ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8開発者インタビュー|常に持ち歩きたいを叶える最薄・最軽量レンズ

ShaSha編集部
ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8開発者インタビュー|常に持ち歩きたいを叶える最薄・最軽量レンズ

待望のパンケーキレンズ登場

2023年3月3日に発売されたニコンの広角単焦点レンズ「NIKKOR Z 26mm f/2.8」。NIKKOR Zレンズでは初のパンケーキレンズであり、レンズラインナップで最薄・最軽量というコンパクトさが最大の特徴です。加えて、これだけ小型ながらこだわりの光学設計によって高い描写力も両立しています。抜群の携帯性を実現したことで、毎日カメラを持ち歩きたい人にはベストなレンズとなってくれるでしょう。

これだけ小型化できた理由、なぜ26mmの焦点距離なのか、などなど気になることはたくさん。ということで、今回はNIKKOR Z 26mm f/2.8の開発に携わった3名の担当者にインタビューをしてきました。開発者本人のこだわりなどを通して、このレンズの魅力を存分に解説していきます。

開発者インタビュー

今回は光学設計・メカ設計・デザインを担当された3名の開発者にお話を伺いました。

左)光学本部/第三設計部 槇田 歩さん(光学設計)
中央)デザインセンター IDグループ 本田 光太朗さん(デザイン)
右)光学本部/第二開発部 中野 拓海さん(メカ設計)

― なぜ今パンケーキレンズの開発に着手したのか、その経緯についてお聞かせください

中野:
予期せず出会う、魅力的な瞬間を逃さず美しく写すためには、いつでもカメラを持ち歩くことが大切であると考えています。あらゆる撮影機会を狙い、常にカメラを持ち歩きたいと考えているお客様へ、カバンにしまいやすい薄さと常時首にかけても負担にならない軽さのレンズを提供したいと考え、本レンズを企画・開発いたしました。

企画当時「AI Nikkor 45mm F2.8P」「GN Auto Nikkor 45mmF2.8」「AI Nikkor 50mm F1.8S」を参考にしました。AI Nikkor、Auto Nikkorであるにもかかわらず、今でも人気のレンズで多くのユーザーにご愛用いただいており、パンケーキレンズには独特な魅力があると感じました。その流れで、Fマウントでは実現出来なかったAFパンケーキレンズを実現したいと考えました。

― 開発において目指したことがあれば教えてください

「常に持ち歩けるよう23.5mmの薄さにこだわった」と中野さん

中野:
毎日カメラを持ち歩きたくなるパートナーレンズを目指して、“毎日持ち運べる大きさ・重さ”、“光学性能”、“フルサイズ対応”、“オートフォーカス(AF)”、“最短撮影距離0.2m”、“所有欲を満たすデザイン”、“衝撃耐性”などを重視しました。

特にサイズについては、カメラに取り付けた際、ボディのグリップと同程度の長さにすることを目標にしていました。それが23.5mmです。レンズだけでも気軽に持ち歩けるサイズだと思います。
開発スタート時に頂いていた全長の目標値はこれよりも少し長かったのですが、レンズ単体で持ち出すことだけではなく、ボディにつけた状態でも通勤バッグにも収納でき、毎日本格的なカメラを持ち出せるようにとの思いから、23.5mmにこだわって設計を進めました。

以前からZ 6やZ 7などグリップのついたカメラをしまう際に、グリップの先端とマウントのスペースがちょっともったいないなと思っていました。レンズを付けたら付けたで少し出っ張るし、つけなかったとしてもグリップがある分隙間が空いてしまうので。
そのうえでフォーカス精度、衝撃耐性などいずれも「NIKKOR Z」として妥協せず、高い光学性能を有しながら所有欲を満たすデザインとなることを目指しました。

装着時にボディのグリップとほぼ同じ高さになるよう設計されている

本田:
「毎日持ち歩くレンズ」であって欲しいので、愛着や所有欲が日に日に高まるデザインを目指しました。デザインによって高級感と高品位な印象を高めることで、所有欲が満たされるよう注力しています。
非常に薄く、外観に露出する部品の数も少ないため、少ない手数で高級感を体現することが求められました。NIKKOR Zの世界観を踏襲しつつ、立体感とメリハリが効いたフォルムを実現させ、金属質感を多く採用することで高級感と高品位を体現しています。

槇田:
最短撮影距離0.2mは強いこだわりです。
鏡筒が薄いとなぜか寄って撮りたくなるということを既存製品から実感しておりました。鏡筒が薄いことで、レンズ先端と被写体の距離が取れるため、寄りたいという意識が働くのかと思います。また、ミラーレスになり、背面液晶を見ながら近接撮影するスタイルが増えたことも、近寄りたくなる一要因と考えています。

寄れるだけではなく、近距離~中距離での光学性能にも注力して設計しています。散歩中にたまたま出会った小物の撮影や、ぐっと寄ってボケの大きさを活かした撮影シーンなども多いと考えたからです。近距離撮影でも、被写体の質感をしっかり描写できます。

「最短撮影距離を短く、かつ近接での描写性能にもこだわった」と槇田さん

― このレンズの特徴はなんでしょう?

中野:
『薄型・軽量 × 高画質 × 所有欲を満たすデザイン』これらすべてを兼ね備え、いつでもカバンに入れて持ち歩きたくなる薄型・広角単焦点レンズです。

主な特徴は下記の通りです。
1. 全長23.5mm、通勤バッグにも収納でき、毎日本格的なカメラを持ち出せる
2. 薄型でありながらNIKKOR Zの描写性能を得ることができ、街中で出会う「撮りたい」と思う瞬間を美しい作品にできる
3. 高級感が感じられ、いつも持ち出したいと思うデザイン。また使用シーンを配慮した専用フード、2WAY被せ式キャップも同梱。

― なぜ26mmという焦点距離なのでしょうか?

槇田:
1. 第1優先を「薄型」とし、かつNIKKOR Z の高い光学性能とf/2.8の明るさを両立させること
2. 毎日持ち歩くパートナーレンズとして、スナップ・風景・ポートレート・建築物など幅広いシーンに対応できる、ストリートスナップ撮影者にとって最適な程よい広角にすること(DX画角/APS-C時には標準領域となり、使いやすい)
3. 最短撮影距離も短くし、テーブルフォトにも使いやすい仕様にすること

様々な焦点距離を検討した結果、26mmがすべての要件を満たしました。スマートフォンのカメラでも採用されている画角であり、パースを活かした迫力のある表現で毎日のパートナーレンズとして最適な焦点距離であると考えます。

― どうやってこの薄さを実現できたのですか?

槇田:
◆非球面レンズを効果的に3枚配置
一般的に、収差補正を良好にするためには多くのレンズ枚数を使いたくなります。一方で、本レンズは極端に薄型であるため、レンズを配置するスペースが狭く、配置できるレンズ枚数に制約があります。
鏡筒の薄型化と高い光学性能の維持の両立には上記理由から矛盾がありました。このジレンマを解決する為に、まずは非球面レンズを効果的に3枚配置しました。この効果により、レンズ枚数を8枚に抑制しています。

◆全体繰り出しによるフォーカシング方式を採用
レンズ枚数を抑制したといえ、レンズ枚数は8枚。効率良く薄い鏡筒に収めなければ、ボディのグリップと同程度の薄さは達成できませんでした。
そこで、全体繰り出しによるフォーカシング方式を採用しました。全体繰り出しは一部のレンズがフォーカシングで移動する空気間隔が不要な為、スペース効率が向上します。レンズ構成図を見て分かる通り、8枚のレンズが隙間なくぎっしり詰まっているのは、薄型化と光学性能の両立を突き詰めた結果です。ただ、全体繰り出しにする事でメカ設計担当の中野さんには大変な苦労をおかけしました。

レンズ群が繰り出してくるフォーカシング方式を採用

中野:
レンズ間で動くスペースが不要になり、コンパクトな光学系にはなりましたが、一部のレンズではなくレンズや絞りなどを含めて全てを動かす必要があるため、フォーカスするために動かす必要がある部分の質量が大きくなります。
さらに、レンズが動くスペースを鏡筒内部に確保する必要があります。至近側でフォーカス群が繰り出してくる構成ではありますが、電源オフのときには鏡筒内部に収める必要があるため、最短撮影距離の設定値が鏡筒の長さにつながります。

本レンズでは、使い勝手を考えて最短撮影距離0.2mを目標としていたため、鏡筒内部にその分大きなスペースの確保が必要になりました。
そして、本レンズはMFレンズではなくAFレンズなので、AF性能の確保を含め鏡筒全長の制約の中で重いフォーカス群を動かすための駆動機構を構成することと、最短撮影距離の両立に非常に苦労しました。AF性能や光学性能を満足するようにしつつ最短撮影距離の目標を達成しようとすると鏡筒全体が大きくなり、その結果質量も大きくなってしまう。

いくつものメカ構成を検討しましたが、従来の方法では製品を成り立たせることができず、試作を繰り返し、最終的には限られた鏡筒のスペースを効率的に使える駆動方法の採用と新たなメカ構成を開発することで両立させることができています。

― その他開発において難しかったこと、こだわったところはありますか?

槇田:
◆ショートフランジバックにより光学設計難易度がアップ???
実はフルサイズパンケーキレンズに限っては、ミラーレス化により光学設計難易度は上がります。Zマウントの大口径・ショートフランジバックにより設計自由度が上がり、私自身も過去製品でその恩恵を受けてきましたが、今回は逆でした。

ニコンのパンケーキレンズと言えば、過去にAI Nikkor 45mm F2.8Pがありますが、こちらは撮像面からレンズ先端までの長さは63.5mmでした。一方本レンズは、撮像面からレンズ先端までの長さは39.5mmです。本レンズはAI Nikkor 45mm F2.8Pと比較し、実質24mmも短縮する必要がありました。

これが、ミラーレス化により設計難易度が上がった理由です。これを解決する為、AI Nikkor 45mm F2.8Pの2倍となる8枚のレンズが必要となりました。

◆開放F値2.8
上記の通り、光学設計の難易度が高い為、実は開発当初はもう少し暗いF値で設計していました。その上で、様々な焦点距離を試し、薄型化可能であり、かつストリートスナップに適した26mmに決定し、一旦まとめ上げました。

しかし、これでは何だかつまらないと思い直し、f/2.8への修正設計を行いました。設計難易度は更に上がりましたが、撮影シーンや表現の幅を広げる事ができたのではと思っています。

中野:
薄型のところでも少し触れましたが、フォーカス精度の確保や衝撃耐性にも気を使っています。ベアリング等を使用してフォーカス群駆動時の抵抗を低減させることや、金属部品を各所で効果的に使用する等、配慮して設計しています。

また、フードやフロントキャップのアクセサリーを含めたトータルデザインにもこだわっています。このレンズは薄型だけでなく、毎日持ちたいと思う、所有欲を満たすデザインも大切なコンセプトです。金属マウントや金属コントロールリングを採用して質感に配慮しつつ、重量アップにならないよう、その他の部品の軽量化、削減をおこなうことで約125gを達成しています。

フードを取り付けた際にも、なるべく薄くなるように、取り付け方法や形状についてデザイナーなどとやり取りを繰り返して設計を進めました。それらを含めて、薄型・軽量(23.5mm、約125g)に仕上げています。

マウント部やコントロールリングは金属製とすることで高品位な質感を追求

― この薄さを実現したことでどこか割り切った部分はありますか?

中野:
薄型かつ高い光学性能を確保したレンズとするために、特別なメカ構成を採用しました。その結果、ターゲットや使用シーンを考慮して仕様バランスに配慮し、従来のNIKKOR Zレンズに比べフォーカス駆動音を多少割り切ったことも薄型と高い光学性能の両立を達成できた一因であると思っています。
毎日カメラを持ち歩きたくなるパートナーレンズとなれるような、薄型かつ高い光学性能を有したレンズに仕上がったと思っています。

― 近い焦点距離でNIKKOR Z 28mm f/2.8がありますが、使い分け方など違いを教えてください

槇田:
NIKKOR Z 28mm f/2.8は、ボケを活かした表現をより多くのお客様に楽しんでいただくため、低価格でf/2.8を実現している単焦点レンズです。最短撮影距離も短く、テーブルフォトなども印象的に撮影することができます。

対して今回のNIKKOR Z 26mm f/2.8は、あらゆる撮影機会を狙うお客様へ向けた、NIKKOR Zで一番の薄さと軽さでどのZボディとの組み合わせでもコンパクトで、Zシリーズの高画質を毎日持ち歩くことができ、かつ所有欲を満たす高品位な外観に注力した単焦点レンズです。NIKKOR Z 28mm f/2.8と比べて、特に至近において高い描写力を発揮します。

― レンズフードやキャップも特徴的ですが、デザインなどこだわりなどがあれば教えてください

本田:
「撮影する瞬間だけでなく携帯時も薄型を保つこと」「フィルターを用いる方々も含めて様々な撮影スタイルに適応できること」
この2点を意識してフードとキャップのデザインを行っています。

その結果、鏡筒に直接、またはフードの上からでも装着できる2WAYの被せ式キャップを採用しました。
レンズフードはレンズ本体の薄型を邪魔しない専用設計で、スナップ撮影レンズとして最大限に楽しめるよう、Φ52mmフィルターを取り付け可能にしています。レンズ内部のめり込んだ場所に取り付ける方法とすることで、撮影時に繰り出し部分が目立たず、本体と一体感のあるデザインになっています。また、コントロールリングや鏡筒自体に指のかかるスペースを作り、操作性にも配慮しています。

どちらも、レンズ本体同様にメリハリを効かせたフォルムに整えています。フード正面に施されている表記も、印刷ではなく凹部への色入れ処理とすることで、高品位な印象をさらに高めています。

― どんなユーザー、どんな撮影シーンで使ってほしいレンズですか?

槇田:
私の使い方でもあるのですが、小さなお子様がいらっしゃる方にも意外とおすすめです。機動力が高い為、お子様と遊ぶときにも邪魔にならず、お子様にぶつける心配も少なく安心です。
また、お子様の撮影時は距離が近い事が多いと思います。最短撮影距離が短く、かつ広角な26mmの焦点距離は使いやすいと思います。という事で、私は予約開始日に予約済みです。

中野:
標準域の単焦点レンズ好きの私にとってはとても楽しみなレンズです。広角でも撮影したいけど、何本もレンズを持っていけないし、という人も少なくないかもしれません。そんなときも役立つレンズだと思います。カバンのちょっとした隙間にも入れ込み易いサイズですので。

私自身このレンズを使ってどんな瞬間を撮影できるのか楽しみです。こんな瞬間を残せた!こんな撮り方ができた!というものがあれば、ぜひ我々設計者にも共有いただけると嬉しく思います。

本田:
非常に持ち歩きやすいサイズ感な上、高級感も感じられるので、ちょっとした旅行やおでかけの時にも持ち歩いていただくことができると思います。かつ、あらゆるカメラボディにフィットするスタイルに仕上がっているので、Zのカメラをお持ちの方は皆さん一度お手にとって愛でていただきたいです。

 

▼今回のインタビューには同席できなかった企画担当の「陳さん」からも一言いただきました

企画担当 陳:
特定な被写体がなくても、一日中撮影したいときにおすすめです。荷物の負担にならない薄型ですので、様々なものを撮りたいけれど、ゴツゴツしたレンズは持ち歩きたくないという方に是非使っていただきたいです。持ち運びが楽になることで、撮影がさらに楽しくなると信じております。このレンズと一緒に、色んな町や風景に出会っていただければ嬉しいです。

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