マクロで撮ろうナツズイセン・リコリス|クニさんの季節の花レシピ

マクロで撮ろうナツズイセン・リコリス|クニさんの季節の花レシピ

はじめに

暑さ厳しい夏。ハスやひまわりの季節が終わると、秋まで撮影もちょっとひと休みしたくなりますね。
でも夏の終わりから秋のはじめにかけても素敵な花がいろいろ咲いています。
今回はそんな花たちのひとつ、ナツズイセンとその仲間のリコリスをマクロレンズで撮影するさまざまな方法についてお話しいたします。

しっかり観察! 花の特徴を掴む!

■撮影機材:FUJIFILM X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+0.3)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

こちらはナツズイセン。秋の代表的な花、彼岸花によく似ていますね。
それもそのはず、ナツズイセンも彼岸花も「リコリス属」という同じ仲間なのです。
秋のお彼岸のころに咲くのが皆さんよくご存知の真っ赤な彼岸花。ナツズイセンはそれより一ヶ月ほど早く、夏の終わりに満開となります。

ナツズイセン(リコリス)の特徴は反り返った花びらや、くるんとカーブしたシベ。
花全体を入れてその特徴的な姿を写しました。
背景に光の円ボケをいれて、これから花開く明るい未来のようなイメージを表現しています。

■撮影機材:FUJIFILM X-H2 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+0.7)・ISO125・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

ナツズイセンの特徴的な部分は、前述したように反り返った花びらやカーブしたシベ。
ここでは、シベに注目しました。
マクロで近づいてシベの先端の葯(やく)にピントを合わせます。
絞り開放で近づいているため被写界深度(ピントがあったように見える範囲)が浅く、シベが奥に行くにしたがって大きくボケています。
この大きなボケが得られることがマクロ撮影の面白いところです。
なんだか花びらのステージの上で踊っているように見えませんか?(僕だけ?)

■撮影機材:FUJIFILM X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(-0.7)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

濃いピンク色をしたリコリス。ナツズイセンよりほんの少し後ぐらいに咲く花です。
こちらもシベに着目しました。
ですが、先端の葯の部分は見せずに、シベのカーブのラインだけをデザイン的に切り取りました。
花の撮影では、花全体の姿を写す必要もないですし、それが何の花かをわかるように写す必要もありません。
「面白いな」と心惹かれた部分だけをクローズアップで大胆に切り取りましょう!

■撮影機材:FUJIFILM X-T3 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+1.7)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

同じくシベに注目した一枚です。
先ほどの作品は横からカーブのラインに注目しましたが、こちらは真正面からの一枚。
こちらに伸びてくるシベの真ん中あたりにピントを合わせることで、シベの先端や奥の付け根の部分が大きくボケています。
手前の葯も大きな黄色のボケになってちょっとふしぎなイメージになりました。
マクロ撮影では、ピントの位置をほんの少し動かしただけでもボケ方が大きく変わります。
いろいろなところにピントを合わせてみて、面白いと感じられる一枚を見つけだしましょう。

花より低い高さの目線で見てみよう

■撮影機材:FUJIFILM X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F3.2(+0.3)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

咲き誇るピンクのリコリスの群生。
花より低い位置から覗いてみると、一輪の小さな蕾を見つけました。
きっとこれから咲こうと一所懸命に頑張っているところなんでしょうね。
そんな小さな一輪を周囲の花たちが見守っている……。そんなふうに思えました。
蕾を優しく包みこんでいるようなイメージにするため、手前に咲く花を前ボケとして写し込んで、画面全体がふんわりやわらかな印象になるように仕上げました。
花たちが小さな蕾を優しく見守っているような雰囲気が伝われば嬉しいです。

■撮影機材:FUJIFILM X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+0.3)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

こちらも花より低い位置に目線を置いて撮った一枚です。
手前の前ボケに隠れているシベを見つけました。
恥ずかしがり屋なのか、なにか言いたいことがあるけど言えずに心を隠してしまったのか。
このシーンからだけでもいろいろな想像が膨らみます。
このように自分なりのイメージを持って撮影することで、ただ綺麗なだけの花写真から一歩抜け出すことができますよ。
「自分はこんなふうに感じたけど、間違いじゃないかな?」なんて心配しなくても大丈夫!
「自分はこう感じました!」と堂々と表現しましょう。感じたことに正解も間違いもありません。

表現したいイメージに合わせた露出を選ぶ

■撮影機材:FUJIFILM X-T3 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+1.7)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

咲き始めた蕾が陽射しに向かって元気いっぱいに両腕を広げて深呼吸しているかのようです。
この花を見て「元気」「陽射し」「新鮮」というキーワードが心に浮かびました。
そのイメージを表現するため、露出をプラス補正して明るめに写しています。
「どう表現するか?」には、構図やフレーミングなどが重要ですが、露出も重要な要素の一つです。
明るく元気なイメージで表現するには明るめの露出が適していますし、例えば一人ぼっちで寂しい雰囲気を出そうと思えば、露出を抑え気味にして暗めに撮るほうがイメージに合致します。
カメラが測った露出通りに漠然と撮るのではなく、撮影イメージに合わせて露出をコントロールすることも大切です。

ボケでサンドイッチして主役を引き立てる

真っ赤なモヤの中からすっと伸びた一本のシベ。
なんともふしぎなイメージになりました。

■撮影機材:FUJIFILM X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(-0.7)・ISO200・フィルムシミュレーション Velvia

このシベはいったいどこから現れて、何を伝えようとしているのか。
いろいろな想像が膨らみます。
その答えを写真で出す必要はありません。むしろ答えがない方が面白い場合もあります。
見ていただいた皆さんに「なんだろう?」といろいろ想像してもらえるのも楽しいですね。

撮影状況としては、ピンクのリコリスの群生を撮った一枚です。
手前の花の向こう側からシベが顔を出していました。
そこでシベの一本だけを主役に選び、他のシベができるだけ見えないよう手前の花を前ボケにして隠しています。
手前と奥の花のボケでサンドイッチしたような形です。
できるだけ画面いっぱいを同じ色で埋め尽くすことで、主役に選んだ一本のシベに視線を集めるよう意識しました。
前ボケや背景の同じ色のなかにも微妙なグラデーションがあり、それがよりふしぎな雰囲気を醸し出してくれたと思います。

キラキラの木漏れ日でポジティブなイメージに

■撮影機材:FUJIFILM X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(-0.7)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

咲き始めの一輪を、溢れる木漏れ日の後ボケで包み込んでみました。
キラキラした光のボケは「希望」「未来」「明るい」といったポジティブなイメージにぴったりです。
咲き始めた一輪がこれからどんなふうに成長していくのだろう?そんな未来に希望を感じられるような表現を狙いました。
ほんの少し主役の花を傾けることで方向性を出し、光の方を見つめているようなイメージに仕上げています。

雨の日は撮影日和

雨が降ると撮影も億劫になりがちですよね。
特に夏の雨は蒸し暑くて外に出たくなくなる気持ちもわかります。
でも、雨だからこそ撮ることができる作品もありますよ。普段とは違った一枚をゲットできるチャンスかも!?

■撮影機材:FUJIFILM X-T3 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+0.7)・ISO400・フィルムシミュレーション Velvia

雨が降ると、花びらやシベにこんなふうに丸い雫がいっぱいぶら下がります。
よく観察してみると、その雫の中に花の姿を見つけることがあります。
これは雫の後ろにある花が映り込んだものです。
ほんの少し撮影する場所や高さが変わるだけで映り込みが見えなくなったり、綺麗に映り込まなくなったりします。慎重に撮影ポジションを調整しながらベストな位置を探りましょう。
もちろん、ピントは雫の中の花にしっかり合わせます。
宝物を閉じ込めたような楽しい気分になりますよ。

おわりに

花撮影の基本は、まず撮影しようとする花の特徴を掴むこと。そのためには、しっかりと観察することが大事です。
漠然と眺めるだけではなく、上から下から斜めから、近づいたり離れたり、様々なポジションから観察してみましょう。
そうして「あ、ここ面白いな」「なんだか好きだな」「ここ特徴的だな」、そんなところを見つけられたら、その部分だけをクローズアップします。
そうすることで、何に心動かされて撮ったのか、感動が伝わる写真になります。

ここに挙げた撮り方はほんの一例です。
いろいろな撮影方法にチャレンジしながらぜひ自分なりの撮り方を見つけてくださいね!

 

■写真家:くにまさ ひろし
1971年生まれ。大阪在住。身近にあるちょっとした幸せ「プチ・ハピ」をテーマに、マクロレンズで花や虫たちの小さな世界をふんわりやさしく描く。各種写真教室では、マクロ撮影の面白さを楽しくわかりやすくお伝えすることを意識している。

写真展 2020年、2022年「花色の息吹」(大阪・東京)、2021年「花の鼓動~Life~」(大阪)、2023年、2024年「Nature Flowres」(東京)
写真集「花色の息吹」(風景写真出版)

日本風景写真家協会 会員
一般社団法人 日本写真講師協会認定インストラクター
フォトマスターEX(総合)
カメラのキタムラ写真教室/OM SYSTEMゼミ/リビングカルチャー倶楽部 他講師
クニさんの花マクロ写真塾 主宰

 

 

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