冬の星景写真には必須!!ソフトフィルター活用術

成澤広幸

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冬だ!星空が美しいシーズンのスタートだ!

 「冬は星空がきれい」と言われるのはなぜでしょう?星空の撮影に大きく影響を及ぼすのは、空気中の水分・水蒸気です。これが空を霞ませ、星空の写真写りを悪くしてしまいます。冬は乾燥し空気中の水蒸気が少なくなるため、空が霞まずに透明度があがります。冬は星空がきれいということの理由がこれです。地球と星の間にある空気のカーテンがクリアになって、写真写りが良くなるんですね。

 今回はそんな冬の星空という被写体について、そして特に冬の星景写真の撮影において効果を発揮するソフトフィルターの活用術についてご紹介します。

冬の星景写真の悩み

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■撮影機材:OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
■撮影環境:ISO3200 f2.2 SS15秒 WB:蛍光灯
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 さて、空気が美しい冬の期間ですが、冬の天の川は夏とは違い濃淡が少なく、少々ダイナミックさに欠けることが悩みです。冬の天の川は光の弱い星(微光星)の集まり。知識を持たずに夏の天の川のイメージを持ったまま冬の星空を撮影にいくと……あれ?なんかイメージと違う?となります。

 天の川は常に同じではなく、春夏秋冬で撮影できる領域が変わってくるんですね。また、近年発売されているレンズはとても高性能・高画素のため、星が小さく写りちょっとシャープすぎる感があって星座の形がわかりづらい。そんな冬の星空撮影で活用できるのが、実は「ソフトフィルター」なんです。

星景写真でソフトフィルターを使うメリット・デメリット

 冬の星空の特徴は、1等星と呼ばれる明るい星が多いということ。そして、青や黄色など星の色が複数存在することです。また、すばるやオリオン大星雲など、大きな星雲・星団があるのも特徴です。下の画像を見てみましょう。Kenkoのソフトフィルター「PRO1D プロソフトンA(W)」の使用あり・なしの作例です。星が大きく滲んでいるのがわかります。それによって「星座感」が出て、オリオン座などの形がわかりやすくなっていますね。これがソフトフィルターの効果です。

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■撮影機材:FUJIFILM X-T2 + XF16mmF1.4 R WR
■フィルター:Kenko PRO1D プロソフトンA
■撮影環境:ISO8000,f2.2,SS20秒
Adobe Photoshop CCで画像処理

 明るい星ほど、レンズの焦点距離が長いほど、星が大きく滲みます。そしてソフトフィルターを使うと星の色も強調されています。色は、光があって初めて感じることができます。ただでさえ自然光の少ない星景写真の撮影では、写真をカラフルに見せるのがとても難しいのです。星の色が出ているかどうかは、色の演出においてとても重要な要素であると言えるでしょう。夏と比べると天の川が地味な冬ですが、その代わりに明るい1等星が多いため、冬の星空はソフトフィルターとの相性が抜群なのです。

 反面、ソフトフィルター使用時のデメリットもあります。下の画像を見てみましょう。Kenko PRO1D プロソフトンA(W)を使用しています。星は大きく滲んだものの、明るい夜景の光も大きく滲んでちょっとうるさい感じになってしまいました。また、富士山の稜線もソフトがかってぼやけてしまっています。星にはソフトフィルターが効果的ですが、こうした明るい夜景や街灯には不向きであり、風景部分のシャープさを保てなくなってしまうことがわかります。

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■撮影機材:FUJIFILM X-T2 + XF16mmF1.4 R WR
■撮影環境:ISO3200 f2.5 SS20秒
Adobe Photoshop Lightroom Classicで画像処理
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富士山部分を拡大。稜線のシャープさに違いが出ている
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夜景部分を拡大。光が大きく滲んでいることが分かる

 そして、周辺の星が四隅に引っ張られるように描写されてしまいますね。これはレンズの収差性能をもろに受けてしまうためです。傾向として広角になればなるほど、レンズの前玉が小さく湾曲した設計のものほどこのような写りになります(このようなレンズは建物などをまっすぐ撮るような、昼間の風景写真向けの設計です。星空撮影には向かないというだけで、レンズの良し悪しではないことに注意)。

 そのため、このような歪みが気になる場合は、広角すぎない焦点距離24mm前後で前玉の大きなレンズを選ぶと良いでしょう。このあたりは個人差ですが、私の場合は多少周辺が歪むのは気にしていません(もちろん程度によります)。それよりも星空をきらびやかに描写することの方にメリットを感じており、超広角レンズ使用時には周辺に明るい星を入れないように配慮する、などの対処をしております。

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■撮影機材:SONY α7S II + TAMRON 17-28mm F/2.8 Di III RXD
■フィルター:Kenko プロソフトンクリア
■撮影環境:ISO8000 f2.8 SS20秒
Adobe Photoshop CCで画像処理

 上の画像は超広角レンズを使用したソフトフィルター作例です。左上の明るい星「アルクトゥルス」の形が歪んでいますが、ソフトフィルターなしでは右上の「北斗七星」の星座感が出せません。なるべく構図の最周辺からアルクトゥルスが離れるようにして、歪みを最小限に抑えました。それでも左上に向かって楕円になっていますが、この構図では他の描写を優先した妥協点と言えるでしょう。

星景向けソフトフィルターに求めること、Kenkoソフトフィルターが定番の理由

 星景写真にソフトフィルターを使用した表現が効果的であることはご理解いただけましたでしょうか。しかしながら、ソフトフィルターならなんでもよいかというそうではありません。ソフトフィルターのぼかし効果にも様々なものがあります。

 星の周りに不思議なゴーストが発生したり、星がおにぎりの形になったり、星が不鮮明にぼけたりといった現象が発生するものもあります。星をきれいな円で表現できる、という描写で人気があったのがKenkoのソフトフィルターなのです。Kenko製ソフトフィルターは星景写真の写真表現を広げる最も優れたものとして、長らくユーザーから愛されてきたのでした。

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「浅間山に沈むオリオン座」
■撮影機材:FUJIFILM X-S10 + Tokina atx-m 33mm F1.4
■フィルター:Kenko ハーフプロソフトンA 100x125mm
■撮影環境:ISO8000 f2 SS5.6秒
Adobe Photoshop CCで画像処理

 私がソフトフィルター使用時に好きな構図が、標準レンズ程度の画角で低い位置の星座と風景を収めること。焦点距離が長くなると速いシャッタースピードで撮影することができ、周辺部の星の形が歪むことも少ないです。圧縮効果で星座を大きく見せることができるのも撮影していて楽しいポイント。個人的にはハーフプロソフトンAはこんな撮影のときに最も効力を発揮する気がしています。この作例のように浅間山はシャープに、でも星しっかりとにじんで、きらびやかな星座感を演出することができています。

Kenkoから発売されているソフトフィルターいろいろ

 さて、Kenko製ソフトフィルターが星景写真の撮影においてベストチョイスであることは前述の通りですが、実はKenkoからはいくつかソフトフィルターが発売されています。

①PRO1D プロソフトンA(W)

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 薄枠タイプの丸型ソフトフィルターで広角レンズ使用時のケラレが少ない。元々はポートレート用のフィルターでしたが、たまたま星景写真で使用すると星の形がきれいな円になり、にじみが美しいことが注目され、星景写真のスタンダードとして使用されてきました。ポートレート用だけあってにじみはやや強め。星空の演出を大きく見せたい時におすすめ。風景部分がシルエットに近い状態などが特に適している構図になると思います。

②PRO1D プロソフトンクリア(W)

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 ポートレート用で開発されたものを星景写真に流用するというのが定番だったのに対し、星景写真専用に開発されたのがこの丸型フィルター。従来のプロソフトンAではにじみが強く、風景部分の描写への影響が大きいというユーザーの意見を反映し、星もほどよくにじませつつ、風景部分に影響が少ないちょうどよいソフト効果(プロソフトンAの約半分)を実現しました。星景写真の新しいスタンダードソフトとして定着しつつあります。

③ブラックミストNo.1/No.05

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 こちらは映画のようなミスト感を出すことを目的として開発されたフィルター。私も動画撮影時には愛用しています。逆光撮影時に効果が出やすいという特徴があり、独特のフレア感を求めて使用することが多いです。他のフィルターとは違って、No.1がもっとも効果が強く、No.05が効果が弱い。私は動画撮影時にはNo.05を使用しています。

④ハーフプロソフトン(A) 100x125mm、130x170mm

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 こちらは他の3種とは違い、丸型フィルターではなく角型フィルターです。使用には専用のホルダー+アダプターリングが必要となります。角型フィルターは構図内の特定の部分に効果が得られるように角度を変えたり、上下に動かすことができるようになっています。これを使用することにより、星空の部分だけにソフト効果をかけ、風景部分はシャープなまま撮影をすることができます。

角型フィルターの装着方法について

 今回、専用ホルダーはCokin製のものを使用しました。角型フィルターの装着方法は以下の動画のようになります。

 Cokin製の専用ホルダーはサイズごとに3種類発売されていますが、星景写真で使用するなら100mm幅角型タイプ・130mm幅角型タイプがおすすめ。通常のレンズであれば100mm幅、大口径・超広角レンズなら130mm幅がおすすめです。大口径・超広角レンズになるとホルダーが映り込んでケラレが発生しやすくなるため、角型フィルターも幅の広いものを使用することが必要になります。また、ホルダーにも2種類あります。

①Cokin フィルターホルダー

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 樹脂製で軽量。角型フィルターのみを使用する設計になっています。100mm幅角型フィルターにはZ-PROフィルターホルダー [BZ100]、130mm幅角型フィルターにはX-PRO フィルターホルダー [B100A]が適合します。

②Cokin EVO フィルターホルダー

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 高強度のアルミ製フィルターホルダー。付属の丸形フィルタープレートを装着することで、丸型フィルターも使用できるようになります。角型フィルターとC-PLフィルターなどを使用したい場合に効果的。100mm幅角型フィルターにはEVOフィルターホルダーL[BZE01]、130mm幅角型フィルターにはEVOフィルターホルダーXL[BXE01]が適合します。

 また、フィルターネジのない出目金レンズのタイプには、ユニバーサルリング[X499N]を使用することで角型フィルターを装着することができます。
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ソフトフィルター別に撮り比べてみました!

 まずは円形フィルター3種を試してみます。それぞれ星がにじんでいますが、この時点でブラックミストは星景写真には不向きと言えそうです。輪郭を残しつつふわっとさせるというか、同じソフトフィルターでもだいぶ効果が違うものですね。ブラックミストは動画撮影などで人気のある素晴らしいフィルターで(実は私も愛用しています)、ユーザーから星で使えますか?という質問が多かったのですが、今回の結果を見ると星景写真ならプロソフトンAやプロソフトンクリアを選んだ方が良さそうです。

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■撮影機材:FUJIFILM GFX100S + GF32-64mmF4 R LM WR
■撮影環境:ISO12800 f4 SS15秒 AWB
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星空の写りを拡大比較

 今度は風景部分のソフト感も検証したいと思います。富士山とオリオン座の構図を狙ってみました。フィルターなしだとやはり星座感がなく主題が曖昧な感じになりますね。それではソフトフィルター使用時の比較をしてみましょう。今回はハーフプロソフトンも使用してみました。

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■撮影機材:FUJIFILM X-S10 + Tokina atx-m 33mm F1.4
■撮影環境:ISO6400 f1.4 SS4秒
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■撮影機材:FUJIFILM X-S10 + Tokina atx-m 33mm F1.4
■撮影環境:ISO6400 f1.4 SS4秒
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上の4枚を拡大比較

 このような構図だと、星のにじみ加減よりも風景部分(富士山)の描写が気になりますね。プロソフトンAは風景部分の描写がかなり甘くなります。プロソフトンクリアだとそれが弱まります。ハーフプロソフトンはさすが風景部分はきっちりとシャープに撮影できていますね。プロソフトンAだと富士山がにじみすぎ、プロソフトンクリアだとまだ妥協できる、という感じでしょうか。

星座写真でもソフトフィルターは使える

 星空のみを写す、星座を写すという場合にもソフトフィルターは有効です。このような場合は「プロソフトンクリア」がおすすめ。プロソフトンAだと、明るい星よりも細かい星・微光星の描写にもにじみが及ぶのが気になってしまいます。星座を演出する明るい星だけをにじませ、背景の天の川などの微光星はそのままにしておきたい、というのが理想です。

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■撮影機材:FUJIFILM X-S10 + Tokina atx-m 56mm F1.4
■撮影環境:ISO3200 f4 SS30秒 AWB
Kenko スカイメモSで追尾撮影
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光害カットフィルターとの併用もOK

 PRO1Dタイプのフィルターは薄枠タイプのため、フィルターの重ねがけにも対応しています。星景写真では人気のある光害カットフィルター「スターリーナイト」などとソフトフィルターを併用することも可能です。

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■撮影機材:SONY α7S II + TAMRON 17-28mm F/2.8 Di III RXD
■フィルター:Kenko プロソフトンクリア+スターリーナイトなし/あり
■撮影環境:ISO6400 f2.8 SS20秒 AWB

まとめ

 いかがでしたでしょうか。フィルターワークは星景写真の世界でも欠かせないものになっています。こうした機材を活用し、常に写真表現に幅を持たせるようにしましょう。いざというときに何をどう表現したいのか、その選択肢を広げる機材のひとつが、フィルターだと思っています。

 プロソフトンクリアについては、私のYouTubeチャンネルでも紹介しています。こちらもぜひご覧ください。

■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員

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