【鏡紅葉】鏡で表現する紅葉風景 -前編-

星野佑佳
【鏡紅葉】鏡で表現する紅葉風景 -前編-

はじめに

もうすぐ秋。赤黄オレンジと色づく紅葉に彩られる、一年でもっとも色艶やかな季節がやってきます。
被写体に富む紅葉シーズンだからこそ、ただなんとなく目の前の美しい風景を撮るだけでなく、テーマを意識することで作品性がアップします。

今回は「鏡紅葉」をテーマに、紅葉の形や色が映り込む風景に焦点を当ててみたいと思います。
鏡紅葉と名付けましたが、いわゆるリフレクション、映り込み、水鏡などと呼ばれる、実際の風景とそれが映り込んだ虚像との虚実合わせた風景を目指します。
紅葉風景がダブルで描かれるわけですから、艶やかさも2倍、3倍増しになってくれます。
今まで、なんとなく撮っていた映り込み風景の「光の匙加減」をあらためて意識することは、より効率よく、魅力的な作品をモノにする近道になるんじゃないかと思います。

準備するもの

通常の撮影準備と変わりませんが、光の反射を抑えるPLフィルターは必須。ハーフNDフィルターもあると便利。室内の場合は、家具を傷つけないために小さめのハンドタオルなどを使うのもおすすめです。

鏡紅葉の基本

鏡紅葉の基本は、「見せたい被写体(色)に光。キャンバスは陰」

この一言に、今回のお話の9割が集約されています。
紅葉には光が当たり、映り込ませる鏡(水面など)には光が届いておらず陰の状態だと、きれいな映り込みになります。

夕日が紅葉に当たった部分が、水面にもきれいな鏡紅葉になっている。
■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(焦点距離24mm)
■撮影環境:f/7.1 1/50秒 ISO400
■撮影地:高台寺
夕日が沈み紅葉に光が当たらなくなり、映り込みもわかりづらくなった。
■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(焦点距離28mm)
■撮影環境:f/5.6 1/30秒 ISO1600
■撮影地:高台寺

日中でも、雲に太陽が隠れると、一時的に紅葉に光が当たらなくなります。
次の作例では、太陽が雲に隠れて、紅葉に光が当たらなくなった時との比較です。
水面に注目すると、映り込みの有無がはっきりわかります。

紅葉に光が当たっている。水面への映り込みも美しい。
■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 14-30mm f/4 S(焦点距離14mm)
■撮影環境:f/11 1/20秒 ISO400
■撮影地:楊谷寺
紅葉に光が当たっていない。
■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 14-30mm f/4 S(焦点距離14mm)
■撮影環境:f/11 1/15秒 ISO400
■撮影地:楊谷寺

ただ、紅葉の色自体は雲越しの光の方が、しっとりした艶やかな色を再現できるので、太陽が雲に隠れたら水面はカットして、画面上部の紅葉や庭の美しい部分だけ切り取った作品を撮るのがいいでしょう。太陽が雲から出てきたら煩雑になりかねないので、水面の映り込みも入れて、視線をそちらへ誘導する。という撮り分けがお勧めです。

最後は、水面に光が当たった時の作例です。

光が当たった水面と陰の水面を比べると、紅葉の色の美しさの違いがわかります。
■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 14-30mm f/4 S
■撮影環境:f/8 1/80秒 ISO400

水面への映り込みはありますが、陰の時と比べると、美しさは半減してしまいます。
私も、早朝から一心不乱に撮るうちに、いつのまにか水面にも光が届き、さっきよりもきれいな鏡紅葉ではなくなっているのに、いつまでも粘ってしまうことがあります。水面に光が差し込んだら、一度深呼吸して、まだここで続けるか?別のポイントを探しに行くか?を考えるタイミングだと、肝に銘じています。

何を、鏡(キャンバス)にするか?

紅葉風景を映しこんだ作品を撮るには、どんな鏡(キャンバス)を探したらいいでしょう?
代表的なものは「水」ですが、鏡のようにピタリと静止した水面と流れる水では、撮り方も変わってきます。
石やアスファルトも、濡れることでキャンバスになります。
また最近は、寺社などでピカピカの机や床に紅葉を映しこむ机紅葉や床紅葉も人気ですね。

静止した水……池や湖、水たまり

動きのある水……渓流、海、波

人工物……机、床、ガラスなど

その他、濡れた石やアスファルトなど

水たまりや濡れたキャンバスは、なるべく「暗い色」を探すのがコツです。
黒に近いキャンバスの方が、色や形を鮮明に映してくれます。
例えば、水底が白っぽい水たまりでがんばっても、きれいな映り込みにはなりづらいものです。

そしてピカピカ・テカテカ具合もポイント。
濡れた岩や石がテカっていたら、紅葉の色が映り込んでいないか、色んな角度から眺めて探してみましょう。
鏡紅葉を撮る第一歩は、鏡(キャンバス)を探すことから始まるといっても過言ではありません。

光線方向別、攻略法

紅葉に当たる光の方向別にみていきましょう。
結論からいうと、横・斜光線が最も撮りやすく、順光線は条件付きでお勧め。逆光は難易度が高いです。(ただし、それを逆手に取った作品は別です。今回は一般的なお話をしていきます)

横・斜光線

この光線状態がお勧めなのは、朝夕に「被写体に光、キャンバスは陰」の状態になりやすいことと、被写体自体が立体感のある描写になるためです。
私は、紅葉に囲まれた水辺を一周できるような撮影地で、朝一番をどこで撮るか迷った時は、横・斜光線で紅葉と水面が撮れる場所を探しています。

朝の斜光線に紅葉が輝き、まだ陰の水面にも美しい鏡紅葉が描かれました。
同じポイントから、逆光方向の紅葉を撮った作例もありますので、後半で比較してみてください。

■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(焦点距離70mm)
■撮影環境:f/11 1/50秒 ISO100

これは水面にさざ波が立ち、紅葉の形ではなく、色が映り込んだ作例です。
鷺(サギ)が主役なので、鏡紅葉の形が崩れ、シンプルな色の魅力に変わったことで、主従のバランスがとれました。
また、この時はすでに水面にも光が当たっていましたが、横・斜光線の場合は、それなりにきれいな色です。

■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(焦点距離135mm)
■撮影環境:f/8 1/200秒 ISO400

やや斜め前からの光線は、寒い朝、水面に発生する気嵐も、ドラマチックに映してくれます。

■撮影機材:ニコン Z7II + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(焦点距離40mm)
■撮影環境:f/8 1/60秒 ISO100

順光線

まずは作例をご覧ください。

■撮影機材:ニコン D810 + AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(焦点距離70mm)
■撮影環境:f/11 1/15秒 ISO100

朝一番の赤味を帯びた順光線に染まる紅葉です。
燃えるような色ですが、じつは朝日が当たる前の画像がこちらです。

■撮影機材:ニコン D810 + AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(焦点距離70mm)
■撮影環境:f/8 13秒 ISO400
■撮影機材:ニコン D810 + AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(焦点距離40mm)
■撮影環境:f/8 4秒 ISO200

実際には紅葉は終盤で、鮮やかさの無い地味なイメージでしたが、赤味を帯びた朝日に染まることで、大変身しました。これが順光線の旨味です。
紅葉の斜面に上から順に光が当たっていくので、水面に光が当たるまで時間があることもメリットです。

■撮影機材:ニコン D810 + AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(焦点距離70mm)
■撮影環境:f/11 1/4秒 ISO100
■撮影機材:ニコン D810 + AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(焦点距離38mm)
■撮影環境:f/11 1/5秒 ISO100

ただし、魔法の時間はここまで。
太陽が高くなるにつれ、平面的なべったりした描写になっていくので、順光線で鏡紅葉を撮るなら、朝一番の光が当たる時間帯を目指しましょう。

※太陽が出る方向が晴れ渡り、モルゲンロートが期待できる朝一番は、順光方向の鏡紅葉が真っ赤に燃え上がる期待ができます。ただ、太陽は上の斜面から順に降りていくので、撮影ポイントの背中側を考慮して、朝一番の光が紅葉に当たらないような場所(例えば盆地の窪みなど)は、紅葉に光が届く頃に赤味がなくなっているリスクもあるので、要注意です。

順光線のもう一つの注意点は、(寒い朝の水面に発生する)気嵐です。

■撮影機材:ニコン Z7 + AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR(焦点距離150mm)
■撮影環境:f/11 1/5秒 ISO100

こちらは日の出前に撮影した順光線方向の紅葉風景。
青味を帯びた色合いの紅葉風景と気嵐が美しい朝でした。
その後、上から順に光が当たった部分から、水面にもきれいな映り込みが描かれていきます。気嵐とのコラボも絵になりますね。水面にはまだ光は届いておらず、陰です。 

夜明け前の青味がかった風景。気嵐はよくわかるが、紅葉に光が当たっていないので、映り込みは控えめ。
■撮影機材:ニコン Z7 + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(焦点距離70mm)
■撮影環境:f/11 1.3秒 ISO100
光が紅葉に当たる部分は、水面の鏡紅葉も鮮明になる。
■撮影機材:ニコン Z7+ AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR(焦点距離92mm)
■撮影環境:f/11 1/15秒 ISO100
水面が陰の時は、気嵐がはっきり描かれる。
■撮影機材:ニコン Z7+ AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR(焦点距離140mm)
■撮影環境:f/11 1/80秒 ISO200

そして、ついに光が水面にも届き始めました。
すると、途端に気嵐がわかりにくくなってしまいました。

まだ水面が陰の左側と光が届き始めた右側で、気嵐の描写が変わる。
■撮影機材:ニコン Z7+ AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR(焦点距離70mm)
■撮影環境:f/11 1/100秒 ISO200

順光線の場合、気嵐に光が当たると目立たなくなるので、夜明け前から水面に光が届くまでがお勧め。
順光線の鏡紅葉を撮るなら、朝一番を目指しましょう。

逆光線

鏡紅葉で難易度が高いのが、逆光です。
紅葉が陰になり、黒く潰れやすく、せっかくの色が再現しにくいうえ、水面から先に光が当たってしまいます。
前述の横・斜光の紅葉と同じ立ち位置から、向きを変えて撮った写真です。

■撮影機材:ニコン Z7+ NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(焦点距離95mm)
■撮影環境:f/8 1/400秒 ISO400

逆光で鏡紅葉を撮る場合は、日の出前の光が差していない時間帯か、少し太陽が高くなり、紅葉の色が認識できてからの方がよいでしょう。ただ、既に水面も光が当たっていますから、鏡紅葉としては、あまり美しい状態ではありません。

■撮影機材:ニコン Z7+ NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(焦点距離76mm)
■撮影環境:f/8 1/60秒 ISO400
太陽が少し高くなると、紅葉の色が出てくる。
■撮影機材:ニコン Z8+ NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(焦点距離70mm)
■撮影環境:f/11 1/80秒 ISO400

気嵐は逆光で浮かび上がりますが、鏡紅葉の色があまり鮮明ではないので、気嵐の作品になってしまいます。

■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(焦点距離57mm)
■撮影環境:f/8 1/50秒 ISO400

まとめの一言

朝一番の光が差す時間帯は、順光か横・斜光線のポイントで撮影するのがお勧めです。
逆光方向の鏡紅葉は、光が差す前か、太陽が少し高く昇ってからがきれいです。
また、気嵐が出ている朝は、順光方向の鏡紅葉と気嵐は、早朝のうちに撮っておきましょう。
参考までに、同じ紅葉と水面の景色を、逆光と横からの光線で撮影した作例をアップします。これだけ、色の再現度が違ってきます。

▼逆光

■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(焦点距離145mm)
■撮影環境:f/8 1/800秒 ISO640

▼横からの光

■撮影機材:ニコン Z8 + NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(焦点距離135mm)
■撮影環境:f/8 1/200秒 ISO400

▼比較

光の差し込む向きによって同じシーンでも発色が異なることが分かる。

最後に

いかがだったでしょうか?
光の方向別に、撮るべき時間帯や撮れ高の違いを意識すると、「先にあっちから撮っておけばよかったー」などという撮りこぼしが少なくなります。
特に朝一番の光線は、風景写真家にとって、丸一日分にも値する貴重なもの。
ぜひ、意識して、撮影に挑んでみてください。

 

 

■写真家:星野佑佳
2000年から海外や日本全国を放浪しながら撮影を始め、現在は地元・京都と風景写真がメインのフォトエッセイストとして活動。写真誌等のコンテスト審査員や撮影会、テレビ番組内での風景撮影指導なども行う。フォトエッセイ「もっと、撮り旅」を、雑誌「風景写真」とニコンイメージングジャパンのWEBサイトの2つで連載中。著書に「京の祭と行事365日」(淡交社)や「撮り旅」(風景写真出版)がある。

 

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