秒) ISO250 太陽光 CPLフィルター、NDフィルター

超スローシャッターを切りましたが強風かつ望遠使用のため何度やってもカメラブレをおこしてしまいました。PCの画面などで拡大してご覧いただくとハッキリとカメラブレだとわかる写真ですが、撮影時に気づかないことも多いので注意しましょう。

【写真20】

■撮影機材::ソニーα7RⅤ + FE 70-200mm F2.8 GM OSS II
■撮影環境:焦点距離 200mm マニュアル(F16、1/4秒) ISO250 太陽光 CPLフィルター、NDフィルター

おさまらない風に超スローシャッターを諦め1/4秒にシャッター速度を設定。拡大してご覧いただくとこちらはカメラブレがないことがわかります。

まとめ

今回は撮影時に「しっかりと考えておく必要があること」、「撮影後に考えてもよいこと」、「撮影時&撮影後の組み合わせで考えること」について解説しましたがいかがでしたか?いくらカメラが進化したからと言っても雑に撮らずに丁寧に撮影することが大切です。記事を参考にしてみなさんの今後の撮影に生かしていただけると嬉しく思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

<2025年9月スタート>たかりん風景写真部〈高橋良典講師〉

本連載の執筆を担当されれている高橋良典さんによる
カメラのキタムラ写真教室「たかりん風景写真部」のご案内です。

6か月に6種類の被写体・撮り方が楽しめる撮影クラブ。
入会費制なので、毎回のイベントに参加できる権利があり、
6カ月を通してメンバー同士の交流が深まります。

「たかりん風景写真部」の特徴

・6か月間、同じ仲間で学ぶ写真講座
・少人数定員(最大12名)で撮影会でのアドバイスや講評でも手厚くフォロー可能
・ 色表現のポイントを押さえてレベルアップを目指したい方。光の読み方を学びたい方におすすめ。

詳しくは公式サイトをご覧ください。
https://www.npopcc.jp/classroom/detail/?id=8081&category_id=67

 

 

■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師

 

 

関連記事

人気記事