赤城耕一の魅力的なカメラ・レンズを再発見! その3 ~ステレオタイプな回答が当てはまらない、オリンパス PEN-F~

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赤城耕一の魅力的なカメラ・レンズを再発見! その3 ~ステレオタイプな回答が当てはまらない、オリンパス PEN-F~

マイクロフォーサーズPENシリーズの覚悟

2009年に新登場したオリンパスのマイクロフォーサーズの初号機は「PEN E-P1」と名づけられました。この名称は、いまも強く記憶に残り、実際に姿を見てとても感動したことをよく覚えています。デザインは間違いなくフィルムカメラ時代のPEN-FやPEN-FT、PEN-FVからの流れを感じました。  

これらは「ハーフサイズのフィルム一眼レフ」という変わり種のカメラでしたから、フォーマットの印象からすると、マイクロフォーサーズのフォーマットを採用したミラーレスのPENと親和性を感じました。しかしながら、PENの名称はコンパクトカメラのほうが知られていたのです。筆者がPEN E-P1に感激したのはファインダーこそ内蔵されてはいませんが、一眼レフのように、上部にペンタプリズム状に突き出たヤマはなく、PEN一眼レフのデザインがミラーレス機のE-P1のデザインと整合感があったことに感激したというわけです。  

それでもすべてが満足したわけではありません。E-P1にはファインダーが内蔵されていませんでした。ファインダーを覗きたい人は外付けのプラスチック外装の光学ファインダーVF-1を使ってね、ということになりました。  

VF-1は17mmレンズのフレームを入れた簡易的なもので、外装もプラスチック、E-P1のキットレンズでもあったM.ズイコーデジタル17mmF2.8専用とされてしまいました。しかもこのVF-1を装着した姿は、フィルム一眼レフのPENではなくて、スクリューマウント(バルナックとも呼びますね)系ライカのデザインに近いものがありました。これはこれでライカ好きな筆者は萌えましたけど、フィルムのPEN-Fシリーズとスクリューマウントライカって、それまでは比較しようとは思いませんでした。名称に「E」を残したのは、それまでのオリンパスEシステムユーザーのことを配慮し、フォーサーズ用レンズとの互換性も強調したかったこともあるのでしょう。  

けれど、今回久しぶりに紹介しますPENシリーズのフラッグシップともいえる、2016年に登場するPEN-Fから「E」の文字がなくなりました。しかもハーフサイズフィルム一眼レフPEN-Fと完全に名称が一致するということで、大きな話題になりました。ここに私はマイクロフォーサーズPENシリーズの覚悟のようなものを見た思いがしました。

PEN-F登場時にできるだけ薄いレンズをつけたいということで装着したM.ズイコーデジタル17mmF2.8。はいPEN E-P1の時のキットレンズです。全体繰り出しで古いんですが、きちんと写ります。

OMとPENはクルマの両輪

一方のOMシリーズをみてみますと、とくにOM-1発売後には、OM-1 Mark II、OM-3、つい先ごろ、OM-5 Mark IIが登場、名称もかつてのフィルムOM一眼レフと同じにするなど、PEN-Fと同じネーミングの方向性で製品が展開されています。  

OM SYSTEMのミラーレスのマイクロフォーサーズ機は、現在OMシリーズのほうが現時点では先を走っているようにみえます。これはスペックを重視してしまうと、やむをえないのでしょうが、筆者はどうしても初号機E-P1のインパクトが忘れられず、PENシリーズの思い入れが強いままです。ふつうの人とヘソの位置が少し異なる場所についているからでしょうか。  

OMもPENも過去の栄光の時代を踏襲する、すなわち、いまふうにいえばヘリテージデザインという手法をとってはいますが、筆者にはOMとPENはOM SYSTEMとなった今でも、マイクロフォーサーズシステムのクルマの両輪であるように見えます。現在はOMの車輪のほうが大きいですから、これだと道をまっすぐに進めず、同じところをくるくる回ってしまう可能性があります。だからPENシリーズにも力を入れねばならないのではと筆者は考えています。  

PEN-Fを外観から見た感じでは外装の貼り革の段が大きくついたデザインからみても、フィルムのPEN-Fによく似ています。特にシルバーボディではその印象が強いですね。背面のLCDはバリアングルですが、モニター裏側にもボディと同じ革が貼られています。最近では珍しくはないのですが、PEN-Fが登場した時にこのことを知った筆者は感動しました。もちろん多くの人はLCDを面に出した状態で使用するのではないかと思います。つまり普段は見てないところにも手抜きはないよと宣言しているようです。  

E-P1登場の同年にはすぐオリンパスPEN E-P2が登場しました。着脱式のEVFも用意されましたが、チョンマゲつけたみたいなEVFのフォルムがオマケ的な存在に見えました。筆者はファインダーの性能が若干劣ってもかまわないから、PENにファインダーを内蔵せよと常に申しておりました。

PEN-FとフィルムのPEN-Fを並べてみます。正確にはフィルムのPEN-Fはメディカルタイプ、セルフタイマーレバーが省略されています。だからよりPEN-Fと似てくるわけであります。
LCDの裏面にも革が綺麗に貼られています。時には撮影後にLCDを見ないで、覚悟を持って撮影しましょうかと言われているような気がします。小心者の筆者ですから、これがなかなかできませんけど。
カメラ底部です。バッテリーとメディアスロットが同居しているのは個人的には少し気に入らないのですが、デザイン優先のためなら我慢するしかありません。

ファインダーが内蔵された待望のPEN-Fが登場

そうこうしているうちに2012年にはEVFを内蔵したオリンパスOM-D E-M5が出ます。こちらはEVF内蔵ということで、いわゆる一眼レフスタイルとなったわけですが、熱血のPENユーザーであった筆者は、裏切られた感がありましたし、フィルムOM一眼レフのユーザーも続けておりましたから、その出来にも納得しませんでした。この時もまだ筆者はPENシリーズこそマイクロフォーサーズの王道ではないかと考えていたからです。  

ファインダーを内蔵することは当時のPENシリーズの個人的な悲願というか、これが入れば完成型じゃないかと考えました。そして2016年にPEN-Fが登場し、これにファインダーが内蔵されたことがわかった時、とても喜んだ筆者であります。限られた小さなスペースにファインダーを入れることは大変な苦労があったことと想像しますが、アイピースの下側がバリアングルモニターの可動のために切り取られた半月型になっているところなど、落涙ものの仕様でした。アイピース周りのゴムリングなど、特別な仕様でしょうし、こうしたコストもバカにできません。ファインダーの見え方はそれなりではあるのですが、実用的には十分で、日中晴天下などではとても役立ちます。  

ファインダーアイピースです。小型化するため背面のバリアングルLCDの収納に合わせて、一部が切り取られているようなカタチに見えます。ここまでやるかという仕様ですね。
ガジェットとしても粋な部類に入るPEN-Fです。外付けファインダーのVF-1は覗かなくても見た目重視と、「ナマの光で世界と対峙する私」を周りに知らしめるために装着するわけです。さほど高額ではないことも評価しています。

すでに述べたように、PEN-F電源スイッチはフィルムライカのフィルムの巻き戻しノブのそれに似ていますし、ボディ前面にあるクリエイティブダイヤルは、モノクロ/カラーのプロファイルコントロールの設定用ですが、フィルム時代のPEN Fシリーズのシャッタースピードダイヤルや、スクリューマウントライカ系の低速シャッターダイヤルのそれとも似ています。ギミックといえばそうなのですが、役割をしっかり持たせてあるという意味では重要な存在です。  

筆者は主にRAW設定で撮影していますので、正直、このダイヤルは実用上は重視していませんが、デザインのアクセントとしては、デザインありきという観点からみますと、よい感じだと思いますし、モノクロのプロファイルコントロールなど、撮影時にシミュレーションとして効果を探りたい時には便利に使うことができます。  

ダイヤル方式を採用したことは視認性や操作しやすさという実用上のメリットもあるのですが、必要もないのに電源のオンオフを繰り返したり、ダイヤルを回したりと、玩具をいじくりまわすように触ることがあります。というか、正直そのためにダイヤルやスイッチ類は存在します。 

ダイヤルやモニターの可動部は無駄な操作とか負荷に耐えるように、耐久性も考慮されているそうです。手慰みなどと言わずに、思い切りいじくり回してくださいということらしいですね。これは素晴らしいことですし、さすがだなあと思いました。筆者としてはここまでダイヤルやスイッチ類にこだわるならばボディの上面にはあの色気ゼロの撮影モードダイヤルではなくて、シャッタースピードダイヤルが欲しかったですね。  

個人的には撮影モードダイヤルが好きではないのです。PEN-Fに仮にシャッタースピードダイヤルがあったら最強ではないのかと夢想することがあります。
メインスイッチなんですが、ここはスクリューマウントライカのフィルム巻き戻しノブのギミックっぽいですね。最近のMシリーズはISO感度ダイヤルですが、果たしてどれがいいでしょう。
クリエイティブダイヤル。スクリューマウントライカの低速シャッタースピードダイヤルと似ており、位置関係も同じ。筆者はRAW設定で撮影しOM Workspaceで処理していますが、あらかじめ画像のシミュレーションをしたい場合は有効です。

PEN-Fに搭載されたセンサーは有効2,030万画素Live MOS。発売時にもマイクロフォーサーズとしては高画素であることが話題でした。筆者は特別に鮮鋭だとは感じませんでしたが、気持ち的には余裕が生まれたことは確かです。

しかも、すばらしいのはシャッター速度6段分という効果を得られる5軸シンクロ手ブレ補正も可能にしていることですね。このあたり外観からでは伺いしれない性能面での気合いを感じますし、現行のOM-1 Mark IIなどと併用しても問題のないクオリティの画質を得ることができます。  

背面の十字キー部分です。ここにダイヤルがないのは惜しい感じがします。押した感触など、明確な切り替わり感が少し薄いのが残念です。
露光補正ダイヤルです。個人的には多用しているのでありがたい存在です。大きくはないですが、クリック感もしっかりしており、使いやすいですね。
金属感が随所にあらわれていることも評価対象です。前ダイヤルはシャッターボタンと同軸ですね。操作性と共に、うまくまとめています。ダイヤルの動作感触は全て確実性があり、しっかりしていることも特徴です。

メディアに注目されたPEN-Fだったが…

いつの間にかPEN-Fはディスコンになっていました。寿命がさほど長くなかったのは、当初の販売計画よりも動きが悪かったからでしょうか。コストもかかっているようにみえますから商売としては不向きなカメラなのでしょう。でも、PEN-Fはカメラ雑誌やガジェット系のメディアでは発売時に頻繁に取り上げられ、筆者もずいぶん記事を書いた記憶があります。  

それでもメディアで話題になるカメラと実際の販売数は必ずしもリンクしないのです。ここが難しいところですね。現在、PEN-Fは中古市場では高値安定しています。この理由は当たり前ですね。市場に出回っている台数が少ないとか、代わりになるカメラが他に存在しないからです。筆者の周囲でも、プロ、アマ問わずにPEN-Fのユーザーはいまもそれなりの数がいるのです。

実写

マイクロフォーサーズがボケ効果を得づらいとされるのは、センサーが小さいのではなく、実焦点距離が短く被写界深度が深いからです。大口径レンズを1本加えておくと、確実に世界は広がります。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO
■撮影環境:F1.4 1/4000秒 ISO200
35mm判換算で28-35mmと同程度の画角が得られるレンズでは、極端に絞り込まなくてもパンフォーカスが得やすいので、スナップには使いやすいという考え方もあります。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
■撮影環境:F8 1/100秒 ISO400
PEN-Fのモノクロ再現性はカメラ任せ、いわゆるデフォルトの設定でも、とても秀逸だと思っています。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0
■撮影環境:F8 1/1000秒 ISO400
大口径の広角レンズは絞りの設定範囲が増えますから、より表現の幅が広がるわけですね。標準ズームと焦点距離が重複しても1本は持っていると便利です。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
■撮影環境:F1.4 1/640秒 ISO400
■モデル:藤田莉江(写真家)
PEN-Fはふだん、17-20mmくらいの単焦点レンズを装着したままにしてあります。自分の視野に近いので、呼吸するようにシャッターを切ることができます。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + シグマ 19mm F2.8 DN マイクロフォーサーズ用
■撮影環境:F10 1/800秒 ISO400
階調のつながりもよく、センサーが小さいというリスクはないと思います。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + シグマ 19mm F2.8 DN マイクロフォーサーズ用
■撮影環境:F5.6 1/250秒 ISO250
都市の狭い空の空間から見上げた空は時としてダイナミックな風景を生み出します。露出を切り詰めて撮影してみました。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + シグマ 19mm F2.8 DN マイクロフォーサーズ用
■撮影環境:F11 1/1250秒 ISO400
ウィンドウディスプレー。自分の背丈よりも高い位置にあったので、カメラを頭の上にあげて角度を変えながら適当に撮影した一枚。デジタルならではの撮影方法です。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + シグマ 19mm F2.8 DN マイクロフォーサーズ用
■撮影環境:F6.3 1/320秒 ISO400
超広角ズームレンズのワイド端で使用しています。モチーフを選んでしまうようなところがありますが、ハマった時の喜びは大きいですね。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
■撮影環境:F11 /1000秒 ISO400
夕景ですが、色を生かした情緒よりも光の質を利用したくなりモノクロにしてみました。「OM Workspace」で現像し、わずかに粒状をのせています。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
■撮影環境:F8 1/1250秒 ISO400
町を歩いていたら青とオレンジという好きな色同士のサイケな組み合わせを見つけてしまい、思わずシャッターを切りました。
■撮影機材:オリンパス PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8
■撮影環境:F5.6 1/100秒 ISO200

孤高の存在感

最近、筆者は「スマホがあるのにカメラを買う理由」は何かという疑問を投げかけることが多くなりました。理由としてはスペックであるという方もいれば、デザインが魅力、操作が楽しいという方もいると思いますが、優れたカメラにはそうしたステレオタイプな回答には当てはまることのできない共通した“何か” を感じることがあります。PEN-Fもそうしたカメラの中の一台ですね。

PEN-Fの孤高ともいえる存在感と立ち位置は今も揺るぎがないのです。だからこそ後継機が欲しいのです。商売としては厳しいのかもしれませんがPEN-Fの後継機なら「OLYMPUS」のエンブレムを再度使用しても許してもらえそうな気がしますが、どうでしょうか。

 

 

■写真家:赤城耕一
1961年東京生まれ。出版社を経てフリーランス。エディトリアルではドキュメンタリー、ルポルタージュ、広告では主に人物撮影。また、カメラ・写真雑誌、WEB媒体で写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行う。各種の写真ワークショップを開催。芸術系大学、専門学校で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新型のデジタルカメラまで。著書に「赤城写真機診療所MarkII」(玄光社)、「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)など多数。「アカギカメラ-編愛だっていいじゃない」(インプレス)など多数。

 

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