なぜトレイルランを撮り続けるのか?|大自然で感動を写すプロフォトグラファーの視点
トレイルラン撮影に関心をお持ちの方に向けて、白馬の絶景を舞台に学べる特別講座「トレイルランナー撮影」(講師:榮留皓太氏)が2025年9月6日・7日に開催されます。詳細は記事末尾でご紹介していますので是非あわせてご覧ください。
はじめに
大自然を舞台に心身を鍛えるスポーツ、トレイルランをご存じでしょうか。山や渓谷、森の中を走りながら、四季折々の美しい景色を楽しみつつ非日常を体験できるのが特徴です。日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、アメリカ発祥のこの競技は海外で人気が高く、毎年世界各地で大会が開催されています。
トレイルランのゴールでは、足や靴が泥にまみれ、ゼッケンが破れ、擦りむいた膝から血を流している選手さえいます。それほど過酷な道のりを駆け抜けてきたにもかかわらず、多くの選手は満面の笑みを浮かべてゴールします。スタート地点や山道での撮影も魅力的ですが、何よりゴールにはその魅力が凝縮されています。選手の表情や喜びが爆発する瞬間に最も心を惹かれ、私は撮影を続けています。本記事では、フォトグラファーの視点からトレイルラン撮影の魅力をお伝えします。ぜひ最後までご覧ください。

■撮影環境:1/500秒 f/2.2 ISO6400 焦点距離35mm
■大会名:OSJ ONTAKE100
撮影をはじめたきっかけ
デザイン会社に勤務していた頃、当初は外部委託していた撮影業務を社内で行うことになり、仕事として写真を撮り始めました。もともと趣味として写真を撮っていた私にとって、それを仕事にできることは大きな転機でした。
やがてデザイン会社での撮影だけでは物足りなくなり、写真販売を行うフォトクリエイトに応募してカメラマン登録を行い、副業としても撮影を始めました。フォトクリエイトでは、学校行事からスポーツ全般まで幅広い撮影を担当しました。その中で、伊豆トレイルジャーニーという現在では大規模となったトレイルランイベントの第一回大会を、オールスポーツコミュニティとして撮影する機会を得ました。これがトレイルラン撮影にのめり込むきっかけとなりました。
ちょうどその頃、日本人の鏑木毅選手が、フランスで行われる世界最高峰の大会「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」で3位に入賞したというニュースが報じられました。まさにそのタイミングでオールスポーツコミュニティから依頼をいただき、ぜひ挑戦したいと強く思ったのです。

■撮影環境:1/2500秒 f/2.8 ISO200 焦点距離84mm
■大会名:OSJ安達太良山トレイル
トレイルランの魅力
現在はプロフォトグラファーとして学校行事や様々なスポーツを撮影しています。その中でも、最も情熱を注いでいるのがトレイルランです。なぜなら、マラソンや野球、サッカーのように多くのスポーツは決まった場所から撮影するのに対し、トレイルランでは「どこで、どう撮るか」がカメラマンに任されることが多く、自由度が高いからです。言い換えれば、トレイルランは具体的なディレクションが難しいため、撮影を委ねられるケースが多いのです。
マラソンもトレイルランも長距離を走る点では共通しています。しかし、マラソンはランドマークとなる場所で撮影することが多く、ディレクション側も明確な指示を出すことができます。一方で、トレイルランでは季節や天候、光の条件によって魅力的なシーンが刻々と変化するため、その都度カメラマンが判断して撮影する必要があります。さらに、森や木々の成長によって同じ場所でも翌年には異なる光景になることも少なくありません。そのため、具体的な指示を出さずカメラマンに一任することが多いのでしょう。
また、トレイルランの撮影は「選手への販売用」と「オフィシャル用」とで大きく異なり、それぞれに魅力があります。オールスポーツコミュニティの販売用では、被写体となる選手を中心に撮影します。たとえば、遠くに選手が小さく見える段階から撮影を始め、険しい山々に囲まれた風景を写し込みます。やがて近づくにつれて表情が明確になり、バストアップの距離では息遣いが伝わる迫力のある写真となります。さらに、通り過ぎた後は景色が一変し、背中で語るストーリー性のある写真を撮ることができます。このように、一連の動きを連続して撮影することで、その場にいたかのようなストーリーを感じられる写真を目指しています。マラソンでは次々に選手が来るためこうした方法は難しいのですが、トレイルランでは選手の間隔が大きく開くことが多く、だからこそこうした撮影が可能であり、大きな魅力となっています。

■撮影環境:1/2500秒 f/2.8 ISO160 焦点距離24mm
■大会名:SAPPORO★テイネトレイル
北海道・手稲山の大会で撮影。下りの途中に広がる札幌の街並みを、目の前を通過する選手と共に捉えました。

■撮影環境:1/2500秒 f/2.8 ISO160 焦点距離84mm
■大会名:SAPPORO★テイネトレイル
同じ大会を望遠で撮影。ランナーの前に続くでこぼこの下り坂と、その横に広がる札幌の街並みを俯瞰的に捉えた一枚です。
主催者側から依頼を受けて撮影するオフィシャル用の写真では、大会の魅力が一枚の写真から伝わるよう心掛けています。特にストーリー性を意識し、自身の作品として表現するつもりで撮影に臨んでいます。これに対して、他のスポーツのオフィシャル写真ではスポンサーの意向に沿って撮影することが多くあります。例えば「この建物の前を通るときに、ロゴがはっきり見えるように選手を撮ってほしい」といった具体的な要望があるのが一般的です。しかし、トレイルランではそうした細かい指示はほとんどなく、「大会の魅力を伝えてほしい」という依頼が中心です。そのため、カメラマンが「これだ!」と思う瞬間を自由に切り取ることができるのです。

そして、トレイルラン撮影の中でも特に象徴的なのがゴールシーンです。マラソンの場合、多くの選手がタイムを意識してゴールするため、時計を確認しながらフィニッシュする光景が一般的です。一方で、トレイルランでは歓喜にあふれて泣き崩れる人、極度の疲労の中でジャンプする人、家族や仲間と手を取り合ってゴールする人など、他のスポーツでは見られない感動的な瞬間が数多く訪れます。もちろん、その姿は季節や天候によって変わり、選手それぞれ十人十色です。ただ共通しているのは、タイムそのもの以上に「ゴールへたどり着く達成感」が力強く感じられる点です。

■撮影環境:1/2000秒 f/2.0 ISO200 焦点距離135mm
■大会名:SAPPORO★テイネトレイル
ゴールへ向かって斜面を駆け下りるランナーを撮影。画面右上にゴールを入れ、「あと少し!」という緊張感と高揚感を表現しました。

■撮影環境:1/500秒 f/1.4 ISO6400 焦点距離35mm
■大会名:OSJ ONTAKE100

■撮影環境:1/10000秒 f/1.2 ISO200 焦点距離50mm
■大会名:OSJ ONTAKE100
撮影方法
トレイルランの撮影においては、ロケハンが非常に重要です。もちろん他のスポーツ撮影でも事前の確認は欠かせませんが、特にトレイルランの場合は広範囲にわたり、かつ長時間をかけた事前調査が必要になります。
なぜなら、実際のコースは不整地で、わずかな登りや下りによって見える背景が大きく変化するからです。さらに木漏れ日の強弱や角度によっても印象が異なるため、そうした要素を一つひとつ丁寧に確認しておく必要があります。

■撮影環境:1/4000秒 f/3.5 ISO200 焦点距離70mm
■大会名:OSJ安達太良山トレイル
ロケハンは、撮影本番と同じ光の入り方や背景を確認するため、コースを逆走して行います。その際、選手がどのような動きをするかをイメージするために、段差や大きな根の位置なども把握します。こうしておくことで、本番での撮り逃しを防げるのです。ただし、実際の撮影では選手の動きが予想と異なることも多いため、通過した選手の情報をもとに臨機応変に調整しながら撮影します。このように、他のスポーツに比べて確認すべき要素は格段に多く、それが楽しさでもあり、大変さでもあります。

■撮影環境:1/1000秒 f/5.6 ISO800 焦点距離100mm
■大会名:スカイライントレイル菅平
カメラは2台体制で運用しています。風景を美しく表現しつつ、速射性やAF追従性能に優れたEOS R3とEOS R6 Mark IIを主に使用しています。レンズは用途に応じて使い分けます。販売用の撮影では、選手を遠景から近距離まで連続して捉えるため、EF24-70mm F2.8L II USMやRF70-200mm F2.8 L IS USMといったズームレンズを用います。一方で、オフィシャル用の撮影では背景のボケ感を活かすことが多いため、RF35mm F1.8 MACRO IS STMやRF50mm F1.2 L USMといった明るい大口径レンズを選びます。
機材の収納には登山用バッグを使用しています。レインウェアや防寒具といった登山に必須の装備も重要であるため、それらを一緒に収納できるバッグを選んでいます。さらに、インナーの仕切りを調整できたり、カメラやレンズを背面から素早く取り出せるタイプのものが特に重宝します。

■撮影環境:1/500秒 f/2.2 ISO6400 焦点距離35mm
■大会名:OSJ ONTAKE100
さいごに
トレイルランは気候や環境の変化、さらには光の当たり方によっても表情が大きく変わるため、人それぞれに異なる写真を魅力的に撮影できるジャンルだと思います。
そのため、大自然や山登りが好きな方、あるいはそうした風景撮影をされている方には、新たな挑戦の場として特におすすめできます。
加えて、被写体は選手だけにとどまりません。雄大な風景はもちろん、季節ごとに咲く花や、レース中に出会う動物たちの姿などもカメラに収めることができます。このように、トレイルラン撮影は自然とスポーツが融合する奥深いジャンルといえます。興味のある方は、ぜひ一度チャレンジしてみてください。

■撮影環境:1/2500秒 f/3.5 ISO200 焦点距離24mm
■大会名:OSJ安達太良山トレイル

■撮影環境:1/3200秒 f/2.8 ISO200 焦点距離172m
■大会名:OSJ ONTAKE100

■撮影環境:1/500秒 f/2.8 ISO100 焦点距離200mm
■大会名:ULTRA-TRAIL Mt.FUJI 2022
こちらの写真はフォトクリエイトが運営するオールスポーツコミュニティで販売しています。

こちらの写真はフォトクリエイトが運営するオールスポーツコミュニティで販売しています。
■プロフォトグラファー:向原純一
1968年生まれ。日本工学院八王子専門学校放送芸術科卒業。テレビ東京報道番組「ワールドビジネスサテライト」などの番組制作に携わる。その後、父の経営するデザイン会社や印刷会社を経て2012年からフリーランスとして撮影を始める。学校写真からスポーツ撮影まで幅広く活動し、最近はトレイルラン大会のオフィシャル撮影から販売写真撮影も行っている。
白馬でトレイルラン写真教室を開催!
これまでご紹介したトレイルラン撮影の魅力を、実際の現場で体験してみませんか?カメラのキタムラとフォトクリエイトが共催する写真教室「白馬の絶景で学ぶ!トレイルランナー撮影」が、2025年9月6日(土)〜7日(日)の2日間、長野・白馬を舞台に開催されます
イベントの特徴
・座学+実践のセット講座:9月6日午後に松本市内で座学を、翌7日の日中には「白馬国際クラシック」の撮影実習を行います 。
・絶景で撮るランナーの姿:雄大な岩岳山頂のロケーションで、スタート直後のランナーや感動のフィニッシュシーンを狙う貴重な機会です。
・プロからの丁寧な指導:講師は榮留皓太先生。「Stay Blue, Stay Pure」をテーマに活動し、受講生にも大会当日は楽しみながら学ぶことを勧めています 。
・撮影後の展示も予定:撮影された作品は10月にカメラのキタムラ松本・並柳店で展示される予定です 。
参加に関して
・定員10名/最少催行5名と少人数制で、しっかり指導が受けられます 。
・参加費は11,000円(税込)で、別途ゴンドラ利用料(2,900円)が必要です 。
・申し込み期間は9月4日(木)までとなっています 。
≪申し込みはコチラ≫















