自然が創り出す魅惑のフィルター「霧」の世界を撮影してみよう

Nitto
自然が創り出す魅惑のフィルター「霧」の世界を撮影してみよう

はじめに

はじめまして。フォトグラファーのNittoと申します。普段僕は、大雨や豪雪、雷などの一般に「悪い天気」とされる状況のなか繰り広げられる街の営みや風景をメインに撮影しています。

そんな「悪天候」の中でも特に好きなのが「霧」です。霧はいわば自然が創り出すミストフィルター。霧の水滴があらゆる光を幻想的に拡散するその光景は、映画やゲームの世界のように見えることも。

今回の記事では皆さんにも撮ってほしい、魅惑の霧の世界をご紹介していきます。

知っておきたい霧のあれこれ

ここでは、霧の風景を撮るにあたってこれは知っておきたい、という知識を簡単に解説していきます。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
■撮影環境:8秒 f/4 ISO64

まず「霧」の正体とは、地表付近の空気中に微細な水滴が浮かんでいるというもの。
科学的には、地上に雲があるのと全く同じで、実際に霧の中に居ると頬に水滴が当たるのを感じたり、雨は一切降っていないのに髪がいつの間にかびしょ濡れになったりします。そして、この霧を上から俯瞰して見たものを「雲海」と言います。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
■撮影環境:24mm 1/160秒 f/8 ISO64

霧はその発生要因によって様々な種類に分けられますが、主なものとして挙げられるのが「放射霧」と「海霧 (移流霧)」です。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
■撮影環境:8秒 f/2.8 ISO200

放射霧は、晴れて風の弱い夜間、放射冷却によって地上付近の湿った空気が冷やされて発生する霧のこと。多くの場合、雨上がりで湿気が多い状態で夜に晴れると生じます。夜遅く~早朝にかけて発生し、朝日が昇って気温が上がると徐々に解消していきます。

放射冷却は空気中の水蒸気が少ないほどよく効くため、水蒸気量が多い梅雨~夏以外の季節によく発生します。これから本格的に進む秋の季節に主に見られるのも、この放射霧です。(ちなみに「霧」は秋の季語でもあります)

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
■撮影環境:1/400秒 f/8 ISO64

発生しやすい場所は、気温差が大きくなりやすい内陸地域。特に、周囲を山に囲まれた盆地は放射冷却による冷気がプールのように溜まりやすく、放射霧も生じやすいといえます。霧の名所としては埼玉の秩父や京都の亀岡、愛媛の大洲などが有名ですが、全国各地に盆地はあるため、お住まいの近くに霧が発生しやすそうな場所がないか調べてみましょう。

また盆地ではなくとも、関東平野や北海道の石狩平野などの広大な平野でも頻繁に放射霧が発生します。自然の中や田舎で見る霧も良いものですが、市街地に出現する霧は格別に幻想的な雰囲気をもたらすので、お近くの方はぜひ撮影に行ってみましょう。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
■撮影環境:1/6秒 f/2.2 ISO64

海霧 (移流霧) はその名の通り、海沿いで発生する霧のこと。放射霧と違って雨は特に関係なく、またいつの時間帯でも発生します。ただし発生しやすい季節は決まっており、晩冬~初夏 (2月~7月頃)にかけてとなります。
温かく湿った空気が冷たい海水の上を通ると、その空気が下から冷やされて霧になります。こうして海上で発生した霧が風によって地上に「移流」するため、気象学的には「移流霧」と呼ばれます。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
■撮影環境:1/160秒 f/1.2 ISO720

海霧は沿岸ならどこでも見られるというわけではなく、発生しやすい地域 (+時期) が決まっています。
主に挙げられるのは、
・4月~9月頃の北海道東部の太平洋沿岸 (釧路・根室など)
・5月~7月頃の東北~関東の太平洋沿岸
・3月~7月頃の瀬戸内海
といったところ。あくまで傾向ですので、お住まいの地域の近くでも海霧が発生しないか、興味がある方は調べてみましょう。

霧の予測

さて、さまざま紹介してきた霧ですが、日本で一般向けに天気予報を発表する機関・事業者 (気象庁やウェザーニューズ、日本気象協会など) は、「霧」という予報を出しません。海外では霧予報が一般向けに出されることは珍しくないため、こればかりは理由が僕も分からないのですが、仕方ありません。

そこで、簡単に霧の予測を確認するために利用できるサイトをして挙げられるのが、WindySCW

写真を撮っている皆さんの中でも、天候をある程度気にかける方はよくご存知のサイトでしょう。これらのサイトは無料でも多くの機能を利用できるため、霧だけでなくあらゆる場面でおすすめできます。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
■撮影環境:1/60秒 f/1.8 ISO1000

霧の予測を見るには、Windyであれば「霧」という名前のレイヤーがあるほか、「湿度」や「視程」などのレイヤーもあり、「湿度が十分に高くなりそうか」「視程が悪くなりそうか」などをしっかり確認できます。

またSCWは雲の量や降水量の推移を確認できるサイトで、雨上がりの夜~明け方、内陸地域にへばりつくような雲の領域があればそれが放射霧、海から沿岸地域に向かって局地的な雲の領域が流れ込む予想があればそれが海霧、と考えることができます。

これらのサイトで見ることができるのは、あくまでコンピューターが吐き出した一つのシナリオに過ぎないため、「天気予報」と呼べるほどの正確性はありません。実際の天気予報の現場では、コンピューターの予測モデルの特性などを加味しながら、最後は人間の判断を通した作業が行われるためです。

しかし、まだ霧を撮ったことがない、天気の知識はあまりない、という方は上記のポイントを押さえて、まずWindyやSCWで霧が発生しそうかを調べてみましょう。

霧の撮影のコツと作例

長々と霧について解説してきましたが、作例を交えながらいよいよ実際の撮影について紹介していきます。

まずは必須の持ち物。冒頭でも言及しましたが、霧の中にしばらくいると髪が濡れるのはもちろん、機材にも結露して水滴が付きます。
雨や雪に比べれば機材が故障するリスクは少ないとはいえ、こまめにカメラやレンズを拭けるように柔らかいタオルやハンカチ、レンズクロスなどは忘れずに用意しておきましょう。

あとは夜の霧であれば、普段の撮影よりもさらに露出アンダーで撮ることを意識したいところ。霧によって拡散された光が盛大に白飛びしてしまうと、RAW現像で肉眼で見た雰囲気を再現するのに苦労してしまうためです。
僕は普段から「絞り優先モード」を主に使用して撮影していますが、夜の霧の撮影では露出補正を-1.0から-1.7程度に設定することが多いです。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
■撮影環境:1/160秒 f/1.8 ISO500

こちらの写真は、11月に千葉県のとある駅で撮影した1枚。雨上がりの深夜、とても濃い放射霧に包まれた駅に電車が進入してくる瞬間を捉えました。
電車のヘッドライトが霧によって拡散されているのが分かると思いますが、露出補正をアンダーにしない状態で絞り優先モードを使用してしまうと、この部分が盛大に白飛びして、絶妙な光のグラデーションが再現できなくなってしまうのです。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
■撮影環境:1/800秒 f/8 ISO64

こちらは、上の写真を撮った翌朝の1枚。
撮影地は利根川の河川敷です。日が昇ると気温も上がり、放射霧は徐々に解消して秋晴れの空が見え隠れし始めます。そんな中、一人の男性が朝のゴルフを楽しみに、足早に土手を駆け降りていきました。市街地が広がる関東平野に現れる霧は、このように人々の日常に溶け込んで存在しているのです。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
■撮影環境:1/160秒 f/1.2 ISO450

この写真は4月、北海道の釧路にて撮影した1枚。
釧路一の観光名所でもある幣舞橋に海霧が流れ込み、北国特有のナトリウムランプの街灯と青色に光るサイネージが幻想的なグラデーションを作り出している中、一人の通行人が音もなく歩き去っていきました。

記事内でも紹介した通り、北海道東部の太平洋沿岸は4月~9月頃にかけて頻繁に海霧に包まれます。釧路では夏の期間、1ヶ月のうち3分の1から半分程度もの日数、霧が出現するため、日本一霧が多い町としても知られています。

近年、避暑地としても人気が出ている釧路。来年の夏休みは、避暑を兼ねて霧の写真を撮りに行くのはいかがでしょうか。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
■撮影環境:24mm 1/200秒 f/8 ISO64

最後に紹介するのは3月の香港で撮影したこちらの写真。
香港は毎年2月~4月にかけてときどき海霧に包まれ、険しい山々に囲まれた港湾都市が異世界のような雰囲気を放ちます。

日本国内では霧を狙うために北海道の釧路や京都の亀岡、長野の軽井沢など、比較的遠くにも足を運んでいた僕ですが、国外へ霧を狙いに行ったのはこれが初めてでした。

このときは予報を見てから直前に予約してこの光景を撮影することができましたが、時期さえ合えばもしかしたら海外でも霧や雲海を見られるかもしれませんよ。(相当の豪運が必要ですが…笑)

終わりに

さて、作例を交えながら「霧の世界」をご紹介してきましたがいかがだったでしょうか。
こんなにも幻想的な光景を創り出してくれる「霧」という名の自然のフィルター。これから訪れる11月は全国的に放射霧が出現しやすい時期ですので、この記事を読んで「霧を撮ってみたい」と少しでも思った方は、雨上がりの晴れた夜、ぜひ挑戦してみてくださいね。

 

■写真家:Nitto
北海道札幌市出身。東京都在住。都市風景やストリートをメインに撮影。
近頃は、気象に対する自らの知識・経験をもとに大雨・豪雪・濃霧・雷などを各地で追い求め、自然の畏怖に相反するかのような美しさを兼ね備える ”悪天候” 下での人々の営みや街並みの表現に熱を注ぐ。東京カメラ部10選U-22 2024

 

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