私が見ている世界を伝えたい|写真家・八木千賀子が語る風景写真の魅力

ShaSha編集部
私が見ている世界を伝えたい|写真家・八木千賀子が語る風景写真の魅力

 

本記事でインタビューに応えて頂いた写真家・八木千賀子さんの写真展『ひかりといろを』を2026年10月29日~11月17日の期間にカメラのキタムラ松本・並柳店で開催します。11月1日にはギャラリートークも予定していますのでお近くにお越しの際は是非お立ち寄りください。詳しくは文末に記載しています。

本インタビューについて

今回お話を伺ったのは、風景写真家の八木千賀子さん。幼い頃からカメラに親しみ、高校生になると身近な空や自然を撮影するようになった八木さん。写真仲間との出会いや写真教室での学びを重ね、2013年には東京カメラ部10選に選出。その後、BS朝日『The Photographers 3』への出演をきっかけに写真家としての活動を本格的にスタートしました。八木さんが写真に惹かれた背景には、幼い頃から抱いていた「自分が見ている世界を人と共有したい」という想いがあります。その原点から、風景の中に「自分なりの主役」を見つける現在の撮影スタイル、そして写真を通して伝えたいことまで、風景写真の魅力についてお話を伺いました。

写真家・八木千賀子氏

■写真家:八木千賀子
愛知県出身。幼い頃より自然に惹かれカメラと出会う。隻眼の自分自身と一眼レフに共通点を見いだし風景写真家を志す。辰野清氏に師事し2016年に【The Photographers3 (BS 朝日)】出演をきっかけに風景写真家として歩み始める。カメラ雑誌、書籍など執筆や講師として活動。
HP:https://www.chikakoyagi.com/

写真との出会い

– 八木さんがカメラを始めたきっかけを教えてください。

一番最初にカメラに触れたのは、2~3歳の頃だったと思います。実家に両親が持っていたフィルムカメラがあって、それを持って遊んでいたようです。自分で撮った写真も残してくれていて、庭に片方ずつ違う靴を並べて撮った写真などが今でも残っています(笑)。本格的に写真に興味を持つようになったのは中学生から高校生くらいです。当時はカメラが欲しくて、ずっとカタログを眺めていました。高校生の頃にキヤノンのコンパクトフィルムカメラ「IXY」を買ってもらい、友人や夕焼け、通学途中の空などを撮るようになりました。愛知県清須市で育ったのですが、家の近所には小さな森や神社があって、トンボを撮ったり、夕焼けを撮ったり。本当に身近な風景ばかりでした。

 

– もともと風景に惹かれていたのでしょうか。

小さい頃から両親に自然のある場所へよく連れて行ってもらっていたので、「きれいな風景を残したい」という気持ちはあったと思います。
それと、私自身、左目が見えないことも写真に惹かれた理由の一つだったのではないかと今は思っています。思春期の頃、「私が片目で見ている世界と、みんなが両目で見ている世界は同じなのだろうか」とずっと考えていました。あるときカメラを見て、「カメラも一つのレンズで世界を見ているんだ」と気づいたんです。写真なら、自分が見ている世界を写して、ほかの人と共有することができる。それが写真に強く惹かれた理由の一つだったと思います。実際に撮った写真を友人に見せて「きれいだね」と言ってもらえたときには、「もしかしたら私が見ている世界と同じなのかもしれない」と思えたことを覚えています。

身近な風景から、風景写真の世界へ

– その後、本格的に風景写真を撮るようになったのはいつ頃でしょうか。

デジタル一眼カメラを使うようになってから、少しずつ撮影の幅が広がっていきました。最初はレンズキットで撮っていて、次に50mmの単焦点レンズを買ってボケの美しさを知り、そこからマクロレンズ、空を撮りたくて広角レンズというように、少しずつ増えていきました。それでも最初は本当に家の近所ばかりです。マクロレンズでクモの巣に当たる光を撮ったり、身近な自然を撮ったりしていました。

その頃からホームページやブログも始めて、撮った写真を掲載するようになりました。見てくれた方からコメントをもらえるようになったことも、写真を続けていくきっかけになったと思います。インターネットが広がっていく中で、いろいろな人の作品を見る機会も増え、「こんな場所で写真が撮れるんだ」と撮影地を知るようになりました。

 

– 撮影する場所も少しずつ広がっていったのですね。

両親と出かけることも多く、夜中の2時、3時に起こされて、朝には長野県と岐阜県にまたがる乗鞍岳周辺に着いているような旅行もありました(笑)。そこで雄大な風景を見るうちに、「こういう景色をもっと撮りたい」と思うようになりました。

その後、愛知県の写真サークルに参加するようになったことも大きかったです。そこでいろいろな場所へ連れて行ってもらい、撮影について教えてもらったり、ほかの人の写真を見たりするようになりました。そこで雑誌『風景写真』の存在も教えてもらいました。それまで私がイメージしていた風景写真は、ぱっと見て「すごい」と感じる雄大な景色が中心だったのですが、誌面にはもっと哲学的というか、風景を深く見つめた作品がたくさんありました。中でも辰野清先生の作品を見て「こういう世界を撮ってみたい」と思い、名古屋の写真教室「自然奏」に入ったんです。そこから一気に風景写真にのめり込んでいきました。

「きれいだから撮る」から、「主役を見つける」へ

– 辰野清先生から学んだことで、撮影はどのように変わりましたか。

それまでは「きれいだから撮る」という感覚が強かったと思います。きれいな空があれば撮る、きれいな風景があればそのまま撮るという感じでした。自然奏に入ってから、目の前にあるものをただ撮るのではなく、「この風景の中で自分は何を主役にしたいのか」を考えるようになりました。その主役を生かすために、前ボケを使ったり、構図を考えたり、レンズを変えたりする。そうやって一枚の中に物語を作っていくことを学びました。月例会では一人2作品を持ち寄り、全員の作品を辰野先生が講評していました。100点ほどの作品とその講評をずっと見ているだけでも、「こういう視点があるんだ」と、とても勉強になりましたね。

 

– 今の撮影でも「主役を見つける」ことを意識されていますか。

今もすごく意識しています。有名な撮影地に初めて行くと、どうしても最初はどこかで見たことのある写真を撮ってしまうんです。私自身、今でもそうです(笑)。でも定番の写真をある程度撮った後に、「ここから自分なりに何か見つけるとしたら何だろう」と考えるようにしています。それは光かもしれないし、色かもしれない。小さな被写体かもしれません。広い風景の中から、自分の心が惹かれたものを見つけて、それをどう生かすのかを考えます。「自分は何に心を惹かれたのか」を言葉にできるように意識しながら撮影しています。同じ撮影地でも、1回目はどうしても「撮らされている」感覚があります。2回、3回と通うことで、ようやく自分なりの写真が見えてくることも多いですね。

八丈島との出会い、そして写真が仕事へ

– 八丈島にも長く通われていますが、きっかけは何だったのでしょうか。

30歳くらいの頃に、友人を訪ねて八丈島へ行ったのが最初です。お正月に1週間ほど友人の家に居候しながら写真を撮り、その写真をブログに掲載していました。するとブログを見た観光協会の方から声をかけていただき、ホテルの撮影につながる方を紹介していただいたんです。最初に八丈島へ行ってから2~3カ月後には「撮影に来てください」と声をかけていただきました。それが、写真でお金をいただいた最初の仕事に近かったと思います。その後も八丈島には定期的に通っていて、今でも大切な撮影地の一つです。

 

– 写真家としての活動が大きく動き始めたのはいつ頃ですか。

2013年に東京カメラ部10選に選んでいただいたことが、一つの大きなきっかけになりました。それを機に東京カメラ部さん経由で仕事をいただくことも増えていきました。その頃は会社員としてインターネットの着物店で働きながら撮影を続けていました。10年ほど勤務して、「そろそろ辞めて次に何をしようかな」と考えていたタイミングで、BS朝日の『The Photographers 3』に出演することになったんです。

 

– その番組出演が写真家になるきっかけだったそうですね。

そうなんです(笑)。もともと会社を辞めること自体は決めていたのですが、写真家になろうと決めていたわけではありませんでした。次の仕事をどうしようかな、くらいに考えていました。番組の密着取材の中で、ディレクターさんから「では会社を辞めて写真家になる、という流れにしましょう」と言われて(笑)。それがきっかけで、「じゃあ、やってみよう」と気持ちが固まりました。実は大学生の頃にも写真家になりたいという気持ちはあったのですが、どうすれば写真家になれるのか分からなかったんです。だから番組への出演は、背中を押してもらった出来事だったと思います。あれがなかったら、今も普通に仕事をしながら趣味で写真を撮っていたかもしれません。

写真家として歩み始めた年は、テレビ出演の影響もあり、いくつかの企業様から撮影の仕事を頂きましたが、その状況がずっと続いたわけではなく、翌年になると仕事が大きく減ってしまいました。その後は八丈島でアルバイトをしながら撮影していた時期もありました。それでも観光関係の方々や東京カメラ部さん、雑誌社さんなどに自分から声をかけながら、少しずつ仕事につなげていきました。

「光」を通して、自分が見ている世界を写す

– 写真を撮るうえで、大切にされているものを教えてください。

一番大切にしているのは「光」です。初めて個展を開催したときも「光を見つめて」というテーマにしました。私は片目が見えないので、立体感や距離感を捉えるとき、無意識に光と影を強く意識しているのではないかと思っています。光と影によってものの形や距離を感じ取っているからこそ、ほかの人より少し光に敏感なのかもしれません。もちろん、写真そのものが光を写すものではあるのですが、私自身の作品でも常に光を意識しています。思春期の頃にずっと考えていた「自分が見ている世界と、ほかの人が見ている世界はどう違うのだろう」という疑問も、今思えば光につながっていたのかもしれません。写真を通して自分の見ている世界を見てもらう。その原点は、今も変わっていないように思います。

 

– 写真以外のものから影響を受けることはありますか。

小さい頃から絵を見ることが好きで、祖母に美術館へ連れて行ってもらったり、父が持っていた東山魁夷さんの画集を見たりしていました。
今でも美術館へ行って、写真だけでなく絵画などを見るようにしています。写真は目の前にあるものを切り取りますが、絵画などは自分で世界そのものを作ることができます。その中の色の組み合わせや光と影、構図などから学べることは多いと思っています。辰野先生も東山魁夷さんがお好きで、「作品を見るといいよ」と言ってくださったことがあります。そういった写真以外の表現から刺激を受けることも大切にしています。

心に残る一枚『ぜんぶ混ざって、ぜんぶきれい。』

– ご自身の作品の中で、特に印象に残っている一枚を教えてください。

最近の作品では、長野県駒ヶ根市で桜とミツバツツジを撮影した一枚が印象に残っています。

『ぜんぶ混ざって、ぜんぶきれい。』

水面に桜の花びらが流れていて、ちょうどきれいなS字を描いてくれました。本当に何枚も撮ったのですが、この流れになったのは一枚だけでした。夕焼けのようにも見えるのですが、実はライトアップの光です。太陽が沈んだ後で、空の光がまだ少し残っている時間帯に長秒露光で撮影しました。この作品には「ぜんぶ混ざって、ぜんぶきれい。」というタイトルをつけました。写真は「余計なものを省いていく」と言われることもありますが、この写真には桜やミツバツツジ、水面への反射、流れる花びら、さまざまな光や色があります。いろいろなものが混ざり合っていても、それでも一つの美しい風景として成立する。そのようなものを表現できたらと思っています。見る人によって、どこに目が行くのかも変わる一枚なのかもしれません。

風景写真をこれから始める方へ

– 最後に、これから風景写真を始める方へメッセージをお願いします。

風景写真というと、「絶景や有名な撮影地へ行かなければ撮れない」と思っている方もいるかもしれません。でも、そんなことはありません。自分の身近なところにも、気になるものを見つけて、それをきちんと主役にしてあげれば風景写真になります。近所を歩いていて少しでも気になるものがあったら、まず立ち止まってみる。そして「これをどうしたら主役にできるだろう」と考えてみてください。光なのか、形なのか、色なのか。自分が気になったのであれば、まずその気持ちを大切にして、それが一番生きる構図やアングル、レンズを考えてみる。

そうすると写真を見た人にも、「この人はこれを伝えたかったんだ」ということが少しずつ伝わるようになると思います。一度行っただけでは見つからないこともあります。気になる場所だったら、2回、3回と通ってみる。時間や季節が変わることで、初めて自分なりのものを見つけられることもあります。風景写真は絶景だけではなく、本当に身近なところにもあります。自分なりの主役を見つけ、それを写真に残す。そして、自分が見た世界や伝えたい世界を、写真を通して誰かと共有する。カメラにはそれができます。ぜひ、自分が見つけた世界を写真に残していく楽しさを味わっていただけたらと思います。

八木千賀子 写真展『ひかりといろを』2026年10月29日~11月17日@松本・並柳店

本インタビューに応えて頂いた写真家・八木千賀子さんの写真展『ひかりといろを』を2026年10月29日~11月17日の期間にカメラのキタムラ松本・並柳店で開催します。お近くにお越しの際は是非お立ち寄りください。

・名称:『ひかりといろを』
・日程:2026年10月29日(木)~11月17日(火)
・時間:10:00~19:00 ※最終日11月17日は15:00迄
・会場:カメラのキタムラ松本・並柳店 [ ホームページ ]
・住所:長野県松本市出川3丁目5-16 [ 地図 ]
    「南松本駅」から車で7分
・費用:入場料無料
・展示:A2サイズの作品10点

・ギャラリートーク:2026年11月1日(日)14時~15時

■八木千賀子氏プロフィール
愛知県出身。幼い頃より自然に惹かれカメラと出会う。隻眼の自分自身と一眼レフに共通点を見いだし風景写真家を志す。辰野清氏に師事し2016年に【The Photographers3 (BS 朝日)】出演をきっかけに風景写真家として歩み始める。カメラ雑誌、書籍など執筆や講師として活動。
HP:https://www.chikakoyagi.com/

 

 

 

 

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