キヤノン EOS R5 Mark II |先代からどれくらいの進化を遂げたのか?ヒコーキ撮影でガッツリ検証
はじめに
キヤノン社の高画素フルサイズセンサー搭載シリーズ「5」の最新版として、2024年8月に発売されたのがEOS R5 Mark II。先代EOS R5の発売から約4年が経ち、どれくらいの進化を遂げたのか?さっそくヒコーキ撮影の現場に持ち出し作品を撮影してみました。高画素機を動きモノかつ手持ち撮影の多いヒコーキ撮影に用いるのは、ブレが目立ちやすいなどややピーキーなのでは?と思われるかもしれませんが、高画素機によるキマった時の機体ディテール部分の解像感や階調の豊かさなどは、一度でも体感するとやみつきになるレベル。旅客機は基本的に戦闘機や野鳥に比べて的が大きく、スピードや機動もそれほどクイックではないため、高画素機であっても十分に実用可能です。
外観と操作性
EOS R5 Mark IIの大きさは138.5(幅)×101.2(高さ)×93.5(奥行)mm。先代EOS R5と比べてEVFが大きくなった分、ペンタ部分が盛り上がった印象です。重さはほとんど変わらず、ドッシリとしていて先代同様に大きな望遠レンズを装着してもバランスが良く握りやすいのが特徴。ボタン配置がカメラの右手側に集中していて、左手側には静止画と動画の切り替えボタンが配置されるのみとなっています。これにより右手側のワンハンドで操作を完了できることが多くなり、操作性が向上したと言っても過言ではありません。とっさの操作の多いヒコーキ撮影など動体撮影では、先代に比べて便利に感じました。
最近のRFシステムのカメラにはホットシューカバーが付属するカメラも少なくありませんが、EOS R5 Mark IIにはロック機構付きのホットシューカバーが付属。取り外しや取り付けにやや慣れを必要としますが、不意に外れて紛失することは少なくなりそうです。付属するバッテリーが先代よりLP-E6Pに変更されました。以前のLP-E6NHやLP-E6Nも使用可能ですが、プリ連写が使用できないなど機能制限がかかることがあるほか、LP-E6は使用ができないので注意が必要です。
画質性能1
センサーは新開発の有効画素数最大約4500万画素のフルサイズCMOSセンサーを搭載。先代から画素数に変更はありませんが、新たに裏面照射積層型となりました。先代と同様に機体のディテール部分の解像感や階調部分の豊かさなど満足度が高く、機体に寄った画では小さな文字までクッキリと描写され、雄大な風景にワンポイントで機体を置く画では鮮やかな色彩や緻密な解像性能を感じることが可能。レンズの性能をフルに引き出してくれるセンサーです。
EOS R5 Mark IIには映像エンジンDIGIC Xに加えて、もうひとつの映像エンジンDIGIC Acceletorが搭載されています。これにより、カメラ内アップスケーリングが可能となり、約4500万画素のJPEG/HEIF画像を約1億7900万画素相当の画像として用いることができます。アップスケーリングはIBIS(ボディ内手ブレ補正機構)を用いたマルチショット、ピクセルシフトのハイレゾとは原理が違い、一枚の画像から超高画素画像を生成します。撮影した画像をカメラ内で後ほどアップスケーリングするのにも、それほど時間はかかりません。とくに機体に寄った画などは、ディテール部分の描写力が問われるヒコーキ撮影ですから、これは嬉しい機能。大判出力することが多いという方にもオススメです。
ノーマルの有効画素数約4500万画素のJPEG画像でもかなり解像されているが、アップスケーリングされた約1億7900万画素のJPEG画像ではさらに細かい文字まで解読可能。さらに解像感がアップしている。
画質性能2
常用最高ISO感度は静止画で51200、動画で25600。先代同様、ノイズを上手く抑えつつディテールも残している印象ですが、やはり高画素機であるがゆえ2400万画素などR5 Mark IIより画素数の少ないセンサーに比べると不利な印象も否めません。そこでR5 Mark IIに搭載された機能がニューラルネットワークノイズ低減。こちらも映像エンジンDIGIC Acceletorが可能にした機能ですが、高感度域を使用した画像でもかなりキレイに仕上げてくれます。効果は弱め、標準、強めと選択可能。効果弱めだとノイズの減少量は少なめですが、機体のディテールなどは保持されている印象で、強めは逆にノイズはかなり目立たなくなりますが、機体のディテールがやや甘くなる印象です。ただ、ノイズ低減をしていない元の高感度画像に比べると、相当な効果が確認可能。今までキレイに残すことが難しかった超高感度域を使用するシーンも、この機能によりだいぶ救われそうだと感じました。
拡大部分を見ると効果ナシではそれなりにノイズを認めるが、強めとなるとノイズ量がかなり減っており効果の大きさがわかる。垂直尾翼部分のディテールもそれほど損なわれていない。
AF性能1
先代に比べ最も進化を感じたのがオートフォーカス(以下AF)。合焦の素早さや正確性、追従性が進化したほか、視線入力AFや被写体認識AFの種類の増加など、合焦に至るまでのアプローチに多くの選択肢が用意されました。中でもEOS R6 Mark IIから装備された被写体認識「飛行機」の威力は凄まじく、以前は難しかった画が簡単に撮れるようになったり、置きピンを使う機会が減り機体への合焦の正確性が格段にアップしました。撮り方そのものを変えるAFモードと言っても過言ではありません。日中の撮影では検出する被写体を「乗り物」にし、AFエリアを「全域AF」にしたまま撮影することが多くなりました。AFはカメラ任せにして、よりフレーミングに集中できるようになったため、歩留まりも格段に良化しています。
AF性能2
合焦へのアプローチは色々と用意されており、RFシステムのカメラとしてはEOS R3に続き視線入力AFを採用。ただ、ヒコーキ撮影においては被写体認識「飛行機」がかなり優秀なため、筆者は使用機会がほとんど無いのが実情です。登場人物優先AFは、人の多い機内で特定のスタッフを撮影する時など非常に便利。特定の人物をカメラに10人まで登録できるのですが、これにより登録された人物を優先的に検出、トラッキングするようになります。視線入力AFもそうですが、飛行機撮影以外にスポーツの撮影などされる方にオススメ。団体競技で大勢が行き交う中での特定人物への正確なピント合わせなど、今まで難しかったことがより簡単にできるようになっています。
連写
対応レンズなど諸条件はありますが、連写性能はメカシャッター、電子先幕使用時が最高約12コマ/秒。電子シャッター使用時は最高約30コマ/秒となっています。メカシャッター、電子先幕使用時のコマ数は先代と変わりませんが、積層型センサーになったことで読み出し速度が向上。電子シャッター使用時は先代に比べて20コマ/秒→30コマ/秒と10コマ増加しました。また、これによりローリングシャッター歪みが先代に比べて改善。先代では動くヒコーキを、レンズを振りつつ追いかけて撮影する際にほとんど使用しなかった電子シャッターですが、R5 Mark IIではこれらを含め電子シャッターの使用比率が大幅にアップしました。
EOS R7などではRAWバーストと呼ばれたプリ連写機能も装備。シャッターボタンを押しこむ約0.5秒前から画像を記録してくれるという機能ですが、またとない瞬間を切り取る際に多用しました。例えばシルエットの機影が闇夜の月に刺さるシーン。ミラーレスカメラでは、EVFで機影が刺さったのを確認してからシャッターボタンを押していたのでは間に合わないことも少なくないのですが、機影が思った通りの位置にある一枚をチョイスできるようになりました。ヒコーキ撮影においては、雷のシーンなどは光ってから押しても間に合うことが増えましたし、エンジン内部が赤く燃える瞬間や離陸機などがヴェイパーを豪快に翼の上に発生させるシーンなども、最も盛り上がったところを切り取りやすくなりました。これも、今まで難しかったシーンをより簡単に切り取りやすくしてくれる機能です。
手ブレ補正
手持ち撮影の多いヒコーキ撮影においては手ぶれ補正効果も重要視されますが、EOS R5 Mark IIではボディー内5軸手ぶれ補正機構を搭載。手ぶれ補正機構を搭載したRFレンズとの組み合わせでは、カメラとレンズの協調補正により最大約8.5段(中央)の手ぶれ補正効果を発揮します。ちなみに先代は最大約8段の効果。静止画でもその効果を感じることが可能ですが、動画の歩き撮りなどでその効果の大きさをより感じることができます。
まとめ
EOS R5 Mark IIは先代と比較して着実な進歩を遂げました。先代で定評のあった高画素機ならではの画質の美しさはそのままに、新たな映像エンジンDIGIC Acceletorによるアップスケーリングやニューラルネットワークノイズ低減などで最終的な撮影結果を大幅にブラッシュアップすることができます。積層型センサーの採用により、さらなる高速化や信頼性の向上を実現。AF性能、連写性能が先代に比べ大幅に進化したため、ヒコーキ撮影を含めた動く被写体への対応力が格段にアップしています。EOS 5D Mark IIが一眼動画のゲームチェンジャーとなったことから、キヤノン社の「5」といえば動画という方も少なくありませんが、RAWで8K60p撮影ができるなど動画性能も大幅に進化。静止画も動画も高画質で残したいという方に嬉しいカメラです。以前はキレイに切り撮ることが難しかった一瞬を誰でもよりイージーに……。キヤノン社のカメラ「らしさ」を存分に体感することができました。
■写真家:A☆50/Akira Igarashi
またとない一瞬を追い求め全国の空港を放浪する瞬撮系航空写真家。幼少の頃より山下清画伯に憧れる。雑誌、WEBなど各種メディアに出演、作品を提供するかたわら大手航空会社やカメラメーカーなどの公式カレンダーやオフィシャル撮影を担当。公益社団法人 日本写真家協会会員。