写真をもっと愉しむ「個展開催のススメ!」#3 申し込み・提出物についての重要性

鶴巻育子
写真をもっと愉しむ「個展開催のススメ!」#3 申し込み・提出物についての重要性

写真家・鶴巻育子はこれまでに17回個展を開催し、代表を務めるJam Photo Galleryでは6年間で企画展とレンタル併せて100を超える展示に携わってきました。写真家とギャラリスト両者の視点から個展の魅力や成功へのアドバイスをお伝えする連載企画です。

3回目は申込みに関するお話です。前回「#02 ギャラリーを探す」でも少し触れていますが、申込みの際の提出物など応募方法はギャラリーによって異なります。今回は審査通過するために有効な申込み用紙の書き方、ポートフォリオの作り方などについてお伝えしたいと思います。審査のないギャラリーもありますが、できるだけ準備をしておくと印象も良くなりますし、ギャラリーとのやりとりも円滑に進みます。

メーカーギャラリーでは応募受付期間が決まっており、申込用紙とポートフォリオを一緒に添付、またはエントリーシートに入力し画像をアップロードする形式もあります。自主ギャラリーやレンタルギャラリーでは、まずはメールで連絡する方法が主です。その後メールでのやり取りや直接ギャラリーで打ち合わせをしたりして進めていきます。

私が運営するJam Photo Galleryでは、申し込み後に出来る限り申込者と直接ギャラリーで会うことにしています。面接というよりは、展示したい内容や写真について雑談する気軽なものになります。作品の確認のためでもありますが、トラブルを避けより良い展示を開催するためには必要と思っています。

プロフィール

2021年Jam Photo Gallery Photo Galleryで開催した清岡惣一写真展。暗室作業を駆使し実験的な作品を数々手がけた作家。大量のヴィンテージプリントからセレクトし、テーマ性というよりも視覚的に楽しめるような構成で展示しました。

就職活動での履歴書のような情報量は必要ではありませんし、あまりにも長い文章ですとかえって読みづらくなることもあります。反対に情報が少なすぎてはギャラリー側も判断しづらくなります。どんな人が作品を作っているのかは、ギャラリー側も興味を持ちます。またプロフィールからテーマや被写体との関わりが伝わることもあったり、より作品自体の魅力が増すことも多々あります。自分の仕事や趣味などのプライベートについても、作品に繋がるのであれば記載することをおすすめします。簡潔に読みやすく書きましょう。

写真家と書くべきか

写真を生業としている場合でも、活動内容や考え方で、写真家、フォトグラファー、カメラマンと肩書きの書き方も人によって異なります。どのように名乗るかは個人の自由ではありますが、極端な例で、プロフィールの最初に「写真家」と記載されている直後、「写真を始めて1年」や「現在、〇〇教室で写真を学んでいる」など続けて書かれていると正直驚くことがあります。審査は、写真家であるかよりも写真の内容を見るためです。決して写真家という肩書きが有利なわけではありません。むしろ、全く写真とは無関係な仕事をしながら写真家を目指している、写真表現を楽しんでいることが伝わってくる方が好印象です。

生まれ年と出身地

生まれ年と出身地は意外と大事。作品内容や写っている被写体と作者の関係性は、作品を見る上でとても重要な要素になります。特に社会的な内容だったり、撮影地が鍵となるテーマ、ある年齢だからこそ取り組む必要性を感じる作品であることなど、理解しやすくなります。ミステリアスな存在で通すことが作家活動や作品コンセプトの一部だとすれば、年齢や出身地非公開も効果はあるかもしれませんが、一般的には知っておきたい情報です。

自分が何者であるか

先述したように、個展を開催するのに写真家という肩書きが有利なわけではありません。普段は写真と離れた仕事や環境であっても、むしろそれが魅力となる場合もあります。出身地と同じように、どんな職種に携わっているのか(きたのか)、その人の生き方、背景が作品制作に影響するのですから。以前私のギャラリーで個展を開いた方で、植物の造形美をテーマにした作品を展示しました。彼女は医療従事者で脳科学を探求していて、植物の造形と脳の血管が類似していることがきっかけとなり制作した作品でした。作者の背景でテーマの意味が深くなったり、その人ならではの視点というものが明確化されるのです。

少し話は逸れますが、ワークショップで参加者同士の自己紹介を行う時「ただの会社員です」と名乗る方がいます。言えない事情があるのかもしれませんし、自分の職業や素性を話すのは強制ではありませんが、作品を制作する上では、ある程度自分がどんな人間かを知ってもらうことが、作品が伝わるひとつの効果になる場合も。

展示歴・受賞歴

長年作家活動をしている人であれば、これまでの個展、グループ展、受賞歴、コレクションなど実績が増え、プロフィールも華やかに見えるでしょう。写真家を目指している人や写真愛好家の方々の場合は、展示歴や受賞歴が少なかったり、あるいはゼロかもしれません。そこで「〇〇コンテスト一次予選通過」など記載してもさほど効果はないと言えます。かえって読みづらくなってしまいます。

箇条書きでは、個展、グループ展、受賞歴と区分します。そして開催したギャラリー、開催年月を記載。プロフィールの文字数制限があるときは、主な個展として代表的なものをいくつか選び、タイトルの後にカッコでギャラリー名と開催年月を入れると読みやすく見栄えも良くなるでしょう。

ポートフォリオ

ブック形式とボックス形式。何を選んだら良いか迷ったら写真ファイル用品の専門店、東京目黒にあるコスモスインターナショナルへ。オンラインショップも開設されていますし、直接店頭に行けば丁寧に新山社長が相談に乗ってくれます。
https://cosmosonline.ocnk.net
http://cosmos-portfolio.com/company/

ポートフォリオの必要性

ギャラリーが展示予定の写真を確認するために提出するポートフォリオ。現在、ソニーギャラリーではエントリーの時点で画像をアップロードする形をとっていたり、メールに添付や画像送付のみで完結するレンタルギャラリーもありますが、個展を予定している時点で作品を見せられる状態になっていないのは準備不足と言えますし、そもそも作品制作の意味を誤解しているとも考えられます。

ポートフォリオは作品内容を確認することと同時に、プリントの質を見るためでもあります。また、ただプリントをファイルに入れるのではなく、プリント用紙の種類、構成(写真の順番)も秀逸であれば、作品の良さがより伝わることになりますし、丁寧な作業で真剣度も自然と感じてもらえます。

私のギャラリーでレンタル希望の方とのやり取りは、メールをいただいた後に直接ギャラリーで会う形をとっているとお伝えしました。そこで写真愛好家の方で多いのは、慌てて準備しただろうと想像がつくポートフォリオの持参です。申込みの時期によっては未完成であるのはやむ得なかったり、初めてのことで要領を得ない方もいると思います。ただ本来は申し込みの時点で、ある程度展示作品の枠組みを作っておきたいところ。ポートフォリオの作り方がイマイチわからない場合は正直に伝えて、パソコンやタブレットによるプレゼンであっても、できる限り作品を説明できる準備をしておきましょう。

サイズ・形式

審査のために、見やすく分かりやすいサイズや形式で作成するのが基本です。メーカーギャラリーの応募では、それぞれ規定がありますので応募要項をしっかり確認しましょう。例えば、キヤノンギャラリーは用紙サイズがA4と限定されており、「ブック式ファイルに入れる。それ以外のものは選考対象外」と注意書きがあります。ニコンサロンでは、サイズはA4からA3まで、「プリントは一枚ずつバラバラの状態で箱などに入れて提出。ブック式ファイルは不可」と形式が全く異なります。枚数は30~50点が一般的です。実際の展示でそれ以上の枚数を飾る予定だとしたら、自分が好きな写真をセレクトするより、作品趣旨が理解しやすいイメージのものを厳選する方を優先します。

ボックス形式ですと、用紙サイズに合ったボックスを用意します。ブック形式で気をつけたいのは、ファイルの種類です。100円ショップなどで販売している透明度の低いリフィルの使用は避けるべきです。少々値は張りますがしっかりしたファイルと透明度の高いリフィルを選びましょう。それだけで作品の見え方も変わりますし、何より自分の写真を大切にしている、制作に対しての真剣度がわかります。

タイトルとステートメント

当然ですが、作品提出時にはタイトルとステートメントの添付は必須。と言いたいところですが、自分のギャラリーでの経験上、未定という人が案外多いのが事実です。メーカーギャラリーの公募や個展が副賞となっているコンペだったら、気合いも入り準備万端で臨むのだと思いますが…

レンタルギャラリーや自主ギャラリーでは厳しい審査はないとしても、「タイトル未定」「ステートメント後日送ります」とメールに書かれていると、ギャラリーとしてはちょっとガッカリするのが正直な気持ちです。ポートフォリオ同様、作品作りへの本気度を一瞬疑ってしまいます。作品は写真を撮るだけで完成しません。テーマやコンセプトがあってこそ作品として成立します。制作の段階で総合的に仕上げていきたいものです。

タイトル

申し込みの時点で「タイトル未定」はできるだけ避けたいです。迷っているとしたら、候補の中で一番しっくりくるタイトルを記載した方が印象は良いでしょう。プレスリリースを流すまでは、変更も可能です。そのあとで、ギャラリストや自主ギャラリーなら主宰者に相談できる環境であれば、相談してみるのも手だと思います。私の場合は、相談されて嫌な気持ちにはなりません。

ステートメント

写真愛好家の多くが苦手とするステートメント。

応募用紙には「作品解説」と記載されていることもあります。連載の第一回目で「個展の醍醐味、そして大事なこと」で書いていますが、自分が見る立場になった時、好きな写真をただただ自由に飾られた作者の自己満足の空間に置き去りにされるのは辛いものです。自分の作品の趣旨を理解してもらうためには、ステートメントは欠かせません。

審査では、写真のクオリティだけではなく、作品の趣旨は重要な判断基準の一つで、テーマやコンセプトに沿った内容であるかを確認する必要があります。公募がないギャラリーだとしても、開催する展示の内容を把握し来場者へ伝えることはギャラリーとしての役目ですし、プレスリリースにもステートメントが必要になります。私が面談を行うときは、ステートメントが未完成であっても、本人が作品について言葉にできれば問題ないと考えています。言葉で説明できるということは、書き方のコツを掴めば書けるはずです。

写真表現も時代で変化します。いい写真を撮って見せるだけという個展は、昨今アマチュアの写真展でもほとんど見ることがありませんね。ステートメントの書き方については、他の機会にお話しできたらと思います。

【写真家に聞く!表現と個展】ゲスト:公文健太郎さん

2024年12月に東京飯田橋にあるギャラリーRollで開催された公文さんの個展「煙と水蒸気」の展示。大学一年の時に父親から譲り受けたカメラで、2023年の1年間で撮影した膨大な写真から厳選し、大判サイズのプリントを少ない枚数で見せました。「もっと枚数が見たい」という声が多かったようですが、展示は枚数が多いから良いというわけではありません。コンセプトがあってのレイアウト。鑑賞しながら、それを探るのも写真展を鑑賞する楽しみなのです。


ーー初めての個展覚えていますか?

(公文)東京世田谷・三軒茶屋のパブリックシアターにある生活工房で展示をしました。手作り感満載で、今思えば学生だから許された内容だった。自己満足で終わった感じです。その時、フレームマンの方を紹介していただき、それ以来額装を頼んでいます。

ーー展示は額装が重要と気づいたということですか。

(公文)はい、額装とプリントをちゃんとすることが、個展を開くのに最低限のマナーです。言い方が悪いかもしれませんが、下手な写真でも最後のしつらいをちゃんとすれば、お客さんに見てもらえる状況になるかな。

ーー言い換えれば、写真が良かったとしてもアウトプットがいい加減だと意味がないってこと?

(公文)やらない方がいいですね。

ーー展示は自分で考えますか? それとも他の人のアドバイスを重視する?

(公文)自力でやる良さもあると思いますが、むしろそれは経験を積んでから、もっと後でもいいと思います。人に頼った方が圧倒的に良いものができます。僕の場合は昔からレイアウトは100%人に任せています。

ーーとにかく良いものを作り、世に出したいですからね。キュレーターやデザイナーに丸投げって写真家も多いですよね。

(公文)例えばDMひとつとっても、デザイナーに頼んだ方がかっこいいものができますし、展示の空間も1mmでも良くなるために人に頼みます。毎回毎回、頼んで良かったって思います。

ーー自分の写真を客観的に見てもらう環境は大事ですよね。

(公文)自分の写真を切ることって難しい。だから、頼れる人に最後の最後切ってもらっています。昨年制作した「煙と水蒸気」でも、僕がどうしても入れたい写真があって、最後まで粘ったけど、最終的に外すことになりました。

ーー確かにこだわってる写真って、抜くことでまとまることが多々あります。

(公文)そうそう。どうしてもそれがネックになるというか、それに固執しちゃう。第三者は固執するものがないから。

ーー個展を目指している写真愛好家や写真家を目指している人にアドバイスするとしたら?

(公文)やっぱり「第三者が入った方がいいんじゃないの?」って言います。あとは、どういう立ち位置(どの視点)で作品を見せたいかだけは自分が決めようと。例えば「眠る島」の時は、その島を外側から見るのか、中から見るのか、旅人目線か、客観的に見るか等を徹底的に考えました。当然撮影の時点から大事なことですけど、展示の時にもう一度撮った写真を見返して確認しました。

ーー色々な展示を観ていると思いますが、これは良くないと思うのはどんな展示ですか。

(公文)同じ話になるけど、どうしてこのセレクトになっちゃったのかな、この1枚切れなかったのかなっていう展示がとても多い。若い世代の写真家でどうしても人に頼れなくて自分で全てやっちゃって、せっかくいいギャラリーでやってて、写真はいいのに、この1点だけなければ…っていうものをよく見ます。

展示を何のためにやるかという目的は、一つはいろんな人に見てもらいたいというのがあるけど、もう一つは、自分のやってきたことをもう一度確認したり、気づきを見つけるための場所だと思っています。自分が一番最初のオーディエンスになることを忘れちゃいけないから、人に頼むことによって、自分が「なるほど」って思えることが貴重なんです。

ーーこれまでたくさんの個展を開催していますが、人の評価は気になる方ですか?

(公文)評価が二分する展示の方が面白い内容ってことが多いです。みんなが良いって言うものは、投げかけている言葉も一般的な言葉になりがちです。誰かには響かなくても僕には響いたものは、今の僕に対して言っているんだなって、その展示は僕のためにあったって気がするんですよね。人の評価は怖いし気になる。経験豊富な僕でもいまだに気になるけど、評価が二分するって大事だと思っています。

ーー必ずしも褒められなくてもいい。それでアリってことね。

(公文)アリだと思います。その時点で学びがあるんだから、評価は両方あって良いってことです。

ーーなるほど。たくさんの方に、最高の状態で観てもらえる展示にしたいですね!

 

 

■写真家:鶴巻育子
1972年、東京生まれ。広告写真、カメラ雑誌の執筆のほか、ワークショップやセミナー開催など幅広く活動。写真家として活動する傍ら、東京・目黒、写真専門ギャラリーJam Photo Gallery 主宰を務める。ライフワークでは、これまでに世界20カ国、40以上の都市を訪れ、街スナップや人物を撮影。主な写真展 Brighton-a little different(2012年、オリンパスギャラリー)、東京・オオカミの山(2013年、エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、3[サン] (2015年、表参道スパイラルガーデン)、THE BUS(2018 年、ピクトリコギャラリー・PLACE M)、PERFECT DAY(2020年、キヤノンギャラリー銀座)など。THE BUS(2018年、自費出版)、PERFECT DAY(2020年、冬青社)、夢(2021年、Jam Books)がある。

 

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