写真をもっと愉しむ「個展開催のススメ!」#6 DMとプレスリリース

鶴巻育子
写真をもっと愉しむ「個展開催のススメ!」#6 DMとプレスリリース

はじめに

写真家·鶴巻育子はこれまでに17回個展を開催し、代表を務めるJam Photo Galleryでは6年間で企画展とレンタル併せて100を超える展示に携わってきました。写真家とギャラリスト両者の視点から個展の魅力や成功へのアドバイスをお伝えする連載企画です。

せっかく個展をするなら、できるだけたくさんの人に見てもらいたい。よっぽどの大写真家や大きな展覧会でない限り、情報はなかなか広く行き渡りません。駆け出しの写真家やアマチュア写真家にとって集客は想像以上に苦労するものです。今回は宣伝に欠かせないDMハガキとプレスリリースについてお話ししたいと思います。

DM

あなたが友人以外の写真展に行ってみようと思うときは、どのようなきっかけでしょうか。Webで写真展情報を検索し、インパクトのある写真や興味を持つ内容を目にしたときや、たまたまどこかのギャラリーに置いてある素敵なDMハガキを見つけたときではないでしょうか。

今はSNSが便利な宣伝ツールではありますが、SNS上では常に情報が動いているため見逃してしまうこともあります。そして、印刷とはいえやはり手に取って見る写真は、それだけで印象に残るものです。

サイズと枚数

DMのサイズに決まりはありませんが、ハガキサイズ(100mm×148mm)、大判ハガキ(120mm×235mm)で制作されたものをよく見かけます。展示内容に合わせて変形で凝ったデザインにする場合もあります。郵送代も考慮して決定すると良いでしょう。

印刷枚数は迷うと思いますが、都内の主なギャラリーへの配布、個人的な発送、その他配布できる場所があるかもしれません。私のギャラリーでは、レンタルの方には500部をお預かりし都内のギャラリーに配布しています。作家個人での発送や配布を考えると、1000〜2000部が妥当と言えます。1000の差でも印刷代はほとんど変わりません。在庫がなくなることがないよう多めに刷っておくことをお勧めします。

「JPG’fave #3 中嶋琉平写真展」
デザイン:鶴巻育子
毎年夏、Jam Photo Galleryでは若手写真家応援企画JPG’faveを開催しています。2023年には当時高校生だった中嶋琉平くんの個展を開催。懐中電灯をスケボーに装着し長秒露光した写真や友人の写真で構成したエネルギッシュな展示でした。表面はアルファベットのみ、宛名面に名前とその他の情報を日本語で掲載しました。

メインビジュアル

ハガキに載せる写真は大抵1枚。メインビジュアルと言われる代表カット1枚を決めるわけですが、この1枚のイメージで個展の印象が決まると言っても過言ではありません。

さて、その1枚をどのように決めたら良いでしょう。写真のサイズがL版から2Lサイズくらいになりますから、好みで選ぶより、想像を掻き立てたり、小さいサイズでもわかりやすく印象に残るビジュアルがおすすめです。

私のゼミで写真を学び、今年11月に初個展を開催した山下雅実さんの例を挙げてみます。山下さんは、老いをテーマに作品を制作しました。どちらかと言えばネガティブな印象にもなるテーマですが、老いていく中でも細胞が絶えず入れ替わることには変わりなく、それを一種の成長として捉えました。いつか終わる自らの存在を意識しつつ、自分と関わるものや目で見る光景へ敬意や愛情を持って捉えたポジティブな写真で構成しました。
メインビジュアルは山下さん本人が提案したアゲハ蝶の写真でした。透明感があり美しく、生や死を連想させなくもない、ぱっと見小さい写真であっても目立ち、目に留まります。

山下雅実写真展「ホログラム」
デザイン:高橋真美 写真の比率4:3に合わせて変形サイズで作成。
宛名面。山下さん本人によるアイディアで、DM用に展示内容を要約したサブタイトルを付けました。それに加え、ステートメントの一部を抜粋したテキストを掲載。
候補に上がっていた写真群。

記載内容

会期、時間、ギャラリーの情報(住所、電話番号、URL、地図など)は、わかりやすく記載します。特に会期は、DMを見てすぐ確認できると親切でしょう。概要やステートメントの一部を載せる手もあります。内容にマッチしたフォントを使用したり、展示を見てみようと思えるデザインを心がけたいです。

メーカーギャラリーでは、ロゴや地図のサイズや配置に決まりがあることも。私のギャラリーでは、記載に間違いがないよう印刷前にチェックするシステムを作っています。印刷ミスが起きるとお金の無駄にもなりますから、DMひとつとっても、ギャラリーとのコミュニケーションが大事です。

写真展「Oh! Hawaii」
デザイン:鶴巻育子
キヤノンギャラリー銀座で開催した展示。
DMに使用した写真に写っている女性は、私が手前のニワトリを撮影していると思っていたようでカメラを意識していなかったためうつろな表情に。色合いもよく印象的だったので、メインビジュアルに決めました。会期の文字が小さいと年配の人から不評でした。(データがないためスキャニング画像)

配布の方法と時期

先述したように、私のギャラリーでは500部を預かり都内の主なギャラリーに配布をしています。他のギャラリーも配布のシステムはあると思いますが、作家本人が配置してほしいギャラリーに足を運んだり郵送して積極的に広報活動をする手もあります。郵送の場合は一筆添える、直接手渡しの場合でも担当者が不在のことを考えて封筒に入れ、その際も短いメッセージを添えるなど丁寧なやり取りを心がけたいです。どのギャラリーも常にたくさんのDMが届きます。場所が限られているので、作家の印象がよかったり、DMデザインが良いものを配置の優先にするかもしれません。

個人的にハガキを送るのは、切手代もかかりますしひと手間かかる作業です。ただ、ハガキが来ると素直に嬉しいものです。わざわざハガキを送ってくれたのだから、個展を見に行こうという気持ちになったり効果はあるはず。#4写真家へのインタビューで、岡嶋和幸さんもDMが郵送されると極力足を運ぶと話していました。

配布や送付のタイミングは、開催2〜3週間前を目安としています。あまりにも早過ぎるとかえって忘れてしまうことがあったり、直前や会期が始まってから受け取っても予定が入ってしまっている可能性があります。特に会期が1週間と短かければ尚更です。見て欲しい人にしっかり見てもらえるよう行動しましょう。

これまで開催した個展や企画展のDMの一部

デザイン:鶴巻育子
2019年Jam Photo Gallery柿落としで開催した個展。
過去住んでいたイギリス・ブライトンを舞台に撮影した、私が写真家になると決めた頃の初々しい写真。写真家になる以前の写真は、世に出す機会がなかなかありません。ギャラリー開設を機に展示しました。ギャラリーの宣伝も兼ねていたので、ギャラリー名は大きくデザインしています。
デザイン:宮添浩司
東京・青梅の御岳山にある武蔵御嶽神社。その御師たちの自宅にあるおいぬさまを撮影した展示。写真集刊行記念の展示だったためデザインを統一し、宛名面に写真集の情報を載せています。被写体は神さまでしたので、私の個展という位置付けではなく、撮影者が私であることを強調するため、「鶴巻育子写真展」ではなく、「写真 鶴巻育子」としました。
デザイン:ふげん社デザイナー
ふげん社で開催した「芝生のイルカ」
大判ハガキの変形サイズ。下地は真っ白ではなく、黄色味がかった白に。インパクトのある写真に対し、フォントは細めでスッキリと。宛名面は、ディレクターがまとめた私の経歴や作品の概要とイベント情報を掲載。
デザイン:宮添浩司
キヤノンSギャラリーで開催した「ALT」
文字の配置がバラバラ、表面と裏面のグレーのパーセンテージが異なっていますが、そこにはコンセプトがしっかり組み込まれています。写真集のデザインと踏襲した作りに。プロのデザイナーの成せる技です。
Jam Photo Gallery1周年企画展「SELF-PORTRAIT」
左はJam Photo Gallery1周年企画展「SELF-PORTRAIT」
23名の写真家に依頼し、セルフポートレイトを撮影した写真を展示しました。DMに使用した写真は、約20年前に撮影していた私のセルフポートレイトのベタ焼きを使用。文字はコダックカラーの黄色と同じ色。

右はJam Photo Gallery 5周年の企画展「5th Jam Photo Gallery」
48名の写真家に出展してもらい、全て8×10インチのフレームに額装して展示しました。実際は背景は銀色の特色で印刷しています。

プレスリリース

プレスリリースとは、展示の内容をまとめた情報をメディアに発表するための文章・資料のことを言います。個展情報を雑誌や新聞等に掲載、取材をしてもらうために、各メディアに送ります。この作業はたいていはギャラリーが行うものですが、レンタルギャラリーなどの貸しスペースでは、プレスリリース作成や送付の方法がギャラリーによって異なる場合もありますし、自身で制作・送付する場合も、ギャラリーに確認しておくと安心でしょう。

記載内容

展示の概要、場所、会期と時間、プロフィールなどをまとめます。イベント開催があればその情報を記載し、取材の申し込みなどがある場合を想定し、問い合わせ先も記載します。

写真はメインビジュアル1点、またはその他カット数点を載せます。1枚に収まらない場合は、1ページ目に写真を添付する方がイメージがつきやすく目を惹く効果もあります。

送付先と時期

会期の1ヶ月半から2ヶ月前に送付する準備をします。

カメラ誌には、東京を中心とした写真展情報のページが設けてあります。編集者が興味を持ってくれたら、写真付きで情報掲載される可能性があります。写真雑誌に自分の写真や個展情報が掲載されるのは、本当に嬉しいものです。

余談ですが、写真雑誌の巻頭で数ページにわたり特集されるのは、写真家にとっては夢でした。私も編集部に写真を見せに行き、掲載をお願いしたことを思い出します。昨今、写真雑誌は廃刊や休刊が相次ぎ減っていますが、写真家を目指す方、駆け出しの写真家の方は、編集部へ写真を持ち込んで見てもらうとチャンスがあるかもしれません。またそれが後々いい経験となると思います。

カメラ雑誌の他に、テーマに関連した媒体にアプローチする手もあります。例えば、環境問題や動物などがテーマでしたら、それらに特化した雑誌を探し送付します。

新聞では、文化部が扱ってもらえる確率が多いと思いますが、テーマやコンセプトによって社会部だったり、撮影場所がキーになっているのであれば地域面や地方紙へ連絡を取ってみると効果があるでしょう。

近頃は雑誌や新聞もWebサイトを持っています。誌面で掲載されない場合でも、Webサイトでの掲載が叶うことが多々あります。写真関係ですと、デジカメWatch、IMA、Photo & Culture,Tokyou、GENIC、CAPA CAMERA WEBなどがあります。

実際のプレスリリース

Jam Photo Galleryで個展を開いた山下雅実さんのプレスリリース。
2ページで作成。タイトル、会期は太文字でわかりやすく記載しています。ステートメント、作家プロフィール、イベント情報を記載。
概要はギャラリストが客観的な視点で記載するステートメントがほとんどですが、レンタルの展示ではギャラリストの私の視点は入れていません。
2023年ふげん社で開催した「芝生のイルカ」プレスリリース。
ディレクターである関根史さんが、私のプロフィール、これまでの作品、そして今作の説明を客観的視点で記載してくれています。

【写真家に聞く!表現と個展】ゲスト:サトウヒトミさん「空間は体験するしかない」

 

――佐藤さんは昨年Jam Photo Galleryで「Mirage」という作品展を開催していただきました。そして2025年10月には「madeleine」を小伝馬町のKKAGで開催。精力的に作品発表をしています。最初の個展はいつですか?

(佐藤)大きな展示でいうと2017年ソニーイメージングギャラリーで開催した「Layered NY」です。

――ずいぶん凝った展示空間でしたよね。

(佐藤)初の大きな展示ということもあって、かなり気合が入っていました。写真を大きく伸ばしたり、テーマがレイヤードだったので写真を重ねるために透明フィルムに印刷したり、お金のことも考えずに業者さんにプリントお願いして。

――すごい、お金に糸目をつけずに?!

(佐藤)もちろん、なんとなく費用は予測立てました。でも先ずはやりたいことを第一に考えました。展示方法を考えて、その後プリントを業者にお願いするか自分でするかなど落とし所をつけていく感じに。

――私も同じことをこの連載で書きました。これでいいやって思うんじゃなくて、いかに自分が表現したい空間を作るかが重要ですからね。私の経験上、アマチュアの人は「知らないから」「わからなかった」と諦める人が多いです。

(佐藤)今は調べる手段はいくらでもありますよ。

――佐藤さんが個展開催を目指す人にまずアドバイスするとしたら?

(佐藤)プリントを色んな紙で試してみる。使う紙によってイメージが変わりますから、自分がやりたい方向性とマッチする紙を探すことです。

――デジタルになって選択肢や表現方法も増えてますから、試さない手はないですね。

(佐藤)時々プリンターを持ってないという人に出会いますが驚きます。すごく高額なものではないですし、実験するためには必要です。

――当然ですが作品意図に合う美しいプリントは、個展では最低限の条件ということですね。あと、個展ですとサイズとか空間作りとか色々考える必要がありますが、その点で重視していることは?

(佐藤)色んな展示を見ることが大事だと思っています。ヒントがもらえますし、そこからアイディアが浮かぶこともあります。空間は体験するしかないです。

――具体的にどうやって空間を決めていきますか?

(佐藤)迷ってることがあれば、ギャラリストがいれば相談してアドバイスをもらったり、誰かに見てもらいます。プロの人の話を聞くのは大事。そこからもう一度自分で考える機会になりますし。

――新しい知識が自分に加わりますから、私もそうしています。ところで、佐藤さんはメーカーギャラリーでの展示が多い印象がありますが、ギャラリー選びはどうしていますか?

(佐藤)最初はメーカーギャラリーしか手段がなかったのが事実です。今の自分の作品は小さなスペースでの展示が向いてる気がしたり、内容によって考える知識や余裕ができました。Jam Photo Galleryも空間が好きで、もっと自分の気持ちに寄り添う感じの展示をやりたいなって思ったきっかけでもありました。

――それは嬉しいです、ありがとうございます!最後に今まで見た中で印象に残っている展示は?

(佐藤)今年7月に代官山ヒルサイドで開催した瀧本幹也さんの展示「FOSS」です。俳優の吉沢亮さんを撮り下ろした作品。ちょうどご本人に案内していただく機会がありました。しっかり展示に関わり、どう表現したら良いか考えていて、彼のアイディアで素敵なスペースに仕上がっていました。しかも、彼はすごい仕事をしているのに全然あぐらをかいていない。写真に対しての向き合い方が素晴らしいと思いました。

――展示空間から真摯に写真と向き合う姿勢が伝わってきたということですね。

(佐藤)そうです!本物の写真家だって思いました。最近一番感動した展示でした。

 

 

 

■写真家:鶴巻育子
1972年、東京生まれ。広告写真、カメラ雑誌の執筆のほか、ワークショップやセミナー開催など幅広く活動。写真家として活動する傍ら、東京・目黒、写真専門ギャラリーJam Photo Gallery 主宰を務める。ライフワークでは、これまでに世界20カ国、40以上の都市を訪れ、街スナップや人物を撮影。主な写真展 Brighton-a little different(2012年、オリンパスギャラリー)、東京・オオカミの山(2013年、エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、3[サン] (2015年、表参道スパイラルガーデン)、THE BUS(2018 年、ピクトリコギャラリー・PLACE M)、PERFECT DAY(2020年、キヤノンギャラリー銀座)など。THE BUS(2018年、自費出版)、PERFECT DAY(2020年、冬青社)、夢(2021年、Jam Books)がある。

 

関連記事

人気記事