新世代レンジファインダーレンズの描写に迫る!中国深圳発ニューブランド Thypoch編
はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。
ここ数年中国では、LIGHT LENS LABやTTArtisanといったメーカーを中心にレンジファインダー用レンズ市場は大きな盛り上がりを見せています。クラシックレンズの描写を再評価する流れと、ミラーレス機の高性能化、デジタルライカシリーズの拡充によって、Mマウントレンズの活躍の場が一気に広がったことが背景にあります。
その中でも近年注目を集めているのがThypoch(タイポック)というブランドです。クラシック描写のニュアンスを残しつつ、現代センサーに対応した光学設計を行っている点が特徴であり、多くのレンジファインダーユーザーの関心を集めています。今回は28,35,50mmといった定番ラインに加え、最新リリースとなった広角21mm Ksanaまでその魅力に触れていきたいと思います。
Thypoch SIMERAシリーズ & Ksanaシリーズの描写と特徴

■撮影環境:f1.4 1/5000秒 ISO100 WBオート
今回はThypochが展開する
・SIMERA 28mm F1.4
・SIMERA 35mm F1.4
・SIMERA 50mm F1.4
・Ksana 21mm F3.5
この4本を実際の使用感を交えながらレビューしていきたいと思います。それぞれのレンズがどのような描写特性を持ち、どのような撮影スタイルに向いているのか、デジタルとフィルムの作例を交えながら順番に見ていきましょう。
空気感を自然に切り取る広角大口径:SIMERA 28mm F1.4

SIMERA 28mm F1.4は、シリーズの中でも最も汎用性の高いレンズ。28mmという焦点距離は広角でありながら遠近感が自然で、スナップ撮影において非常に扱いやすい画角です。
開放F1.4では中心部の解像力が非常に高く、周辺部に向かって緩やかに柔らかさが残ります。この特性が被写体の立体感を生み出し、単なるシャープネスの高さのみといった描写とは異なる、奥行きのある表現を作り出します。
最短撮影距離は0.4m、ボケ描写は非常に滑らかで、輪郭が強調されすぎない自然なグラデーションが特徴です。環境ポートレートでは背景を適度に整理しながら、空間の雰囲気を残すことができます。
| 対応マウント | ライカMマウント |
| 対応撮像画面サイズ | 35mmフルサイズ |
| 焦点距離 | 28mm |
| レンズ構成 | 7群11枚(ASPH非球面レンズ1枚、EDレンズ1枚、高屈折レンズ3枚) |
| フォーカス | MF(マニュアルフォーカス)※距離計連動型 |
| 絞り | F1.4-F16 |
| 絞り羽根 | 14枚 |
| 最短撮影距離 | 0.4m |
| フィルター径 | 49mm |
| サイズ | 約Φ59×56mm(マウント部・突起部除く) |
| 質量 | 約326g |

■撮影環境:f1.4 1/25秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f1.4 1/640秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f5.6 1/400秒 ISO100 WBオート

■使用フィルム:FUJIFILM 200

■使用フィルム:FUJIFILM 200
Leica純正に匹敵する完成度の高さ:SIMERA 35mm F1.4

35mmはスナップ撮影における定番焦点距離。本レンズは競合が多い焦点距離にもかかわらず、短い最短撮影距離、軽量、繊細かつ立体的な描写で他社を寄せ付けない非常に高い完成度でまとめ上げています。
描写傾向は極めてニュートラルで、開放ではわずかに柔らかさを残しながらもピント面は高解像。この「柔らかさと解像の共存」は人物撮影で特に効果を発揮すると考えます。F2付近からは周辺画質が安定し、風景撮影でも安心して使用できます。トーン再現も豊かで、ハイライトからシャドウへの階調が非常に滑らか。陰影が多いシーンで活用したいレンズです。
| 対応マウント | ライカMマウント |
| 対応撮像画面サイズ | 35mmフルサイズ |
| 焦点距離 | 35mm |
| レンズ構成 | 5群9枚(ASPH非球面レンズ1枚、高屈折レンズ3枚) |
| フォーカス | MF(マニュアルフォーカス)※距離計連動型 |
| 絞り | F1.4-F16 |
| 絞り羽根 | 14枚 |
| 最短撮影距離 | 0.45m |
| フィルター径 | 49mm |
| サイズ | 約Φ56×51mm(マウント部・突起部除く) |
| 質量 | 約280g |

■撮影環境:f1.4 1/180秒 ISO100 WBオート
■モデル:あまね

■撮影環境:f1.4 1/350秒 ISO100 WBオート
■モデル:あまね

■使用フィルム:Kodak Gold 200

■使用フィルム:Kodak Gold 200

■使用フィルム:Kodak Gold 200
近代レンジファインダー標準レンズの決定版:SIMERA 50mm F1.4

SIMERA 50mm F1.4はシリーズの中でも収差が残る最もクラシックな描写を感じるレンズです。開放付近では球面収差をわずかに残した設計となっており、ピント面から背景への繋がりが非常に自然。ややぐるぐるボケ傾向の描写が見られますが、ポートレートでは被写体の輪郭が柔らかく立ち上がり、空気感を含んだ描写になります。
一方でF5.6~8では解像性能が大きく向上し、風景撮影にも役立ちます。木々などを被写体として撮影することで、印象的な風景写真を撮ることが可能です。一本で表現幅を大きく変えられる点がこのレンズの魅力と言えるでしょう。
| 対応マウント | ライカMマウント |
| 対応撮像画面サイズ | 35mmフルサイズ |
| 焦点距離 | 50mm |
| レンズ構成 | 6群8枚(ASPH非球面レンズ1枚、EDレンズ1枚、高屈折レンズ3枚) |
| フォーカス | MF(マニュアルフォーカス) |
| 絞り | F1.4-F16 |
| 絞り羽根 | 14枚 |
| 最短撮影距離 | 0.45m |
| フィルター径 | 49mm |
| サイズ | 約Φ54×53mm |
| 質量 | 約281g |

■撮影環境:f8 1/250秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f1.4 1/160秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f1.4 1/160秒 ISO125 WBオート

■使用フィルム:FUJIFILM200

■使用フィルム:FUJIFILM200
空間描写に特化した超広角レンズ:Ksana 21mm F3.5

Ksana 21mm F3.5はSIMERAシリーズとは異なる描写思想を持つレンズであり、2026年1月にリリースされた最新のレンズです。21mmという超広角ながら歪曲収差は非常に良く抑えられており、建築物や都市風景との相性に優れています。
開放では周辺光量落ちが比較的強く、自然な視線誘導効果が得られます。また、1970年代の日本製光学レンズに見られた、温かみのある琥珀色のフレアや光のにじみを現代の光学技術で再構築しているとのことで、特に夕暮れの逆光では特徴ある描写を生み出します。順光では非球面レンズによる高解像、逆光では独自開発のコーティングによるレトロな描写と、こちらも2面性が楽しめるレンズ。筆者はカメラの距離計は使わず、距離指標を活用することで無限遠から0.9mほどまでピントの合うお手軽スナップ設定で撮影しています(絞りF8、距離指標値1.5mに設定)。
| 対応マウント | ライカMマウント |
| 対応撮像画面サイズ | 35mmフルサイズ |
| 焦点距離 | 21mm |
| レンズ構成 | 6群8枚(ASPH非球面レンズ1枚、EDレンズ2枚、高屈折レンズ3枚) |
| フォーカス | MF(マニュアルフォーカス)※距離計連動型 |
| 絞り | F3.5-F22 |
| 絞り羽根 | 9枚 |
| 最短撮影距離 | 0.5m |
| フィルター径 | 39mm |
| サイズ | 約Φ57×27mm(マウント部・突起部除く) |
| 質量 | 約130g |

■撮影環境:f8 1/250秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f8 1/250秒 ISO100 WBオート

■撮影環境:f8 1/180秒 ISO100 WBオート
AFアダプター TECHART LM-EA9がもたらす恩恵

描写性能に優れたThypochレンズですが、すべてMFレンズであるため、動体撮影や瞬間的なスナップではピント合わせが難しくなる場面があります。そこで大きな可能性をもたらしてくれるのがTECHARTの電子マウントアダプター「LM-EA9」です。このアダプターはレンズ全体を前後移動させることでオートフォーカスを実現する画期的な製品。SIMERAシリーズは大口径設計のため被写界深度が浅くなりがちですが、LM-EA9を組み合わせることでAF撮影が可能になり、撮影のテンポが大きく向上します。
さらにLM-EA9は繰り出し機構を持つため、最短撮影距離を短縮できる点も大きなメリット。最短撮影距離が長めで寄りが苦手なレンジファインダーレンズでも、ボケを活かした近接撮影が可能になります。レンジファインダー描写とミラーレス機のAF性能を融合できる点は、この組み合わせの最大の魅力と言えるでしょう。
特にα7 Vでは瞳AF、AF-Cによるトラッキングモードもかなり実用的なレベルにまで向上しており、高速に動く被写体でなければ追従時のピント精度もかなり高くなっています。ボディのスペックアップによってより使いやすくなり、一段とおすすめできるAFアダプターとなりました。
まとめ

■撮影環境:f4 1/1000秒 ISO100 WBオート
ThypochのSIMERAシリーズとKsanaシリーズは、クラシックレンジファインダーレンズの魅力を現代的に再構築したレンズ群です。SIMERAシリーズは描写バランスに優れた実用型レンズ、Ksanaシリーズは描写キャラクターを重視した個性派レンズという印象。さらにTECHART LM-EA9と組み合わせることで、MFレンズの魅力を維持しながら現代的な撮影スタイルにも対応可能になります。レンジファインダーレンズに興味を持っている方はもちろん、クラシック描写を求めながらもSONY αシリーズを活用し、実用性を重視した撮影をしたい方にも、非常に魅力的な選択肢になると感じました。
さて、2026年2月26日から始まるCP+2026にて、筆者は2月28日(土)15:30より焦点工房ブースに登壇します。ここでしか語れない最新おすすめオールドレンズの紹介や今回紹介したThypoch SIMERAシリーズ、AFアダプターのより詳細な使用方法、撮影テクニック、現像方法にも触れたいと思いますので、ぜひお越しください!

この記事でレンジファインダーレンズにも興味を持っていただけたのであれば、僕が執筆している「ポートレートのためのオールドレンズ入門」そして「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」に数多くのオールドレンズの作例と詳細な設定等解説を載せておりますのでぜひご覧ください。
また、実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるオールドレンズワークショップ「フランジバック」にもご参加いただければ嬉しいです。では、次の記事でお会いしましょう!
■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。















