【フイルムカメラ】おしゃれな縦型デザインのハーフサイズフイルムカメラ「ヤシカ ラピード」

坂井田富三
【フイルムカメラ】おしゃれな縦型デザインのハーフサイズフイルムカメラ「ヤシカ ラピード」

はじめに

今回セレクトしたカメラは、1961年に発売されたハーフサイズのフイルムカメラ「ヤシカ ラピード」です。当時大ヒットした「オリンパス ペン」(1959年発売)に対抗して作られたと言われているカメラです。

カメラは独特な縦型のデザインで、縦型にカメラを構えることでハーフサイズカメラでありながら、フルサイズカメラと同様な横位置写真を撮れるようになっているのが大きな特徴になっています。少し不思議な感じのデザイン「ヤシカ ラピード」の魅力と写りをご紹介します。

ヤシカ ラピードの魅力と特徴

筆者がこのカメラに魅せられたのは独特のデザインにあります。「ヤシカ ラピード」の取扱説明書の最初のページには、「ポケット用ラジオに似た可愛らしさと、メカニックな感じを持ったデザイン、スケッチでもするように気軽に写せるカメラ・・・」と紹介されています。 可愛らしさを感じるかというと少々違うような感じもしますが、メカニカルなデザインはとても魅力的に感じるポイントです。

扱いやすさという点においては、残念ながらライバルとして想定されていた「オリンパス ペン」には及ばないと感じています。そういった事もあり、現在の中古市場で「オリンパス ペン」シリーズを多く見かける事ができますが、「ヤシカ ラピード」を見かけることはなかなかありません。そして程度の良いものを見つけるのも少々難しい状態です。

裏ブタを開けたカメラ内部。フイルムに露光する面積は35mm判の半分。
カメラの下部にあるストラップを引っ張ることでフイルムを巻き上げます。

「ヤシカ ラピード」はフイルムが縦送りのハーフサイズのカメラです。昨今フイルムの値段も高騰しており、ハーフサイズのカメラはフルサイズと比べて2倍の枚数を撮影できるので、コストパフォーマンスが高い点も魅力のポイントになります。ただ「ヤシカ ラピード」は、この点については少し注意が必要になってきます。

撮影した枚数を表示する「フイルム枚数計」は、0~37枚まで黒色、38~64枚まで緑色、65枚以降は赤色と色分けされていますが、取扱説明書には、「20枚撮りフイルムを使用した場合は37枚まで撮影でき、36枚撮りのフイルムを使用した場合は65枚以降の赤色まで撮影できます」と記載されています。

この説明からフルサイズの2倍の枚数は撮影できない事がわかります。この要因は、フルサイズ巻き上げ部にスプロケットギアがなく、太目の巻き取り軸にフイルムを巻いていくために、撮影枚数が進んでいくほどコマの間隔が少し広がる現象が発生します。そのため単純に2倍の枚数は撮れないという欠点を持っています。

ヤシカ ラピードの基本スペックと操作方法

「ヤシカ ラピード」の基本スペック

使用フィルム 35mmフイルム
画面サイズ 24mmx17mm
レンズ ヤシノン 28mm F2.8
シャッター速度 1秒~1/500秒、バルブ、M、X
露出計 セレンメーター
フイルム感度 ASA(ISO) 10~800
ピント合わせ 0.8m~無限
大きさ 幅 68mm X 高さ 130mm X 奥行 50mm
質量 約553g
発売当時の価格 11,800円
発売年 1961年

※カメラの大きさ・重量は筆者機材の実測値になります

ISO(ASA)感度設定は10~800。ファインダー横のダイヤルで設定。
カメラを横位置(この場合ハーフサイズカメラなので、ファインダー内は縦位置構図)に構える方向で見ると、フイルムカウンター、シャッターボタン、フイルム巻き上げストラップが配置される。
反対面には裏ブタ開閉用桿、フイルム巻戻しクランプ、三脚ネジ穴、巻戻し用押しボタンが配置
上部には、露出計受光面(セレン光電池式)とアクセサリーシュー
カメラ前面上部に露出を示すメーター

「ヤシカ ラピード」での撮影の際には、いささか面倒なところがあります。その原因の一つに露出計受光面がカメラの上部にあることが挙げられます。この当時のカメラの多くは、レンズの周りなどのボディ前面に露出計受光面が設定されており、被写体に向いて露出を計る事ができるようになっているのですが、「ヤシカ ラピード」はカメラの上部に配置されているので、露出を計測する際には、カメラ上部の露出計受光面を被写体に向けて、カメラ前面にあるメーターの針が示す露出のLv数を読み取る事が必要になってきます。撮影する際に、ひと手間余分にかかってしまう感じがあります。

実際に撮影する手順としては、
1. フイルムをセットしISO感度を設定する
2. シャッター速度調整ノブを動かして、使いたいシャッター速度を合せ指標▲印に合せる
3. 露出計受光面(カメラ上部)を被写体に向けてメーターの針が指した数字(Lv数)を読み取ります
4. 絞りリングを回してLv目盛り合せ窓の数字を、先ほどの数字(Lv数)に合わせます
5. これでシャッター速度、適正露出にあった絞りが設定されます。
6. 次に距離調整リングを回して、目測でピント合わせをしたらシャッターを切ります
7. フイルム巻上げレバーを引っ張り、次のシャッターをセットします

適正露出を合わせるまでにやや手間がかかるのと、慣れていない人では目測でピントを調整するのが難しいかもしれませんが、少し絞りを絞って被写界深度を深くして撮影した方が失敗は少なくなりそうです。

ヤシカ ラピードでスナップ撮影

■使用機材:ヤシカ ラピード
■撮影環境:シャッター速度1/125 絞りF5.6 焦点距離56mm相当(35mm換算) ISO400
■フイルム:ILFORD XP2 SUPER 400

「ヤシカ ラピード」を持って上野・浅草をぶらぶら歩きながらスナップ撮影をしてみました。使用したフイルムは、感度400の「ILFORD XP2 SUPER 400」。白黒フイルムでありながらC-41プロセスで現像できるので、カメラのキタムラの店舗でカラーフイルムと同等にスピード現像が可能な便利なフイルムです。

カメラのキタムラ店舗で「スピード現像」が可能な白黒フイルム「ILFORD XP2 SUPER 400」

今回このフイルムをセレクトしたのは、スピード仕上げが可能な白黒フイルムという点。そして「ヤシカ ラピード」が発売された1961年の頃、まだカラーフイルムの普及は10%以下で白黒フイルムが一般的な時代であったので、その時代の雰囲気を味わうために「ILFORD XP2 SUPER 400」をセレクトし白黒で撮影をしてみました。また今回の記事に使用する為に、現像後のフイルムはスライドコピアを使用してデジタルカメラで複写したものを使用しています。

現像後のフイルムは、スライドコピアを使用してデジタルカメラで複写

実際に撮影して気にいったシーンを見つけても、設定する項目が多くすぐに撮影する事は難しいので、シャッター速度は1/125秒で固定しながら絞りを設定して、目測で距離を設定するような撮り方をしています。

それでも操作する場所がレンズ周りのダイヤルに集中しているので、合わせる指標を間違えて悪戦苦闘することが多くあり、そういった不自由さも撮影の楽しさとして受け入れる懐の深さが試されるカメラです。

■使用機材:ヤシカ ラピード
■撮影環境:シャッター速度1/125 絞りF8 焦点距離56mm相当(35mm換算) ISO400
■フイルム:ILFORD XP2 SUPER 400
■使用機材:ヤシカ ラピード
■撮影環境:シャッター速度1/125 絞りF4 焦点距離56mm相当(35mm換算) ISO400
■フイルム:ILFORD XP2 SUPER 400
■使用機材:ヤシカ ラピード
■撮影環境:シャッター速度1/125 絞りF8 焦点距離56mm相当(35mm換算) ISO400
■フイルム:ILFORD XP2 SUPER 400
■使用機材:ヤシカ ラピード
■撮影環境:シャッター速度1/125 絞りF8 焦点距離56mm相当(35mm換算) ISO400
■フイルム:ILFORD XP2 SUPER 400
■使用機材:ヤシカ ラピード
■撮影環境:シャッター速度1/125 絞りF4 焦点距離56mm相当(35mm換算) ISO400
■フイルム:ILFORD XP2 SUPER 400
■使用機材:ヤシカ ラピード
■撮影環境:シャッター速度1/125 絞りF5.6 焦点距離56mm相当(35mm換算) ISO400
■フイルム:ILFORD XP2 SUPER 400

撮影したものから何点かピックアップして今回掲載していますが、60年以上経過した年代相応の劣化をしているカメラなので、写りとしてはこのぐらいの程度という感じです。順光で絞りをある程度絞れば、それ相応の写真を撮れる状況ではありますが、さすがに逆光には弱く厳しい結果となりました。

白黒フイルムでレトロな雰囲気の街を撮影することで、現代の風景なのになんか1960年代の風景を撮った写真のように見えるのは不思議な感じがします。

まとめ

「ヤシカ ラピード」は決してキレイに写せるフイルムカメラではありませんが、その独特なデザインは現代では多くの人をひきつけるモノを持っているカメラです。持っている喜びと、コンパクトカメラでありながら一枚一枚様々な設定工程をこなしながら撮影するのは、非常に楽しく感じる事もできます。

筆者の持っている「ヤシカ ラピード」は、撮影稼働できる状態ではありますがファインダーのブライトフレームはかなり見えにくい状態になっていたり、フイルム巻き上げの皮ストラップの劣化があったり、近いうちに切れてしまうのではないかとひやひやしながらフイルムの巻き上げをしています。発売から60年以上経過しているカメラなので、ある程度の劣化は仕方ないにしろこれ以上劣化しないように大切に扱いながら、フイルム撮影を楽しみたいカメラの一つです。

 

 

■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。

・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師

 

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