ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。Vol.10|ライカQ2

山本まりこ
ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。Vol.10|ライカQ2

はじめに

友達が川崎から南伊豆に移住した。
そして、スパイスカレー屋さんをオープンした。

「いつでも遊びに来てくださいね~」
そんなメッセージを送ってくれたのは、スパイス料理教室のインストラクターコース同期だった日置(ひおき)雅子(まさこ)さん。

コロナ禍で移住の話はたくさん聞くけれど、移住先でカレー屋さんまでオープンしたという人の話は聞いたことがない。日置さんのカレーを食べに行こう。

一緒に旅をするのは、ライカQ2。
今までいろいろなライカのカメラで旅をしてきたけれど、またライカQ2と旅をしてみたい。色鮮やかなカレーと、美しい海をライカQ2で撮ろう。

 

ライカQ2

ライカQ2と旅をするのは2回目。
初めての旅は、合羽橋(かっぱばし)へ。
気になる方はこちらを見て欲しい。

上記記事でも書いたが、ライカQ2は、高性能レンズ「ライカ ズミルックス f1.7/28mm ASPH.」が搭載された、レンズとボディが一体型のコンパクトカメラ。有効4730万画素の35mmフルサイズ機。一緒に旅をしたライカカメラの中でも、ボディが小さく軽いので、機動力良く撮影が出来るのでお気に入りのカメラだ。

そうそう。
この連載「ライカとカレー。今日はどの駅で降りようか。」は、写真家山本まりこが、毎回異なるライカのカメラとレンズを持って電車に乗り、気になる駅で降りて旅をし、そしてカレーを食べて帰ってくるという内容の企画。今回は、連載の第10回目。

初めてお会いする方に「ライカの連載読んでいます。」と声をかけていただくことが多くなった。特に、男性の方にそう声をかけていただくことが多い。中には、記事を読んでライカを買いました。そんな方も何名かいた。本当に嬉しい。

 

南伊豆へ

日置さんの住む南伊豆の下小野という場所は、地図上では私の家から結構近いけれど物理的にはかなり遠い。東海道線で熱海へ、伊東線に乗り換えて伊豆急下田駅へ、そこからさらにバスに乗って下賀茂へ、バスを乗り換えてやっと下小野に到着する。約4時間の大移動。

伊豆急下田駅に降りると、そこは南国だった。

ゆらゆらゆら
ヤシの木やブーゲンビリアの花が熱風に吹かれて大きく揺れていた。
結構近いのに、ずいぶん遠くに来た気がする。
夏だ。旅だ。
MACRO機能でお花に寄って撮影したり、デジタルズーム機能でトリミングして撮影したり。カラーも撮れるしモノクロも撮れる。ライカQ2は、ライカのカメラの中では比較的柔軟に撮影が出来るカメラだ。

「山本まりこ先生、ですよね。」
バス待ちで伊豆名物金目コロッケを食べ終わってふらふらと歩いていたら、突然声をかけられた。

ええ?!あ、そうです。山本まりこです。あ、あら。元気でしたか。私はこれからイベントなんです。そうですか、私は撮影です。金目コロッケ食べたところです。うふふ。そんな会話をする。すっかり旅気分に浸っていて、心がノーガードだったので随分びっくりした。今までもライカの撮影をしているときに、何度か声をかけられたことがある。いやはや。声を掛けられる度にいつ何時も心を引き締めておこう。いつもそう思うのだけれど、大概ぼーっとしているときに声を掛けられる。いやそれは、やっぱり私がいつもぼーっとしているということなのかな。ああ。

下田駅からバスに乗る。町からどんどん建物が少なくなって、緑が多くなってきて、え、そんなところまで走るのというような狭い場所もバスがずんずん進んでいく。ずんずんずんずん。途中、下賀茂という場所で乗り換え。発車時刻を2~3分過ぎても運転手さんがのんびりとお話をしていて、その後、何事もなかったかのように発車してバスは進んでいった。そんな短い時間の遅延もドキドキした。そんなことにドキドキしてしまうくらい私は都会人だったのかと思って、自分でもびっくりした。そして、下小野に到着。

カラッとした青空の下、小さい山がぽこぽことあり、緑に覆われた大地に草木や花が揺れている。

こ、ここですか。
下小野。
なんだかとってものどかなところですね、日置さん。

 

南豆亭へ

下小野のバス停から徒歩1分くらいの場所にある南豆亭(なんずてい)。
小さな川を渡って、到着。

久しぶり。
と、日置さんがとびきりの笑顔で迎えてくれた。

古民家をリノベーションした空間は、光がほわっと入り込んでいて、居心地がとてもいい。スパイスがズラリと並んでいたり、ドライフラワーが飾ってあったり。日置さんの優しい人柄が溢れる優しいインテリアに囲まれながら、私はスパイスカレーを注文する。

定番チキンカレー+えびカレー+ラジマダール(豆のカレー)の3種がのったレディースセットを注文。嬉しいことに、パウンドケーキと紅茶もついてくるのだそう。せっかくなので、日置さんおススメのスペアリブも追加。

しばらくして、カレーが到着。
まあ、なんて色鮮やかなカレー。
キャベツやナスなどのサブジものっている。サブジは、インドの野菜のおかずのこと。まるで、遊園地みたいに楽しい一皿に心がときめく。

一口いただく。優しい。
二口いただく。優しい。
サブジもいただく。優しい~。
チキンもエビも豆のカレーも、サブジも、とっても優しいお味がする。ほっとするお味。なんだか母親の煮物を食べているような気持ちになる。優しい気持ちにもなる。スパイスカレーと言うと、刺激的なものを想像するけれど、日置さんのカレーはマイルド。全然辛くない。日置さんの優しい心が丸ごと現れているような、そんなお味。聞けば、ご近所の農家さんや、南伊豆の野菜をたっぷり使っているそう。そして、辛くないから子供連れのファミリーさんがよく来てくれるのだそう。うんうん、分かる。家族で来たいスパイスカレー屋さん。地元で愛されるカレー屋さん。

お昼を少し過ぎた時間に到着したので「もう一回転しちゃったの~」と言う店内は最初は私一人だったけれど、あれよあれよという間にお客さんがやってきて一杯に。大人や子供、地元の常連さんや、中には外国から移住された方などもいらっしゃり、英語が飛び交う国際的な店内に。「ひゃ~今日は特別よ~」と言いながら、くるくるとお客様にカレーを提供する日置さん。

私が食べている間に、常連さんにも何人かにお会いした。常連さんたちは「南豆亭のカレーは本当に美味しい。」「この辺りでこういうカレーはないからね」「ずっと通っているけれど、全く飽きないよここのカレーは。」とみんな笑顔で気持ちを教えてくれる。そして、常連さんは、日置さんと話すとき、とても楽しそう。海外から移住された方は「グレイト」とカレーを食べながら、そう何度も口にしていた。

スパイス教室で日置さんとご一緒していたとき、彼女の作るスパイス料理はいつも面白くて、思わずプッと吹き出してしまうようなネーミングがされていたりした。いつも笑顔が素敵な彼女がいると、そこがパアッと明るい空気に包まれていつの間にかみんなが笑顔になる。そんなパワーがある日置さん。

今年2022年4月にオープンした南豆亭。日置さんも南豆亭も、すっかり地元に溶け込んでいた。そして、とても愛されている。
日置さん、本当におめでとう。

 

おさんぽへ

「お店は5時で終わり。夕方はヤギとお散歩しましょう~」
と日置さん。お友達がヤギを飼っているのだそう。

夕方になって少し涼しくなった風が流れる中、傾いた夕日の光に包まれながら二人で歩く。「ここ、いい散歩道でしょう~」と、嬉しそうに日置さんが言う。「最高だね」そう私が答える。移住先のこの土地を本当に好きだという気持ちが伝わってくる。途中、見たことのない実がなっている木に驚いたり、なんだか熊野古道みたいだなあとも思ったり。

ヤギの飼い主の日置さんのお友達よっこちゃんも東京から去年移住されたのだそう。よっこちゃんは鍼灸師さん。そして、お野菜も作っている。そんなよっこちゃんとお散歩しているのは、ヤギのテンテン。

ヤギは、沖縄で食べるために飼われているのを何度か見たことがあるけれど、ヤギとおさんぽなんて聞いたことがない。よっこちゃんは、テンテンをペットとして買っているのだそう。
道の端に生えている草を食べながら少しずつテンテンは進んでいく。中でも、柿やヨモギを見つけたときにテンテンのテンションがギューンと上がり、それはもう嬉しそうにむしゃむしゃと食べる。テンテンはとってもおりこうさんで、繋いだツナを引っ張れば進むし、なでると喜ぶ。たまに、食べているときにその顔を見せてくれる。食べる顔を見せてくれるときは、なんだか誇らしげな顔をしているテンテン。とってもかわいい。私にも綱を渡してくれて、お散歩をした。途中、カーブの道を歩いたときにうり坊の軍団に遭遇して草むらでガサゴソっと大きな音がしたときはびっくりしたけれど。足で大きな音を鳴らして、イノシシさんごめんね~と言いながらみんなで退散した。

南豆亭に帰るころには空がすっかりおいしそうなイチゴ色に輝いていた。
「雅子ちゃんって呼んでいいかな」と聞くと、「じゃ、私はまりちゃんって呼ぶね。」と日置さん、うん、雅子ちゃんが言った。

 

海へ

「朝は早起きして海まで自転車で行きましょう~」
そう雅子ちゃんが言うので、5時起き。と言っても、最近私はいつも5時起き。エアコンのない我が家の夏は午前中が勝負タイム。午後は暑くて頭が働かない。仕事は大体午前中に終わらせることにしている。
私は雅子ちゃんの旦那様の自転車をお借りして、二人で海まで。

雅子ちゃんは、朝の気持ちのいい風を切って、びゅんびゅん進んでいく。昨日のお料理している姿や、今日の自転車を颯爽とこぐ姿を見ながら、水を得た魚のように生き生きしているなと思った。雅子ちゃんは、南伊豆で輝いている。

途中、カニが道を横断しているのを何度も見た。猫がごろごろとしていた。トカゲがささっと草陰に隠れた。ウグイスが元気に鳴いていた。
カニ~
カニ~
ネコ~
トリ~
カニ~
トカゲ~
カニ~
カニ~
と、大きな声で言いながら、そして、二人でゲラゲラ笑いながら海への道を進んだ。

 

海で

弓ヶ浜という大きな海に出た。観光スポットらしく朝早くから観光客がぽつりぽつりと来ていた。私たちは、そのちょっと先の人のいない海岸で朝ごはんを食べることに。静かな海を眺めながら、雅子ちゃんが焼いたターメリックパンとベーコンオニオンパン、そして、ゆっくり抽出したというミルクブリュー(ミルクコーヒー)をいただく。
何ていう贅沢な朝ごはん。
二日前に焼いたというターメリックパンはふわふわとしていてとても美味しかった。ミルクブリューをごくりと飲みながら、美味しさを噛みしめながらいただいた。
雅子ちゃん、素敵な朝をありがとう。素敵な時間をありがとう。

 

わさびビリヤニに挑戦

「お昼はビリヤニを作ってみない?」そう雅子ちゃんに提案する。
ビリヤニは、インドの炊き込みご飯のこと。昨日、南伊豆でわさびがたくさんとれるという話をしていて、わさびのビリヤニを作ってみたいと思ったのだ。『「南伊豆チキンわさビリヤニ」なんていいんじゃない?』と雅子ちゃんに提案すると、すごくいいねと雅子ちゃん。わさびがピリッと効いたチキンのビリヤニ。南伊豆のお野菜をたっぷり入れたビリヤニ。

いいね、作ろう。と決まり、早速レシピを二人で作り、必要なものを買うために車で約5分の「南伊豆湯の花」とスーパーへ。あれこれ買って、いざ試作。

より美味しいものに仕上げるためにああでもないこうでもないと言いながらわさびの分量を変えたり、思いつくものを入れたりといろいろ試していたら、あっという間に4時間が過ぎていた。そして、「南伊豆チキンわさビリヤニ」が出来上がった。

早速一口食べてみる。
「ウン、美味しい」思わず口走る。
「美味しい。」雅子ちゃんも、笑顔になる。
じっくり玉ねぎを炒めたのと、ギーの旨味がしっかりとある。

 

熱帯植物園へ

『「チキンわさビリヤニ」の試作を南伊豆の方に食べてもらおう。』と雅子ちゃんが言うので、南豆亭の常連さんのところへお届けすることに。常連さんは、下賀茂熱帯植物園を経営されている安藤広和さん。安藤さんは、移住してカレー屋さんを開きたいという雅子ちゃんをずっと応援して下さっているとても優しい方。

出来上がった「南伊豆チキンわさビリヤニ」は、一番下はダール(豆のカレー)、その上にわさびが効いたチキンのビリヤニ、またその上に、わさびがピリッと効いたソースとわさび入りのラエタをかけた。隠し味に、南伊豆の梅干しも入れた。梅干しのほかにもいろいろ隠し味が入っている。

これはいいですね~
面白いですね~
食べやすいですね~
と安藤さんがチキンわさビリヤニを食べてくれる。お昼ご飯を食べたばかりなのに食べてくれる。優しい安藤さん。私たちも一緒に南伊豆チキンわさビリヤニをいただく。

カレーを食べた後、嬉しいことに、安藤さんに下賀茂熱帯植物園の中を案内していただいた。

マンゴーが鈴なりになっていたり、プルメリアが大きなお花を咲かせていたり、ドラゴンフルーツがなっていたり、今日の夜咲きますよと言う一晩しか咲かないドラゴンフルーツの花が大きな蕾を膨らませていたり。探検は、とても楽しかった。

安藤さん、ありがとうございました。
案内していただいているときに切って下さったマンゴー、ジューシーで上品でとても美味しかったです。

 

家へ

さあ家に帰ろう。
車に乗り込み、下賀茂熱帯植物園から駅まで送ってもらう帰り道、雨が降り出した。あっという間に大降りになって、山々は霧に包まれた。
またね!と雅子ちゃんに伝えて車を降りて駅まで走り、あと3分後に発車する踊り子号の切符を買ってギリギリで乗り込む。息も荒い中、ライカのカメラで写真を再生しながら、雅子ちゃんとの時間を振り返る。

何だか青春みたいな二日間だったなあ
そんな気持ちでライカQ2の写真を眺める。
そこには、夏の光をキラキラと受けながら自転車をこぐ雅子ちゃんや、弾けるスパイスたちが写っていて、香りや風が伝わってくるようだった。「やっぱり写真っていいよな」そんなことをぼおっと思いながら、ライカQ2の再生ボタンを押していた。

東海道線に乗り換えて席に座りふと窓の外を見ると、空に大きな虹がかかっていた。
「うわあ、虹だ」そう心の中で叫びながら、リュックにしまったQ2を再び取り出して窓に駆け寄って写真を撮る。大きな虹だなあ、そんなことを思いながらシャッターを切り続けた。でも、車内で気づいているのは私だけだったよう。ほとんどの人が、静かに目を閉じて寝ているようだった。

ちょっと暗くなってきた空にかかる虹は、私が降りる駅までずっと出てくれていた。そして、私はそれをずっと撮っていた。相変わらず、車内にいる誰も気づいていないようだった。

カメラと一緒にいると、気づくことが急に増える、そう思う。もしカメラを持っていなければ、撮りたいと思わなければ、虹に気づいていなかったかもしれない。日々の生活でもそういうことをよく感じる。例えば今、お庭でミントのお花が咲いている。それはやっぱり夏のど真ん中の出来事であって、夏をしっかりとお知らせしてくれる。そして、それを撮りたいと思い撮ることで、夏をしっかりと写真にも心にも刻んでくれる。もしカメラを持っていなかったら、その光景を撮ることも考えないし、そこにミントの花があることも気づいてないかも知れない。夏が夏であることも、もしかしたらもう少しうっすらと記憶しているかも知れない。
カメラに写真に出会えたことが、私の人生の幸運だと、そうよく思う。

虹を眺めながら、撮りながら一人、何だかいいことがあるのかな、そんな気持ちに包まれていた。本当は、大きな声で「大きな虹が出てるよ」と、車内にいるみんなに教えたかった。だから、出来るだけ大きな動きをしながら虹を撮っていたのだけれど、誰も私に気づく人はいなかったし、窓の外に目を向けている人もいなかった。

 

おわりに

ライカQ2との二回目の旅が終わった。ライカQ2、やっぱり好きなカメラだと思った。柔軟にフットワークよく撮れる気軽さを持ち合わせるライカのカメラ。どちらかと言えば、重厚感に包まれてしっかりと作品を撮るカメラがライカには多い中、ライカQ2は旅にピッタリなカメラだと思う。そして、初めてライカのカメラに挑戦してみたい、そう思っている人にもピッタリなカメラなのではないかと思う。

青い空と青い海。
南伊豆は、美味しく楽しく美しかった。
青春みたいな夏、だったな。

さあ、次の旅はどこに行こうか。
どの駅で降りようか。

 

■撮影協力
南豆亭
静岡県賀茂郡南伊豆町下小野538-3

下賀茂熱帯植物園
静岡県賀茂郡南伊豆町下賀茂255

南伊豆湯の花
静岡県賀茂郡南伊豆町下賀茂157-1

■写真家:山本まりこ
写真家。理工学部建築学科卒業後、設計会社に就職。25歳の春、「でもやっぱり写真が好き」とカメラを持って放浪の旅に出発しそのまま写真家に転身。風通しがいいという意味を持つ「airy(エアリー)」をコンセプトに、空間を意識した写真を撮り続けている。

「ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。」の連載記事はこちらからご覧いただけます
“ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。”の連載記事

 

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