紅葉をただ撮るのはもったいない。魅せる4つの視点|八木千賀子

八木千賀子
紅葉をただ撮るのはもったいない。魅せる4つの視点|八木千賀子

はじめに

SNSで流れてくる、美しく鮮やかな紅葉の写真。思わず見とれてしまうけれど、「自分にはこんなふうに撮れない」と感じていませんか?
でも実は、紅葉の魅力に気づく視点さえあれば、特別な場所や高価な機材がなくても、写真はぐっと変わります。
足元の落ち葉、ふと見上げた枝先、通い慣れた道沿いの並木。
まずは一度、カメラを持たずに紅葉を“見る”ことからはじめてみてください。

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-70mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 70mm 絞り優先AE(F 11、1/50 秒、± 0 EV) ISO 100 日陰

コツその1:「逆光と順光、紅葉を撮るならどっち?」

紅葉を撮影するとき、まず意識したいのが「光の向き」です。カメラをなんとなく構えただけでは、葉の色がうまく出なかったり、全体が平坦に見えてしまったりと、思ったような仕上がりにならないことがあります。
せっかく鮮やかな景色でも、「写真にすると地味に見える」と感じる原因の多くは、光の方向によるものです。よく「紅葉は逆光が映える」と言われることもありますが、実際には“逆光”と“順光”それぞれに得意な見せ方があり、シーンに応じた使い分けがポイントになります。

逆光の良さは「透ける葉の美しさ」

逆光は、太陽の光が被写体の背後から差し込む状態を指します。紅葉に逆光が当たると、葉の色が内側から光を受けて鮮やかに際立ち、葉脈やグラデーションの細かな描写が際立つようになります。肉眼では気づかなかった繊細な色や質感に、レンズ越しで初めて気づくこともあります。
特におすすめなのは、朝や夕方のやわらかい光の時間帯です。日中の強い光よりもコントラストが抑えられ、葉の透け感や全体の雰囲気がやさしく写し出されます。背景に太陽の光を入れる構図では、自然と玉ボケが生まれ、印象的な表現につながります。

撮影時は露出オーバーに注意が必要です。白飛びを防ぐために、ややマイナス補正をかけると色の深みが出やすくなります。また、撮る位置や角度をこまめに変えながら、“葉がどう光を受けているか”を観察することで、逆光の魅力を最大限に引き出せます。

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 182mm 絞り優先AE(F 4、1/125 秒、- 0.33 EV) ISO 320 日陰

おすすめシーン
• 葉のアップや1本の枝を主役にしたいとき
• 色のにじみや透明感を表現したいとき
• 玉ボケや光の演出を楽しみたいとき

順光の良さは「鮮やかな発色と安定感」

順光とは、太陽の光が自分の背中側から被写体に当たっている状態です。紅葉の葉や風景に均一に光が届くため、色の再現性が高く、全体が明るくクリアに仕上がります。逆光のようなドラマチックさはないものの、葉の色や模様を正確に見せたいとき、風景全体を明瞭に写したいときには、順光の安定感が大きな武器になります。

特に広がりのある風景を撮影する場面では順光が適しており、木々の色の差や遠くの山の稜線までシャープに描写できます。空の青もしっかりと再現されるため、紅葉とのコントラストを活かした構図をつくるときにも有効です。
構図を考える際は、紅葉を引き立てる背景選びにも注意が必要です。順光は細部までくっきり写るぶん、フレーム内の整理が写真全体の印象を大きく左右します。

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-70mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 39mm 絞り優先AE(F 9.0、1/100 秒、- 0.67 EV) ISO 200 太陽光

おすすめシーン
• 広い風景、紅葉の名所、山全体を写すとき
• 青空とのコントラストを活かしたいとき
• 紅葉の発色を鮮やかに見せたいとき

逆光か順光か、迷ったら「自分の影」を見てみる
• 影が自分の前に伸びている → 逆光
• 影が自分の背後にある → 順光
太陽と自分の位置関係を見るだけで、光の向きが簡単にわかります。

コツその2:「視線をずらせば、紅葉はもっと見えてくる」

カメラを構えると、つい自分の目の高さからそのまま撮ってしまいがちですが、視点を少し変えるだけで紅葉の表情はぐっと豊かになります。しゃがんで足元を見たり、水たまりや川面に映る紅葉を探したり、逆光の葉を透かして見上げたりすることで、いつもとは違う構図や光の入り方に出会えます。
木の下に入り込んで、頭上に広がる枝を見上げるのもひとつの方法です。高さや角度を変えることで、普段は見過ごしていた紅葉の一瞬に気づくことができるはずです。

「どこにでもある風景」の中で、「あ、これを撮りたい」と思える構図を見つけたときの感覚は、“いい写真が撮れた”というより、“いい景色に気づけた”という喜びに近いかもしれません。撮るために見るのではなく、見るからこそ撮りたくなる。そんな一枚が残せるようになります。

しゃがんで見つける、足元の紅葉

紅葉というと、つい木の上や空に目が行きがちですが、視線を足元に落とすだけで、まったく違った秋の景色に出会えることがあります。石畳に積もった落ち葉、苔の上にそっと乗った赤い葉、風に舞って偶然重なった葉の形など、どれも枝についていたときにはなかった“静けさ”や“余韻”をまとっています。
特に朝露が残る朝や雨上がりの日には、葉がしっとりと湿り、柔らかい光を反射して落ち着いた光沢が生まれます。紅葉の“色”というより、“質感”や“空気感”で季節を伝えるような一枚に仕上げられるのが、このタイミングならではの魅力です。

しゃがんでローアングルから狙うことで、落ち葉の重なりに奥行きが生まれ、背景に玉ボケが入ったり、光とのコントラストが強調されたりと、表現の幅が広がります。
静かな季節の美しさを見つけたいとき、足元は思いがけない被写体の宝庫です。視点を少し落とすだけで、秋はすぐそばに写真になってくれます。

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF135mm F1.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 135mm 絞り優先AE(F 4.0、1/320 秒、+ 0.67 EV) ISO 100 太陽光

水たまりの中に、秋が映っている

紅葉は、目の前にあるものだけとは限りません。水たまりや窓、地面のガラスのような反射面には、もうひとつの紅葉がひっそりと隠れていることがあります。
落ち葉が浮かぶ水面に空と木が反射して、まるで上下が反転した世界のように映り込む瞬間があります。実物よりも幻想的で、静かで、詩的な秋の風景が見えてくる場面です。

また、ベンチや枝の影が落ち葉と重なってできる模様も、よく見るとまるで絵のような構図になることがあります。「実物を写す」のではなく、「そこにある雰囲気を写す」。そんな写真が撮れるのも、この視点ならではの面白さです。
影を主役にする構図も効果的です。自分の影と紅葉の影が交差する瞬間や、木漏れ日が作る模様を捉えることで、写真にリズムや奥行きが生まれます。水面も、影も、ガラスも。“何かを映す場所”には、現実とは少し違う紅葉の姿が潜んでいます。

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF85mm F1.2 L USM DS
■撮影環境:焦点距離 85mm 絞り優先AE(F 2、1/320 秒、- 1 EV) ISO 100 太陽光

コツその3:「引くより寄ると、紅葉の表情が見えてくる」

紅葉の写真というと、つい広い景色を引きで撮ってしまいがちですが、一面に色づいた風景が美しい一方で、主役がぼやけてしまうこともあります。そんなときは、もう少し近づいて、一枚の葉や一本の枝に視線を向けてみてください。

形が少し変わっている葉、赤と黄が混ざり合った自然のグラデーション、虫に食べられた跡が模様のように見える葉など、寄ってみることで見えてくる表情があります。小さな“違い”に気づけるようになると、写真を撮る楽しさもぐっと広がります。
被写体に近づくと、背景が柔らかくぼけて、主役の葉の存在感が際立ちます。一枚の葉に気持ちを向けて撮るだけで、“自分だけの紅葉”を写し出せるはずです。

風景全体より、1本の枝、1枚の葉を撮る視点

紅葉の名所に行くと、つい広い風景を一枚に収めたくなります。もちろんそれも秋らしくて魅力的ですが、たくさんの葉を一度に写すと主役がぼやけてしまうこともあります。そんなときは、思いきって視点をしぼり、1本の枝や1枚の葉にぐっと寄ってみてください。
近づいて撮ることで、「どの葉を写すか」「どこを切り取るか」を自然と考えるようになります。この“選ぶ視点”こそが、風景の中から“自分の紅葉”を見つける第一歩になります。

構図の中で主役を決めると、まわりの色や光もその主役を引き立てる要素として見えてきます。「何を伝えたいか」が明確になることで、写真にも説得力が生まれてきます。
たくさん写っているのに印象に残らない写真よりも、たった1枚の葉に季節を感じられる写真のほうが、見る人の心に残ることもあります。視点をしぼることで、シャッターを切る意味そのものが少し変わってくるはずです。

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM Z
■撮影環境:焦点距離 70mm 絞り優先AE(F 2.8、1/160 秒、+ 2.33 EV) ISO 100 日陰

ヒント:1枚の葉を主役にする構図アイデア

• 明るい背景に浮かぶ1枚の葉(逆光を活かす)
• 枝の先端にだけ色づいた葉をクローズアップ
• 被写界深度を浅くして、ボケを活かす構図
• 背景に同系色を選び、主役の葉を際立たせる
形の美しさ、葉脈の模様、落ち葉さえも、主役として切り取れば、1枚の作品になります。

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF100mm F2.8 L MACRO IS USM
■撮影環境:焦点距離 100mm 絞り優先AE(F 2.8、1/320 秒、- 0.3 EV) ISO 100 日陰

コツその4:「移ろう色が、秋をつくる」

紅葉というと、つい「鮮やかな赤」を探してしまいがちですが、実は赤だけではなく、緑から黄色、黄色から赤へと変わっていく“色の変化”こそが、秋の深まりを感じさせてくれることがあります。

端から少しずつ褪せていく乾いたような色味や、赤・黄・オレンジが混ざり合ったグラデーションのある葉など、鮮やかさの中ににじむような移ろいに目を向けてみると、その日、その瞬間だけの空気感が写せることもあります。
色のコントラストを強調するよりも、あえて控えめな色合いや、同系色で構成された構図を探すことで、より繊細な秋の表情が見えてきます。
主役の色を決めるのではなく、どんなふうに色が並んでいるかを意識してみると、写真の中に自然なリズムや奥行きが生まれます。
鮮やかすぎない色、強く主張しない色──そういった“静かな紅葉”もまた、秋を伝える大切な要素です。

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF85mm F1.2 L USM DS
■撮影環境:焦点距離 85mm 絞り優先AE(F 2.0、1/250 秒、- 1 EV) ISO 100 日陰

写真のヒント

• 色づき途中の葉(グラデーション入り)
• 葉の端だけ色が変化しているもの
• 茶・黄・緑が混ざった林や木々
• 色が淡く、光と馴染んでいる構図

■撮影機材:Canon EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM Z
■撮影環境:焦点距離 200mm 絞り優先AE(F 3.5、1/500 秒、- 0.67 EV) ISO 160 太陽光

まとめ

鮮やかな紅葉の写真を見ると、「自分には難しそう」と感じることがあるかもしれません。
でも実際は、印象的な一枚を撮るために、特別な場所や高価な機材が必要なわけではありません。 紅葉を“きれいに撮る”のではなく、“どう感じたかを伝える”ように写すことで、写真はもっと自分らしくなっていきます。
順光で色を素直に見せる。逆光で葉の透明感を際立たせる。足元の落ち葉や、水面の映り込みに目を向ける。 大切なのは、構図や設定以上に、「どこに心が動いたか」ということ。

紅葉の季節には、ぜひ歩くペースを少しだけゆるめてみてください。その道ばたの風景が、ふと写真になる瞬間が、きっとあるはずです。

 

 

■写真家:八木千賀子
愛知県出身。幼い頃より自然に惹かれカメラと出会う。隻眼の自分自身と一眼レフに共通点を見いだし風景写真家を志す。辰野清氏に師事し2016年に【The Photographers3 (BS 朝日)】出演をきっかけに風景写真家として歩み始める。カメラ雑誌、書籍など執筆や講師として活動。

 

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