Foveonセンサー搭載の魅力あふれる唯一無二のカメラ|シグマ dp3 Quattro

水咲奈々
Foveonセンサー搭載の魅力あふれる唯一無二のカメラ|シグマ dp3 Quattro

はじめに

2015年に発売された「SIGMA dp3 Quattro」は、被写体の質感を驚くほどリアルに描き出し、その場の空気まで圧倒的な解像力で表現する、Foveonセンサー搭載のレンズ一体型カメラです。
残念ながら現在は販売終了となっておりますが、中古市場でも根強い人気の本機の魅力を、スナップをご覧いただきながら紹介いたします。

唯一無二の表現力

■撮影環境:絞りF2.8 1/250秒 ISO100 AWB
■カラーモード:ティールアンドオレンジ

dp Quattroシリーズには、画角の違う4機種がラインナップされています。dpの後の数字が小さいほど広角、大きいほど望遠になります。「SIGMA dp0 Quattro(35mm換算約21mm)」「SIGMA dp1 Quattro(35mm換算約28mm)」「SIGMA dp2 Quattro(35mm換算約45mm)」「SIGMA dp3 Quattro(35mm換算約75mm)」。

筆者がdp Quattroシリーズで一番最初に手に入れたのが、ラインナップ上の最望遠画角の「SIGMA dp3 Quattro」です。その理由として、どちらかというと広角よりも望遠画角が好みということもありますが、Foveonセンサーによる浮き出るような立体感を、望遠画角の大きなボケがさらに際立たせてくれるのではないかという期待があったのと、一番近接撮影ができるからです。

■撮影環境:絞りF2.8 1/200秒 ISO100 AWB
■カラーモード:風景

本機の魅力は、とにかくその描写性能に尽きます。今まで写っていなかった色が写っている!と、妙な日本語が飛び出してしまうほどに、構図内の被写体を細かいグラデーションで繊細に色付けしてくれます。

動物の毛並み、芝生や葉っぱ、木のささくれの質感、金属とプラスチックの温度まで、豊かな階調で描き出します。特に白とび、黒つぶれギリギリの階調の粘りは素晴らしく、本機を持つとしっとりとしたアンダー露出のカットが多くなるほどです。

■撮影環境:絞りF5.6 1/500秒 ISO100 AWB
■カラーモード:ティールアンドオレンジ(-2)

搭載されているレンズはSLDガラス1枚、非球面レンズ1枚を含む8群10枚の構成で、絞り羽根枚数は7枚。レンズ一体型の本機ですが、別売りの本機専用の1.2倍テレコンバーター「CONVERSION LENS 1.2X FT-1201」をレンズの前面に装着すれば、描写性能そのままにさらなる倍率を楽しむこともできます。今回は身軽なスナップをテーマに、テレコンは使用せずに撮影していますが、バッグに忍ばせておくと楽しいアイテムです。

ピント合わせは基本的にはAFで行いますが、控えめに言って、少々おっとりとしたAF性能です。走っている子供を撮るよりも、顔しか動かさずに草を食べるヤギを撮るほうが向いています。だから、撮れるものだけ撮ればいいと割り切れるほど、他に類を見ない画を生み出すカメラだと断言いたします。

細かい線を丁寧に描く高度な描写性能

■撮影環境:絞りF2.8 1/160秒 ISO100 AWB
■カラーモード:スタンダード

本機の得意な表現のひとつに、細かい線の描写があります。この赤い飾りの玉の部分は、細い糸を巻き付けたものでしたが、拡大して見ると、その細い糸の一本一本が、色潰れせず描かれているのに驚かされました。

いわゆる高級コンデジと言われる部類の本機ですが、屋外での背面の液晶画面は見やすいとは言い難く、SIGMA dp Quattroシリーズ専用のビューファインダー「LCD VIEW FINDER LVF-01」を装着することで、視認性はぐっと上がります。

ですが筆者は、本機を使うときは不便を楽しむをモットーとしています。撮影時はフィルムカメラで撮影している気分で、多少見にくくてもざっくりと構図の確認をする程度に留めて、家に帰って大きなモニターで見て「おおー!いい感じに撮れてる!」と驚くひとり遊びをしています。

■撮影環境:絞りF2.8 1/1250秒 ISO100 AWB
■カラーモード:スタンダード

このススキのカットも、風と太陽の強い沖縄の海辺という条件下で、ピントの打率を上げるために、いつもの倍以上の枚数を撮るという手法で手に入れたカットです。

本機はAFもですが、どんなに高速のメディアを使っても、記録もおっとりとしています。1枚撮影するとゆっくり丁寧に記録をするので、連写なんて以ての外です。いいんです。このススキの穂の柔らかな手触りを感じさせる質感を得られるのであれば、このカメラで撮れるものを撮ることが楽しいのです。

順光ではよりドラマティックに!

■撮影環境:絞りF2.8 1/800秒 ISO100 WB:晴れ
■カラーモード:サンセットレッド(-1)

逆光時にはレンズの性能も相まって、ふんわりとした優しさを感じさせる繊細な描写が美しい本機は、順光時には同じカメラとは思えないほど、ドラマティックな描写を生み出してくれます。

さみしげに枯れたハイビスカスを、それでも落ちずに粘る力強いイメージのまま撮影してみました。太陽の光が濡れたような艶かしさを出してくれて、ドラマティックな仕上がりとなりました。

カラーモードをサンセットレッド(-1)にすることで、よりコントラストを強調しています。

■撮影環境:絞りF8 1/400秒 ISO400 AWB
■カラーモード:ビビッド

おっとりとしたAFなので動きモノは苦手ですが、カメラと被写体との距離が前後しない、このようなシーンではそれほど問題なく撮影できます。園内で購入した餌のお陰で、鯉の目線ももらえました。

ISO感度はあまり上げるとノイズが乗ってしまうので、筆者は使うとしてもISO400くらいを上限としています。それ以上のISO感度を使用するときは、ノイズ表現を楽しむくらいの気持ちで使用します。

マクロモード搭載で被写体にググっと寄れる

■撮影環境:絞りF2.8 1/125秒 ISO100 AWB
■カラーモード:スタンダード

本機の特徴のひとつとして、マクロモードが搭載されており、最短撮影距離22.6cm、最大撮影倍率1:3の撮影が可能です。

こちらは、オリオンビールを注いだグラスの表面の泡を撮影。スペックだけを見ると、それほど寄れないように感じるかも知れませんが、実際に撮影すると、かなり被写体に近付いてもシャッターが切れると体感できると思います。細かい泡までしっかり写っていて感動しました。撮影後は筆者が美味しくいただきました。

予備バッテリーは複数所持推奨

■撮影環境:絞りF2.8 1/30秒 ISO100 AWB
■カラーモード:スタンダード

旅先の食事の写真は、スマホでは何を食べたかわかるように全体をはっきりと、その他のカメラではムード重視の写真を撮ることが多いです。冷める前にササッと撮影。撮影後は温かいうちに、美味しくいただきました。

本機を購入するときに、一緒に購入して欲しい物があります。予備のバッテリーです。この繊細で美しい画を紡ぎ出すために、カメラのなかで色々と頑張っているのでしょう。バッテリーはすぐに無くなります。1日外で撮り歩くときは、予備バッテリーを3個ほど持ち歩くと安心でしょう。

fpシリーズと同型のバッテリー「Li-ion Battery Pack BP-51」なので、fpとfp Lも所持している筆者の家には、数え切れないほどのバッテリーがあります。

Foveonセンサーだからこその描写が楽しい!

■撮影環境:絞りF2.8 1/1000秒 ISO100 AWB
■カラーモード:風景

中望遠画角と筆者の好みのため、寄りのカットが多くなりましたが、風景の描写ももちろん美しいです。Foveonセンサーがそこにある色情報を、偽色を混ぜないで正確に記録してくれるので、珊瑚の有無によって変わる海の色味を忠実に再現してくれています。

水面の情景や反射なども、Foveonセンサーのお得意な表現のひとつです。ちなみに、手ブレ補正機能などもついていませんので、しっかりとグリップして撮影しましょう。グリップ部分にバッテリーが入る構造で、丸みと厚みのあるデザインですので、大きな手の方でも握りやすいと思います。

■撮影環境:絞りF11 1/125秒 ISO100 AWB
■カラーモード:サンセットレッド

太陽が反射した雲のグラデーション、それらを映す水面、深みのある色味。すべてを筆者好みに仕上げてくれた一枚です。早起きが報われました。高コントラストの被写体は、アンダー目に仕上げるとぐっとムードが良くなります。

■撮影環境:絞りF2.8 1/160秒 ISO400 AWB
■カラーモード:スタンダード

車や鉄柵などの金属的な物の冷たい感触、その日の気温、街の空気感など、撮影したときを思い返せるほどの情報を、1枚の写真として仕上げてくれるのが、本機の最大の魅力とも言えます。

■撮影環境:絞りF2.8 1/320秒 ISO100 AWB
■カラーモード:フォレストグリーン

本機を使うときはRAWで撮影して、専用のソフトウェア「SIGMA Photo Pro」で現像しています。露出は撮影時そのままのことが多いですが、カラーモードを色々と変えて遊べるので、撮影時の気分と現像時の気分が変わっているときは、仕上がりのムードを変えて楽しんでいます。が、このソフトウェアも動作がおっとりとしていますので、コーヒーでも飲みながら、ゆったりとした気持ちで現像するのをお勧めします。

■撮影環境:絞りF8 1/200秒 ISO100 AWB
■カラーモード:スタンダード

青と赤の発色がわざとらしくなく、自然に綺麗なんですよ。普段はピンク好きの筆者ですが、本機で撮影するときは、青と赤の被写体を好んで選んでいる気がします。

■撮影環境:絞りF2.8 1/800秒 ISO100 AWB
■カラーモード:スタンダード

街角の何気ないスナップも、ボケが綺麗なので自然と捗ります。赤茶色の錆は、Foveonセンサーがお得意とする被写体でもあります。

■撮影環境:絞りF2.8 1/500秒 ISO100 AWB
■カラーモード:スタンダード

カメラによってはディティールが潰れてしまうような瓶も、丸みのある柔らかなラインと少しベタベタとした質感まで、とても丁寧に描いてくれています。

■撮影環境:絞りF2.8 1/200秒 ISO400 AWB
■カラーモード:スタンダード

筆者お得意の水族館での使用感はどうというと、色の表現は一生これで撮りたいと思うほど、信じられないほどリアルに、そこにある色味を描いてくれます。ただ、高感度が厳しいカメラなので、明るめの水槽に限ります。

■撮影環境:絞りF3.2 1/200秒 ISO400 AWB
■カラーモード:風景

丁寧で繊細な描写で、被写体の質感と温度をも伝えてくれるリアルな画を生み出す本機は、スペックだけでは計り知れない魅力があふれています。便利な最新機種を使っている方は、多少のもどかしさを感じるかも知れませんが、それを楽しむことができたら、このFoveonセンサーの魅力的な写真を自分のモノにすることができます。ぜひ、キタムラの中古製品にアンテナを張っておいてください!

SIGMA dp3 Quattroの主要諸元

焦点距離:50mm(35mm判換算:約75mm)
絞り値:F2.8~F16
絞り羽根枚数:7枚
レンズ構成枚数:8群10枚
撮影範囲:22.6cm~∞、LIMITモード
(マクロ、ポートレート、風景、カスタムより選択可能)
最大撮影倍率:1:3
大きさ:161.4mm(幅) ×67mm(高さ) ×101.8mm(奥行)
質量:465g(電池、カード除く)
撮像素子:FOVEON X3ダイレクトイメージセンサー (CMOS)
撮像素子サイズ:23.5×15.7mm
有効画素数:約29MP
記録媒体:SDメモリーカード / SDHCメモリーカード / SDXCメモリーカード/ Eye-Fiカード連動機能搭載
記録方式:ロスレス圧縮RAW(14-bit)、 JPEG(Exif2.3)、 RAW+JPEG
JPEG画質:FINE、 NORMAL、 BASIC
アスペクト比:21:9、 16:9、 3:2、 4:3、 7.6、 1:1
電源:専用リチウム充電池(Li-ion Battery Pack BP-51)
撮影可能枚数:約200枚(バッテリーパック BP-51使用、25℃時)
付属品:レンズキャップ / ホットシューカバー / ストラップ / バッテリーパックBP­-51 / バッテリーチャージャー BC­-51
バッテリー チャージャー用ACケーブル / USBケーブル / 使用説明書

 

■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。

 

 

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